「コンシューマリゼーション」とエンタープライズ・アプリケーションのゲーム的要素

新野淳一さんのサイトPublicKeyの新年記事でさまざまな識者による今年のIT関連予測記事がまとめられています。私も一通り読んでみましたが、「クラウド」、「モバイル」、「ソーシャル」が大きな流れというのは疑う余地がないところでしょう。論点はそれぞれがどの程度のスピードで普及していくかという点だけだと思われます(個人的には「クラウド」については、世の中一般で考えられているよりも普及のスピードは遅いのではないか(少なくとも日本においては)と思っています)。

もう一歩深く考えてみると、この3つの流れのさらに根底にある流れとして「コンシューマリゼーション」があると思います。この文脈でいう「コンシューマリゼーション」とは、消費者向け市場でイノベーションが起き、それが時と共に企業(エンタープライズ)分野に普及してくるということです。

過去においては、テクノロジーのイノベーションはまず企業向け(あるいは軍事向け)で起き、その安価バージョンが消費者市場に落ちてくるパターンが通常でした(たとえば、GPS、無線通信、FAX等々)。しかし、今日においては、その方向が逆転するケースが多くなっています。たとえば、スマートフォンやソーシャル・コンピューティングはその典型です。それ以外にもたとえば、スパコンを構築するのにも一から専用プロセッサを設計開発するよりも、消費者市場で既に普及したインテル・プロセッサやゲーム用のグラフィック・プロセッサを活用した方が圧倒的に有利になっていますね。

「コンシューマリゼーション」については、今後、このブログでもいろいろと書いていこうと思いますが、ここでご紹介したい関連コンテンツとして、米国のエンタープライズ・アプリケーション系アナリストのRay “R” Wang氏による“Research Report: How The Five Pillars Of Consumer Tech Influence Enterprise Innovation”というブログ・エントリーです。Wang氏はForrester Researchのスターアナリストであった人で、その後、Altimeter Group(“Groundwell”の共著者Charlene Li女史が創設した会社)のパートナーとなり、今では自分のリサーチ会社Constellation Researchを立ち上げています。エンタープライズ・アプリケーション、特に企業内ソーシャルの分野においてフォローすべき識者の一人であると思っています。

このブログ・エントリーにおいて、Wang氏は、今後のエンタープライズITに影響を与えるコンシューマー系テクノロジーの5つの柱として、「クラウド」、「ソーシャル」、「モバイル」、「分析とゲーム的要素」、「動画とUC(ユニバーサル・コミュニケーション)」を挙げています。まあほとんど自明なんですが、4つ目の要素だけがちょっとひっかかります。原文では”Game Theory”と書いてありますが、これはいわゆる「ゲーム理論」を指すのではありません。エンターテインメントとしてのゲームをおもしろくするための設計規範のことを指しています。ということで、あえて「ゲーム的要素」と訳してみました。


Source: Ray “R” Wang, Constellation Research

成功したソーシャル・メディアには例外なく、ゲーム的要素があります。たとえば、twitterにおいてフォロー数を競うことなどです。twitterは何を書いてもいいからと言って、しょーもないことばかり書いているといつまで経ってもフォロアー数が増えません。フォロアー数を増やすためには他人にととって価値があることを書く必要があります。フォロアー数を競うというゲーム的インセンティブがあることで、twitterのつぶやきの全体的質が上がっていき、結果的に参加者も増えていきます。少なくともエンタープライズ・ソーシャル・コンピューティングを普及させる上でこのようなゲーム的要素はきわめて重要かと思います。

『デジタルネイティブが世界を変える』でも示されているように、デジタルネイティブにとっては仕事と娯楽は同一化しつつあります。デジタルネイティブ世代に受け入れられるエンタープライズITを構築するためには、もっとゲームの世界を研究することが有効であるかもしれません。

エンタープライズ・アプリケーションのゲーム化というテーマについては後日また深掘りしていこうと思います。

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