2014年を振り返りつつ2015年の抱負など

旧年中は多くの方にお世話になりました。いろいろやり過ぎて収集が付かなかった年であった気がします。2015年の課題は”フォーカス”ということになろうかと思います。

2015年の仕事のフォーカスは以下に置いておこうと思います。

まず、弁理士の基本的業務である特許関連です。2014年は出願代理を結構な数やりました。個人事業主、スタートアップ企業、中堅企業のお客様のソフトウェア関連特許が中心です。自分の今後の軸足はここにおいて行こうと考えています。ソフトウェア領域のドメイン知識、海外出願まで含めたカバレッジ、そして、合理的な料金体系を差別化要素としてやっていこうと思います。

商標関連の仕事は国内のシンプルな案件と海外も含めた複雑な案件を両方やりました。海外商標は国ごとの独自性があるのでなかなか大変でした。シンプルな案件はできるだけお安く、海外を含む複雑な案件は合理的な料金というデュアルの料金体系でやっていきたいと思います。

特許でも商標でも、お手頃な料金で、信頼がおけて、仕事が早い(これ大事)海外代理人を主要国で確保できましたので、今後の海外展開は期待が持てそうです。特に、AppStore経由で販売するソフトウェアに関する特許等の場合では米国で権利取得しておくことが重要なので、比較的安価に対応できる事務所は貴重ではないかと思います。

特許調査や侵害訴訟のお手伝いは、仕事の性質上ブログには絶対書けませんがいろいろやってきました。特に一昔前の技術常識を調べるというようなパターンのリサーチは得意としております。

IT業界アナリストとしては、IoTやウェアラブル等のエマージングな領域に軸足を置いていこうと思っています。これらの分野は特許系の仕事との親和性も高いので、効率的なリサーチができます。

その一方でサーバやDBMSなどのいわゆるエンタープライズ系はちょっと軽めにしていこうと思います(というか、これらの領域までカバーしている時間がありません)。唯一の例外はストレージ系で特にフラッシュを中心としてテクノロジーの急変が進んでいますし、案件もそれなりにあったりするので、2015年も継続的にリサーチしていこうと思います。

ということで、

  1. スタートアップ向けソフトウェア関連特許出願(海外含む)
  2. 商標登録出願(シンプルな案件も複雑な案件も)
  3. 特許調査/訴訟支援(ソフトウェア関連特許)
  4. IoT/ウェアラブル
  5. ストレージ

を2015年のフォーカス領域として鋭意努力していきたいと思いますので、何卒よろしくお願いいたします。

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テックバイザーでやっているファイリング方法

士業はなんでもそうですが、書類のファイリングをちゃんとやることは特許事務所の重要業務です。万一、書類を紛失したりしようものならどえらい損害が発生し得ます。今回は、テックバイザーでやっているファイリング方法をご紹介します。

最大のポイントは、あらゆる紙の書類はすぐにScanSnapでスキャンして日付を付けてファイルサーバ(RAIDおよびクラウドでバックアップ)に保存するということです。ファイル名には必ずYYMMDD形式の日付を先頭に付けます。こうしておくとサーバ上でファイルがどこにあるかわからなくなった時でも日付をキーに探せますし、「2013年10月頃のはずなんだが..」なんて時でも”1310″をキーにすれば探せます。契約書や登録証のように万一オリジナルを破損すると大変なことになる書類は、ScanSnapではなく別のフラットベッドのスキャナーでスキャンします。

元の紙書類は、単なる通知に過ぎないもの(識別番号通知等)はシュレッダーにかけて捨てますが、他の書類は念のために紙で残します。契約書等捺印があるものは当然オリジナルも絶対残します。紙の書類は俗に包袋とも呼ばれる大型に封筒に案件ごとに分類して入れます。よほどのことがない限り、紙の書類にアクセスすることはないので、順番も考えず突っ込んでいます(紛失しなければよいので)。紙の封筒だと耐久性に難ありなので、こういう塩ビのマチ付の封筒を使っています。

ここで、重要なポイントは机上にこういうファイルスタンドを用意しておいて、スキャンしたけどまだ分類整理していない書類用のバッファーを用意しておくことです。最終的に封筒に分類するのがめんどくさいことを理由にしてスキャンせずに机上に書類が溜まっていく(書類を横に積んでおくのは机上が散らかる最大の要因です)という事態を避けるために、「とりあえずスキャン→ファイルスタンドに突っ込む」というシンプルなパスを用意しておいて、ファイルスタンドが一杯になった段階で最終的な整理先である封筒に分類するというやり方にしています。

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【小ネタ】お菓子の意匠登録について

セブンイレブンのドーナツに関する記事で意匠権による食品の外観(工業デザイン)の保護について触れました。ドーナツ以外に意匠権で保護されている菓子類には何があるのでしょうか?

意匠権は物品と一体の権利なので、意匠登録出願を行なう場合には物品を指定して行なう必要があります。この「物品」は標準が決まっています。IPDL(特許電子図書館)から意匠検索→分類リスト−(現行)日本意匠分類・Dタームを選ぶと物品の分類体系がわかります。「菓子等」にはA1150というコード(Dターム)が割り当てられていることがわかります。次に、意匠検索→日本意匠分類・Dターム検索で一番下の大きな検索ボックスにこのA1150を入力して検索すると「菓子類」を物品とする意匠登録がリストされます(固定リンクがないIPDLは本当に不便です)。現時点での登録数254件でそんなに多くないことがわかります。なお、意匠は特許や商標と違って審査中の出願が公開されるということはなく、登録されたものしか公開されません。

比較的マイナーな商品が多いようですが、有名なものとしては、ハーゲンダッツジャパンによる意匠登録1433508号があります(下図は公報の一部です)。クレープグラッセですね。デザインが結構細かく指定されています。

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おやつカンパニーによる麺状菓子(1414605号)です。「おとなのラーメン」という商品でしょうか?こちらも公報ではデザインが細かく指定されています。スナック菓子はPB等でそっくり商品出されるリスクがあるので、意匠権で保護するのは有効かもしれません。

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少しネタぽいのもあります。

個人によるマシュマロ菓子(1432362号)です(近所で売ってたので買ったことあります、味は普通のマシュマロでした)。

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これも個人による”ケーキ”(1440420号)です。よく見ると下の部分がスポンジケーキになってます。上部はゼリーなんでしょうか?

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意匠は外観を見ればすぐ模倣できてしまうので、この手のネタぽいものでも(ものこそ)意匠登録は重要です。

ITの領域でも、デザインが売りのガジェット製品をクラウドファンディングでなんてパターンでは、事前に意匠登録出願をしておいた方が良いケースが多いと思います。

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沢田知可子「会いたい」の著作権問題について

沢田知可子さんのヒット曲「会いたい」の作詞家、沢ちひろさんが沢田さん側のレコード会社と事務所を著作者人格権侵害で訴えたというニュースがありました。著作者人格権の中の同一性保持権(著作権法20条)でしょう。同一性保持権は「意に反して著作物の改変をされない権利」です。クリエイターとしてこだわりにこだわった部分を他人に勝手に変えられるのは人格権の侵害であるという考え方です。

話の経緯はちょっと複雑なのですが、沢さんの思い出に基づいて作った詞を沢田さんが自分の体験談のように説明した、テレビ番組で「安定したい」というタイトルの替え歌を歌った、そして、英語詞を付加してタイトルを変更したバージョンを含むアルバムを販売したという三点が関連しているようです。このうち、訴訟の対象になったのは最後の点だけのようです(前二者は訴訟に踏み切る気持ちにさせたという点では関係あるでしょうが)。テレビのニュースショーでは「替え歌」(このケースでは「安定したい」のこと)が法律的にどうなのかという話をずっとしていましたが、これは今回の訴訟の件とは直接関係ないことになります(一般論として「替え歌」が著作権上どう扱われるかは重要テーマではありますが)。

そうなると問題は英語詞の付加とタイトルの変更ということになりますが、同一性保持権は著作者の「意に反して」いれば主張できてしまいますので、本当に改変によって名誉を傷つけられたのかということはあまり関係ありません。ゆえに、訴えたことの法律上のつじつまはあっています。

ただし、一般論として、気にくわない相手を困らせるため、あるいは、財産権上の権利を主張するための方便として同一性保持権が使われる傾向がある(たとえば、ひこにゃん事件)のは確かです(この件がそうなのかどうかは当該のアルバム収録曲を聞かないと何とも言えない部分がありますが)。

ところで、同一性保持権で思い出すのは、故川内康範氏と森進一氏の間における「おふくろさん事件」ですね。この事件がメディアで取り上げられる時は、作詞家である河内氏の許可なく”せりふ”を足したとされることが多いのですが、実際には”せりふ”ではありません。”ヴァース”の追加です。

(ジャズの世界で言う)ヴァースとは、本編のメロディの前に付く唄付のイントロみたいなもの(通常フリーテンポで演奏)です(前サビとは違い一度しか出てきません)。ジャズボーカルやミュージカルをある程度知っている人であればわかるのですが、一般に”ヴァース”と言ってもわかりにくいので”せりふ”と言い換えたのかもしれませんが、不正確ですね。

誰でも知っているヴァースというと、たとえば、「枯葉」の「あれは遠い思い出〜」の部分とかでしょうか?歌謡曲の世界で無理に探すとちょっと古いですがピンクレディのウォンテッドの「私の胸の鍵を〜」はヴァースと言えなくもないかもしれません。

個人的見解ですが、「おふくろさん」におけるこのヴァースの無断追加は元詞の世界観とちょっと食い違うものであったため、河内氏が作詞家として同一性保持権を主張するのは納得できる案件だったと思っています。(後半脱線しました)

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ミスタードーナツはセブンをパクリで訴えることができるのか?

セブンイレブンがドーナツの販売を始め、ミスタードーナツとのガチンコ勝負になりそうなのは周知かと思います(参照記事)。ドーナツの外観を見ると、セブンのドーナツはミスタードーナツにそっくりです(たとえばこちらの記事やこちらの記事(痛いニュース)参照)。ミスタードーナツとしてはあまりおもしろくないかもしれないですね。

ドーナツに限らず料理や食品の外観を知的財産権で守ることはできないのでしょうか?(念のため書いておきますが、本記事は、ミスタードーナツは訴えるべきとか、セブンはけしからんとか言いたいのでなく、単に法律的にどのような手段があるか考えてみているだけです)。

まず、特許権について考えてみましょう。食品の製法特許は数多くありますが、食品の外観を特許で保護するのは困難です。特許はあくまでも技術的アイデアを保護するものであるからです。

著作権はどうでしょうか?作品として観賞の対象となるほどの芸術的な料理をするのでもない限り、料理が著作物となることはないでしょう。少なくとも、ドーナツのように大量生産される食品が著作物とされる余地はまずありません(たとえば、ペコちゃん焼のように食品に絵が描いてあれば話は別ですが)。

では、料理や食品の外観はまったく保護され得ないのかというと、意匠権という道があります。意匠権は、大量生産される物品の意匠(工業デザイン)を保護する権利です。ドーナツは工業デザインというイメージではないですが意匠権で保護され得ます。実際、物品を「ドーナツ」とした意匠登録が何件か(正確には4件)存在します。下図は山崎製パンの意匠登録1461622号公報の一部です。

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ただし、意匠権は公知になっていれば登録されません(特許と同じです)。なので、今既に売っている商品をミスタードーナツが意匠登録したとしても登録されることはありません。次回新たな独自形状の新商品を作る時に(正確には公表から6カ月以内に)意匠登録出願しておくならば登録される可能性はあります。

さらに、商標権でも立体商標制度を使えば食品の形状・外観を保護できる余地はあります。ただし、商品の形状そのものを登録商標にするのは、消費者に対する商品識別力が相当強くないと不可能です(ひよこまんじゅうの立体商標登録が識別力なしということで無効になったのは有名です)。公知であっても商標登録はできますので、ミスタードーナツが、自社のドーナツの形状を見ればほとんどの消費者がミスタードーナツを思い浮かべることを立証できれば登録の可能性は原理的にはありますが、なかなか難しいかと思います。

また、不正競争防止法における商品等表示による保護も考えられますが、これも同様に著名性を確保(あるいは周知性と混同を立証)していないといけないので実際の権利行使は難しいでしょう。

まあ、一消費者としては味で勝負していただいて、おいしいドーナツがいろいろなところで食べられるようになるのが一番うれしいんですけどね。

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