セガのサッカーゲーム特許訴訟について

ゲーム大手のセガが、「イナズマイレブン」シリーズなどを開発しているソフトウェア開発会社レベルファイブを特許権侵害で訴えたというニュースがありました(参照記事)。

記事には「特許権2件が侵害されている」とセガが主張していると書いてはあるのですが、肝心の特許番号が書いてないので、どの特許が問題になっているのか調べようがなくて困りました(現時点でセガの所有する特許は1,000件以上あるからです)。

民事訴訟とは言え、特許権の効力はあらゆる人に及ぶ(まさに「物権的」権利です)、ことから、他のゲーム開発会社にとってもどの特許権が問題になっているかは重大関心事ですので、特許訴訟関係の報道では是非特許番号を明らかにしていただきたいものです。日本では、米国と比較して裁判情報が入手しにくい(参考ブログエントリー「裁判情報入手の日米ギャップについて」)のでなおさらです。

しかし、後日、訴えられらた側のレベルファイブが声明を発表し、その中で、特許の登録日が2009年2月20日と2011年8月26日であることを明らかにしたので、どの特許権が問題になっているのか察しが付きました。おそらく、4258850号と4807531号です。

いずれも、ゲームのキャラクターをタッチで操作する仕組みに関する特許です。両者とも出願日は2004年12月28日となります(と言うか、4807531号は4258850号の分割出願が元になっています)。もし、時間があれば、両特許の中身を解説したいと思いますが、2004年というとニンテンドーDSが発売された年であり、ゲームにおけるタッチ操作が一般的になり始めた時期であることを考えると、今の目で見て当たり前だからと言って、出願当時当たり前だったとは限りません。

ところで、前述のレベルファイブ社の声明の中には以下のようなことが書かれています(番号は私が付けたもの)。

(1) 「イナズマイレブン」は、タッチペンを使用してキャラクターを操作しますが、これはタッチスクリーンが普及した昨今では、極めて基本的な操作です

(2) セガの特許は当社が「イナズマイレブン」の第1弾を2008年8月22日に発売して以降、2009年2月20日及び2011年8月26日に成立しており、ゲーム発売後に成立した特許に関しての特許使用料の要求、及び、訴訟の提起を受けたことになります。法律的な正否とは別に、同業界の一端を担う者として、この状況での訴訟提起には違和感を覚えております。

(1)については特許の有効性や侵害のあるなしには全然関係ない話です。強いて言うと、タッチ操作の普及を見越して特許を取得していたセガは先見の明がありましたねと言っているだけです。(2)については、出願日(この場合は2004/12/28)時点で「イナズマイレブン」が発売開始されていれば(あるいは、開発の準備が相当進んでいれば)先使用権を主張できるのですが、登録日を基準にしても意味がありません(「法律的な正否とは別に〜違和感を覚えております」と書いてあるので単に正直な気持ちを書いただけということとは思いますが)。

この特許権が本当に有効なのか、また、「イナズマイレブン」等のゲームがこの特許権を侵害しているのかは裁判の結果を見なければわかりませんが、ひとつ言えることは、今の特許制度では、技術を使ったビジネスをしている以上、他社の特許状況に常に目を光らせて、侵害しそうな特許があれば、ライセンス交渉するなり回避することが義務と考えられているということです。電機メーカーや機械メーカーは普通にそのような努力をしています。ゲーム会社はそのような努力をしなくてよいという理由はないと思います。

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著作権はなぜ強力なのか:その物権的特性

前回のエントリーがよい例になると思うので、著作権という権利の特性についてもう少し説明します。

前回述べたように著作権は創作行為により自動的に発生します。ソフトウェア利用許諾等に「本ソフトウェアは著作権法で保護されています」と書いてあることがありますが、これは確認規定であって、このような契約や宣言がなくても、著作権は自動的に発生します。根拠は著作権法の

第二十一条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

等々の規定です(厳密に言うと、著作権という権利は法律上はなく、複製権、上演権、公衆送信権等々、利用行為ごとに細かく権利(支分権)が定められています)。

そして、これも前回述べたように、契約によって他人に複製等を許諾することはできますが、契約も何もないデフォの状態では他人は複製等できません(私的使用目的複製等、法律で例外とされているケースを除きます)。

以前、JASRACの警告にもかかわらず、所定の利用料金を支払わずに自分の飲食店でハーモニカの演奏を続けていた店主が警察に逮捕されてしまった事件がありました。この店主にしてみれば自分はJASRACと契約した覚えはないのに何で利用料払わないといけないんだ、何で警察につかまるんだと思ったかもしれませんが、JASRACと契約していないということは上演権の許諾がないので即、著作権侵害になります。そして、故意の著作権侵害には刑事罰が適用されますので、警告の後も演奏を続けていれば警察に逮捕されてしまってもしょうがないと言えます(借金をなかなか返さない(これは完全に民事)という話とは違います)。

なお、小規模な飲食店を警察の力を使って制裁するのは法律的には正しくても社会通念的にどうなのよとか、小規模飲食店はJASRAC利用料減免してもいいいんじゃないかとという話がありますが別論です。また、非営利・無料・ノーギャラの上演は許諾なくできることが別途著38条に定められています。飲食店で客に向けて演奏するのは非営利とは呼べませんのでこの例外規定は適用されません。

一般に、契約行為がなくてもあらゆる人に対して効力を持つ権利のことを物権と言います(典型例は所有権)。著作権は厳密に言えば物権ではないですが「物権的」であるとされています。

ついでに書いておくと、著作隣接権も著作権同様に物権的です。たとえば、レコード制作者は音を固定することで自動的に著作隣接権(通称、原盤権)を得られます。これにより、CDを複製する場合には、著作権者(作詞家・作曲家)だけではなく、原盤権者たるレコード会社(厳密に言えば、さらに実演家の著作隣接権を持っている人)の許諾が必要になります。

出版社に対して著作隣接権を付与せよという話が議論されていますが、これは、出版社にこのような物権的権利を付与せよということを意味します。書籍については、今までは、作家が著作権を持ち、それに基づいた契約によって出版社に出版権を許諾するという流れだったのが、出版社に著作隣接権が付与されるような改正が行なわれると、契約がなくても出版社が著作権と対抗できる強力な権利を自動的に獲得できるようになるわけです(出版社がこのような権利を獲得できるよう必死に法改正を目指しているのもうなずけます)。

物権はきわめて強力な権利なので経済的にも社会的に影響が大きいです。出版社の権利を議論する際には、このような物権的権利の特性を十分に考慮する必要があります。(出版社の権利に関する話はまた後日)。

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契約違反と著作権侵害の関係について

前回のエントリーに関して何となく予測できた反応がツイッターでありました(何で予測できたかと言うと、私も法律の勉強始める前はこの辺がよくわかっていなかったからであります)。

私企業の規約違反で、刑事的違法性が変わるという立論は変。その企業に「毎日歯を磨きましょう」という規約があったとする。それの違反尊守で、法律の違反尊守は言えない。「料金払ってね」と同じ事で民事の話。

この機会に説明します。

歯を磨くか磨かないかが契約違反(民事)の範疇に留まるのは、歯を磨くか磨かないかによって他人(あるいは当事者)の権利を侵害することがないからです。

では、約束が歯磨きではなく、「私の家に入らないで」というものであったらどうでしょうか?たとえば、女性のアパートに、以前同棲していて別れた男がしつこくやってくるので、男に「二度と部屋に来ません」という約束(=契約)をさせたものとします。それを無視して男が部屋に入ろうとしたら、これは約束違反(契約違反)であると同時に、住居侵入罪の疑いで警察呼ばれてもしかたがありません。つまり、民事の話に留まりません。

著作権がからむ契約はこのアパートの例に類似しています。たとえば、ソフトウェアの利用許諾に「このソフトウェアは1台のコンピュータにインストールして使用できます。」と書いてあるにもかかわらず、無視して会社中の全PCにインストールすると、これは契約違反であると同時に著作権(複製権)侵害です。故意にやれば犯罪です。

ソフトウェアの利用許諾は、「このソフトウェアをX台のコンピュータにインストールして使用する」等々の条件を守る前提の元にあなたにこのソフトの著作権(複製権)を許諾しますよ、という構成になっているので、この条件を守らない場合には複製権も許諾されず、インストール(複製の一種です)する行為が複製権侵害になるわけです。

著作権は何も手続きを取らなくても創作行為によって自動的に発生します。権利者以外の人が複製・上演・公衆送信等をしようと思うと、権利者に著作権を譲渡してもらうか許諾をもらうかするしかありません(私的使用目的複製等、特別に法律で認められている場合を除きます)。つまり、デフォ状態では他人は何もできない、許可をもらって初めて何かできるのが著作権という権利の特徴です。許可をもらわない限り、デフォでは他人の家には入れないのと同じです。

ということで、著作権がからむ契約に違反する行為をすると、契約違反に留まらず著作権侵害を構成する可能性が高いですし、故意等の条件を満たしていれば民事の世界に留まらない可能性も出てくるわけです。

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Spotifyを日本で聴いた場合の違法性について

Spotifyに限らず、権利者側のビジネス上の理由から特定の国だけにストリーミング配信を行なっているサービスがあります。配信先のチェックは基本的にIPアドレスを見て行なうのでプロクシ等々を使えばチェックを回避して、日本で視聴することはできます。倫理的にどうなのかという話は別にして、こういう行為を行なった時に著作権法的にどう扱われるのかといった点について検討してみたいと思います。Spotify特有の話ではなく、あらゆるストリーミング配信サービスに共通の話です。

まず、コンテンツの視聴をするだけであれば、著作権法上は違法とされることはないと思います。著作権法は原則として視聴をコントロールしないからです。キャッシュの複製については著作権法第47条の8により問題ないと思います(100%大丈夫だと保証しろと言われるとちょっと困りますが)。

ただし、コンテンツの視聴をするために会員登録が必要で、その前提として、会員規約に同意することを求められており、会員規約に「私は米国に居住しています」なんてことが書いてあれば、サービス提供会社との間の契約違反にはなり得ます。なお、この場合でも著作権侵害にはなり得ません(著作権法には「視聴をする権利」は定められていないからです)。

一方、コンテンツのダウンロードを行なう場合は、ダウンロードは著作権法上定められた複製に相当するので著作権侵害となる可能性が出てきます。さらに言えば、10月1日より施行された刑事罰化の対象となるケースも出てきます。本ブログの過去エントリー「違法ダウンロード刑事罰化に関するまとめ(その2)」でも説明した、刑事罰適用の条件をもう1度おさらいしてみましょう。

119条第3項: 第30条第1項に定める私的使用の目的をもつて、有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。)の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

細かいことを省略して簡単に言えば、「有償著作物(市販CD等)のコンテンツを権利者の自動公衆送信権を侵害するようにアップロードしたものをそれを知りながらダウンロードする」と刑事罰の対象になるわけですが、ここで、対象となる自動公衆送信に(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む)とのカッコ書きがある点に注意が必要です。

このカッコ書きがあることで、たとえば中国等にあるCD音源を違法にアップしたサーバーからダウンロードした場合にアップロード者の違法性を問うまでもなく、ダウンロード者を検挙できるわけです(レコード会社がこういう規定にしたかったのは当然でしょうね)。このカッコ書きが、海外では合法だが日本では正規に提供されていない配信サービスにも適用されるかどうかは要検討です。

常識的に考えれば、配信音源の権利者は予め話し合って決めた特定の国にのみ配信するという条件の下に配信業者と著作権(自動公衆送信権)許諾契約を結んでいるでしょう。と言うことは、素直に解釈すると、配信業者がもし日本国内で配信したとしたならば権利者の自動公衆送信権を侵害することになります(単なる契約違反ではない点に注意)ので、このカッコ書きは適用されると考えられます。

追加(12/12/13 13:31):と言いつつ、著作権法63条5項には自動公衆送信に関する利用許諾で「自動公衆装置の装置に係る」条件に違反しても著作権侵害にはならない旨の規定がありますので、日本国内で配信したならば自動公衆送信権の侵害にならないという解釈(もちろん契約違反にはなり得ますが)もできそうな気はしてきました。ただ、「著作権法逐条講義」によると、この規定の趣旨は「装置の保守点検のために契約条件外の他の自動公衆送信装置を用いた場合には著作権侵害にならないとしたものである」だそうなので、元々想定した国の外で送信することまで含めて考えるかどうかには解釈の余地があると思います。また、一般に海外レーベルは配信国のコントロールにはきわめて厳しいという点も加味する必要があるかと思います。
追加(12/12/13 14:26)さらに考えてみると、上記63条5項の話が出てくるのはもともと日本国内で有効な権利者とSpotifyの間の契約がある場合です。サービス提供国ではない日本において契約があるかというと微妙ですし、そもそも、契約はSpotify本社があるイギリスか発祥国であるスウェーデンの法律に縛られる条件になっていると思います。そうなると、契約がまったくない状態で日本国内で自動公衆送信すれば著作権侵害という見方もできるような気がしてきました(ややこしい)。

というわけで、日本に正規に提供されていないサービスからプロクシ等を使って「その事実を知りながら」(この要件の解釈にも一悶着ありそうですが)ダウンロードを行なうと、単なるマナー違反や配信業者との契約違反というレベルではなくて犯罪と解釈されてもおかしくないケースもあるかと思います。

追加(12/12/07 10:30):SpotifyってP2P方式だったんですね(参考Wikipediaエントリー)。そうなってくると聴くだけのユーザーであっても、他のユーザーに向けて自動公衆送信しているのではないかという論点が出てきます。自動公衆送信となれば、違法DLの刑事罰の要件を考慮するまでもなく、権利者の許諾がなく、故意で行なえば犯罪相当の行為です。ただ今のところ、WinnyやShare等でも一次放流で逮捕されたケースはあるもののキャッシュの中継で罪を問われたケースはないと思うので、グレーゾーンであるとは思います。

追加(12/12/10 14:30) コメントで重要な議論がされましたので、本文にもまとめを追記しておきます。Pandoraなどのサービスですと日本からは(プロクシを介さなければ)アクセスできないのですが、Spotifyの場合は、いったん正式にユーザー登録しておけば世界中で聴ける規約であるそうです。つまり、アメリカ在住の人がアメリカで会員登録してその後日本に旅行に来れば日本からSpotifyを利用できます(これは、有料会員は常に、無料会員は14日間のみということなのでIPチェックはしているようです)。Spotifyは「属人主義」、Pandoraなどの他のサービスは「属地主義」とでも言えるでしょうか。ということなので、日本でSpotifyを使ってDLしている人が即違法行為をしているとは限りません。
とは言え、代行業者を通じたりプロキシを通したりして居住国を偽って会員登録すれば契約違反、そして、おそらくは著作権侵害になり得るという点には変わりはありません。

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アップルのデザイン特許放棄の報道について

twitterでちょっとだけ話題になっている中央日報の「アップル、デザイン特許を放棄?…サムスンとの特許戦の変数に」(ママ)という記事についてコメントしておきます。

記事を見るとあたかもアップルが「丸い角の長方形」のデザイン特許(意匠権)を放棄したように読めますが、2つの点で誤解を招きそうです。

まず、今回問題になっている意匠権はD618677(下図参照)であって、前回のエントリーで触れた最近話題の11月6日に登録された意匠とは違います。なお、D618677は、先日のカリフォルニア地裁においてサムスンによる侵害が認定された意匠権のひとつです。

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そして、記事中の「放棄覚書」というのは米国の特許制度に特有のterminal disclaimerという制度で、過去の権利とかぶった権利の存続期間の一部を自発的に放棄することで、全体が無効にされること(いわゆるダブルパテント)をさけるための手段です。この場合は、アップル自身の過去の登録意匠D593087(下図参照)の存続期間を超える期間について権利を放棄することを宣言することになります。

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FOSS Patentsによれば、サムスン側がD618677はD593087とダブルパテントで無効と主張してきたようなので、これに対するアップルの対抗策です。もし、この主張が認められず、D618677の全体が無効にされてしまうと、カリフォルニア地裁判決においてD618677は侵害しているが、D593087は侵害していないと認定されたサムスン製品がいくつかあることから、損害賠償額が約半分くらいになってしまう可能性があるようです。

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