茂木経産相の特許がようやく公開されました

去年の12月13日に「茂木経産相の特許取得と登録公報の発行タイミングについて」というエントリーを書きました。茂木経産相が特許出願をして無事登録できたというネタにからめて、出願公開前に登録されてしまった場合の登録公報(特許掲載公報)の発行タイミングの遅さについて書いたわけですが、その特許(5422775号)がようやくIPDL(特許電子図書館)でも見られるようになりました。IPDLは公報データに固定リンクが張れないのでメニューからたどってみて下さい。登録(権利の発生)から権利の内容が公開されるまでの3ヶ月弱の間は独占権は発生しているのにその内容はわからないということになるのであまりよろしくない状況ですね。

12月のエントリーでは、

発明の内容は「タッチパネルの端末上にメニューを表示し、一部の宗教で食べることが禁じられている肉類など、外国人が苦手とする食材があれば外国語で知らせるサービス」だそうですが、さすがにこれだけですと、単なる設計事項であって特許取得は難しいと思うので、他にどういう工夫があるのかが気になるところです

と書きましたが、実際にクレームの内容を見るとほとんどその通りの内容でした。

【請求項1】
入力部と表示部を備える注文入力端末との間でネットワークを介してデータ通信が可能な注文受付管理装置であって、
複数の料理の各々について少なくともその名称と食材の一覧を含む料理情報を記憶する料理情報記憶手段と、
前記料理及び食材の値段を表す情報を記憶する値段記憶手段と、
国籍を識別する情報に対応付けて、当該国民の苦手食材を表す情報を記憶する苦手食材記憶手段と、
食材ごとに注文者により削除又は変更された回数を、前記国籍別に記憶する注文履歴記憶手段と、
前記注文受付端末から注文者の国籍を識別する情報を受信する手段と、
前記料理記憶手段に記憶された料理情報を、前記受信された国籍を識別する情報に基づき当該国籍に対応する言語で前記注文受付端末へ送信し表示させる手段と、
前記国籍を識別する情報に基づいて前記苦手食材記憶手段から対応する苦手食材を表す情報を読み出し、前記注文受付端末に表示される料理情報に含まれる食材一覧中の前記苦手食材に該当する食材情報を強調して表示させる手段と、
前記注文受付端末に表示される料理情報の値段情報を前記値段記憶手段から読み出し、この読み出された値段情報を、前記国籍を識別する情報に対応する為替レートに従い前記国籍に対応する通貨に変換して前記注文受付端末へ送信し表示させる手段と、
前記注文受付端末から、前記表示された食材の削除又は変更を指示する情報を受信する手段と、
前記受信された食材の削除又は変更を指示する情報に応じて、該当する料理情報の食材を削除又は変更する手段と、
前記該当する料理情報の値段情報及び前記削除又は変更対象となった食材の値段情報を前記値段記憶手段から読み出し、この読み出された各値段情報をもとに前記該当する料理情報の値段情報を再計算すると共に、この再計算された料理情報の値段情報を前記国籍を識別する情報に対応する為替レートに従い前記国籍に対応する通貨に変換して前記注文受付端末へ送信し表示させる手段と、
前記注文受付端末から料理の注文の確定情報を受信する手段と、
前記料理の注文の確定情報が受信された場合に、当該料理において前記削除又は変更の対象となった食材について、前記注文履歴記憶手段に記憶された削除又は変更の回数を更新し、当該更新された食材の削除又は変更の回数に基づいて、前記苦手食材記憶手段に記憶する苦手食材を変更する手段と
を具備することを特徴とする注文受付管理装置。

ややこしいようですが、よく読むと通常のセルフサービス・メニューのシステムに、国別の苦手食材データベースと通貨換算機能を加えただけのように思えます(単なる設計事項とされてもおかしくないような気が…)。まあ、苦手食材の入力により、データベースを動的に更新していくという要素は入ってるんですが。

新聞記事によると「2020年の東京五輪に向け、省庁トップが自ら“お・も・て・な・し”のアイデア」だそうなので、当然、権利行使はせずにコモンズにしてくれるとは思うのですが、広く使ってもらうことを狙ったのであれば別に特許にする必要はなく、Webやメディアで発表すればすむ話だったと思います。

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音楽パクリ問題を著作権的に考える

NTTドコモのCM曲で使われている「ずっと」という曲の冒頭がORIGINAL LOVEの1993年のヒット曲「接吻 kiss」に似ているというのが話題になっています(参照記事)。また、きゃりーぱみゅぱみゅの新曲「ゆめのはじまりんりん」のAメロがGAOの1992年のヒット曲「サヨナラ」とほぼ同じというのも話題になっています(参照記事)。該当曲へのリンクはここには貼りませんので、ご興味ある方は別途音源を入手して聞いてみて下さい。

このようなポップチューンのパクリ疑惑問題は定期的に話題になりますが、著作権的に検討してみましょう。まず世の中でパクリ騒動になるものをパターン分けしてみます。

まず、本来的にはパクリとは言えないものです。

パターン1.音楽ジャンルとしての定型パターン

音楽のジャンルによっては形式美が確立しているというか、バリエーションが少ないものがありますので「この曲はあの曲とコード進行が同じだ、パクリだ」なんて議論してもしょうがないケースがあります。

パターン2.意図的な引用・パロディ・インスパイア

こういうのも広義には「パクリ」とされてしまうのかもしれませんが、表現方法のひとつとして当然に認められるべきです(たとえば、プロコルハルム「青い影」→荒井由実「ひこうき雲」)。ただし、グレーゾーンはあるので元作品の著作権者との見解が相違して、下記のパターン5に当たるかどうかが争われることもあるでしょう(これはおもしろいテーマですが長くなるので別の機会に書きます)。

パターン3.多重ライセンス

要はカバー曲のようなものですが「パクリ」と勘違いされるパターンです。(特に北欧系の)ソングライターチームが世界の各地域ほとに楽曲をライセンスするというビジネスモデルを採用していることがあります。たとえば、少女時代の「Genie」はノルウェイのDSIGN MUSICというチームの作曲なんですが、同曲はヨーロッパではNathalie Makomaというオランダのシンガーの「I Just Wanna Dance」としてライセンスされてます。詞以外はまったく同じなので完全なパクリと騒がれたりしましたが同じ曲なので当然です(余談ですがこの曲改めて聴くと結構凝ってて名曲ですね)。

次に本来的にパクリとして検討すべきパターンです。

パターン4.偶然の一致

Aメロやサビが偶然丸ごとそっくりになるということはないと思いますが、曲の一部のフレーズが偶然似ることはあり得ます。特に上記のように音楽のジャンルとしての定型パターン部分だったりするとその可能性は高くなります。

パターン5.意図的な盗用

どうせばれないだろうと言うことで故意に他人の作品を盗用するケースです。これが狭義のパクリですね。昔であればマイナーな海外の作品をパクれば、ばれないケースもあったのかもしれませんが、今はネットのせいでバレバレのケースも多いと思います。

パターン6.無意識の盗用

作曲の過程において過去に聴いて潜在記憶に残っていた曲が無意識のうちにでてきてしまうケースです。自分もちょっと作曲したりしますが、いいメロディができたと思っても一晩寝かせておくと「あの曲と一緒だった!」なんてケースは多いですね。

では、上記パターン4、5、6を著作権的に見ていきましょう。

重要なポイントは著作権侵害が成立するためには、依拠性(元作品に基づいていること)、および、類似性(結果として著作物として元作品と似ていること)の両方が必要という点です。

つまり、パターン4は著作権的にはセーフです。有名な判例として「ワンレイニーナイトイントーキョー事件」があります。私も、ある著作権法のセミナーで元曲(「夢破れし並木道」)と比較して聴かせてもらったことがありますが、まあ偶然の一致でもおかしくないなというレベルでした。

著作権法的にはパターン5とパターン6はあまり変わりません(裁判官の心証には影響するかもしれませんが)。これも有名な判例である「記念樹事件」では、曲の類似性があまりにも顕著であるため偶然の一致はあり得ないとして(故意かどうかは関係なしに)著作権侵害が認定されました。元曲は小林亜星の「どこまでもいこう」ですが、聞き比べてみると、これはパクリ(社会通念的にも著作権的にも)と言われてしょうがないと言えます。たぶん、上記のパターン6にあてはまるのではないかと思います。

さて、冒頭の2つの例に戻って考えてみましょう。パターン4、5、6のいずれにあたるかは微妙なところです。元曲は20年近く前の曲なので作曲者が聴いたことない(つまり、上記の依拠性の要件を欠く)可能生もあります。

ただ、仮に偶然の一致(つまり著作権上はセーフ)だったとしても、誰でも知っているようなヒット曲とフック部分(曲の特徴的な)がそっくりの曲を出すのは社会通念的にまずいでしょう。このような場合は、エグゼクティブプロデューサー的な人が「これは昔流行ったxxxと同じなんでまずいんでは」と指摘すべきだと思うのですが、まあ、現実には、たとえば中田ヤスタカにダメ出しできるプロデューサーなんていないんでしょうね。

これに関連して、小室哲哉が飛ぶ鳥を落とす勢いであった時に「Hate Tell A Lie」とかめちゃくちゃな英語タイトルの曲に対して、レコード会社には普通に英語教育受けてきた人も帰国子女もいるだろうに誰も何も言えないのだろうかと思ったことがありますが、まあ言えなかったんでしょうね。

追記: 鼻歌で歌うとデータベースサーチして曲名を教えてくれるアプリがあります(たとえば、SoundHound)。2ちゃん情報なんですが中田ヤスタカはそういうアプリで過去に似た曲がないか調べているという説もあります。試しに、自分が「ずっと」の冒頭を歌ってみたところ「接吻」がリストアップされました。「ゆめのはじまりんりん」を歌ってみたところ、「はじまりんりん」も「サヨナラ」もリストされず似ても似つかない外国曲がリストされました。自分の歌が下手だからなのかデータベースに登録されてないからなのかはわかりません。まあ、こういうテクノロジーがあるので、ソングライターの方は、偶然にしろ、無意識にしろ過去曲と酷似してないかチェックしてみてもいいんじゃないかと思います。

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ゴーストライターと著作者名詐称罪について

日刊サイゾーに「“知らなかったことにして!”佐村河内守氏“仕掛け人”テレビマンとの共犯関係が暴露される?」なんて記事が載ってます。ゴーストライティング(および全聾偽装)の話は佐村河内氏と新垣氏以外の関係者も知っていてだまし続けていた可能性が高いというお話です。誰もがたぶんそうであろうと予測していたと思います。

この話と、以前に本ブログでも書いた著作者名詐称罪(著作権法121条)の関係はどうなんでしょうか?

第百二十一条 著作者でない者の実名又は周知の変名を著作者名として表示した著作物の複製物(原著作物の著作者でない者の実名又は周知の変名を原著作物の著作者名として表示した二次的著作物の複製物を含む。)を頒布した者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

上記記事では、事情を知っていたのはテレビマンということであり、121条の罪の対象は「頒布した者」(放送は対象ではない)なので121条の要件には合致しません(もちろん、詐欺の共犯等の議論は別です)。

仮に出版社あるいはレコード会社の人が事情を知った上で(故意に)CDや書籍を販売(頒布)していたとするならば少なくとも形式的には121条の罪に当たります。

頒布だけが処罰の対象で放送や上演が対象でないことについては「少なくとも今日においては平仄が取れていないと思われる」と中山『著作権法』(p521)でも指摘されています。

とは言え、佐村河内氏の話は全聾偽装その他でスキャンダラスな要素が大盛りなのでこれだけ大騒ぎになっているわけですが、実は書籍や作詞・作曲の世界ではゴーストライティングは日常茶飯事であり、レコード会社や出版社やも事情を知った上でCDや書籍を販売しています。これも形式的には121条の罪に問われることになりますが、ちょっと実情に合わないですね。

作花文雄『詳解著作権法』(第4版)では、

いわゆる代作の場合においては、形式的には本条に該当しても、世人を欺くというような実質的な違法性、反社会性がない場合も少なくないものと解される。

とちょっと奥歯に物が挟まったような書き方がされています。

なお、著作者(この場合では新垣氏)が了承していれば121条の対象にはならないのではという説もあるようです(旧著作権法40条での判例)が、121条の立法目的は世間を欺瞞することを防ぐという公的なもの(ゆえに非親告罪になっています)のでちょっと筋が悪い説だと思います(後で時間が出来たらもう少し調べてみるかもしれません)。

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鉄道遅延・運休情報のオープンデータ化について

土曜日(15日)は大雪で東京の公共共通機関はガタガタだったわけですが、よりによってその日に都心で重要な用事があったので困りました。「乗換案内」で示される最短ルートは運休によりアウト、ちゃんと動いている代替ルートを探す必要があったのですが、そのためには各鉄道会社のウェブサイトの運行情報を見なければなりません(Yahoo!などのポータルに交通情報は集約されていますが微妙にタイムラグがあるので)。

さらに、地下のみの路線は影響を受けにくいであろう、ターミナル駅経由であれば、万一急に運休したときに代替ルートに切り替えやすいであろう、などのヒューリスティクスを駆使して、乗換ルートの候補を考えて何とか無事時間までに目的地にたどり着けました。

しかし、これはよく考えてみるとずいぶん原始的なプロセスです。各路線の遅延情報という生データはあるにもかかわらず、それをまったく有機的に使えていません。

遅延・運休情報の共通データ形式を決めて、それをWebAPI経由で自由にアクセスできるようにすれば、つまり、遅延・運休情報をオープンデータ化すれば、この問題は大きく軽減されるでしょう。「乗換案内」等のアプリがこのオープンデータを使って、遅延・運休情報を加味した最適の路線が検索できるようになります。たとえば、所要時間の期待値が最も短いルート、最悪ケースでも一番早く着ける可能性が高いルート、指定した時間までに着ける中で最も確実性が高いルートなどが検索できるようになるでしょう。大雪の時に限らず有効なはずです。

オープンデータ化に要する労力はそれほどでもないと思いますが、それに対して得られる潜在的メリットはきわめて大きいと思います。

なんて書きつつ調べていたら当然このような動きはあるようです(参照記事:「首都圏の交通13団体がオープンデータの研究会、運行情報など即時発信へ」)。しかし、個別の路線の運行情報がわかっても有用性は限られているわけであり、路線検索アプリとの融合といった方向性に進んでほしいと思います。

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クリープハイプのベスト盤販売問題に見る専属実演家契約の落とし穴

クリープハイプというロックバンドのベスト盤をレコード会社が勝手に販売したことがちょっと問題になっています(参照記事)。

こういう事件は今までもありました。上記記事には宇多田ヒカルの例が載ってますが、それより前にはYMOの事件が有名です(関連フラッシュ)。

これらのケースで具体的にどのような契約が結ばれているのかはわかりませんが、ネットで公開されている専属実演家契約書(レコード会社とアーティストの間の契約書、別名、録音契約)のひな形を見るとだいたい想像がつきます(このひな形は「よくわかる音楽著作権ビジネス」の著者として有名な安藤和宏氏が代表をやっている会社Septima Leyのサイトに載っているものです)。

ここで問題になるのは著作権ではなく、著作隣接権のひとつであるレコード製作者の権利(通称、原盤権)です。著作権は作曲家・作詞家がJARACに信託していますので、特定の利用形態に対してNoということはできません(もちろん、JASRACとの信託契約を解除することもできますが、そうするとJASRACからの著作権利用料がいっさい得られなくなりますので非現実的です)。

上記のひな形契約書によれば、原盤権も含め一切の権利を甲(アーティスト)は乙(レコード会社)に譲渡することになります。なので、アーティスト側はいったんレコーディングされた楽曲の利用についてはコントロールできません。

第3条(権利の帰属)
1. 乙は甲に対し、本件原盤に係る乙の実演についての著作権法上の一切の権利(著作隣接権、二次使用料請求権、貸与報酬請求権、私的録音録画補償金請求権を含みます)を地域、期間、範囲の何等制限なく独占的に譲渡します。

ただし、どういうCDを発売するか等は、アーティストとレコード会社が協議の上決めることになっています。

3.レコード、ビデオおよび音楽配信の種類、価格、発売日、販売方法その他一切の事項については、甲乙が協議の上、決定するものとします。ただし、レコードおよびビデオの数量については、甲乙が協議の上、甲が決定するものとします。

さらに、アーティスト側にとってちょっと厳しい条件は以下です。

第12条(保証)

3. 本契約終了後 3 年間は、乙は、本契約に基づいて実演した著作物と同一の著作物について、甲以外の第三者が行うレコーディングのための実演を行わないものとします。

同じ曲でもレコーディングをしなおせば原盤権は新たに生じますので、原盤権を自分で持つなり、別のレコーディング会社に渡すなりすればよいのですが、それはこの契約終了後の3年以内はできないという条件です。

クリープハイプのケースでは、「ベスト盤は、タイトル、収録曲、アートワーク、発売日、特典すべてをレコード会社が一方的に決め、メンバーにも事務所にも一切連絡がなかった」そうなので、もし上記の協議義務が契約書に書いてあれば、契約違反に問える可能性はあると思います(もちろん、あくまでもひな形の条項をベースに議論してますので、実際の契約書に書いてあるかどうかはわかりません)。

これだけ見るとずいぶんアーティストが不利なように見えますが、レコード会社は投資をして金銭的リスクを負う立場である点も考慮する必要があります。

さらに重要な点はこれはアーティストも納得の上で合意した条件であるということです。民法の大原則、契約自由の原則がある以上、納得の上合意した条件に従わなければいけないのは当然です。

企業の労使契約のように契約自由の原則だけに任せておくと一方が圧倒的に不利になってしまう場合は別ですが、音楽アーティストの場合はいくらでも選択肢があるわけなので、契約条件(特に、著作隣接権を全部譲渡する件と再レコーディングの3年間禁止の件)が気に入らなければ、再交渉するなり、もっと良い契約条件を提示してくれるレコード会社(典型的にはインディーズ)を探すなり、自費制作するなりすればよい話です。

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