コミスケ3事件:画面キャプチャーをすると著作権侵害になるのか?

電子書籍をコピー制限を解除できるという触れ込みの「コミスケ3」というソフトを製造販売していた会社社長らが逮捕されたというニュースがありました(参照記事)。

最初はDVDのリップソフトやマジコンのようないわゆるコピープロテクト(あるいはアクセス制御)回避製品の販売と同じパターン(それならば逮捕されて当然)と思ったのですが、どうもそうではなさそうです。

販売元のウェブサイトの商品ページはもう消えていますが、その他の情報から判断するとこのコミスケ3というのは画面キャプチャーソフトのようです。ページをめくると自動的にキャプチャーしたりとかPDFにまとめたり等の付加機能が提供されているようです。Amazonの商品レビューでは「フリーソフトでできるような事が8000円とか、情弱向けソフトの代名詞のようなものです」と書かれています。

逮捕容疑は著作権法違反なので該当条文は120条の2第1項だと思います。

第百二十条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

一 技術的保護手段の回避を行うことをその機能とする装置(当該装置の部品一式であつて容易に組み立てることができるものを含む。)若しくは技術的保護手段の回避を行うことをその機能とするプログラムの複製物を公衆に譲渡し、若しくは貸与し、公衆への譲渡若しくは貸与の目的をもつて製造し、輸入し、若しくは所持し、若しくは公衆の使用に供し、又は当該プログラムを公衆送信し、若しくは送信可能化する行為(当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあつては、著作権等を侵害する行為を技術的保護手段の回避により可能とする用途に供するために行うものに限る。)をした者

しかし、ここで、「技術的保護手段」とは2条1項20号で以下のように定義されている点に注意が必要です(読みやすくするためにちょっと書き換えています)。

技術的保護手段
電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法により、「著作権等」を侵害する行為の防止又は抑止をする手段であつて、「著作物等」の利用に際し、これに用いられる機器が特定の反応をする信号を著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像とともに記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は当該機器が特定の変換を必要とするよう著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。

要はマクロビジョン(懐かしい)、CCCD、ブルーレイのコピープロテクト等を想定しています。少なくともWindowsの画面コピーではプロテクト的なものはなく画面に見えているものはPrint Screenキーを押せばクリップボードに取り込めてしまいますので、画面キャプチャーを行なうことを「技術的保護手段の回避」と呼ぶのはちょっと無理があると思います。(ここの記載は不正確でした。末尾の「追記」を参照して下さい。)

もちろん、たとえば、時限レンタルの書籍を勝手に画面キャプチャーされてPDF化されると出版社側は困りますね。たぶん利用規約(契約)違反にはなるでしょう。また社会通念上もほめられたことではありません。しかし、刑事事件として警察が出てくるには要件が足りてない気がします。まあ、記事やWeb上の情報からは明らかでない機能があるのかもしれませんが。

なお、別記事によると今回の逮捕容疑は著作権侵害だけではなく、別のソフトにDVDリップ機能が入っているように宣伝していたにもかかわらずその機能が入っていなかったという虚偽宣伝の件もあるようです(もしDVDコピー機能が入ってたら入ってたで不正競争防止法で逮捕されちゃいますね)。

仮に電子書籍コピーによる著作権侵害の方が不起訴になっても、バックアップとして詐欺の方では立件できて無事にお灸を据えられるだろうと読みなのかもしれません。

追記: マッチポンプになるので書かなかったのですがこの記事を書く前には、今回の事件で対象になったDMMのサイトからコミックをダウンロードしてPrint Screenキーで画面コピーできることを確認しています(著作物性がない奥付ページで試しました)。ただ、それはDMM電子書籍Viewer for dmmxというバージョンの方の話であって、もうひとつのバージョンであるDMM電子書籍Viewerで今試したところ、Print Screenキーは無効化されていました(Snipping Toolなどのキャプチャソフトも使えなくなっています)。コミスケ3はこのプロテクトを回避できたようなので、それが「技術的保護手段の回避」と疑われるということなのかもしれません。しかし、画面キャプチャの無効化がが著作権法上の「技術的保護手段」にあたるのかはちょっと微妙だと思います。

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4 Responses to コミスケ3事件:画面キャプチャーをすると著作権侵害になるのか?

  1. でらん のコメント:

    究極的には
    モニタをスキャナに乗せてスキャンした画像は技術的保護手段の回避になるのかってことですかね
    まぁ映画の盗撮防止技術の世界ではCinaviaなんてありますが

  2. 匿名希望 のコメント:

    「技術的保護手段」に該当するか、という点について

    著作権法に「当該機器が特定の変換を必要とするよう著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう」と規定されている以上、なんらかの難読化を行っているファイルフォーマットなら該当すると考えてよいのではないでしょうか?

    また、おっしゃるように「コピー制限を解除できるという触れ込み」で販売されていたならば、容疑者が、技術的保護手段が施されていると認識した上で複製を可能とするソフトウェアを販売していたという故意についても明らかかと思います。

    「技術的保護手段の回避」に該当するか、という点について

    法の制定趣旨が(技術的にはどうしても限界がある)保護手段について、その実効性を担保するためであることもあり、違法性を回避手段について著作権法に定められてはいないと思います。つまり、保護手段の回避手法として、画面キャプチャを使ったかどうかではなく、その結果として保護手段が回避されたかどうかの問題である(そしてこの点については上記のとおり故意が認められるであろう)と考えます。

  3. kurikiyo のコメント:

    一般用語としての「技術的保護手段」にはあたると思いますが、著作権法上定義された「技術的保護手段」にあたるかどうかを問題にしています。

  4. くらげ のコメント:

    コミスケはCypherGuardも回避できるという宣伝をしていたようです。(購入したわけではないので、実際にできるかどうかは知りませんが)
    CypherGuardはPrint Screenキーのみでなく、Windows APIを直接呼び出して画面キャプチャしても保護対象を保存できない(違う画像の自動的に置き換わる)強力な保護機能ですので、それの回避は明確に「技術的保護手段の回避」といえると思います。

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