サルの自撮り写真の著作権とボカロネットについて

サルが自分でシャッターを押した自撮り写真の著作権について先日書きましたが、Wired.jpに続報が出ています。

米国では、どうも写真家の著作権は認められそうもないようです。もちろん、サルが著作者であるという理由ではなく、そもそもこの写真は著作物ではないという理由です。

米著作権局の実務基準書の草案では「著作権局は、自然、動物、または植物によって制作された作品を登録することはない。同様に著作権局は、神格的存在や超自然的存在によって創造されたとする作品を登録することはできない。」と書かれているそうです。

とは言え、著作権の場合は、権利の発生と登録は別の概念なので登録できないからと言って権利が発生してないと言えるのかというのはちょっと気になります。また、「動物によって制作された」がそもそも今回のケースに当てはまるのかという点も検討の余地はあるでしょう。

余談ですが「神格的存在や超自然的存在によって創造されたとする作品を登録することはできない」ということなので、某宗教団体の守護霊本はどうなってしまうのかなあとも思いました。

一方、記事では英国の法律では知的所有権を主張できる可能性があるとされています。たぶん、私が前回の記事で書いたようなロジックなんでしょう。

いずれにせよ、グレーゾーンとは言えると思います。

さらに話を広げると人間以外がクリエイトした作品の著作権、典型的にはコンピューターにより作成された音楽の著作権はどうなるのかというのは、著作権法がいままで想定してこなかった重要課題です。

たとえば、Band-in-a-Boxなどの自動作曲ソフトを使うとコードを指定しただけで適当なメロディーをアルゴリズム的に作ってくれます。この音楽は著作物なんでしょうか?もし著作物だとするならば、著作者は誰なんでしょうか?コードを指定した人なのか、ソフトを操作した人なのか、それともソフトのアルゴリズムを設計した人なんでしょうか?現時点では明確な答えはないと思います。

また、Band-in-a-Box等では、せいぜい魂の抜けたBGMのような作品しか作れませんが、テクノロジーの発展によってより魅力的な作品がコンピューターにより自動作曲されヒットチャートに乗る可能性も出てきます。有名作曲家の「ゴースト」がコンピューターだったなんて話も出てくる可能性もあります。そうすると、著作権の帰属で一悶着というケースも出てくるでしょう。

歌詞を入力するだけでボカロ曲を自動作曲してくれるYAMAHAのクラウドサービス「ボカロネット」の利用規約を見ると、歌詞の著作権は利用者に帰属(これは当然)、メロディの著作権はYAMAHAに帰属し、非商用利用であれば利用者に無償で許諾(商用利用は別途お問い合わせ)という規定になっています(利用規約23条参照)。

妥当な規定とは思いますが、もし、ここからヒット曲が出たりするととやっぱり一悶着なんてこともあるかもしれません。典型的にはボカロネットで作った曲を自分でちょっと手直しして自分の作品として発表し、ヒットさせたといったパターンです。YAMAHAが音楽の著作権は自社にある(ゆえに、その二次的著作物にも権利は及ぶ)と主張しても、そもそも機械が(人間以外が)作った音楽は著作物ではないとされてしまうと意味がないことになってしまいます。

追記: 著作隣接権(レコード会社の権利)は音を最初に固定した人に生じます。固定先はレコード・CDではなく、HDDでもかまいません。また、その音が著作物である必要はありません(参考過去記事)。ということで、仮にコンピューターが生成した音楽は著作物ではないということになっても、ボカロネットで作った楽曲の音源の著作隣接権はYAMAHAが持ち得ます。ということで、利用規約の23条は「著作権は当社(YAMAHA)に帰属します」ではなく、著作権及び著作隣接権は当社に帰属しますという書き方の方がよいと思います(余計なお世話)。

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【お知らせ】Yahoo!個人等で情報発信を強化していきます

Yahoo!個人で書くことになりました。もうサイトはできてるんですがまだ何も書いてません。Yahoo!のブランドで書くからにはあんまりしょーもない記事は書けないと考えているので、強力なネタが出た段階で第1回記事を書くことにいたします。

もちろん、本ブログも(どちらかというと小ネタを中心に)継続して書いていきます。本ブログの記事の一部はBLOGOSハフィントンポストにも転載されます(何が転載されるかは先方の判断によります)。

それから、ITmediaで「知財とITの交差点」というコラムの連載(およそ隔週ペース)を始めました(第1回)。企業IT部門やITベンダーのプロフェッショナル向けに知財の入門情報やニュース解説を書いていく予定です。

さらに、ZDNetで「テクノロジーの先行き」という連載(こちらもたぶん隔週くらいのペース)を始めました(第1回)。こちらは、IoT等の先進テクノロジーの動向を中心に書いていく予定です。

それから9月にIoTのイベントで基調講演するのですが、まだサイトがオープンになっていないようなので詳しくはまた後日。

最近はステルスモードの仕事が多くなりすぎた感もありましたので、まあこういう感じで、ちょっと情報発信を強化していきたいと思っています。

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「進研太郎」とコピーライトトラップについて

過去のエントリー「不正競争防止法の観点からジャストシステムの責任を考える」で、名簿業者は、不正取得行為が介在したことについて善意(事情を知らない)かつ無重過失であれば不正競争防止法の責任を負わないと書きました。

これに関連して毎日新聞に「ベネッセ流出:名簿業者も不正認識か ダミー部削除し転売」なんて記事が乗っています。ジャストシステムに名簿が渡った段階で、ベネッセがデータに入れていた「進研太郎」などのダミーデータが削除されていたことから、(少なくとも一部の名簿業者は)不正取得行為を知っていた(ゆえに、不正競争防止法上の責を負う)のではないかというお話です。

こういうダミーデータはコピーライト・トラップとも呼ばれ(生データには著作権は及びませんので厳密に言えばコピーライト・トラップではなく、コピー検知トラップとでも言うべきですが)、地図の不法コピーを防ぐために昔から使われてきました(実際には存在しない道をわざと描いておく)。他にも、プログラム・コードに絶対実行されない不要な部分をわざと入れておいたりとか、ICのレイアウトで意味のない回路を入れておいたり等々はよくあり、コピーがあったこと(独立した作ったのではないこと)を立証に有効でした。どこかのカナ漢変換ソフトで、特定の文字列を変換すると「ピカチュウ」と変換されるというトラップもあったと記憶しています。

今回は、コピーライト・トラップが見つかったことでコピー行為が立証されたというわけではなく、コピーライト・トラップが見つからなかったことで事情を知ってコピーしたことが疑われるというパターンであるのは興味深いです。

とは言え、「進研太郎」が削除されていたからと言って、これだけでは故意の立証にはなり得ないと思います。データクレンジングの段階で日本の姓名としてあり得ない情報を自動的に削除している可能性もあるからです。アンケート等で姓名を入力させると偽名(たとえば、「大日本太郎」とか)や現実にない住所を入力されるケースもあるので、辞書と突合して削除するのはよくある話(というかデータ品質向上のためにはやっておくべきこと)であるからです。

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【小ネタ】サルは著作権者になり得るのか?

livedoorNewsに「サルの自分撮り写真をめぐる著作権争い、ネットで物議を醸す」なんて記事が載ってます。サルがカメラマンのカメラをひったくって「自撮り」した写真(なかなか絶妙な「自撮り」なので是非リンク先ご覧下さい)がWikipediaで公開されていることに対して、このカメラマンがWikilpedia運営のWikimedia Foundationによる著作権侵害を主張しているというお話です。

一部メディアの記事では「写真の著作権はサルにある」とWikimedia側が主張しているかのようなタイトルになっていますが、冒頭記事をよく読むと、Wikimedia側は公式には写真が著作者がいないのでパブリックドメインであると主張しているようです。まあ、仮にWikimedia側が、サルが著作権者であると言ったのだととしても、本気でそう主張したいのではなく、このカメラマンは著作権者にはなり得ない、敢えて著作者を捜すとすればサルだろう、というレトリックとして言ったのだと思います。

そもそも、サルは、というか一般的に動物は、著作権者になり得るのでしょうか?(少なくとも日本の民法では)人間以外の動物に権利能力はありませんので、著作権の主体となることはありません。もちろん世界的に「アニマルライツ」的な動きはありますが、それは生存権的な話であって、動物が財産権の主体になるという話ではありません(参考Wikipediaエントリー「動物の権利」)。

仮にこの写真の著作権者がサルなのだとすると、Wikimediaはカメラマンではなくサルの許諾を得なければならないことになってしまうので、サルが著作権者になり得ないのは明らかです。

たまに、自然破壊に反対するために森の動物が原告になって訴訟なんて話がニュースになることはありますが、これは却下されることを前提として、メディアに事件を取り上げてもらうための広報戦略であると思われます(昔、これについて書いたブログ記事)。

ということで、本件についてまじめに検討すると、この写真は著作物ではないか、あるいは、カメラマンが著作者である写真の著作物であるかの二択ということになります。

偶然の産物で人間のクリエイティビティは介在していないので著作物ではないという主張も考えられなくはないですが、写真という著作物の特性を考えると、シャッターチャンスと構図の決定は重要であるものの、レンズの選定、絞りやシャッタースピードの設定、撮影場所の決定等もカメラマンの「思想や感情を創作的に表現したもの」になると思われますので、最後に誰がシャッターを押したかには関係なく、カメラマンが著作者であると考えても全然おかしくないと思います。このケースについて言えば、私見では後者の立場です。

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ジャポニカ学習帳の立体商標を登録する意味とは?

日本の小学校に行った人ならたぶんほとんどの人が知っている「ジャポニカ学習帳」の商品外観が立体商標として登録されたという記事がねとらばに載ってます(ショウワノート株式会社によるプレスリリース)。

登録番号は5639776です。登録日は昨年の12月27日なので、なぜ今になって発表したのか定かではありませんが、ホンダのスーパーカブの立体商標登録等(関連過去記事)により、商品形状をそのまま商標登録したケースに注目が集まっているタイミングでということかもしれません)。

分厚いノートで背表紙のデザインに特徴があるならまだしも、小学生用ノートのようなほぼ平面の商品で立体商標を取る意味があるのかのとも思いましたが、商標登録公報の図面を見る限り、表面と裏面のデザインを合わせて登録したことに意味があるのかもしれません(模倣品を防ぐだけなら表表紙だけ登録すればすむような気もしますが)。

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この登録により、競合他社は「ジャポニカ学習帳」に似た名前を使っていなくても、また、似た表紙写真を使っていなくても、上記の写真に類似した外観のノートは販売できなくなります。自分は子供がいないのでよくわかりませんが、他社類似品が問題になっていたのかもしれません。

なお、IPDLで審査経過を見ると2010年に出願されて拒絶理由通知が出てから、かなりのやり取りがあった上でようやく登録されていることがわかります(具体的なやり取りの中味は閲覧請求(600円)をしないとわかりません)。

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