昨日のCHIKIRIN商標登録に関するエントリーの芸名の商標登録に関する議論対して「『加勢大周』は商標登録されたんじゃないのか」とのツイートがありました。そう言われればそういうこともあったなということで、ちょっと調べてみました。
ひょっとして加勢大周を知らない人がいるのではないかとも思うので簡単に説明しておくと、一昔前のイケメン俳優です。事務所を独立して、家族と新事務所を立ち上げて、元の事務所ともめて(ありがち)、旧事務所の社長が加勢大周を商標登録出願すると共に訴訟によって加勢大周の芸名で活動することを差し止めたという話であります。
さすがにかなり昔の話なので、もう特許電子図書館で検索しても「加勢大周」の商標登録の履歴は見られません。しかし、ネットにある地裁判決の判例評釈を見てみると、裁判で問題になったのは、加勢大周と旧事務所の間の契約の有効性と氏名権という(法文上は規定がないが)判例上確定した権利であって、商標権は直接的には関係なかったようです。そもそも、裁判の時点では「加勢大周」の商標は出願されただけで登録されてなかったようです。
ということで、この事件は芸名を商標登録してその商標権を有効に行使して芸名の使用を禁止できたという事例ではありません(なお、商標が無事登録されるという話と権利行使できるという話はまた別なので念のため)。
ところで、この商標的使用(商品・サービスの識別手段として使われていること)という概念はなかなかややこしいです。結構グレーゾーンもあります(商標的使用か否かが争われた裁判もあります)が、それ以前に概念そのものの理解が難しく、大学で商標を教える時にも学生になかなかわかってもらいにくいポイントではあります。
商標的使用であるかどうかの簡単な判定方法ですが、「XX印の(あるいはXXブランドの)YY」と言っておかしくない場合には、XXは商品(あるいはサービス)YYに対して商標として使用されているとおおよそ判定できます。
たとえば、AKB48が歌っているCDはAKB48印のCDではないですね(強いて言うと(レーベルである)You, Be Cool印のCD、あるいは、キングレコード印のCDです)。なので、ここでのAKB48は商標的使用ではないと判定できます(追加:日本の現在の運用はそうですが、米国等では商標的使用と判定されるようです)。単なる歌い手の表示であって、これは商標権の世界の外の話です(では勝手にAKB48というアーティスト名で他人がCDを出してよいかというとそんなことはなく、不正競争防止法等を根拠に訴えられるでしょう)。
一方、公式グッズとして売られているAKB48という文字が大きく描かれた「ひえひえてぬぐい」は、「AKB48印のてぬぐい」と言えますので、ここではAKB48が商標的に使われています。なので、てぬぐいを指定商品にしてAKB48の商標登録をしていれば商標権に基づいて他人による偽てぬぐいの製造・販売・広告等を排除できます。この場合には、商標登録をしておく意義は大きいと言えます。