SONYの元社員の人が裸眼立体視に関する特許権侵害で米国任天堂を訴えたというニュースがありました(参照記事)。
この人が2003年に自身が発明した技術を任天堂に対してデモしたところ、その後ライセンス契約もなしに3DSが開発・製造・販売されてしまったということです。任天堂側は3D技術はこの人以外からも見せてもらっているし、そもそも特許技術と3DSの技術は違うものであると主張しているそうです(まあ、普通はそう反論するでしょう)。
この件、どちらに分があるのかは報道情報だけではわかりませんが、この手の話は一般的に問題になりがちです。拙訳『オープンイノベーション』では、Go Computing社の役員がMicrosoftにPenPoint OSの技術を説明しに行ってライセンス交渉をしたところ、交渉は不成立、しかし、翌年にはMicrosoftがPenPoint OSとそっくりのWindows for Penpoint OSを発売(そのプロダクトマネージャーはPenPoint OSを説明しに行った時に話を聞いてくれた人)なんて逸話が紹介されてました。
ついでに思い出しましたが、スエーデンの電子楽器メーカーCLAVIAのサイトにはFAQとして、A「すばらしいシンセサイザーのアイデアを思いついたのですが説明に伺っていいですか?」、Q「我々も同じアイデアを既に考えついていた場合にはやっかいなことになりますので、そのような申し出はお断りしています」なんてことが書いてあります。
要するに、企業に対して個人やベンチャー企業がアイデアを持って行くパターンは、パクった、いや元々考えてたの水掛け論トラブルになりがちということです。
ここから先は、任天堂の話を離れて一般論として話します(任天堂の内部事情やその技術と元SONY社員の特許の関係は現時点ではわかりませんので。)なお、話の単純化のために他人のアイデアを盗用して特許出願するようなケースは考えません(これは重要問題ですが別の話です)
1) 企業に説明に行く個人(ベンチャー)にとっての注意点
最善の戦略は説明に行く前に特許出願しておくということです(登録まで行っていれば理想ですが、出願が完了していくことが重要です。)こうすれば、その出願日に自分がそのアイデアを思いついていたことの証明になります。仮にその企業が「いや実は同じアイデアを先に思いついていたんだよ」と言ったところで、企業が先に出願、あるいは、公表していない限り、あなたのアイデアの特許化を防ぐことはできません(なお、当然ですが、別の理由で特許化されないことはあります)。また、その会社が先にアイデアを思いついていた(だけど特許出願はしてなかった)という場合には、先使用権(後述)を主張されることになりますが、それでもあなたの特許権は有効ですし、他の企業に対しては権利行使可能です。
特許出願なしで技術的アイデアを企業に説明しに行くのは丸腰で敵陣に乗り込むようなものです。契約を結んだところで、実は社内で同じアイデアを前から考えてましたのでパクリではありませんと言われてしまうとそれに反証するのはきわめて困難です。
2)説明を受ける企業側にとっての注意点
これも個人の場合と同様、アイデアを思いついたら特許出願しておけば、そのアイデアを出願時点で思いついていたことの証明になります。ただし、特許出願すると1.5年後にその内容は公開されてしまうので、特に、ノウハウ的に社内秘にしておきたいアイデアの場合(たとえば、クラウド内で実行されて外には見えないアルゴリズムの発明、工場内での生産方法の発明等)は出願したくないケースもあります。また、当然ながら出願にはそれなりのコストがかかります。
このような場合、つまり、1)アイデアは公表したくない、2)特許取得までは考えていないが他人の特許権を行使されるのは避けたいという場合には、日本の特許法で規定された先使用権が利用できます。
第七十九条 特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。
つまり、他人の出願より前にその発明を(盗用ではなしに独自に思いついて)実施(ないしその準備)をしている者は特許権を行使されない(自動的ライセンスを得られる)ということです。問題は他人の出願より前にその発明を実施(準備)していたことをどう証明するかです。ラボノート(研究進捗状況を日々記載し、管理者のサインをもらったノート(ルーズリーフは不可))を付けておいたり、公証人に頼んだりする方法もありますが、もっとお手軽なのは、電子署名を使ったタイムスタンプです。
そのようなタイムスタンプをSaaS方式で提供するサービスにジーニアスノートがあります(なお、情報開示すると私はこの会社とちょっとビジネス的なお付き合いがあります)。
このサービスのポイントはファイルの認証サービスと保管サービスが独立している点にあります。認証だけしてファイルの保管は自分でやる、あるいは、他のクラウドサービスに置く、あるいは、万一のために複数のサービスに置くなんてことが自由にできます(特許取得済)。
たとえば、ソフトウェアのソースコードをタイムスタンプ付きで保管しておけば、その日以降に出願されて成立した特許に対して先使用権を主張できます。
また、個人にとってもタイムスタンプを使える局面はあります。たとえば、デザイナーの人が作品を企業に持ち込みする前にファイルにタイムスタンプを付与して保管しておけば、パクリ疑惑があった時に有利に話を進められます。要は日付を証明したい、だけど、公証人に頼むほどではないというケースで便利に使えます。
ただ、ジーニアスノートは月額料金制のSaaSサービスなのでそれほど頻繁にタイムスタンプを打たない個人・小規模企業の人には使いにくいかもしれません。そんな方のために弊社が仲介者になってワンタイム制の料金でタイムスタンプを打つサービスなども考えてます(書いてしまうと1回5,000円くらいの料金体系を考えてます)ので、ご興味ある方はお問い合わせください(最後はCMになっちゃってすみません)。