【実務者向け】弊所でやっている期日管理の方法

特許実務上きわめて重要なポイントに期日管理があります。法律で定められている期日をミスにより忘れて取れる特許が取れなかったり、権利が消滅してしまったりするとどえらいことになります。

弁理士の業務上の損害賠償を補償してくれる保険商品がありますが、そのパンフレットの事例集を見ると、特許料の納付を忘れてしまいクライアントから1億円の損害賠償を請求されたとか、読んだだけで胃が痛くなるような事例が満載です(もちろん弊所でもこの保険には入っています)。

期日管理を含む特許事務管理ソフトがいろいろ売られていますが、カスタマイズできないのが嫌なので、弊所では自前で作ったAccessのデータベースで管理しています。さらに期日管理にはOutlookを活用しています。

たとえば、特許出願をすると、少なくとも3年後の審査請求の期日、1年後の優先権主張の期日管理が必要です。加えて、弊所では出願から10ヶ月後に改良発明および(パリ優先権による海外出願を行なう場合の)翻訳に関するご案内を出しています。

出願するとこれらの期日に相当する予定をOutlookに入力します(ここはAccessアプリケーションと一気通貫で自動化したいところですが、今のところ手作業で入れています)。予定は毒々しい赤色を使って予定表を見たときに目に入りやすいようにしています。また、Outlookのリマインダー機能を使って指定した期間前にメッセージを送るようにしています。

Outlookの予定表はiCloud経由で同期していますので、iPhoneでも、モバイルPCでも、iPadでも閲覧し、リマインダーを受け取ることができます。また、万一メインのPCが壊れてもiCloud上でバックアップは無事です。これはクローズドな特許管理パッケージでは得られないメリットだと思います。

これとは別に長期的な〆切日はホワイトボード(もちろん、会議スペースのホワイトボードではなく、自分の事務スペース内のホワイトボード)に書き、さらに、拒絶理由通知対応の期間など短期的なものは、関連書類に期日を赤マジックででっかく書いた上でコルクボードにピン留めしておく、などのアナログな方法も併用しています。

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特許の問題でSTAP細胞作成のコツを公表できないということがあり得るのか

小保方さんの「4月9日に開かれた記者会見に関する補充説明」において以下のような記載がありました(参照記事)。

現在開発中の効率の良いSTAP細胞作製の酸処理溶液のレシピや実験手順につきましては、所属機関の知的財産であることや特許等の事情もあり、現時点では私個人からすべてを公表できないことをご理解いただきたく存じます。(強調は栗原)

特許等の事情により、コツを公表できないということがありえるのでしょうか?

大前提としてSTAP細胞の作成法に関する特許出願(国際出願)は既に行なわれており、出願内容も公開されています(参考過去エントリー)。そこに記載されているよりも、より効率の良い新たな方法があるということなんでしょうか?

ノウハウに当たる部分を隠して特許出願するのは(本来的には好ましくないですが)よく行なわれています。ただ、今回の話は効率が良いとか悪いとかの話ではなく、できるかできないかの話なので、ちゃんと実施できる方法を開示していないということは、論文としても特許出願としても問題です。なお、特許出願書類にもNature論文と同様の不適切な画像流用がされていることが指摘されています(参照記事)。

以下の2段落は一般論になります。

コツに相当する部分が特許の対象になるのであれば、発明者自身の公開によっても新規性が否定されますので、出願前には公表しないことが通常です。発明者(正確には特許を受ける権利を持つ人)自身が公開した場合、公開の時から半年以内に出願すれば、その公開を理由に特許性が否定されることはないという救済規定があります(米国では1年以内に出願すれば大丈夫です)が、欧州や中国ではこのようなルールは原則的にありませんので、発表の前に出願することが重要であることは確かです。

このような場合に有効に使える制度に米国の仮出願制度があります。仮出願は1年以内に通常の出願を行なうことを前提として出願であり、通常の特許出願と比較して書式上の要件が簡略化されています。学術論文をそのまま出願することも可能ですし、日本語で出願することも可能です。先に仮出願して出願日を確保しておけば後は自分で公表しようが、独立して発明した第三者が公表しようが、出願しようが、先に出願した方が優先します。学術機関ではよく使われていると聞いています。

フジテレビのとくダネ!で笠井アナがこの件に関する解説で「論文の前に特許を取っておくのが普通」というような解説をしていましたが、正確には「特許を出願しておく」ですね。

と言いつつ、小保方さんの発明は職務発明として理研が出願人となるよう職務規程で定まっていると思いますので、この状況では仮出願にしろ本出願にしろ、特許出願なんでやってられないということはあるでしょう。

まあもちろん、もしSTAP細胞が小保方さんの脳内でしか完成していない(あるいはマーカーの発現をもってSTAP細胞の完成とするという俺様定義を採用している)のだとすると、特許出願も何もあったものではないですが。

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【実務者向け】商標の更新登録と移転登録がかぶってしまった時

ちょっとした連絡不行き届き(お恥ずかしい)で、期日が迫った商標の更新登録申請を行なう前に移転登録申請を行なってしまいました。この場合、新権利者名義で更新登録を行なって、まだ移転登録が終わっていない(あるいは、旧権利者名で更新登録を行なって既に移転登録されている)と手続却下になってしまうのではないかと思い、どうすべきかを特許庁に聞いてみました。

答は、「新権利者名で申請し、商標権存続期間更新登録申請書の最後に【その他】の欄を設けて”移転登録申請中”と記載する」だそうです。

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日本政府のオープンデータのやる気のなさは異常

追記:本記事掲載後の5月16日にdata.go.jpは再開されました。また、休止期間中は有志による代替サイトdatago.jpが運営されていました。

米国で政府関連オープンデータのポータルであるdata.govが立ち上がったのが2009年、一方日本はというと、2012年の総務省の「電子行政オープンデータ戦略」という資料で「現状の調査を行う」方向性が示されるという状況で(少なくともオープンガバメントデータの領域では)周回遅れ感が強かったです。

その後、遅ればせながらdata.govに相当するデータカタログサイト(data.go.jp)の試行版が立ち上がりましたが、今アクセスすると以下のよう状態になっています。

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ZDNetの記事によると年度が変わって予算がつかないためであるそうです。せめて現状維持で残しておけばよいのにと思いました。

一方、米国のdata.govですが、何度かの更改を経てすっきりとしたデザインになっています。現時点では9万件強のデータセットが公開されており、横断的に検索が出来るようになっています。

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たとえば、”crime”をキーワードで検索すると複数の政府機関のデータソースをまたがって59件のデータセットが表示されます。結構古いデータが多いですし、エクセル形式、PDF形式、Lotus Organizer形式(!)などのあまりオープンでない形式が多く、また、単に別のサイトへのリンクになっていて、そこのサイトで別途操作を行ってデータをダウンロードしなければいけないケースがあったりで、パーフェクトではないのですが、このようなデータポータルサイトがあるかないかでは大違いです。

同様のオープンデータポータルは、米国だけではなく、英国韓国インドフランス香港等でも運営されています。

まあ、data.go.jpだけが日本のオープンデータポータルではないですし(集約サイトであるポータルがたくさんあるということ自体がまた別の問題ですが)、地方自治体、民間、草の根ベースのオープンデータ・プロジェクトが活発に行われているのは確かです。しかし、日本政府としてのオープンデータの取り組みは妙に遅れています。

この理由なのですが、1)データをオープンにすることで「不都合な真実」が露わになるのを嫌う抵抗勢力、2)サーバやストレージが売れない案件はあまりやりたがらない公共系ITベンダー、あたりではないかと推測しているのですが、どうでしょうか?

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米国における万引き犯情報共有システムについて(+リカオン社特許について)

客の顔情報「万引き対策」115店が無断共有」というニュースが議論を呼んでいます。リカオンという会社が開発した、万引き犯やクレームの顔情報を店舗間で共有し、該当者が来店すると、顔認識により検知して通知するシステムの話です。(追記:リカオン社より「顔情報を共有するのは本人の同意を得た場合だけである」という主旨で記事に抗議するリリースが出ています)。

Twitterで「こんなこと考えつくのは日本だけ」というような趣旨のつぶやきがあったので米国の状況を調べてみました。

”face recognition shoplifter”というキーワードで検索してみると、米国では、一昨年頃から同様のテクノロジーが採用され始めていることがわかります。

たとえば、LP Magazineというサイトの”Facial Recognition: A Game-Changing Technology for Retailers”という記事(2013年5月12日付)では、同様のテクノロジーについて紹介されています。(ただし、「センシティブな問題なので発言者と企業は仮名とした」と書いてあるので、米国においてもまったく問題なしというわけではないということがわかります)。

ところで、このLP MagazineのLPとはLoss Prevention、要するに万引き防止担当者ということです(日本で言えば「万引きGメン」でしょうか)。アメリカではこういう専門家向けのポータルがあるということですね。

顔認証で検知とは言ってもいきなり警報が鳴ったりつかまったりというわけではなく、以前に万引きを行なった人の入店が検知されると、LP担当者に通知が送信され、LP担当者が目視で確認した後に、本人に近づいて名前の確認の後に退店を命じるというプロセスが基本のようです。

また、法律に関する知恵袋的なサイトの情報(専門家の回答ではない可能性があります)によると、顔認識の話とはまた別に、米国の小売チェーン(たとえば、Walmart)で万引きでつかまると、二度とそのチェーン店舗(万引きをした店だけではなく、店舗すべて)に入店しないという誓約書を書かされ、それに違反すると不法侵入として退場を命じられるルールになっているらしいことがわかります。つまり、顔認証が使われるずっと前から、少なくとも同一小売チェーン内では店舗間で万引き行為をした人の顔写真を含む情報をシェアーしているようです(推測)。

さらに、Stores Mutual Associationという組織があり、小売店チェーン向けに万引き犯(および、不正行為を行なった従業員)のデータベースサービスを提供していることもわかりました(データベースに顔写真が含まれているかどうかは不明)。上記のLP Magazineの記事では同様の仕組みにより、万引き犯の顔認識情報を小売店チェーン間で共有することも将来的にはあり得るというようなことも書いてあります(法律的にクリアーされているという意味ではありません)。

まあ(特にプライバシー問題に関しては)米国でやっているから日本でもやっていいかというとまったくそんなことはないのですが、客観的事実としてご紹介しました。

日本においても何らかのルール作りをしないとまずい段階に来ていると思います。禁止されているのかされてないのかがうやむやな状況で、違法ではないから問題ないと先走る人だけが得をするような状況は避けなければなりません。

話は変わりますが、リカオン社のサイトでは、このシステムに関する発明が特願2013-248885として特許出願されていることわかります。番号から見て昨年末の出願なので公開されるのは来年の春以降になりそうです。そして、リカオン社のサイトで「特許出願」のバナーをクリックすると、以下の情報が表示されます。

tokkyo

出願しただけで登録されてない(公開すらされていない)のに「特許権の侵害」について警告するのはちょっと微妙ですね(出願公開の前に登録されることもないことはないですが、もしそうなのであれば出願番号ではなく特許番号を表示すべきです)。よく読むと「特許権取得後において」と注記しているので大丈夫という判断なのでしょうか?

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