注文する前に出荷するAmazon特許について

利用者が注文を行なう前に出荷する”anticipatory shipping”の特許をAmazonが昨年の12月に取得(単なる公開ではなく権利取得です)したことが話題になっています(ガジェット速報の記事「米アマゾン、注文前に商品出荷するサービス検討中」、その元記事Digitsの”Amazon Wants to Ship Your Package Before You Buy It”)。なお、特許を取得できたからと言ってそれを実施する義務はありませんので、Amazonこのサービスを行なうかはわかりません。

映画「マイノリティ・レポート」みたいな話ですが、ビッグデータの予測分析の世界では、イベントが起きてから対応策を取るまでの時間をできるだけ最小化する方向性で進化が進んでいますので、最終的にはイベントが起きる前に対応策を取るようになる(もちろん、予測がはずれた時のコストとのトレードオフになりますが)のは理にかなっています。

では、具体的な特許の内容を見てみましょう。実は、この特許の起源は結構古く、分割の親出願の中で一番古いものの出願日は2004年12月17日です。そして、このパテントファミリーの特許が日本でも1件成立しています(「予測小包出荷のための方法およびシステム」第4938682号(2012年3月2日登録))。ちょっと見た限りでは本記事の特許より範囲が狭そうです。

今回成立した米国特許(8615473号)のクレーム1は次のようになっています。

1. A method, comprising:

performing, by one or more computing devices:

determining a status of one or more shipped packages currently in transit to respective destination geographical areas, wherein said respective destination geographical areas include multiple delivery addresses to which said package is deliverable, wherein at least one of the one or more shipped packages comprises one or more items that have been shipped before an order has occurred for the one or more items in the at least one shipped package, and wherein the one or more shipped packages were shipped to a respective destination geographical area without completely specifying a delivery address at time of shipment, such that at the time of shipment, each shipped package is deliverable to said respective destination geographical area but is not deliverable to any delivery address;

for a given one of said one or more shipped packages, analyzing one or more business variables related to said one or more items included in said given shipped package;

dependent upon analyzing both said one or more business variables and said determined status, determining a disposition of said given shipped package.

いろいろと限定がかかっていますが、本当に重要なポイントはパッケージ内の商品の”business variable”を分析することで、輸送中のパッケージの最終宛先を決定することにあります。

ここで、”business variable”の具体的内容ですが、クレーム上は「パッケージの現在位置と宛先」、「以前に出荷されたパッケージの状況」、「商品配送のコスト」、「返品によるリスク」などが想定されています。また、クレーム化はされていませんが、ウェブサイト上でマウスが購買リンク上にあった時間、ショッピングカート中に置かれた商品なども分析の対象にするアイデアも開示されています。

なお、クレーム上は限定されているわけではありませんが、現実の実装では注文前の出荷はAmazonの流通センターあるいはトラックまでになるのではないかと思います。明細書では、注文する前に消費者の元に送ってしまう(もちろん無料返品は受け付けます)実施形態も開示されてはいますが、実際にやると「押しつけ商法」との批判を受けそうです。

とは言え、Amazonはドローン(リモコン小型ヘリ)による配送サービスを検討中であるそうなので(参考記事)、ショッピングカートに商品を置きっぱなしにしてると、その商品を積んだドローンが家の前でホバリングして待ってるなんて未来もないとは言えないかもしれません。

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セカイカメラの終わりとムーアの組織リーダーモデルについて

ちょっと前の話になりますが、頓知ドット社のARアプリであるセカイカメラがサービス終了というニュースがありました(参考記事)。

2008年にセカイカメラが出た時はかなり感動しましたし、twitterだか2ちゃんねるだか忘れましたが「繁華街でセカイカメラ使ったら風俗店にボッタクリのエアタグが付いてて未来を感じた」という趣旨の投稿があって妙に納得したものでした。

しかし、エクスペリエンス的にスマホを高く掲げてごちゃごちゃした揺れる画面を見続けるのはあまり快適ではない(しかも見てくれが悪い)ですし、魅力的な関連サービスがなかったことから次第にアプリを立ち上げることは少なくなっていきました。

言うまでもなく、すばらしいアイデアと思えるような商品やサービスが結局普及せずに終わってしまうケースは数多いです(いわゆる、キャズム越えができなかったケース)。実は、商品やサービスがたいしたことなかったというケースもあるでしょうが、適切なリーダーがいなかったというケースもあるでしょう。

ここで、参考になるのがジェフリー・ムーアによる組織リーダーのモデルです。詳しくは拙訳『エスケープ・ベロシティ』(Kindle版も出ました)の第6章「実行力」を参照して下さい。

ムーアによると組織のリーダーは以下の3タイプに分かれます。

1. インベンター:新しい商品やサービスを野性的な勘で生み出すことができる能力を持ったリーダーです(いわゆる「発明家」に限定されないので敢えてカナ書きします)。良い物ができてしまえばそこで満足でそれをどう商売にするかには関心が薄いことが多いです。

2. ディプロイヤー:インベンターが作り出した新しい商品やサービスを広く普及させていく能力を持ったリーダーです。具体的にはパートナーの獲得やエコシステム作りを得意とするリーダーです。

3. オプティマイザー:ディプロイヤーによって成功に導かれた商品やサービスをコストを抑えつつ安定的に提供していく能力を持ったリーダーです。俗に「ビーン・カウンター」とも呼ばれるタイプです。地味ではありますが、収益を生み出すリーダーであり企業の成長にとって不可欠です(オプティマイザーが生み出す収益があってこそインベンターが次のイノベーションに専念できるのです)。

そして、これらの3タイプはある意味天性のものなので1人のリーダーに任せてはいけない、3タイプのリーダー間でプロジェクトをうまくパスしていくことが、継続的な成長のために重要であるとムーアは説いています。

頓知ドット社前代表でありセカイカメラを作り出した井口尊仁氏は明らかにインベンターと言えるでしょうが(メディア等の言動から判断する限り)ディプロイヤーやオプティマイザーの要素は薄いように思えます。ディプロイヤー型リーダーをうまく育成し、かつ、プロジェクトを迅速にパスしていけなかったことがセカイカメラ失速の最大要因だと思います。

他にも例を挙げてみると、スティーブ・ジョブズは、一般にはインベンターとして認識されていると思いますが、実はディプロイヤーとしての能力がきわだっていました。iPodもiPhoneも出た当初は「クールなプロダクトではあるがそんなに売れないのでは」といった予測も聞かれました。しかし、ジョブズはiPodではiTunes Storeで大手レーベルと提携、iPhoneではApp Storeによるデベロッパー・コミュニティの構築に成功し、両製品を爆発的にヒットさせました。これはディプロイヤーとしての能力が高いことを表わしています。一方、明らかにジョブズはオプティマイザーではないと思われます。

一方、ティム・クックは優秀なオプティマイザーであるものの、今のアップルにはインベンター、ディプロイヤー型リーダーの人材不足しているように思え、同社の今後の課題になっていると思います。

ビル・ゲイツもディプロイヤー(そして、インベンター)としての才能はすばらしかったと思います。スティーブ・バルマーはオプティマイザーとしては優秀ですが、インベンターそしてディプロイヤーとしてはあまり優秀ではなく(特に、スマホとタブレットの動向に出遅れたことはインベンターとしては最悪であったことを意味すると思います)これがマイクロソフトの現在の苦境(業績は悪くないのですが株主にとっての将来価値という点での苦境)に結びついていると思います。

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【雑談】「スマートグラス」という用語について

Google Glassに代表されるメガネ型ウェアラブル端末は、日本では「スマートグラス」と総称されてていると思います。

しかし、英語で”smart glass”というと、会社の会議室や飛行機の窓などで使われている、外部からの電圧によって遮光性を調節できるガラス(別名、”switchable glass”)という意味での用法が定着しています(参考Wikipediaエントリー)。

メガネ型ウエアラブル端末という意味の言葉としては”smart glasses”あるいは”smart eyewear”という言い方が見られます。ただし、Googleの製品名はあくまでもGoogle GlassであってGoogle Glassesではありません(語呂の問題なのでしょうか、それともディスプレイが1個しかないからなのでしょうか?)。

日本語だとメガネの場合は「スマートグラス」で、窓の場合は「スマートガラス」なので混同は生じないのですが、英語に直した場合には、しばらく混乱が続きそうな気がします。

追記:雑談ついでに書いておくと、10年くらい前、サンマイクロシステムズのアナリストイベントに行ったときにCTOのグレッグパパドポロス氏がディナーのスピーチで「ウェアラブルデバイスの最右翼はメガネ型デバイスだ。サンは大変有利な位置にある。なぜなら商品名をSun Glassにできるからだ」と言って笑いを取ってましたが、それもかなわぬ夢となってしまいました…

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【実務者向け】多項従属クレームを米国に国内移行する場合の補正時期

#本記事は完全に特許実務者向けの内容です。

日本では、多項従属クレーム(マルチクレーム)「?である請求項1または請求項2記載のxx」のような他の複数のクレームに選択的に従属するクレーム)、さらには、他の区数のマルチクレームにさらに選択的に従属するクレーム(通称、マルチ-マルチ)が広く認められています。いろいろなパターンの構成の権利を押さえつつ、クレーム数を少なくするには有効な手法です。

しかし、海外に出願する場合には、マルチ-マルチのクレームがが認められない国があるので注意が必要です。

特に、米国の場合は、マルチーマルチが認められないだけではなく、1段階のマルチクレームがひとつでもあるだけで780ドルの追加料金が取られます(小規模企業(small entity)だと390ドルですみます)。また、クレーム数のカウントも、たとえば、3つのクレームを選択しているマルチクレームは3とカウントされますので、マルチクレームのメリットはないと言われています。

最初から米国に出願する場合はマルチクレームを使わなければよいのですが、PCTからの米国国内移行で元々の出願にマルチクレームが入っている場合には自発補正をしてマルしクレームがなくすべきです。

この補正タイミングですが、追加料金発生を防ぐためには、米国への出願(国内移行)と同時にしなければいけないのかと思っていましたが、まずはそのままマルチクレームを含む状態で出願し、追加分の料金は払わないでおいて、料金が足りない旨の補正指令が来てからマルチクレームをなくす自発補正を行なえばよいようです。移行期限ギリギリの場合やちょっとでも出願日を早めたい場合には有効かもしれません。

なお、マルチクレームの補正ですが、多項従属が1段階だけであれば、選択肢のひとつひとつを別のクレームとして展開すればすみます。ただしマルチ-マルチがあると組み合わせの数によりクレーム数が爆発的に増えるので現実的でない場合もあります。この場合はとりあえずは一番広いクレームに従属するようにしてOAを待つのが得策だと思います(もちろん、出願人として絶対この構成では押さえたいというような事情があれば別です)。

このようなわざと料金を払わないという手法と言えば、(同時進行中の訴訟との関係により)できるだけ分割出願の審査を遅らせたかった時に、わざと出願料金を払わずにいて補正指令を待つことによりちょっとでも時間を稼ぐというアドバイスを米国代理人にもらったことがあります(何か抵抗があったのでその時はやらなかったですが)。

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【お知らせ】特許出願審査請求料金が大幅値下げになりました

先日のエントリーでちょっと触れた産業競争力強化法による、中小ベンチャー企業を対象とした特許料金、出願審査請求料金、国際調査手数料等の大幅軽減(3分の1に軽減)の話が、特許庁サイトに正式に載りました(中小ベンチャー企業、小規模企業を対象とした審査請求料・特許料の軽減措置について)。また、詳しいニュースリリースも出ています。

対象者は以下の通りです。

a.小規模の個人事業主(従業員20人以下(商業又はサービス業は5人以下))

b.事業開始後10年未満の個人事業主

c.小規模企業(法人)(従業員20人以下(商業又はサービス業は5人以下))

d.設立後10年未満で資本金3億円以下の法人

(※c及びdについては、大企業の子会社など支配法人のいる場合を除く。)

今までも特許間連料金の減免制度はあったのですが、法人税非課税者(要するに赤字企業)に限定されるなどちょっと使いにくいものでした。これに比べて今回の軽減措置では適用範囲が大きく広がっていますので、いわゆるITベンチャーと呼ばれる企業であればほとんどがいずれかの条件に当てはまるのではないでしょうか。また軽減額も今までは半額だったのが今回の制度では3分の1とさらにお得になっています(ただし、今年の4月から2017年3月までの期間限定です)。

特に、特許のライフサイクルコストにおいて大きな割合を占める審査請求料金が3分の1になるのは重要です。15万円だとリスクは犯したくないが5万円であればチャレンジしたいという企業様も多いかと思います。また、弊所で先日ご紹介した「エクスプレス出願」の条件に適合すれば総額20万円強で特許取得可能になります

なお、前述のとおりこの軽減措置は今年の4月から有効なので、上記条件に当てはまる方はくれぐれも焦って4月前に出願審査請求を行なわないよう注意して下さい(弁理士経由で出願していれば弁理士が適切に指示してくれるはずですが、代理人なしで出願された方はご注意下さい)。

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