【実務者向け】多項従属クレームを米国に国内移行する場合の補正時期

#本記事は完全に特許実務者向けの内容です。

日本では、多項従属クレーム(マルチクレーム)「?である請求項1または請求項2記載のxx」のような他の複数のクレームに選択的に従属するクレーム)、さらには、他の区数のマルチクレームにさらに選択的に従属するクレーム(通称、マルチ-マルチ)が広く認められています。いろいろなパターンの構成の権利を押さえつつ、クレーム数を少なくするには有効な手法です。

しかし、海外に出願する場合には、マルチ-マルチのクレームがが認められない国があるので注意が必要です。

特に、米国の場合は、マルチーマルチが認められないだけではなく、1段階のマルチクレームがひとつでもあるだけで780ドルの追加料金が取られます(小規模企業(small entity)だと390ドルですみます)。また、クレーム数のカウントも、たとえば、3つのクレームを選択しているマルチクレームは3とカウントされますので、マルチクレームのメリットはないと言われています。

最初から米国に出願する場合はマルチクレームを使わなければよいのですが、PCTからの米国国内移行で元々の出願にマルチクレームが入っている場合には自発補正をしてマルしクレームがなくすべきです。

この補正タイミングですが、追加料金発生を防ぐためには、米国への出願(国内移行)と同時にしなければいけないのかと思っていましたが、まずはそのままマルチクレームを含む状態で出願し、追加分の料金は払わないでおいて、料金が足りない旨の補正指令が来てからマルチクレームをなくす自発補正を行なえばよいようです。移行期限ギリギリの場合やちょっとでも出願日を早めたい場合には有効かもしれません。

なお、マルチクレームの補正ですが、多項従属が1段階だけであれば、選択肢のひとつひとつを別のクレームとして展開すればすみます。ただしマルチ-マルチがあると組み合わせの数によりクレーム数が爆発的に増えるので現実的でない場合もあります。この場合はとりあえずは一番広いクレームに従属するようにしてOAを待つのが得策だと思います(もちろん、出願人として絶対この構成では押さえたいというような事情があれば別です)。

このようなわざと料金を払わないという手法と言えば、(同時進行中の訴訟との関係により)できるだけ分割出願の審査を遅らせたかった時に、わざと出願料金を払わずにいて補正指令を待つことによりちょっとでも時間を稼ぐというアドバイスを米国代理人にもらったことがあります(何か抵抗があったのでその時はやらなかったですが)。

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【お知らせ】特許出願審査請求料金が大幅値下げになりました

先日のエントリーでちょっと触れた産業競争力強化法による、中小ベンチャー企業を対象とした特許料金、出願審査請求料金、国際調査手数料等の大幅軽減(3分の1に軽減)の話が、特許庁サイトに正式に載りました(中小ベンチャー企業、小規模企業を対象とした審査請求料・特許料の軽減措置について)。また、詳しいニュースリリースも出ています。

対象者は以下の通りです。

a.小規模の個人事業主(従業員20人以下(商業又はサービス業は5人以下))

b.事業開始後10年未満の個人事業主

c.小規模企業(法人)(従業員20人以下(商業又はサービス業は5人以下))

d.設立後10年未満で資本金3億円以下の法人

(※c及びdについては、大企業の子会社など支配法人のいる場合を除く。)

今までも特許間連料金の減免制度はあったのですが、法人税非課税者(要するに赤字企業)に限定されるなどちょっと使いにくいものでした。これに比べて今回の軽減措置では適用範囲が大きく広がっていますので、いわゆるITベンチャーと呼ばれる企業であればほとんどがいずれかの条件に当てはまるのではないでしょうか。また軽減額も今までは半額だったのが今回の制度では3分の1とさらにお得になっています(ただし、今年の4月から2017年3月までの期間限定です)。

特に、特許のライフサイクルコストにおいて大きな割合を占める審査請求料金が3分の1になるのは重要です。15万円だとリスクは犯したくないが5万円であればチャレンジしたいという企業様も多いかと思います。また、弊所で先日ご紹介した「エクスプレス出願」の条件に適合すれば総額20万円強で特許取得可能になります

なお、前述のとおりこの軽減措置は今年の4月から有効なので、上記条件に当てはまる方はくれぐれも焦って4月前に出願審査請求を行なわないよう注意して下さい(弁理士経由で出願していれば弁理士が適切に指示してくれるはずですが、代理人なしで出願された方はご注意下さい)。

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いっそのこと著作権法の新解釈でダビングサービスは全部合法になってしまえばいいのに

ちょっと前のやまもといちろう氏のYahoo!個人ニュース「今年は著作権にまつわる諸々が色々とこじれて表面化しそうな予感がします」で自分のツイートが引用されてるようです。文脈を明確にしてちゃんと論じた方が良い話題だと思うので、ここで繰り返し検討してみます。

知財法界の重鎮である田村善之北大教授の論稿「自炊代行業者と著作権侵害の成否」について触れたブログ「企業法務戦士の雑感」の記事「ついに世に出た“真打ち”的評釈」に関する私のツイートがやまもと氏に拾われたという流れです。

先に一般的な説明をしておくと、法律解釈とは単純に杓子定規に条文を当てはめるものではありません。こうあるべきという規範が解釈する人(典型的には裁判官)の頭の中にあって、それに適合するように条文を解釈していくのが通常のプロセスです。

ただし、条文と完全に矛盾する解釈を行なうことはできません。たとえば、「今の18歳は十分大人なので、条文上は”満20歳未満の者の飲酒を禁止する”と書いてあるが、体が十分大人であれば20歳以上と解釈しよう」というのはさすがに無理筋です。

著30条の「その使用をする者が複製」という要件は結構明確ですし、どの著作権法教科書を見ても代行業者による複製は許されないと書いてあります。ただ、その一方で、おじいちゃんのために孫が新聞を拡大コピーしてあげるとかそういうレベルであれば「使用をする者と同一視できる補助者」による複製は許されるとされているので、多少の解釈の入る余地はあるでしょう。

さて、田村先生の論稿ですが最大のポイントは以下の解釈にあると思います(本論稿では他に「自炊の森」型の態様についても検討されてますが長くなるので別の機会に触れることにします)。

同項(栗原注:著30条1項)が「その使用する者が複製する」ことを要求している趣旨が、私人である本人以外の者が複製する著作物を決定する場合には、特定の著作物について組織的に複製されることになりかねず、著作権者に与える影響を無視しえないからであるとすれば、肝要なことは使用者本人が何を複製するのかということを決定しているのかということなのであって、物理的に複製をなす者が誰かということは重要ではない。この種の自炊代行は 30 条 1 項の枠内にあるというべきではなかろうか。(太字は栗原による)

ひとつの客観的真実があるわけではない法律の世界では第一人者の発言は裁判所の判断にも大きな影響を与え得ます。もし、田村先生が提案するような解釈が知財高裁で採用され、結果的に自炊代行サービスが合法になるのであれば、それはそれで喜ばしいことです。

ただ、そうなると、著30条1項の「その使用をする者が複製する」という要件が効いてくるパターンてあるのかという気もします(それがそもそも私がしたツイートの意味)。著作物の使用者の預かり知らないところで業者が勝手にコピーしてしまうというパターンはちょっと想定しがたいです。また、仮に業者が蔵書を全部複製するのだとしても、それは、使用者本人が蔵書全部を複製することを決定しているわけですし。まあ、一般的に言えば、盲腸のように意味がなくなってしまった要素を持つ条文もないわけではないのですが。

さらに、もしこのような解釈により、自炊代行サービスが合法ということになれば、他のダビング代行系サービス、たとえば、手持ちのLPをMP3化してくれるサービスやレーザーディスク、ビデオテープ等をビデオファイル化してくれるサービスも合法にならないとおかしくなります。

まあ、自分としては、法律の改正を待つまでもなく、コピー(ダビング、スキャン)代行サービスは全部OKということになれば大変喜ばしくはあります(プレイヤーの調子が悪くて死蔵されているレーザーディスクも結構家にありますし)。ただ、個人的には、仮にそうなるにしても最終的には法改正を目指した上での(やや強引な)解釈という気がします。

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【お知らせ】「インベンション・セッション」のご紹介:発明支援と出願の一気通貫サポート

弁理士側の負担を最小化して弁理士ならではの作業にフォーカスできるようにすることで合理的な手数料を実現した弊所サービス「エクスプレス出願」については先日書きました

これとは逆に弁理士がコンサルタントとして製品企画・設計にまで関与して、クライアント様と共同で発明を行ない、出願を代理するというサービス形態も提供します。昨年、このような形態の案件を何件か行ない好評をいただきましたのでサービス化しました。名付けて「インベンション・セッション」です。

進め方としては、クライアント様の新製品・新サービスに関して、弊所側から当該分野の代表的先行特許文献を調査してご説明し、先行特許の回避・改良発明はできないか、および、先行特許でカバーされていない領域はないかをブレストします。何回かブレストを繰り返してアイデアが固まると特許出願を行ない、通常の弁理士業務として受任します。

結果的に私が発明者の一人になることがあり得ますが、その際には出願の発明者としてのクレジットをお願いしています(単に気分的な問題です)。この場合でも私の「特許を受ける権利」はクライアント様に譲渡します。特許化できた際には、クライアント様(および関連会社)での特許発明実施は自由に行なえますが、特許権をマネタイズ(売却、ライセンス等)した場合には、レベニューシェアする契約を結んでいただく可能性があります(私の発明に対する寄与度に応じたケースバイケースです)。

なお、私のコアの専門分野でないと対応できませんので、情報システムや情報通信機器の外部的機能に関する発明に限定させていただきます(情報通信技術関係でも、たとえば、無線通信方式や半導体製造方法などは対応できません)。

費用は案件ごとの個別見積もりとなりますが、おおよその感覚で言うと、2ヶ月間でブレストを4回行なって特許出願まで行ったとして100万円くらいという感じです(出願代理手数料および特許を受ける権利の譲渡も含みます)。

新製品・新サービスを検討中だが、絶対に他社に真似されたくない差別化要素を維持しておきたいとお考えの企業の方は是非ご検討下さい。

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今年のキーワードはBEING PHYSICAL

言ったもん勝ちだと思うので、先に言っておきます:BEING PHYSICAL。

今日の技術産業がデジタル技術によって推進されているのは敢えて言うまでもないと思いますが、ピュアデジタルな世界は割と方向性が見えていると思います。デジタルな世界のメガトレンドであるクラウド、ソーシャル、ビッグデータを考えてみましょう。もちろん今後も数多くのイノベーションが起きていくでしょうが、そのほとんどは持続的イノベーションであり、過去の延長線上にあるものです。実際、これらの分野における書籍やメディア記事を読んでも「なんか過去の話の焼き直しだなー」と思うことが多いですね。

一方、短期的に真にゲームチェンジャーとなりそうなイノベーションは、たとえば、ウェアラブル(スマートウォッチ、スマートグラス)、ロボット、自動運転車、ドローン等々デジタル技術間連ではありつつ、物理的な機械装置が関連しているものが多いと思います。Googleが着々とこれらの分野に投資をしているのは注目に値します。

ブルーオーシャン市場を目指すならばデジタルに軸足を置きつつ、フィジカルな(物理的な物の)世界での差別化を目指す必要があると思います。

ところで、Being Physicalとは、もちろんBeing Digitalのもじりです。Being Digitalは当時MITメディアラボ所長だったニコラス・ネグロポンテによる1995年発刊の書籍タイトルです。

アトム(物質)からビット(情報)への価値の移動、デジタルによる適応性(Adaptability)と自己記述性が生み出す革新、「情報に関する情報」の価値(「TV Guide(雑誌)の出版社の利益は米国4大TV局の利益を合わせたよりも大きい」なんて例が挙げられていました)など当時はかなり目から鱗だった記憶があります。

今にしてみれば当たり前のことばかりですが、これらを1995年の時点でまとめ上げていた点が素晴らしいと言えます。1995年というとまだインターネットがビジネスになるか(パソコン通信じゃないとマネタイズできないんじゃないか)なんて議論がされていた時期です(実際、Being Digitalの中でもインターネットはほとんど議論されていなかったと思います(原書が手元にないので確認できませんが))。

このBeing Digitalが予測した1995年頃から現在までのアトムからビットへのシフトにちょっと揺り戻しが来始めていると言えると思います。

さて、知財という観点から言うと、物理的な機械装置は発明該当性を認められやすい(単なる人為的な取り決めとされる可能性が低い)こと、そして、商品を見れば容易に模倣できてしまうことが多いことから、特許権による保護はピュアデジタルな世界以上に重要と言えます。また、デザインが製品の重要差別化要素になることから、意匠権によるデザインの保護もますます重要になってくるでしょう。弊所は今まであまり意匠はやってなかったのですが、これからは積極的に対応していこうと思っています。

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