「見えないヘルメット」が特許に:特許をお金に変える方法

中村彰吾弁理士のブログで知りましたが、ちょっと前にネットで話題になりテレビでも紹介された、スエーデンの女子大生が考案した「見えないヘルメット」(首にまくエアバッグ)が、昨年の3月に米国特許(8402568)を取得していたようです。事業資金1億円も獲得しているようですがこの特許権の存在が貢献しているようです。とは言え実際に動く製品(試行錯誤の上でいろいろ改良した製品)がなく、アイデアだけであれば、投資を受けることは困難だったかもしれません。

US08402568-20130326-D00000

日本でも、特許権をベースにして投資を獲得したというケースはないというわけではありません。ただし、この場合でも、特許権だけではなく有効な事業あるいはちゃんと動く製品が既に存在し、それを特許権でカバーしていることが重要です。もちろんあらゆる案件を知っているわけではないですが、人づて情報も加味して聞くかぎりそういう印象です。

個人発明家の方から特許で一山当てられないかというような相談を受けることがありますが、事業とは関係なしに特許だけ取ってもマネタイズするのは正直難しいと言えます。例外的に、1) 米国で特許を取得している、2) 他社に今すぐ権利行使可能(他社の侵害行為が現実に認められる)、3) 複数の関連特許のポートフォリオを所有している、という条件があれば、米国のNPE(要は、パテントトロール)が買ってくれる可能性はあります(この話はブログではあまり詳しく書けませんのでご容赦)。

「オープンイノベーション」というと、事業とは関係なしに、特許権だけが自由に流通するイメージがありますが、それでも、製造ノウハウ、ブランドイメージ、プログラムソースコード、設計図、顧客ベースなどの広義の「知財」と組み合わせてこそ、特許権が価値を発揮する点には変わりありません。つまり、有効な事業あってこその特許であり、その逆ではないということです。

ところで、Yコンビネーターの創業者ポールグレアム氏は、特許訴訟合戦には反対であるし、スタートアップ企業にどういう特許を取るかを心配するくらいならどういう製品・サービスを作れば良いかを心配しろと言う一方で、特許を取得できるのであれば取得することを推奨しているようです(参考記事)。

理由は、スタートアップ企業が事業に成功した時に、大手企業がその事業を模倣してたたきつぶそうとするか、あるいは、スタートアップ企業を買収するかの決断をする時に、そのスタートアップ企業が特許を持っていれば買収を選ぶ可能性が増すからです。スタートアップ企業と特許でもめていると費用も時間(これは致命的)もかかります。であれば、特許権ごと買収してしまおうという動機が強く働くということです。ここでも、ポイントは特許権だけを買い取るのではなく、事業と共に買い取るという点です。

少なくとも米国で事業展開を検討されているスタートアップ企業の方は米国特許取得を検討されてみるとよいと思います(詳しくはまた後で書きます)。

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コミスケ3事件:京都府警の気持ちになって「技術的保護手段」を解釈してみる

昨日のエントリーの続きです。

昨日のエントリーの追記でも書きましたが、DMM電子書籍ViewerにはCypherGuardという画面キャプチャー防止のソフトウェアが含まれているようです。DMM電子書籍Viewerで電子書籍閲覧中にWindowsのPrint Screenキーを押すと警告ダイアログが出て画面キャプチャーできません。また、Windowsの画面キャプチャーツールであるSnipping Toolを立ち上げると、立ち上げた時点で画面全体がCypherGuardのロゴで埋められ書籍の画面キャプチャーはできなくなります。Snipping Toolの実行ファイル名を変えても同じなので、たぶんWindowsのAPIをフックしているのでしょう。

コミスケ3にはこの画面キャプチャー防止機能を回避する機能が含まれていたようです。正直、反社会的行為ですし、このようなソフトウェアを販売したことによる民事上の責任はあると思いますが、警察に逮捕されるか(刑事罰に相当するか)はまた別の話です。

刑事罰に相当するためには法文上の明確な根拠が必要です(罪刑法定主義)。「画面キャプチャー防止という保護手段を回避しているじゃないか」と一般用語で解釈してはダメであり、著作権法上の定義に合致しているかを検討する必要があります。

著作権法では「技術的保護手段」を以下のように定義しています。CypherGuardの画面キャプチャ防止機能がこの定義に当てはまるかどうかを検討してみましょう。

著作権法2条1項20号 技術的保護手段 電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法(次号において「電磁的方法」という。)により、第十七条第一項に規定する著作者人格権若しくは著作権又は第八十九条第一項に規定する実演家人格権若しくは同条第六項に規定する著作隣接権(以下この号、第三十条第一項第二号及び第百二十条の二第一号において「著作権等」という。)を侵害する行為の防止又は抑止(著作権等を侵害する行為の結果に著しい障害を生じさせることによる当該行為の抑止をいう。第三十条第一項第二号において同じ。)をする手段(著作権等を有する者の意思に基づくことなく用いられているものを除く。)であつて、著作物、実演、レコード、放送又は有線放送(次号において「著作物等」という。)の利用(著作者又は実演家の同意を得ないで行つたとしたならば著作者人格権又は実演家人格権の侵害となるべき行為を含む。)に際し、これに用いられる機器が特定の反応をする信号を著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像とともに記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は当該機器が特定の変換を必要とするよう著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。

要件に分けて考えてみると、技術的保護手段と言えるためには、大きく以下が必要です。

1)電磁的方法による保護であること

2)著作権等の侵害の防止・抑止をする手段であること

3)-A 著作物の利用に用いられる機器が特定の反応をする信号を音・影像とともに記録、もしくは送信していること

または

3)-B 著作物の利用に用いられる機器が特定の変換を必要とするよう音・影像を変換して記録媒体に記録、もしくは送信していること

===

1)と2)の要件については検討するまでもなく当てはまるでしょう。要は、3)-Aあるいは3)-Bの要件に当てはまるかがポイントです。なお、書籍は想定されていないように思えますが、電子書籍にはマンガもありますので影像と解釈するのは問題ないでしょう。

3)-Aは、SCMS、CGMS、マクロビジョン等のように、コピー等する側の機器がコピープロテクト信号を検知してコピー等を行なわせない仕組みです(従って機器がプロテクト信号に無反応だとコピーできてしまいます)。3)-Bは、DVDのCCSのようにコピーはできてしまうが、そのままでは暗号化されていて見られないようにする仕組みです。

CypherGuardソフト+Windowsのディスプレイドライバ+物理的なディスプレイを「機器」と考えて、CypherGuardが特定の反応をする(この場合は画面キャプチャを禁止する)「信号」をDMM電子書籍Viewerが「送信」していると解釈すれば、3)-Aの要件に当てはまると言えなくもないかもかもしれません(ちょっと苦しい?)。

なお、DMM電子書籍Viewerの内部動作によりますが、3)-Bの要件に当てはまるような仕組みになっていることはちょっと想定しがたいかと思います。

まあ、本件については今後の成り行きを見守りたいと思います。なお、私の立場としては別にコミスケ3のメーカーを擁護しているわけではなく、根拠なしに刑事罰の対象になっては困るので、そういう根拠が本当にあるのかなという点に興味があるだけです。

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コミスケ3事件:画面キャプチャーをすると著作権侵害になるのか?

電子書籍をコピー制限を解除できるという触れ込みの「コミスケ3」というソフトを製造販売していた会社社長らが逮捕されたというニュースがありました(参照記事)。

最初はDVDのリップソフトやマジコンのようないわゆるコピープロテクト(あるいはアクセス制御)回避製品の販売と同じパターン(それならば逮捕されて当然)と思ったのですが、どうもそうではなさそうです。

販売元のウェブサイトの商品ページはもう消えていますが、その他の情報から判断するとこのコミスケ3というのは画面キャプチャーソフトのようです。ページをめくると自動的にキャプチャーしたりとかPDFにまとめたり等の付加機能が提供されているようです。Amazonの商品レビューでは「フリーソフトでできるような事が8000円とか、情弱向けソフトの代名詞のようなものです」と書かれています。

逮捕容疑は著作権法違反なので該当条文は120条の2第1項だと思います。

第百二十条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

一 技術的保護手段の回避を行うことをその機能とする装置(当該装置の部品一式であつて容易に組み立てることができるものを含む。)若しくは技術的保護手段の回避を行うことをその機能とするプログラムの複製物を公衆に譲渡し、若しくは貸与し、公衆への譲渡若しくは貸与の目的をもつて製造し、輸入し、若しくは所持し、若しくは公衆の使用に供し、又は当該プログラムを公衆送信し、若しくは送信可能化する行為(当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあつては、著作権等を侵害する行為を技術的保護手段の回避により可能とする用途に供するために行うものに限る。)をした者

しかし、ここで、「技術的保護手段」とは2条1項20号で以下のように定義されている点に注意が必要です(読みやすくするためにちょっと書き換えています)。

技術的保護手段
電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法により、「著作権等」を侵害する行為の防止又は抑止をする手段であつて、「著作物等」の利用に際し、これに用いられる機器が特定の反応をする信号を著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像とともに記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は当該機器が特定の変換を必要とするよう著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。

要はマクロビジョン(懐かしい)、CCCD、ブルーレイのコピープロテクト等を想定しています。少なくともWindowsの画面コピーではプロテクト的なものはなく画面に見えているものはPrint Screenキーを押せばクリップボードに取り込めてしまいますので、画面キャプチャーを行なうことを「技術的保護手段の回避」と呼ぶのはちょっと無理があると思います。(ここの記載は不正確でした。末尾の「追記」を参照して下さい。)

もちろん、たとえば、時限レンタルの書籍を勝手に画面キャプチャーされてPDF化されると出版社側は困りますね。たぶん利用規約(契約)違反にはなるでしょう。また社会通念上もほめられたことではありません。しかし、刑事事件として警察が出てくるには要件が足りてない気がします。まあ、記事やWeb上の情報からは明らかでない機能があるのかもしれませんが。

なお、別記事によると今回の逮捕容疑は著作権侵害だけではなく、別のソフトにDVDリップ機能が入っているように宣伝していたにもかかわらずその機能が入っていなかったという虚偽宣伝の件もあるようです(もしDVDコピー機能が入ってたら入ってたで不正競争防止法で逮捕されちゃいますね)。

仮に電子書籍コピーによる著作権侵害の方が不起訴になっても、バックアップとして詐欺の方では立件できて無事にお灸を据えられるだろうと読みなのかもしれません。

追記: マッチポンプになるので書かなかったのですがこの記事を書く前には、今回の事件で対象になったDMMのサイトからコミックをダウンロードしてPrint Screenキーで画面コピーできることを確認しています(著作物性がない奥付ページで試しました)。ただ、それはDMM電子書籍Viewer for dmmxというバージョンの方の話であって、もうひとつのバージョンであるDMM電子書籍Viewerで今試したところ、Print Screenキーは無効化されていました(Snipping Toolなどのキャプチャソフトも使えなくなっています)。コミスケ3はこのプロテクトを回避できたようなので、それが「技術的保護手段の回避」と疑われるということなのかもしれません。しかし、画面キャプチャの無効化がが著作権法上の「技術的保護手段」にあたるのかはちょっと微妙だと思います。

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茂木経産相の特許がようやく公開されました

去年の12月13日に「茂木経産相の特許取得と登録公報の発行タイミングについて」というエントリーを書きました。茂木経産相が特許出願をして無事登録できたというネタにからめて、出願公開前に登録されてしまった場合の登録公報(特許掲載公報)の発行タイミングの遅さについて書いたわけですが、その特許(5422775号)がようやくIPDL(特許電子図書館)でも見られるようになりました。IPDLは公報データに固定リンクが張れないのでメニューからたどってみて下さい。登録(権利の発生)から権利の内容が公開されるまでの3ヶ月弱の間は独占権は発生しているのにその内容はわからないということになるのであまりよろしくない状況ですね。

12月のエントリーでは、

発明の内容は「タッチパネルの端末上にメニューを表示し、一部の宗教で食べることが禁じられている肉類など、外国人が苦手とする食材があれば外国語で知らせるサービス」だそうですが、さすがにこれだけですと、単なる設計事項であって特許取得は難しいと思うので、他にどういう工夫があるのかが気になるところです

と書きましたが、実際にクレームの内容を見るとほとんどその通りの内容でした。

【請求項1】
入力部と表示部を備える注文入力端末との間でネットワークを介してデータ通信が可能な注文受付管理装置であって、
複数の料理の各々について少なくともその名称と食材の一覧を含む料理情報を記憶する料理情報記憶手段と、
前記料理及び食材の値段を表す情報を記憶する値段記憶手段と、
国籍を識別する情報に対応付けて、当該国民の苦手食材を表す情報を記憶する苦手食材記憶手段と、
食材ごとに注文者により削除又は変更された回数を、前記国籍別に記憶する注文履歴記憶手段と、
前記注文受付端末から注文者の国籍を識別する情報を受信する手段と、
前記料理記憶手段に記憶された料理情報を、前記受信された国籍を識別する情報に基づき当該国籍に対応する言語で前記注文受付端末へ送信し表示させる手段と、
前記国籍を識別する情報に基づいて前記苦手食材記憶手段から対応する苦手食材を表す情報を読み出し、前記注文受付端末に表示される料理情報に含まれる食材一覧中の前記苦手食材に該当する食材情報を強調して表示させる手段と、
前記注文受付端末に表示される料理情報の値段情報を前記値段記憶手段から読み出し、この読み出された値段情報を、前記国籍を識別する情報に対応する為替レートに従い前記国籍に対応する通貨に変換して前記注文受付端末へ送信し表示させる手段と、
前記注文受付端末から、前記表示された食材の削除又は変更を指示する情報を受信する手段と、
前記受信された食材の削除又は変更を指示する情報に応じて、該当する料理情報の食材を削除又は変更する手段と、
前記該当する料理情報の値段情報及び前記削除又は変更対象となった食材の値段情報を前記値段記憶手段から読み出し、この読み出された各値段情報をもとに前記該当する料理情報の値段情報を再計算すると共に、この再計算された料理情報の値段情報を前記国籍を識別する情報に対応する為替レートに従い前記国籍に対応する通貨に変換して前記注文受付端末へ送信し表示させる手段と、
前記注文受付端末から料理の注文の確定情報を受信する手段と、
前記料理の注文の確定情報が受信された場合に、当該料理において前記削除又は変更の対象となった食材について、前記注文履歴記憶手段に記憶された削除又は変更の回数を更新し、当該更新された食材の削除又は変更の回数に基づいて、前記苦手食材記憶手段に記憶する苦手食材を変更する手段と
を具備することを特徴とする注文受付管理装置。

ややこしいようですが、よく読むと通常のセルフサービス・メニューのシステムに、国別の苦手食材データベースと通貨換算機能を加えただけのように思えます(単なる設計事項とされてもおかしくないような気が…)。まあ、苦手食材の入力により、データベースを動的に更新していくという要素は入ってるんですが。

新聞記事によると「2020年の東京五輪に向け、省庁トップが自ら“お・も・て・な・し”のアイデア」だそうなので、当然、権利行使はせずにコモンズにしてくれるとは思うのですが、広く使ってもらうことを狙ったのであれば別に特許にする必要はなく、Webやメディアで発表すればすむ話だったと思います。

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音楽パクリ問題を著作権的に考える

NTTドコモのCM曲で使われている「ずっと」という曲の冒頭がORIGINAL LOVEの1993年のヒット曲「接吻 kiss」に似ているというのが話題になっています(参照記事)。また、きゃりーぱみゅぱみゅの新曲「ゆめのはじまりんりん」のAメロがGAOの1992年のヒット曲「サヨナラ」とほぼ同じというのも話題になっています(参照記事)。該当曲へのリンクはここには貼りませんので、ご興味ある方は別途音源を入手して聞いてみて下さい。

このようなポップチューンのパクリ疑惑問題は定期的に話題になりますが、著作権的に検討してみましょう。まず世の中でパクリ騒動になるものをパターン分けしてみます。

まず、本来的にはパクリとは言えないものです。

パターン1.音楽ジャンルとしての定型パターン

音楽のジャンルによっては形式美が確立しているというか、バリエーションが少ないものがありますので「この曲はあの曲とコード進行が同じだ、パクリだ」なんて議論してもしょうがないケースがあります。

パターン2.意図的な引用・パロディ・インスパイア

こういうのも広義には「パクリ」とされてしまうのかもしれませんが、表現方法のひとつとして当然に認められるべきです(たとえば、プロコルハルム「青い影」→荒井由実「ひこうき雲」)。ただし、グレーゾーンはあるので元作品の著作権者との見解が相違して、下記のパターン5に当たるかどうかが争われることもあるでしょう(これはおもしろいテーマですが長くなるので別の機会に書きます)。

パターン3.多重ライセンス

要はカバー曲のようなものですが「パクリ」と勘違いされるパターンです。(特に北欧系の)ソングライターチームが世界の各地域ほとに楽曲をライセンスするというビジネスモデルを採用していることがあります。たとえば、少女時代の「Genie」はノルウェイのDSIGN MUSICというチームの作曲なんですが、同曲はヨーロッパではNathalie Makomaというオランダのシンガーの「I Just Wanna Dance」としてライセンスされてます。詞以外はまったく同じなので完全なパクリと騒がれたりしましたが同じ曲なので当然です(余談ですがこの曲改めて聴くと結構凝ってて名曲ですね)。

次に本来的にパクリとして検討すべきパターンです。

パターン4.偶然の一致

Aメロやサビが偶然丸ごとそっくりになるということはないと思いますが、曲の一部のフレーズが偶然似ることはあり得ます。特に上記のように音楽のジャンルとしての定型パターン部分だったりするとその可能性は高くなります。

パターン5.意図的な盗用

どうせばれないだろうと言うことで故意に他人の作品を盗用するケースです。これが狭義のパクリですね。昔であればマイナーな海外の作品をパクれば、ばれないケースもあったのかもしれませんが、今はネットのせいでバレバレのケースも多いと思います。

パターン6.無意識の盗用

作曲の過程において過去に聴いて潜在記憶に残っていた曲が無意識のうちにでてきてしまうケースです。自分もちょっと作曲したりしますが、いいメロディができたと思っても一晩寝かせておくと「あの曲と一緒だった!」なんてケースは多いですね。

では、上記パターン4、5、6を著作権的に見ていきましょう。

重要なポイントは著作権侵害が成立するためには、依拠性(元作品に基づいていること)、および、類似性(結果として著作物として元作品と似ていること)の両方が必要という点です。

つまり、パターン4は著作権的にはセーフです。有名な判例として「ワンレイニーナイトイントーキョー事件」があります。私も、ある著作権法のセミナーで元曲(「夢破れし並木道」)と比較して聴かせてもらったことがありますが、まあ偶然の一致でもおかしくないなというレベルでした。

著作権法的にはパターン5とパターン6はあまり変わりません(裁判官の心証には影響するかもしれませんが)。これも有名な判例である「記念樹事件」では、曲の類似性があまりにも顕著であるため偶然の一致はあり得ないとして(故意かどうかは関係なしに)著作権侵害が認定されました。元曲は小林亜星の「どこまでもいこう」ですが、聞き比べてみると、これはパクリ(社会通念的にも著作権的にも)と言われてしょうがないと言えます。たぶん、上記のパターン6にあてはまるのではないかと思います。

さて、冒頭の2つの例に戻って考えてみましょう。パターン4、5、6のいずれにあたるかは微妙なところです。元曲は20年近く前の曲なので作曲者が聴いたことない(つまり、上記の依拠性の要件を欠く)可能生もあります。

ただ、仮に偶然の一致(つまり著作権上はセーフ)だったとしても、誰でも知っているようなヒット曲とフック部分(曲の特徴的な)がそっくりの曲を出すのは社会通念的にまずいでしょう。このような場合は、エグゼクティブプロデューサー的な人が「これは昔流行ったxxxと同じなんでまずいんでは」と指摘すべきだと思うのですが、まあ、現実には、たとえば中田ヤスタカにダメ出しできるプロデューサーなんていないんでしょうね。

これに関連して、小室哲哉が飛ぶ鳥を落とす勢いであった時に「Hate Tell A Lie」とかめちゃくちゃな英語タイトルの曲に対して、レコード会社には普通に英語教育受けてきた人も帰国子女もいるだろうに誰も何も言えないのだろうかと思ったことがありますが、まあ言えなかったんでしょうね。

追記: 鼻歌で歌うとデータベースサーチして曲名を教えてくれるアプリがあります(たとえば、SoundHound)。2ちゃん情報なんですが中田ヤスタカはそういうアプリで過去に似た曲がないか調べているという説もあります。試しに、自分が「ずっと」の冒頭を歌ってみたところ「接吻」がリストアップされました。「ゆめのはじまりんりん」を歌ってみたところ、「はじまりんりん」も「サヨナラ」もリストされず似ても似つかない外国曲がリストされました。自分の歌が下手だからなのかデータベースに登録されてないからなのかはわかりません。まあ、こういうテクノロジーがあるので、ソングライターの方は、偶然にしろ、無意識にしろ過去曲と酷似してないかチェックしてみてもいいんじゃないかと思います。

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