Amazonガチャ問題と弁理士・弁護士の相談料について

「Amazonガチャ」というサービスが一悶着起こしています(参照記事)。月額5,000円支払うとAmazonからランダムに4,500円分の買い物をして届けてくれるというサービスです。何が届くかわからないという楽しみを味わえるサービスという触れ込みですが、有名人がセレクトしてくれる等の付加価値がないと、ビジネスとしては厳しいような気がします。

それよりも問題なのはこのサービスがAmazonとまったく関係ないのに「Amazonガチャ」という商標を使っている点です。このサービスのWebサイトには、

「Amazonガチャ」、「AmazonGACHA」は現在、商標登録されておらず、サービス名として利用可能との判断を行っております。

なんてことが書いてあるのですが、商標権は同一の商標だけではなく、類似範囲にも及びます。そして、類似の判定には、取引実情を考慮して需要者(消費者)が出所を混同するかどうかが重要な要素になりますので、Amazonのような著名商標の場合には当然類似範囲は広くなります。多くの消費者は「Amazonガチャ」と聞くと当然Amazonと何らかの関係があると思うでしょう。他にも、不正競争防止法上の問題もありますので、「Amazonガチャ」商標の使用に問題なしとは到底言えません。仮に、商標法や不正競争防止法を知らなくても、直感的にまずいなと思うのが普通ではないでしょうか。

正直、ネットサービスを立ち上げるのであれば商標法関係くらいは簡単に勉強しておけばよいのにと思います。そして、微妙と思われるところがあれば弁理士や(知財系の)弁護士に相談すればよいのです。

相談料金が高い、あるいは、いくら取られるかわからないので怖いと思われるかもしれませんが、テックバイザーの場合の相談料を書いてしまいますと30分5000円です。その後、出願案件につながった場合には、出願手数料に充当しますので実質無料になります。(以前は初回相談無料にしておいたのですが、話だけ聞いてさようなら(たぶん、後で自分で出願)のパターンが多かったので、新規のお客様の場合はチャージさせていただくことにしました)。超大手は別として、他もこんなもんではないかと思います。不安であれば事前に問い合わせて料金をきけばよいのです。また、5,000円も出せないということであれば、日本弁理士会等の無料相談を受けるという手もあります。

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AppleのSlide-to-Unlockの権利は日本ではどうなっているのか

CNETに「アップル、「スライド式ロック解除」と初代「iPhone」の意匠権を取得」という記事が出ていました(”design patent”をちゃんと「意匠権」と訳してくれているのは喜ばしいですね)。初代iPhoneの意匠の話はおいておいて「スライド式ロック解除」の方の話をします。

iPhoneやiPadのロック画面をスライダーを横にスライドする操作で解除するのは、シンプルなわりに誤操作がなくてナイスなUIだと思います。Appleはこのアイデアを米国ではUS8046721号としてし、欧州ではEP1964022号として特許化しており、それぞれサムスン、モトローラに対して権利行使しています(ただし、再審査で無効にされる可能性あり)。前述のニュースはこれが特許に加えて、意匠としても保護されたという話です。

ひとつのものを、技術的アイデアとしては特許権で、工業デザインとしては意匠権で保護することも可能と知財の教科書に書いてあったりしますが、まさにこれがその例です。ただし、意匠権はあくまでも工業デザインの保護なので、たとえば、ボタンの外観を変えれば容易に回避されてしまいます。どちらかというとデッドコピーを防げることに意匠権の意義があります(これに対して特許権は背後にあるアイデアが同じであれば表面上の実装を変えた場合でも権利行使できます)。

なお、AndroidではiPhone/iPadとはちょっと違う感じのスライド操作でアンロックを行なうようになっていることが多いと思いますが、これはこのAppleの権利回避のためと思われます。

では、日本ではこの権利はどうなっているかというと、実は意匠権の方が先に成立していました(1356981号)(EnterpriseZineで書いてる知財の連載記事でも書いてます)。日本では意匠権は物理的物品に付随するのが前提なのでプログラム画面は保護できないのですが、携帯電話等の物理的物品に付随する液晶画面のデザインは保護できます。

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これに対応する日本国内の特許はというと、米国の出願とほぼ同じ内容の出願2008-547675が拒絶査定確定しており、それを限定した分割出願の2012-091352が審査中です。日本では、少なくとも米国と同じようにはSlide-to-Unlockの特許は成立しないと思われます。(訂正:拒絶査定確定は勘違いでその後拒絶査定不服審判により、特許5457679号として登録されていました。どうもすみません。)

同じ発明に対して同じ背景情報で新規性・進歩性を判断しているはずなのに、米国で特許化できているのに日本ではできない(あるいはその逆)が往々にしてあるのがやっかいなところです。

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【雑談】「理想のトマト」の商標登録について

伊藤園の「理想のトマト」というジュースがあります。濃くて大変おいしいジュースなのですが、ネーミングもなかなかナイスだと思います。そして、しっかり商標登録もされています(他にも「理想の野菜」、「理想のフルーツ」、「理想のお茶」が伊藤園名義で登録済です)。

以前のブログ記事で、商品の材料、品質、産地等をそのまんま商標にした記述的商標は原則的に登録されないと書きました。たとえば、「おいしい牛乳」はこのような例になると思います。「おいしい牛乳」という名称の商品を販売しているメーカーは「明治おいしい牛乳」や「森永のおいしい牛乳」等、識別力のある言葉を付加してようやく登録しています(この商標登録によっては、他社が(単に)「おいしい牛乳」という名称の商品を販売することを禁止できませんので権利としてはあまり強力ではありません)。

「理想のトマト」も品質と材料だけなので記述的商標ではないかという見方もできるかもしれませんが、特許庁の判断としてはそうではないとされたようです(使用による識別性の発生を問われれるまでもなく登録されています)。そもそも「理想の〜」の後に食材が来る言い回しがそれほど一般的ではなくちょっとひねったものである点も大きいと思います。

さらに調べてみると実は「理想の〜」パターン(〜には商品の種類が入る)の商標登録はけっこうありました。「理想の保険」(AIGスター生命)、「理想のプリン」(森永乳業)、「理想の梅酒」(宝ホールディングス)等々です。

この種の記述商標ぎりぎりの商標は独占できるメリットが大きいので、拒絶のリスクを承知の上でダメ元で出願してみる価値はあると思います。特許の場合もダメ元で最初は権利広めで出願してみることは一般的です。

なお、特許の場合は権利広めで攻めてみて駄目だった場合(拒絶理由を通知された場合)には補正して権利範囲を狭くすることができますが、商標の場合は商標自体の補正は実質的に不可能なので、駄目だった場合は出願し直しになる点に注意が必要です。

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アーロン・シュワルツの死とオープンデータについて

ちょっと前になりますが、RSSやReddit等にかかわった米国の開発者、ネット活動家であるアーロン・シュワルツ氏が26歳という若さで自殺をしたという衝撃的ニュースがありました(参考記事)。

自殺の理由は、JSTORという学術論文データベースから大量の電子文書を無断ダウンロードした疑いで逮捕・告訴され、重大な罰を受ける可能性が生じたことで心理的に疲弊してということであるとされています。ダウンロードの動機は「本来的にオープンであるべき学術論文情報の提供に対して対価を取り、しかもその収益が著者ではなく出版社に回っているのはおかしい」ということだったそうです。

権利者側(JSTOR)が和解し、告訴を取り下げているにもかかわらず、検察当局が公訴したことについては非難の声が聞かれています。公訴の当事者であるオーティズ検事を罷免せよとの陳情も寄せられているようです(ソース)。米国の著作権侵害が非親告罪であることの問題が露呈したとも言えます。

個人的な憶測ですが「公的情報は自由に公開すべき」というシュワルツ氏の思想はWikileaksのジュリアン・アサンジにも通じるものがあり、当局としては「危険思想」であり「お灸をすえる必要がある」と考えていたのはないかとも思えます。

ところで、JSTORの前にもアーロンシュワルツは同様な事件を起こしています。それは、以前にこのブログでも触れた(「裁判情報入手の日米ギャップについて」)米国の裁判所ドキュメント検索システムPACER(Public Access to Court Electronic Records)に関するものです。

PACERは米国の裁判記録をWebで網羅的に提供するシステムですが、1ページあたり10セント程度の料金がかかります。シュワルツ氏はこれはおかしいということで、PACERの無料試用期間中にスクリプトで大量の文書をダウンロードしてクラウドにアップロードしました。FBIの捜査対象になりましたが不起訴になっています。今でもPACERは課金をしていますが、RECAPというP2PベースのFirefox拡張機能により一度ダウンロードしたドキュメントは無料で見るための非公式の仕組みがあります(RECAP運営側は裁判記録は著作権の対象にならないことから合法であるとしています)。シュワルツ氏の思想が引き継がれていると言えます。

これも前に書きましたが、では日本はというと、裁判情報は確定判決の一部が裁判所のサイトで無償で公開されるものの、それ以外のほとんどの情報は実際に裁判所に行って閲覧するしかありません。コピーを取ることもできますが、その場合には係員に取ってもらう必要があり、1枚50円くらいの料金をとられるようです(シュワルツ氏だったら何と言ったでしょうか)。

結果的に裁判所サイトで入手できる以外の裁判情報を一般人が入手するためには、判例タイムズや判例時報などの「紙の本」に頼るしかありません(それもすべての判例ではありません)。日本では裁判記録を網羅的に入手して全文検索システムや分析システムを作ることは、今のところは事実上不可能です。

裁判記録は、国民の税金によって作られており、かつ、国民が知る権利があり(憲法82条1項)、著作権の対象でもありません(著作権法13条3項および40条1項)。したがって、(個人のプライバシー等特段の事由があるもの以外は)できる限り自由に公開すべきものです。

現在の日本のオープンデータの議論はすでに公開されている行政機関のデータを一カ所で提供するという点が中心になっているように思えます(もちろん、これもスタート地点としては重要です)が、最終的には裁判情報のオープン化というところまで突っ込んだ議論が行なわれることを期待します。

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【週末雑談】サムスンのスーパーボウルのCMについて

米国のスーパーボウル中継と言えばトップ企業が多大な予算をかけて印象に残るCMを作るので有名です。各企業のクリエイティビティの見せ所です。

歴史的な成功例としては、アップルによるジョージオーウェルの「1984」をベースにして企業コンピューティングの世界からユーザーを自由にするイメージを訴えたマッキントッシュの広告があります。失敗例としては、一昨年のGrouponのCMなどがあります(参考記事)。

私はスーパーボウル自体には全然興味がないですが、IT系の企業がどういうCMを出すのかには結構興味があります。

今年のサムスンの広告の予告編(本番で流すのとは別バージョン)がYouTubeにアップされています(参考記事)。権利関係にうるさい弁護士とCMプランナーの会議で、プランナーが商標ぽい言葉を口にするたびに弁護士が「訴えられますよ」と遮るという作りです。そして、San Francisco Forty-Niner’s をSan Francisco Fifty-minus-Oners等と言い換える羽目になるというギャグです。当然ですが、アップルに対する皮肉ととらえるべきでしょう。

キャプションがないのでちょっとヒアリングが厳しいですが、米国人の間では概ね好評のようです。

 

ネタにマジレスするのも何ですが、商標権とは商品に使う名前を独占できる権利なので、普通にその言葉を使うことが禁止されるわけではありません。アップルが商標的使用でないケースにまで商標権を行使してきたようなケースがあれば、アップルに対する当てこすりになるのですが、(少なくとも私の知る限り)そういうケースもそれに近いケースもないので、これで皮肉になるのかなあという気がします。

アップルに対する皮肉にするのならば、一般化した用語に対して商標権を主張するケース(Amazonに対するApp Storeの話(参考))や誰でも思いつきそうなデザインに対して意匠権を主張するケースなどを誇張しておもしろおかしく描いた方がよいと思うのですが、まあそこまでやるとやり過ぎ(裁判に影響も出かねない)ということなのかもしれません。

ひょとすると本番のCMではもっと強力なネタが用意されているのかもしれません(追記:本編はAppleも知財も関係ないネタだったようです(参考記事))。まあ、いずれにせよネタにマジレスの雑談です。

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