【速報】FacebookがYahoo!の特許攻撃に逆襲の件

少し前に米Yahoo!がfacebookに特許侵害で訴訟しました(参考記事)。良いか悪いかは別として、本業の先行きが怪しくなると知財に関して攻撃的になるのはよくあるパターンです。これに対してFacebookは自社の特許権でYahoo!を逆提訴しました(参考記事)。これまたよくあるパターンです。

Facebookの特許ポートフォリオは他社と比べて見劣りしており、それを拡充するためにIBMから特許を購入したという見方もありました。しかし、それに頼るまでもなく既存の特許ポートフォリオだけでもYahoo!を逆提訴するのは十分だったようです。Facebookは今までもソーシャルネットワーキング関連にフォーカスして社内で発明するだけではなく、他社から特許権を取得していますので、それなりに攻撃力はあると思われます。

以下が今回の逆提訴に関連した特許です(名称の日本語訳は栗原による)。これらの特許10件のうち、Facebook社内で開発されたものは最初の2件だけで残りは以前に他社から購入していたものです。さすがに全部は見ている時間はないですが、重要ぽいものの中身を後日紹介するかもしれません(あくまで予定)。

米国特許番号

名称

名称(日本語)

備考

7,827,208Generating a feed of stories personalized for members of a social networkソーシャルネットワークのメンバーにパーソナライズされたストーリーのフィード生成flickrがこれに抵触すると主張しているようです
7.945,653Tagging digital mediaデジタルメディアのタグ付けザッカーバーグ自身の発明
6,288,717Headline posting algorithm見出し表示のアルゴリズムDietpowerという会社から購入
6,216,133Method for enabling a user to fetch a specific information item from a set of information items, and a system for carrying out such a method複数の情報項目から特定の情報項目取得を可能にする方法とその方法を実現するシステムエージェントを使ったマルチメディアデータの検索関連のアイデア。元はPhilips社の発明
6,411,949Customizing database information for presentation with media selectionsメディア選択による表示のためのデータベース情報のカスタマイズ同じくマルチメディアデータ検索関連、元はPhilips社の発明
6,236,978System and method for dynamic profiling of users in one-to-one applications1対1のアプリケーションのユーザーの動的プロファイリングのためのシステムと方法静的・動的プロファイルからユーザー・プロファイルを生成するアイデア、元はNYUの発明
7,603,331System and method for dynamic profiling of users in one-to-one applications and for validating user rules.1対1のアプリケーションのユーザーの動的プロファイリングとユーザー・ルールの検証のためのシステムと方法上記の関連発明、元はNYU
8,103,611Architectures, systems, apparatus, methods, and computer-readable medium for providing recommendations to users and applications using multidimensional data多次元データを使うユーザーとアプリケーションに推奨情報を提供するためのアーキテクチャー、システム、装置、方法、コンピュータ可読媒体データベース検索関係か?(中身を読み込まないとわかりません)元はNYUの発明
8,955,896System for controlled distribution of user profiles over a networkネットワーク上でユーザー・プロファイルをコントロールされた形で配布するためのシステム中身を読まないとよくわからないです。Cheah IP LLCという会社から購入
8,150,913System for controlled distribution of user profiles over a networkネットワーク上でユーザー・プロファイルをコントロールされた形で配布するためのシステム上記の関連発明

個人的予想ですが、Facebook対Yahoo!は、Apple対SamsungやOracle対Googleのような泥沼にはならず(Apple対Samsungに関しては和解の可能性もでてきたようですが)、クロスライセンスで和解という形で収まるのではないかと思います。

特許を取得するのは他社を訴えるためだけではありません。このように他社から特許攻撃を受けた時の防衛策として自社の特許ポートフォリオを拡充しておく(自社で発明するだけではなく他社が不要な特許を買っておく)戦略は重要です。

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カバー曲のCD制作における編曲権処理について

ちょっと前になりますが、弁理士会主催の「音楽著作権ビジネスの課題と現状」という研修を受けてきました。講師は安藤和宏氏です。安藤氏と言えば『よくわかる音楽著作権ビジネス』等の音楽業界の実務経験に基づいた書籍を数多く著しておりこの分野では第一人者です。法律の世界と実務の世界は必ずしも完全に一致しているわけではない(特に音楽業界には業界の掟的な教科書に書いてない要素が多いと思います)ので、実務経験豊富な専門家の話を聞ける機会は貴重です。そういうこともあってか会場はかなりの満員でした。

お話の内容は(こちらの期待どおり)法律解釈な話よりも現場の実務が中心で大変興味深く聞けました。ただ、たとえば「最近はレコーディングの予算が削られて最後までPROTOOLSのみでトラックを仕上げるケースも増えており、CDの音の厚みがなくなっている」なんて話は個人的には興味深く聞けたのですが、他の弁理士先生にとってはイメージ沸きにくい話であったような気もします。(余談ですが、それでも比較的レコーディングにお金をかけられるジャンルもあって、それはジャズとクラシックであるそうです。理由は、これらのジャンルで音が悪いとオーディオ・マニアから(音楽マニアではない)からクレームが来るからだそうであります。)

さて、最後の質問コーナーで、かねてから聞きたかった質問をすることができました。それは「カバー曲をCD化する時に翻案権の許諾を著作権者から直接もらっているのか?」という質問であります。

安藤氏の答を書く前に、私がこの質問をした意図について書いておきます。

一般的な音楽著作物は著作者(作曲家、作詞家)がJASRACに著作権を信託譲渡して管理してもらっています。これにより、利用する側は直接的・間接的を問わずJASRACに規定の料金さえ支払えば、JASRAC管理の音楽著作物を利用できるわけです。

しかし、JASRACは著作権法27条の翻案権(音楽の場合は編曲権に相当)は管理していません。したがって、他人の曲を編曲して使用する場合には、JASRACに利用料を払うだけでは足りず権利者(典型的には作曲家が契約している音楽出版社)から翻案権の許諾を得る必要があります。さらに言えば、著作者人格権のひとつである同一性保持権(著作権法20条)の問題もあるので、厳密に言えば、著作者(作曲家本人)に同一性保持権を行使しない意図を確認する必要もあります。

作曲家が書いた譜面通りに弾くことが基本のクラシックの世界とは異なり、ポップ・ミュージックではカバー曲にアレンジを加えるのは当然です。かと言って他人の曲をちょっとでもアレンジして使うたびにJASRACに加えて著作権者と著作者から許可をもらっていたら結構大変です。

ということで、JASRAC管理曲の翻案権に関して法律を厳密に守っているのか、それとも暗黙の了解でやっているのかというのが質問のポイントです。

さて、この質問に対する安藤氏の答は私のほぼ予想通りで「昔はしていなかったが、大地讃頌の件があって以来、翻案権の許諾を取ることが多くなった。ただ現在でもすべてのケースでしているわけではない。私が相談を求められてたなら音楽出版者(=著作権者)に許可を取ることをお勧めしている」とのことでした(同一性保持権についても聞いておくべきでしたが聞き忘れてしまいました)。

大地讃頌事件というのはご存じの方も多いと思いますが、合唱曲でおなじみの大地讃頌という曲をPe’Z(ペズ)というジャズバンド(ミクスチャーと言った方がよいかも)がカバーしたCDに、作曲者の佐藤眞氏が編曲権と同一性保持権侵害に基づき販売停止を求めて訴えた事件です(参照Wikipediaエントリー)。レコード会社側はCDの出荷停止・回収により和解しました。法廷の場に出るまでもなく和解で終わってしまったので判例集や法学書にはあまり書いてないと思います。

私も、Pe’Zの問題となった大地讃頌の録音を聞いたことはありますが、別に作曲者の名誉を毀損するような演奏ではまったくありません。ただ、ジャズ系の音楽の一形式としてわざと「素朴」に演奏しているスタイルなので、クラシック系の作曲家であればちょっとお気に召さないかもしれません。そして、日本の著作権法では、客観的には名誉の毀損にあたらなさそうなパターンでも著作者の「意に反して」いれば同一性保持権の侵害を主張できてしまいます。とは言え、素材を解体して演奏者の解釈を加えて別の作品へと昇華させていくのがジャズという音楽の本質だと思うので、そこで同一性保持権などを持ち出されると困ってしまいますね(それを言うなら日本中のジャズクラブでは毎日のように同一性保持権が侵害されています)。

一般論になりますが、法律の規定と現状に乖離がある場合、「まあ、別に実害が生じているわけではないのだからいいんじゃない」みたいな姿勢でほっておくと、突然に権利行使をする人が出てきたりして問題になるリスクがありますが、まさにそのような例だと思います。最近問題になった自炊代行サービスなんかもそのようなケースと言えるかもしれません。

いずれにせよ、たとえば、ボーカロイドのカバー曲CD等の販売を考えている方(特に大胆なアレンジを行なう場合)は安全のために音楽出版社の許可はもらっておいた方がよいのではないかと思います。

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【商標小ネタ】アイホンのチャイム音が米国で商標登録されている件

スマートフォンのiPhoneではなく、インターホンのアイホンのお話です。

中日新聞の記事『アイホン、北米で売り上げ最高に』によりますと、米国でもテロや銃乱射事件の影響で防犯意識が高まり、テレビ付インターホンが売れており、アイホン社は、

「ブランドイメージの定着」を狙って昨年1月、日本でおなじみの「ピンポン」という呼び出し音を、米国で商標登録。あの手この手で攻勢を強めている

ということです。商標の本質的機能は消費者(需要者)が商品やサービスの出所を識別できることにあるわけですが、マークや名称だけではなく、音でも出所識別機能があれば、商標として登録できるという制度です。米国を初めとしていくつかの国では採用されていますが、日本ではまだ採用されていません。

アイホンの米国登録サウンドマークですが、検索してみると登録番号は85063162でした。Description of Markは以下のようになっています(翻訳は栗原による)。

The mark consists of a sound. The mark consists of an electronic chime playing an E5 quarter note, followed by a C5 half note, and E5 quarter note, and a C5 half note. The sound is similar to a simple doorbell chime that is repeated.

本商標は音から成る。四分音符のF5、八分音符のC5、四分音符のF5、八分音符のC5の電子チャイム音から成る。普通のドアベルが繰り返し鳴る音に似ている。

出願時には実際の音声ファイルを提出する必要がありますが、登録上はこのように文章で表現してあり、何か争いがあった時に音声ファイルを使うという運用のようです。

USPTO(米国特許商標局)のサイト内の子供向けの教育ページでは、代表的なサウンドマークが、こちらは音声ファイル付きで紹介されています(あくまでも教育用のページなのですべてのサウンドマークが網羅されているわけではありません)。日本の消費者にとっては、Intelのチャイム音などがなじみ深いと思います。

ところで、サウンドマークの話が出るとよく引き合いに出される例にハーレイダビッドソンのエンジン音というのがあると思います。しかし、ハーレイ社が出願したのは確かですが、その後、他社からの異議申立て(V型エンジンのエンジン音だけでは他社と識別できないという理由)があり、結果的にハーレイ社は出願を取り下げたようです(参照記事)。

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特許法の新規性喪失の例外規定についてまとめてみました

前回の記事『出願前に公表・販売してしまった発明にも特許化の道が開けた件』はそれなりに反響を呼んだようです(発明家にとって影響が大きい改正と思うのですがイマイチ周知されていないのでしょうか?)

この機会に「新規性喪失の例外」(特許法30条)について簡単にまとめてみました。ちょっとややこしい部分ではあります。なお、以下の説明は4/1施行の改正前も改正後も共通です。改正前後での違いは、救済(新規性喪失の例外)の対象となる行為が改正前は比較的狭かったのが、改正後はきわめて広くなるという点にあります。

1.普通のパターン

スライド1

発明者(あるいは、発明者から「特許を受ける権利」を契約により譲渡された者(典型的ケースは職務発明の規定により社員から会社に「特許を受ける権利」が自動的に移転された場合))自身が公表(販売も含む)した場合、公表日から6ヶ月以内に出願すれば、その公表を理由として新規性・進歩性を否定されることはありません(もちろん、他の理由により拒絶されることはあり得ます)。なお、この救済策を受けるためには所定の手続きが必要ですので個人で出願等される場合はご注意ください。

2.「特許を受ける権利」が途中で移転しているパターン

スライド2

「特許を受ける権利」が契約により適切に譲渡されているのであれば、公表した人と出願する人が違っていてもパターン1と同じです。たとえば、社員が個人で発明を公開、その後、会社の規定により「特許を受ける権利」が会社に移転して、会社名義で出願するようなケースです(職務発明の内容を出願前に個人として公開したことで会社に怒られるかもしれませんが、それは別論)。

3.冒認出願(パクリ)のパターン

スライド3

「冒認出願」とは「特許を受ける権利」を持っていない人による出願、要するに人のアイデアを勝手にパクった出願を意味する専門用語です。発明者であるAさんの公表の内容を見たBさんが勝手にAさんより先に出願してしまうと、Bさんの出願が冒認であることが立証されない限り、Aさんの出願はBさんを先願(拡大先願)として拒絶されてしまいます。冒認であることの立証は、同じ会社の同じ部門で共同研究していたうちの一人が退職して勝手に出願等々であればまだしも、Bさんが自分で独自に考えましたと主張するとそれに反証するのはかなり困難と言えるでしょう。Bさんの冒認が立証できないと、以下のパターン4と同じ扱いになります。なお、Bさんの出願は冒認であろうとなかろうとAさんの公表を理由として新規性欠如により拒絶されます。

万一、Bさんの発明が特許化されてしまった後でも、冒認を証明できればAさんは権利を取り戻せますが細かくなるので説明は省略します。

4.独立して発明した第三者が先に出願してしまったパターン

スライド4

冒認(パクリ)ではなく、第三者が偶然同じ発明をして先に出願してしまったパターンです(シンクロニシティではないですが、同じようなアイデアを同時期に複数の人が思いつくケースはないとは言えません)、この場合は、結論から言うと、AさんもBさんも特許を受けることはできません。(説明は次の段落に書きますが、結構ややこしいので読み飛ばしてしまってもかまいません)。

まず、Bさんの出願はAさんの公表を理由として新規性欠如により拒絶されます。しかし、通常は拒絶される前に出願日から1.5年後に出願公開が行われます。出願公開がされると特許法29条の2の拡大先願の地位が生じます。拡大先願の地位は出願が拒絶されても消えません(一方、39条の先願の地位は消えます)ので、Aさんの出願はBさんの出願を拡大先願として29条の2の規定により拒絶されます。結果として、AさんもBさんも共倒れになります。なお、29条の2は先願と後願の発明者が同一の場合には適用されませんので、パターン3で冒認を証明できた場合には、Bさんの出願は冒認出願を理由として拒絶され、Aさんの出願は39条でも29条の2でもBさんの出願には影響されないことになります(もちろん、別の理由で拒絶されることはあり得ます)


と、いろいろとややこしいことを書いてきましたがポイントは以下の3点です

  • 新規性喪失の例外は出願日の遡及規定ではない
  • 新規性喪失の例外規定はあくまでも非常手段(公表前に出願が原則)
  • 新規性喪失の例外規定を使う場合でも可及的速やかに出願することが望ましい
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出願前に公表・販売してしまった発明にも特許化の道が開けた件

ちょっと前の特許関係の入門書等を見ると、発明の内容を特許出願前に公表してしまうと、新規性の喪失により特許化が不可能になるので、出願は必ず発明の公表前にやっておけと書いてあると思います。今後この基本ルールが大きく変わります。

今までも、発明者自身による新規性喪失には一定の条件による救済措置が規定されていました。たとえば、博覧会へ出品や学会への発表等々のパターンですが、条件が限定的であり、あまり使えるケースがありませんでした。

今年の4月1日から施行される特許法改正により、この救済条件が大幅に緩和されます。発明者自身(より正確に言えば特許を受ける権利を有する者)の行為に起因して新規性を喪失するに至った場合には、その日から6ヶ月以内に出願すれば救済措置が受けられます。つまり、行為に対する限定が一気になくなりました。発表だけではなく、発明を使用した製品やサービスを販売した後で出願しても大丈夫です。(なお、意匠についてはずっと前からこのような規定になっています)。

あまり特許のことなどは考えずに新製品を売り出したところ予想外に売れたので、他社の模倣を防ぐためやVCの投資を受けるために特許化したいという相談は、以前は問題外だったわけですが、この改正により道が開けました。特に、スタートアップ系企業にとっては朗報だと思います。大企業ですと製品発表前の出願がプロセス化されているのが通常でしょうが、スタートアップ企業ですとアイデアを何でもかんでも前もって出願しておく余裕がないと思われるからです。

なお、この改正が有効になるのは、今年の4月1日以降の「出願」です。つまり、昨年の10月1日以降に発表しているのであれば出願日を調整することでこの救済措置を受けられます。(ただし、たとえば10月1日の発表ですと出願日は4月1日でなければならず、これより早くても遅くてもこの救済措置の対象になりませんのでちょっと大変ではありますが)。

なかなか便利な改正ですが、あくまでも例外的な救済措置である点には注意しておく必要があります。たとえば、出願前に販売してしまうと海外での権利化が不可能になるケースもあります。また、発表したアイデアを他人に盗まれて先に出願されてしまうとやっかいな事態になり得ます(法律上はそのような出願は拒絶されるはずですが実際には立証が困難なこともあります)。さらに、公表後にそれを知らない第三者が偶然同じ発明をして先に出願してしまえばそちらが先願(拡大先願)になりますのでそれを理由に自分の出願は拒絶されてしまいます。ということで、大原則としては公表前に出願しておくべきという点に変わりはありません。


去年の10月以降、新しいアイデアを発表したり、新製品・新サービスを販売開始していて、これはひょっとして特許化できるのではないかとお考えの方は是非ご相談ください。

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