アップルのバウンスバック特許の無効審判を傍聴してきました

今日は勉強のために特許庁で行なわれていたアップルのバウンスバック特許(第4743919号)の無効審判を傍聴してきました。無効審判とは裁判のようなものですが、裁判所ではなく特許庁の中で行なわれる手続きです。当然ながら、審判請求人はサムスンです。同特許に基づいたアップルによるサムスンに対する侵害訴訟への対抗措置です。つまり、サムスンとアップル(の代理人)が、日本におけるバウンスバック特許の有効性を争う場です。

無効審判の口頭審理は原則公開なので誰でも傍聴できます(特許庁に入館するときに身分証明書が必要なので忘れないよう。また、スーツでないとかなり浮きます)。期日は特許庁のページに載ってます。

審判中は撮影・録音は禁止です。絵心があれば法廷画みたいなものを書きたいのですが、残念ながらそういうスキルはないので、言葉で書くと、テレビのニュースにたまに静止画で映る法廷みたいな感じですが、大理石作りでかなりモダンです。また、大型液晶テレビが2台、さらに各当事者の席の前にディスプレイがあるのが特徴的です。

真ん中に審判官合議体3名と書記官2名、左に請求人(サムスン側)代理人が8名くらい、右に被請求人(アップル側)代理人が8名(1名はアップル本社の役員?)くらいという感じです。真ん中には証人席があります。証人席にはオーバーヘッドカメラがあって、証拠を大型テレビに映写できるようになっています。

前日に特許庁に期日を再確認したときに「今回は結構問い合わせが多いのでぎりぎりに来ると満席で入れない可能性も」と言われていたので約1時間前に行ったらもう並んでました。ただ、臨時席を増やしたようで、最終的には満席になったものの、10分前に来てれば入れたと思います。

口頭審理でも「提出した書類のとおりです」で終わってしまって傍聴人には何が何だかわからないケースもあるようですが、今回は、互いに技術説明(審判長は「パワーポイントによるプレゼン」と言ってました)が行なわれてけっこう興味深かったです。

進行中の審判の資料はネットでは見られない(特許庁で閲覧するしかない)ので、傍聴人としては100%理解できるわけではないのですが、サムスンがアップルの陳述書の矛盾点を突いたり、先行技術を証拠に新規性・進歩性の欠如を主張し、それにアップルが答えるという形です。基本的にアップルはバウンスバックによるユーザー・エクスペリエンス上のメリット(システムが無反応なのとリストの終わりでの違いをユーザーに明確に意識させる点(Overscroll)、ユーザーが今自分がどこにいるかわからない状態(Desert Fog)を避けられる点を顕著な効果として挙げ、従来の技術とは違う点を主張していました。

そして、アップルはHP iPAQ(なつかしいPocket PC機)で実機デモをして、先行技術として挙げられているLaunchTileというアプリケーションとiPhoneの動作の違いを示したりしました。それを見る限りでは、LaunchTileがバウンスバック特許の新規性・進歩性を否定するとは言えないのではないかという印象を私は持ちました。

また、アップル側には(たぶん弁理士・弁護士ではない)アップル本社の(?)米国人が参加していて「バウンスバック特許のプロトタイプを見たスティーブはとても喜んでその後すべての製品に導入することを決めた」みたいな昔語りをしたりしてました。米国の陪審員裁判だとこういうセンチメントに訴える戦略はありだと思うのですが、無効審判だとどうなんでしょうか?よくわかりません。

また、米国の再審査(日本での無効審判)において米国バウンスバック特許の実質無効の根拠になった通称Lira文献(参考エントリー)も証拠として挙げられていました。これも、両者のプレゼンを見る限りでは、新規性を否定する材料になるほど同じなのか? という印象でした。

あくまでも傍聴人として見た個人での印象でしかないのですが、バウンスバック特許は米国で実質無効になる可能性が高いからと言って、日本でも無効になるとは限らないような気がします。先行技術は、構成要件としては似ていますが、バウンスバック特許が解決する課題(先述のOverscrollとDesert Fog回避)に対応しているようには思えないからです。

カテゴリー: ガジェット, 特許 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です