【小ネタ】STAP細胞便乗商法について

livedoor NEWSに「小保方さん「クロ」判定に困惑する“便乗狙い”の悲鳴」なんて記事が載ってます。今年1月のSTAP細胞の発表直後に「『STAP細胞』の大発見を信じて自社商品などに『STAP』の名前を商標出願(ママ)した中小企業の経営者たちが、『勘弁してくれ』と悲鳴を上げています(事情通)」だそうです。まあ流行語(になりそうな言葉)が生まれると全然関係ない人が便乗商標登録出願するのは風物詩ですね。

しかし、商標の場合、出願だけなら費用はせいぜい5万円くらいです(弊所なら2万7千円です(ステマ))。なので「悲鳴」はどう見ても盛り過ぎです。せいぜい「あてがはずれてがっかり」くらいでしょう。STAPという名称がついた商品のパッケージの製造をもう始めてしまったとかであれば別でしょうが。

ついでにちょっと前に書いた、昨年度の流行語大賞の便乗登録出願が今どうなっているか(無料でできる範囲で)調べてみました。

まず、久慈市の菓子店が出願した「じぇじぇじぇ」(商願2013-039171)(これは厳密には「便乗商法」とは呼べませんが)ですが、おそらくNHKの業務との誤認混同を招くという拒絶理由通知が出たのは前回書いたとおりです。これに対して、代理人を立てて意見書を出していますね。こちらが確定してないので、NHKの後願(商願2013-46638)も確定せず、NHKと争う形になっています。それとはまた別に個人が今年になってから「じぇじぇじぇ」を出願しています(もう賞味期限切れだと思うのですが)。

「今でしょ」(およびそのバリエーション)はまだ登録されたものはありませんが、林修先生が勤める予備校のナガセによる本家の出願に3条1項各号を理由とする拒絶理由通知が出ています。3条1項6号(需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標)でしょうかね?キャッチフレーズ的な言葉を商標登録出願するとこの条文を理由に拒絶されることがあります。しかし、めちゃくちゃグレーゾーンがあって、実際にはキャッチフレーズ的な商標登録は数多くあります(たとえば、日立の「Inspire the Next」等)。ナガセは本家ですのでたぶん争うことになると思います。

「倍返し」(およびそのバリエーション)も17件ほど出願されてますが、まだ(本家のTBSのものも含めて)登録になったものはありません。ちょっと全部調べてる時間はありません。個人による出願には「情報提供」(刊行物等提出)がされているものが多いので、TBSが登録を阻止しようとしているのではないかと思われます。

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3Dプリンタ銃問題に対応できるかもしれない特許について

3Dプリンタで殺傷能力のある銃を作成した人が逮捕された事件は周知だと思います。ついに来るべき日が来てしまったという感じですね。

この問題に関して、公安委員長が法規制の検討が必要との見解を示したそうですが(参照記事)3Dプリンタの販売を一律に禁止するわけにもいかないので難しいところです。

テクノロジー的解決策としては、今すぐには無理としても、将来的には特定の強度・構造を持つ部材を製造(印刷)する場合にネットワークから認証が必要とされるような仕組みが有望かもしれません。

そして、米国ではそのようなアイデアに関する特許が既に成立しています(US8286236)(Manufacturing Control System)。クレーム1は以下のようになっています。

1. A method for secure manufacturing to control object production rights, the method comprising:

identifying at least one object data file configured to produce an object by a manufacturing machine;

confirming that an authorization code is associated with the object data file, the authorization code configured to be received by the manufacturing machine, the manufacturing machine adapted to receive the authorization code; and

enabling the manufacturing machine to interface with the object data file only if the authorization code meets one or more predetermined conditions,

wherein the manufacturing machine is configured for at least one or more of additive manufacturing, subtractive manufacturing, extrusion manufacturing, melting manufacturing, solidification manufacturing, ejection manufacturing, die casting, or a stamping process.

クレームは長いんですが、実質的に言っていることは、「設計データに対応する承認コードを受信した時だけ製造を許可する製造機械」といった感じでかなり範囲が広いです。「3DプリンタのDRM」特許とも呼ばれています。

権利者はThe Invention Science Fundですが、これはNPEとして有名なIntellectual Ventures(IV)の一組織である発明者部隊です。IVは他社から特許権を買い集めて、権利行使するという典型的NPEのオペレーションに加えて、社内でも一から発明を行なっています(そういう意味では、IVは、他のいわゆるパテントトロール的NPEとは微妙に違います)。

この特許の優先日(実質出願日)は2007年12月21日です。この時期はスタラタシス社による3Dプリンタの基本特許が2009年に切れる直前で3Dプリンタの民生部門での普及が予測されていた時期です。この特許の明細書には、3Dプリンタについての記載がないので、先を読んでいたのか、単なる偶然なのかは不明ですが、やはり広い特許を取るためにはタイミングは重要です(テクノロジーが普及してからその分野で広い特許を取るのは困難です)。

なお、ちょっと調べた限りでは日本では同等特許は成立していないようなので、日本ではこのような仕組みを自由に実施できる可能性が高いです。

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STAP細胞特許のゆくえについて

小保方さんの研究不正問題で、小保方さん側の不服申立に対する調査委員会の結論が出ました。記者会見の内容がITmediaの記事にわかりやすくまとまっています。

かなりインパクトのある実験ノート、サイエンス誌に出した論文で査読者に画像の加工を指摘されたのにそれを無視してネイチャーに同じような論文を出した疑惑、医師の診断書が提出されていない等々、長引けば長引くほど、小保方さん側に不利な材料が出てくる感じです。小保方さん側は訴訟も検討しているそうですが、公開裁判の場でやってしまって大丈夫なんでしょうか?

さて、本エントリーでは特許の話に絞って書きます。以前にも書いたようにSTAP細胞に関するPCT出願(国際出願)がWIPO(世界知的所有権機関)で待ち状態になっており、各国への国内移行手続きの〆切が今年の10月(国によってはもう少し後の国もあります)に迫っています。

前述のITmediaの記事によると「特許の取り下げは行わない」そうでであり、「検証実験の結果を踏まえて判断したい」そうです。記者会見の場での話の流れがわかりませんが、記者の方には「詐欺行為で特許を取得すると刑事罰対象ですが?」と聞いてほしかった気がします。(注:特許出願書類でも不適切な画像流用が指摘されています)。

注意しておくべき点として、PCT出願の取下げには共同出願者全員の合意が必要です(PCT出願に限った話ではなくあらゆる特許出願に当てはまる話です)。このPCT出願(PCT/US2013/037996)の出願人はブリガムアンドウーマンズ病院(要するに、ハーバード大の大学病院)、理研、東京女子医大です。たぶん、取下げにはブリガムアンドウーマンズ病院(要するにバカンティ教授)が同意しないんじゃないかと思います。(ところで、この特許出願に東京女子医大がからんでいる経緯は何なんでしょうか?)

さらに、各国への国内移行にも共同出願者全員の合意が必要です。これは理研が同意するとは思えません。「検証実験の結果を踏まえて判断したい」と言っても、検証実験には1年くらいかかるはずなので、国内移行の期日には間に合わないんじゃないかと思います。

結局、明示的取下げも国内移行もなしに、期日が来て、そのまま実質的取下げということになるのではないかと思います。

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著作権放棄により過去の恥ずかしい作品を葬り去ることができるのか

ハフィントンポストに「泉谷しげるさん、2曲の著作権放棄を希望『ホント恥ずかしい』」なんて記事が載ってます。泉谷さんが20代に作った『自殺のすすめ』と『先天性欲情魔』という曲が、今となっては稚拙で恥ずかしいため、自作のすべてを演奏するライブシリーズで演奏したくないというところから出てきた話のようです。

当時の時代背景もあると思いますし、大人版中二病的なものもあると思いますし、一般論としてクリエイターにとって今となっては捨て去りたい過去作品があるということは理解できます。

では、このような場合、著作権法的な観点から何かできるのでしょうか?

まず、著作財産権(狭義の著作権)ですが、泉谷さんが希望するように著作権を放棄をすると、作品がパブリックドメインになってしまい、誰でも自由に利用できるようになってしまいますので、たぶん意図するところと逆方向に進んでしまうと思います。

また、著作権法上は著作権の放棄に関する規定はありません。どうすれば放棄できるかについては諸説ありますが『著作権法逐条講義』では「新聞広告による著作権放棄の意思表示が必要」とされています。しかし、こんなことをすると、上記2曲が泉谷さんの作品であることを世の中にいっそう広めてしまうことになるのでさらに逆効果ですね。

問題の2曲のJASRACとの信託契約を解除して楽曲の著作権を泉谷さん本人に戻すことによって、この曲の利用を禁止する方がまだ適切だと思います(JASRACの規定的に特定の曲だけ契約解除できるのかよくわかりませんが)。ただ、この曲を含むアルバムの販売やレンタルはどうなるか等の現実的問題が山積みだと思います。

では、著作者人格権はどうでしょうか?

公表権(18条)は、公表されていないもの(あるいは同意なしに公表されたもの)を勝手に公表することを禁止できますが、すでに自分の意思で公表されてしまったものに対しては何もできません(公表のundoはできませんので当然とも言えます)。

氏名表示権(19条)は、普通は著作者名の表示をさせる権利ですが、表示しないこととする権利も定められてはいます。

第十九条 著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する(後略)

ただ、現実問題として、この権利を主張するためには、上記と同様に何らかの手段により世の中に告知しなければいけないわけで、これまた逆効果です。

同一性保持権(20条)および名誉声望保持権(113条6項)はほとんど関係ないと思います。

最後に念のために書いておくと、おそらく泉谷さん本人は「こんな曲を二度と歌いたくない」というだけの話だと思います(それは本人の自由です)。それをわざわざ著作権法的に真面目に検討してみたというのが本エントリーの趣旨ですので、泉谷さんを批判する意図はまったくありません。

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アップル対サムスン裁判:なぜ前回と比較して賠償金額が大幅減なのか?

北カリフォルニア連邦地裁で行なわれているApple対Samsungの特許侵害訴訟の陪審員評決が出ました(参照記事)。サムスンの特許侵害が認められ、1億2000万ドルの賠償金支払が命じられました。一方、アップル側による特許侵害も認められ、これに対しては15万8000ドルの賠償金支払が命じられました。なお、これは陪審員による評決なので、後に裁判官による判決が行なわれることになります(金額が多少変わる可能性もあります)。

一応、アップルの勝ちとは言えるのですが、元々20億ドルという巨額な賠償金を請求していたことから考えるとその6%しか得られなかったことになります。また、(賠償額はわずかとは言え)アップルによるサムスンの特許侵害が認められたのもイメージ的なダメージは大きいと言えます(FOSSPatentによると、世界中で進行中のアップル対サムスン特許訴訟において、非標準必須特許でアップル側の侵害が認められたのは初めてのケースであるそうです)。

さらに言うと、北カリフォルニア連邦地裁の1回目の訴訟では、アップルが約10億ドルの賠償金を勝ち取りましたが、それと今回とでは大きな差がある点も注目値します。これは、主に、前回の訴訟では意匠権が賠償額に大きな影響を与えていたためです(日本の報道だと米国の”design patent”も特許と訳されることがあるのでわかりにくいですが)。米国の特許法では、意匠権の侵害では侵害者が得ていた利益を全額賠償金として請求できる制度があるので、賠償金が巨額になりやすいようです(米国弁護士による解説記事(英語))。今回は意匠権は対象になっておらず、(狭義の)特許権5件(参照過去記事)が対象になっているので、このような結果になったようです。

最終判決はまだどうなるかはわかりませんが、サムスン的には負けは負けだが一安心といったところではないでしょうか?ひょっとすると、アップルの言い値で和解しなくてよかったわと思っているかもしれません。

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