アップルの対HTC訴訟における特許を分析する(1)

Androidに対する特許侵害訴訟としては大きくマイクロソフト、アップル、そして、オラクルによるものがあります。最近、米ITC(国際貿易委員会)において、台湾HTCがアップルの特許2件を侵害しているという判断がなされました(参照記事)ので、マイクロソフトの特許分析はちょっと一休みして、アップルの特許について見ていこうと思います。Androidビジネスへのリスクという点ではマイクロソフトの特許よりもアップルの特許の方が影響度が大きいと思います。

ところで、ITCは裁判所ではなくて貿易を司る米国の行政機関です。裁判よりも早く結果が出ることが多いですし、米国への輸入が禁止されると海外メーカーは大打撃なので、海外企業が関連するIT関係の訴訟ではよく利用されるようです。

さて、本エントリーでは、HTCが侵害したと判断された特許のうちの1件、米国特許5,946,647号”System and method for performing an action on a structure in computer-generated data “(コンピュータにより生成されたデータ中の構造に操作を行うシステムと方法)について見ていきましょう(Google Patent)。出願日は1996年2月1日です。発明の名称だけ見てもよくわかりませんが、かなり強力な特許です。

この特許の基本的アイデアは単純です(ゆえに強力です)。例を挙げると、iPhoneでメールテキスト中に電話番号、住所、URLWebサイトのアドレスぽい文字列があるとシステムがリンクをつけてくれます(たまに間違えることもありますが)。そして、電話番号のリンクをクリックすれば電話がかかりますし、住所のリンクであれば地図アプリが起動、URLWebサイトのアドレスぽい文字列であればブラウザが起動などのアクションが可能になります。テキストを作成した人が前もってリンクをつけておかなくてもシステムがパターンを自動的に判断してリンクをつけてくれます。これがこの特許のポイントです。これは今日のメーラー等においては当たり前の機能になっているのではないでしょうか、実際、Thunderbirdでもメール本文中にURLWebサイトのアドレスぽい文字列があると自動的にリンクに変換されます。

この機能はAndroidにおいてはLinkify.javaというクラスにより実現されているようです。つまり、HTC端末に限らずあらゆるAndroid機器が5,946,647特許を侵害する可能性があるということになります

これを書くとまた「こんなの当たり前のアイデアが特許になるのはおかしい」と文句を言う人が出てきそうですが、現時点で当たり前であると言っても意味がないので1996年2月1日時点で当たり前であったかどうかを議論してくださいね。

ソフトウェア特許の著名な専門家(どちらかというとアンチソフトウェア特許派)のFlorian Mueller氏は、自身のブログFOSS Patentsにおいてアップルがこの特許をHTCにライセンスしない(つまり、製造・販売差止と損害賠償だけを要求する)可能性が高いと述べています。

確かに、マイクロソフトと比較してもアップルは他社との関係において独善性が強いですし、モバイル系の収益が今のところあまりないマイクロソフトにとっては他社への特許ライセンス収益で儲けるビジネスがおいしいという事情があるのに対して、アップルにとってAndroidは目の上のタンコブなので強硬手段に出る可能性が高いかもしれません。

なお、冒頭に書いたITCの判断はHTCのAndroid端末が(要するにすべてのAndroid機器)が、アップルのこの特許(ともう1件の特許)の技術的範囲に属する技術を使っているという判断であって、この特許の有効性についての判断がされているわけではありません。この特許に関しては、昨年、モトローラが提起した訴訟において他のアップル所有特許と共に無効が争われています(米国では日本のように無効審判の制度がありませんので、特許の無効性は裁判で争うことになります)。こちらの裁判のゆくえがAndroidの将来に大きな影響を与える可能性が高そうです。

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4 Responses to アップルの対HTC訴訟における特許を分析する(1)

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  2. uncorrelated のコメント:

    テキストの種類は限定されていないので、HTMLファイルの特定文字列、つまりAタグにハイパーリンクを設定する事も、米国特許5,946,647号に抵触しそうですね。HTML自体は1993年6月からありますが。

  3. ピンバック: eamcet*[SEO対策調査自動更新ブログ] | 米ITC、「HTCはAppleの特許を侵害している」と認定

  4. かわむら のコメント:

    はじめまして。文字列を勝手にハイパーリンクとして認識する機能は、Office97で実装されたものが最初(その後オンラインソフト等がぞろぞろ真似をした)ように記憶しています。Windows95、NT4.0とOffice95を引っ張り出して確認しましたが、この機能はありませんでした。
    Office97ですと特許の成立時期より発売時期が微妙に遅いようなので、MSは特許を知っていた可能性もありますね。ただこの時期はAppleの財務状態が悪かった頃で、1997年にMSとクロスライセンスを結んでいるようなので、MSとは決着した話かも知れません。

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