バリューコマースが取得したO2O特許について

InternetWatchの記事「ネット閲覧→リアル来店をNFC携帯端末で追跡、バリューコマースが特許取得」によれば、「ネット閲覧履歴からリアル店舗来店へのトラッキングを可能にする技術」についてバリューコマースが特許を取得したそうです(対応するバリューコマース社プレスリリース)。(下図はプレスリリースより引用。)

O2Oビジネスイメージ図

一見するといわゆるO2Oぽい仕組みです。もちろん、O2Oのビジネスモデルそのものを特許化できたわけでなく、それを実装する情報システムの特定のアイデアを特許化できたということになります。

特許番号は5210707号、発明の名称は「携帯アフィリエイト・トラッキング・システム」です。出願は2008年なのでそれなりに前に出願した特許です(過去エントリー「強力な特許は潮の変わり目を狙え」も参照してください)。まだ特許公報が出ていない(このタイムラグももう少し何とかしてほしいものです)ですが、特許電子図書館システムの審査書類情報照会から包袋情報を見て、公開公報に最後に行なわれた補正を適用することで、最終的に特許公報がどうなるのかがわかります。

最初のクレームは以下のようになっています(権利内容には直接関係ないですがちょっとめずらしいクレームの書き方です、まあこっちの方がわかりやすいと言えばわかりやすいのですが)。

【請求項1】
つぎの事項(11)〜(16)により特定されるコンピューター情報処理の方法。
(11)インターネット上のアフィリエイトサーバーが、利用者の携帯端末、広告媒体サイト、広告主サイト、ICカード読取装置(以下、R/W)と連携して実行するコンピューター情報処理の方法であること
(12)前記R/Wは、広告主指定場所に設置されていて、利用者の携帯端末に搭載された非接触式のICカードと通信可能であること
(13)第1プロセスでは、携帯端末が広告掲載サイトにアクセスして広告バナーをクリックした際、携帯端末を広告主サイトにリダイレクトして広告主サイトから携帯端末に前記広告主指定場所に関する情報を送信させるととともに、前記携帯端末のID(以下、端末ID)を前記広告媒体サイトの識別子と前記広告主サイトの識別子およびアクセス日時と対応づけしたデータを第1プロセス記録として保存すること
(14)第2プロセスでは、前記R/Wが利用者の携帯端末のICカードと通信して当該ICカードのID(以下、カードID)を読み取った際、当該カードIDと当該R/WのID(以下、リーダID)とアクセス日時を対応づけしたデータを第2プロセス記録として保存するとともに、当該カードIDと当該リーダIDをパラメータとして付加してなる特定URLを前記R/Wから前記携帯端末に送信させること
(15)第3プロセスでは、前記特定URLを受信した携帯端末がその特定URLにアクセスした際、当該携帯端末の端末IDを前記カードIDおよび前記リーダIDとともに取得し、これら端末IDとカードIDとリーダIDとアクセス日時を対応づけしたデータを第3プロセス記録として保存すること
(16)第4プロセスでは、第3プロセス記録と第2プロセス記録を照合し、カードIDとリーダIDの組み合わせが一致する記録が存在し、かつ、第3プロセス記録のアクセス日時のほうが新しい場合、その第3プロセス記録を妥当な第3プロセス記録として抽出し、この妥当な第3プロセス記録と第1プロセス記録を照合し、当該第3アクセス記録よりアクセス日時が古くて端末IDが一致する第1プロセス記録が存在する場合、当該端末IDの携帯端末の利用者が当該第1プロセス記録中の広告媒体サイトにて前記広告バナーをクリックした後に前記広告主指定場所に来場したものと判定し、この来場判定に基づいて前記広告媒体サイトに対する広告報酬量を更新すること

一般的には、クレームが長い(構成要素が多い)特許の権利範囲は狭いのですが、この手のビジネスモデル実装型の情報システム特許の場合、必ずしもそうでもなくて上記の(11)〜(15)まではたぶん普通に実装するとこういうやり方にせざるを得ないのであまり関係なくて、ポイントは(16)ということになるような気がします(さらっとしか見ていないので「気がする」レベルです)。

あるO2Oシステムがこの特許権を侵害する(技術的範囲に属する)かの判定には、慎重な検討が必要と思われます。

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『インテンション・エコノミー』とは何なのか?

拙訳『インテンション・エコノミー』4/14の日経朝刊の書評欄で扱われました。「インターネット社会の進展で顧客の情報収集能力が飛躍的に高まり、従来の供給者側からの消費行動分析は通用しなくなるというのが本書の主張だ」と的確にまとめられています。

また、新宿紀伊国屋に行ったら、マーケティング書コーナーで田原総一朗編集の『AKB48の戦略! 秋元康の仕事術』の隣に平積みになってました。

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ありがたいことではあるのですが、この本はいわゆるマーケティング入門書ではなく、すらすら読めてすぐにマーケティングの最新動向がわかりますよというタイプの本ではないのでちょっと心配です。

本書は、現在騒がれているビッグデータやソーシャルの先にあるパラダイム・シフト、そして、それに伴う「ブルーオーシャン市場」について書いています。なので、「さあこうしましょう」という答が書いてあるわけではありません。「こうなるかもしれないけど、さあどうする?」、言わば「答を見つけるための本ではなく、新たな質問を探す」ための本です(この言い回しはTeradata社CTOのStephan Brobstのパクリです)。

インテンション・エコノミーはアテンション・エコノミーのもじりです。アテンション・エコノミーとは顧客の関心(アテンション)が重要な財になっている経済です。顧客の関心を引くために「ビッグデータ」を分析してターゲット広告したり、コンテンツのパーソナライズをしているのが現在の中心的なものの売り方です。先進的なようでいて、売り手が推測作業に基づいて顧客の関心を惹こうとしているという点で基本的なモデルは、過去からあるマスメディアと同じです。

そうではなくて顧客の意図(こういう製品を買いたい、こういうコンテンツならいくら払ってもいい、こういう契約条件ならサービス使ってもいい)を、売り手側にダイレクトに知らせて、それに応えられる企業が顧客に売るというのが『インテンション・エコノミー』の基本的考え方です。

この概念を一枚で表すにはどうしたらよいかと思いましたが、原書は図が結構少なく、適当な代表図がありません。本書の著者Doc Searlsとは直接関係ない独立系コンサルタントのDavid Cushmanという人が、著者のハーバードでの研究成果にインスパイアされてブログに書いた絵がわかりやすかったのでここで引用します。

IntentionEconomy

 

「プライスラインの逆オークションとかセス・ゴーディンの『パーミッション・マーケティング』みたいなもんなんなじゃないのと思われる方もいらっしゃると思いますが、方向性としてはまさにその通りです。ここでのポイントは、それを特定のサービスや特定企業で閉じた世界で行なうのではなく、よりオープンな枠組みで行なうということです(たとえば、コンテンツ配信の世界でRSSが果たしいているような役割です)。そのために、CRMならぬVRM(Vendor Relationship Management)というプラットフォームが提言されています(VRMについては回を改めて詳しく書きます)。

前も書いたように、本書は著者に独特のちょっとペダンティックなスタイルで書かれている(一部、ポエムっぽいところもあります)のでちょっとわかりにくい部分もあります(訳者としてもがんばりましたが、原文からあまりに逸脱した「超訳」をするわかにもいかないので)。ちょっと読みこなすのは骨が折れるかもしれません。(前述の日経の書評でも「米国の事例をもとにしているために理解に時間がかかる」と書いてありますが的確な指摘だと思いますw)。

また、本書では、スティーブ・ジョブズに対する著者の見方や、著者のブロードバンド(通信事業者がコントロールするネット)に対するdisりっぷり等、インテンション・エコノミーとは直接関係ない話も満載です。

というわけで、本ブログで何回かにわけて『インテンション・エコノミー』の解説をしていこうと思います。できれば、本を手許において参照しながら読むとわかりやすいのではないかと思います(ステマです)。

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クールジャパン:コンテンツ特区って何なんだ?

クールジャパン推進会議の「ポップカルチャー分科会」議長の中村伊知哉先生が、日本のポップパワー発信10策というたたき台アイデアを公開されています。

案の定、「コンテンツは自然発生的に流行っていく物であって、政府が余計な手を出すものではない」というような批判の声が聞かれています(なんて話は元々はクリエイター側にいた中村先生はよくご存じの上でやられていると思いますが)。

私としては、何らかの形での支援はあってもよいと思います。フランスなど諸外国も何らかの形で政府がアーティストに援助をしています。クリエイターではなく、コンテンツオーナーに金が回るような援助は勘弁して欲しいですが。

この手のコンテンツ政策の重要なところは短期的かつ金銭的な収益だけではなくて、長期的に見た国のイメージ向上に結びつくという点があります。たとえば、ハリウッド映画が世界中に与えているプロパガンダ効果は無視できないでしょう。

めちゃくちゃ昔(20年ほど前)になりますが、日本の技術力が米国の産業を脅かしているといういわゆる「ジャパンバッシング」論が盛んだったころ、私は米国にちょうど留学していたのですが、世の中が全体的にアンチ日本に傾く中で、日本びいきの教授もいて、たいていそういう人は寿司好きでした。まあ、寿司が好きだから日本びいきになるのか、日本びいきだから寿司好きになるのかわかりませんが。

以前、某調査で北京で中国の中学生にインタビューした時に、「日本に悪感情持ってる人はいるか?」と聞いたら「そういう人はいないことはないけどみんな日本の音楽は好きだ」みたいなことを言ってJ-POP(確か宇多田ヒカル)の入ったケータイを見せてくれました。そういう子供たちの何人かが将来政治家になって日本との外交を司ったりするわけです。日本(のカルチャー)好きであってもらうことはきわめて重要です。

アイデア全体へのコメントについては、もうタイミング的には遅いですが、もう少しまとまってから何らかの形で発表しようと思います。

ただ、一点だけ今書いておきたいことがあります。

[10]京都、沖縄などの地域やコミケ、ニコニコ超会議、沖縄国際映画祭などのイベントを10件、国際ポップカルチャー特区として認定し、二次創作や税制等の特例措置を講ずる。

この話に限らず「コンテンツ特区」という政策が提案されることがありますが、意味があるのでしょうか?特区というと、大ざっぱに言えば経済政策的な観点から地方自治体ないし政府が地域限定で実験的に特別なルールを決めるということだと思います。行政対国民の関係を特別に決める特区ならば意味があります。たとえば特定地域では学校の授業を全部英語にするとか、カジノを合法化する、税制優遇措置を取る等々です。

しかし、著作権については、行政対国民ではなく国民(権利者)対国民(ユーザー)の構造になりますので特区という考え方自体がなじまないと思います。たとえば、特定地域ではフェアユースによる二次創作を認めるといっても、これを行政が勝手に決めたら権利者はたまりません。もちろん著作権法改正まで突っ込んでやるのなら別ですが。

特定の権利者の許諾の元に地域限定で何かをやるということであれば、これは、地域限定の著作権ライセンスをしただけということになので何ら特別の話ではありません(それも含めて「特区」という言葉で呼んでいるのなら別ですが)。

以前「メタバース特区」(やや黒歴史)という件をちょっと手伝っていたときも、結局、キャラクターの使用については個別に権利者に許諾を取るという話だったので、なぜこれが「特区」なのと思ってしまったことがあります。

そもそも、特区という発想自体が地域にしばられた、ネット以前の発想という気がします。こういう発想にとらわれていると「インパク」みたいになってしまうリスクがあるかと思います。

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Jawbone UPの100件の特許について

Jawbone社のUPという健康管理用リストバンドがちょっと話題になっています。

モーションセンサー内蔵で利用者の運動や睡眠の状況を監視してくれるデバイスです。個人的にはブレスレット的なものを一日中付けているのがうざいのであまり関心はないのですが、ウェアラブル・コンピューティング時代の先駆けのひとつになる可能性もあると思います。

このUPに関するTech-On!の記事(無料登録制)でのJawbone社担当によると「製造方法だけで100以上の特許を取得した」そうです。

では、どういう特許があるのかと思ってAssignee=Jawboneで出願情報を検索しても全然ヒットしません(米国では法人が特許出願することはできないので「権利譲渡される人」で検索する必要があります)。

よく調べると、Jawbone社の正式名称はAliphComのようです、同社のリーガルのページに「Our official company name is “AliphCom dba Jawbone.” We are most often referred to as “Jawbone,” and sometimes as “AliphCom” or “Aliph.”」と書いてあります。dbaとは”doing business as”の略です。正式社名はAliphCom、通称、Jawboneということでしょう。また、AliphComの前はAliphという名称だったようです。

ということで、Assignee=AliphComあるいはAliphでサーチすると登録された特許(と意匠)が37件出てきます。さらに、他社から譲渡された登録済特許(と意匠)が39件出てきます(私が重複して数えてる可能性あり)。別名義で取得したものもあると思うので一概には言えないですが「製造方法だけで100以上の特許を取得した」はちょっと盛り気味な感じです(「取得した」に他社からのライセンスを受けているものや審査中のも含むのであればそうでもないかもしれないですが)。もちろん、UPが特許や意匠で守られているのは確かそうです。

余談ですが、Jawbone(AliphCom)社はもともとBuetoothヘッドセットのノイズキャセルテクノロジー(当然特許取得済)で成功した会社のようですが、そのテクノロジーはもともと軍事用途で国防省向けに開発したものであったようです(ネタ元はWikipedia)。

さらに話はちょっと変わりますが、以前も議論した話ですが、この手のウエアラブル製品って知る人ぞ知る段階の時はよいですが、ある程度普及してみんながやってる状態になると、他人とすぐかぶる状態はちょっといやな感じですよね(少なくとも私はそう)。色や模様のバリエーションは増えるのでしょうがそれでも限界はあります。その点で、Appleの”iWatch”が特許公報に書かれたようにバンド全面e-Paper、つまり、時計バンド自身を「スクリーンセーバー」としてカスタマイズできるものであるとするならば、これは大変魅力的ですし、ウェアラブル聞きにおける「ゲーム・チェンジャー」になるんじゃないかと思います。

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【雑談】読書用メガネを買ってみた

私はド近眼なので老眼の影響は比較的軽微なはずなのですが、それでも最近は結構細かい文字を読むのがつらくなってきました。PCのディスプレイや電子書籍端末では字をめちゃくちゃでかくして対応しているわけですが、紙の文書や書籍の場合は困ります。特に、法律系の書籍(例:判例百選)は字が細かい上、電子化されていないものが多いため難儀していました。

前にも書いたように、通常の眼鏡の上にかけるルーペであるハズキルーペというのを買ってそれなりに重宝していましたが、眼鏡オン眼鏡になるのでちょっと重いのと、ルーペなので拡大されて読書用にはかえって違和感がある(細かい作業をする分にはよいと思いますが)ので、眼科医のお勧めにしたがい読書用眼鏡を作ってみました。

普通の人だと老眼鏡ということになりますが、私の場合は元々がド近眼なので、敢えて近眼の度を落とした眼鏡ということになります。だいたい、視力0.2くらいで作るみたいです。そうすると、当然、遠方視界はぼやけますが、手元は確実に見えやすくなります。

この読書用眼鏡で紙の本を読むと、読書のスピードも上がりますし、全然疲れません。今まで結構無理していたんだなあということがよくわかります。ナリッジ・ワーカーにとって読書によるインプットが減るのは致命的だと思うのである程度の年齢の人で「最近なんか読書がおっくうである」という人は既に老眼になっている可能性があるので眼科医に行って相談してみた方がよいと思います。「自分が老眼になった」という事実を認めるのはいやかもしれませんが、そんな意地で人生における読書の機会を少なくするのは得策とは思えません。

読書用眼鏡のままでも室内で歩き回るくらいは平気です(車の運転は絶対無理ですが)。ただ、本とPCディスプレイを頻繁に往復するようなタイプの作業の時は、ディスプレイ側が見にくくなりますのでちょっとつらいです。これに対応するためには中近両用レンズということになるのですが、お値段も張りますし、眼科医の意見によれば、ディスプレイ作業をすると中と近(あるいは遠と近)の境目を頻繁に通ることになるのでめちゃくちゃ疲れるらしいです(実際に経験していないのであくまでもまた聞きレベル)。

検眼は眼科医でやりました(特に年配の方は、この機会に白内障・緑内障・加齢黄斑変性等の重大な病気のチェックをしてもらうためにも、眼科医で検眼してもらった方がよいと思います)。ちっこい文字が書いてある検眼表みたいの手に持ってその状態で一番快適なように作ってくれます。

実際の眼鏡の購入ですが、ZoffやJINSなどの若者向けの眼鏡屋は私に合う大きいサイズがないので(苦笑)、結局、通販で買いました。注文の時に眼科医の処方箋に書いてある数字を入力します。楽天のDirect Glass Labという店でかなり大きめサイズのをレンズ込みケース付きで5,000円弱。安いです。これだったら、自宅、職場、かばんの中と複数持っていてもよいかなと思いました(ステマではありません)。

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