ちょっと前に話題になった切り餅訴訟ですが、9月に佐藤食品の上告を最高裁が退けたことで、越後成果の勝訴が確定しています(参考記事「切り餅特許訴訟 佐藤食品の敗訴確定 8億円賠償と製造禁止」)。実はこの事件は特許権の範囲の解釈という観点から言うと結構ややこしく、かつ、議論の余地が多いところなので、あまりこのブログでは触れてませんでした(参考になる他のブログとしてはこの辺がおすすめです、難しく感じる方もいると思いますが、そもそもこの事件は簡単には説明できないのです)。
そして、今度は「柿の種」でおなじみの亀田製菓が菓子販売の宮田という会社とメーカーのレスペという会社を販売差止めと1000万円の損害賠償を求めて訴えました(参考記事)。切り餅は特許で、こちらは不正競争防止法なので、法律的には全然違うのですが食べ物つながりということで話をつなぎます。
そもそも、「柿の種」は柿の種状のせんべいの名称として普通名称化していると思われますのでそれだけでは商標登録できないと思われます。柿の種関連の商標登録は(Wikipediaによると元祖とされている)浪速屋製菓も含め、図形込みで登録されています。亀田製菓による商標登録の例(出典:商標登録公報)が以下です。
宮田が販売している商品パッケージは以下のようなものです(出典:宮田のWebサイト)
商品名が「柿ピー」で「柿の種」ではないので、亀田製菓が商標権をベースに訴えるのは難しいです(そもそも、亀田からの商標権侵害の警告に対応して宮田が現在のパッケージに変えたようです)。
ということで、亀田製菓側は不正競争防止法(おそらく、2条1項1号)に基づいて訴えました。
不正競争防止法2条1項
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
不正競争防止法は、登録とは関係なしに権利行使できます。しかし、訴える側の商品表示が周知でなければならず、消費者に混同を生じさせていることを訴える側が証明しなければなりません。亀田製菓側の商品表示は以下です(出典:亀田製菓Webサイト)。
このパッケージの周知性についてはたぶんクリアーされているんじゃないかと思います。混同が生じているかどうかは、まあ確かに似てはいるんですけど、混同するとまで言えるかどうか微妙な気がします。そもそも、柿の種のパッケージはメーカーにかかわらず全体的にこんな色合いだと思いますし、亀田の商品が欲しい時は確認して買うんじゃないかと思います。とは言え、これは紛らわしい、混同すると思う人もいるかもしれません。
裁判の結果はちょっと予想がつきにくいですね。
なお、Wikipediaによるとピーナツ入りを最初に商品化したのは亀田製菓であるようなので、同社はその時に「柿ピー」を商標登録出願しておけばよかったかもしれません(記述的商標(3条1項3号)として拒絶される可能性はありますが、元祖として周知になれば、使用による識別性(3条2項)を得られた可能性もあります)。
もし、訴えが認められなかった場合には、亀田製菓に残された道はCM等で「柿の種と言えば亀田製菓」というイメージを今まで以上にプロモートすることしかないと思われます。正露丸が普通名称化により商標としての効力を失ってしまった大幸薬品と似たようなポジションです。