選挙カーで「あまちゃん」の音楽を流すのは著作権法的にどうなのか

都議選の一部候補者が選挙カーでNHKドラマ「あまちゃん」のテーマ曲を流したことに対して著作権侵害ではないかとの指摘があり、候補者が使用を取りやめたという事件がありました(参照記事1(朝日新聞)、参照記事2(共同通信))。

ここでは、倫理的問題は別にして、著作権法的にどうなのか検討してみます。

著作権法には非営利・無料・無報酬の上演・演奏・上映・口述は著作権の許可がなくても自由にできる旨の規定があります。これがあるのでたとえば学園祭等での演奏は(入場料を取らない限り)JASRACの許諾を得ることなく自由に行なうことができます。

第38条1項 公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

選挙カーで他人の音楽の著作物を流すことが、このケースに当たるかどうかがポイントです。

一般にCD音源を流すのは著作権法上は演奏にあたります(2条7項)。無料・無報酬という条件は当然に成り立ちますので、結局、この問題は選挙活動が営利目的にあたるかどうかという点に帰着します。なお、直接的な商売でなくとも、たとえば、商店街が宣伝のために行なう上演・演奏等であれば営利目的にあたるとされています。

上記の朝日新聞の記事では「日本音楽著作権協会(JASRAC)によると、作曲者の許可を得ずに使えば、著作権法に違反するという」とされています。と言いつつ、少し前のYahoo!知恵袋エントリーによると、JASRACに質問したところ選挙活動は非営利なので問題ないとの回答が得られているそうです(ひょっとすると朝日新聞の記事で引用されているJASRACの見解は一般論であって選挙カーでの音楽の使用という話ではないのかもしれません)。また、共同通信の記事では「著作権法に抵触する恐れがある」と断定を避けた言い方になっています。

選挙活動は営利目的かそうでないかの解釈は確定していないように思われます(月曜に事務所に行ったらもうちょっと調べてみます)。

ただ、選挙活動は非営利であるという解釈をしてしまうと、38条1項は上演だけではなくて上映にも適用されるので、たとえば、選挙演説会の客寄せに映画やアイドルのDVDをスクリーン上映するのもOKになってしまい、個人的にはこの解釈はまずいのではないかと思います。(なお、38条1項は複製や公衆送信には及びませんので、録画したTV番組を上映したり、ネット配信で他人の音楽を使用したりのケースには適用されませんので念のため(ネット配信は今のところ公職選挙法の方が問題になりそうですが))。

追記: twitter等で「著作者人格権の検討が必要ではないか?」との指摘を受けたので検討します。著作者人格権で関係があるとすると、113条6項のみなし侵害規定と思われます。

113条6項 著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす。

ここで「名誉声望を害する」というのは客観的にそうであることが必要とされており、著作権者自身が「名誉を害されたと感じる」程度では足りません(これに対して、同一性保持権については「著作者の意に反して」という要件だけで足ります)。著作者(大友良英氏)が普段から思想的に対立している候補者に作品を使用された等々の事情でもあればともかく、単に選挙カーで使用されただけでは113条6項は適用されないと思います。(そもそも、最初に著作者人格権について検討しなかったのは、このケースでは著作者人格権は問題にならないと思ったからであります)。

なお、念のため書いておくと、著作者(大友良英氏)が「利用をやめてくれないか」と候補者側に「お願い」して、候補者側がそれを尊重して自主的に利用をやめるのは全然問題ありません(法律が関係する以前の段階の人と人との間の礼儀の話です)。

しかし、twitter等では著作者人格権の侵害になるという意見が散見されるようですす。その多くはねとらば(ITmedia)の記事の以下の記載(太字は栗原による)に基づいているようでした。

日本著作権協会(JASRAC)に聞いたところ、まずクリアしなければいけないのは「著作者人格権」。「著作者の名誉・声望を害するような著作物の利用」は著作者人格権を侵害する行為とみなされるため、事前の許諾が必要。大友さんが「政治的なものに使わないで!」と申し出れば、選挙カーでの利用はNGとなるようです。

著作者人格権はJASRACの業務外の話なので、思いっきり安全側に振った見解(あるいはITmedia記者の聞き違い?)とは思いますが、もし本当にそうだとすると、たとえば、作曲家が「私のハイレベルな音楽を安居酒屋や風俗店で流されて著作者人格権を侵害された」と有線放送事業者を訴えたりできてしまいますので、JASRACの実務上大問題だと思うのですが大丈夫なのでしょうか。

と言いつつ、同記事を見て重要なポイントを書き忘れていたのに気づきました。「あまちゃん」テーマ曲のCDを流しているという前提で書いてましたが、テープやICレコーダー等にいったん録音したものを流している可能性があります(へたするとテレビからの録音の可能性もあります)。この場合には、前述のとおり、38条1項の規定は複製行為には及びませんし、30条の私的使用目的複製の要件も満たしませんので、複製権の侵害ということになってしまいます。

追記^2:はてブの情報によると(少なくとも一部の候補者は)iTunesでダウンロードした音源を使用したらしいです。その場合には、少なくともiTunesのサービス規約の「(i)お客様には、個人的、非商用目的に限って本iTunes商品を利用される権限が与えられるものとします」への違反になるでしょう。そして、契約上認められた利用ではないのですから上記の複製権侵害の問題についても同様だと思います。

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1 Response to 選挙カーで「あまちゃん」の音楽を流すのは著作権法的にどうなのか

  1. 名無し のコメント:

    著作隣接権の観点からも複製しているかどうかで変わりますね。

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