【速報】知財高裁でアップルがサムスンに敗訴(たぶん大勢に影響なし)

東京地裁においてバウンスバック特許でサムスンに勝訴したばかりのアップルですが、今度は知財高裁の別件特許侵害訴訟で敗訴(侵害が認められず)というニュースがありました(参照記事)。

この裁判の第一審については以前に本ブログでも書いてます。PCとスマホ間の音楽同期に関する特許で、正直、これで侵害を主張するのはちょっと無理筋ではないかと思っていました。もし、判決文が公開されたら追記しますが、二審でも重要な争点になるようなポイントはあまりないような気がします。また、仮に侵害が認められたところで、スマホ本体の本質的機能ではないので影響はそれほど大きくないと思われます。

この裁判に関して興味深いのは、アップルがちょっと無理筋かつ非本質的と思われる特許でも最後まで徹底的に戦う姿勢を取っているということで、やはりサムスンに対しては「ガチンコ」なのだなあという点であります(担当の弁護士・弁理士先生はお忙しくて何よりだなあとも思います)。

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魅力が薄れつつある2-in-1 PC

インテルは、ノートPCとしてもタブレットとしても使えるコンバーチブル型のデバイスを2-in-1という名称で統一して推進していくらしいです(参考記事)。従来型PCの市場規模は右肩下がり、これに対してタブレット型デバイスは急成長という状況を見れば当然の戦略と言えます。

私も(他の多くの人も同様だと思いますが)この手のデバイスは嫌いではなく、TC1100というHP(Compaq)のタブレットPC機を割と最近まで使ってました。たぶん、Surface ProもHaswell搭載モデルが出たタイミングで買うと思います。

と言いつつ、今日の状況では2-in-1デバイスの魅力は薄れつつあると思います。そもそも、過去にこの手のデバイスが魅力的だった理由としては以下があったと思います。

  1. デバイス数が増えるとファイル管理が大変
  2. 複数デバイスを買うより1台で済ませた方が安上がり
  3. 複数デバイスを持ち歩くより1台の方が軽い

まず、第一の点については、現在であれば主要ファイルはDropbox等でクラウド側に置くことが多いので同期の問題はあまり重要ではなくなってきました。そして、第二、第三の点についても、タブレットが安く・軽くなってますのであまり重要ではなくなってます。

今、携帯用デバイスを一から買うとして、2-in-1で行くか通常のノートPCとタブレットを両方買うかから選択すると後者の方が魅力的なケースが多いと思います。たとえば、Surface ProとType Coverキーボードを買うと約10万6千円、Mac Book Air(+Win7)とiPad Miniを買うと約14万円(Officeライセンスを買うともっと高くなります)。重量は前者が約1.1Kg、後者はMBA単独で約1.1Kg、タブレットと両方持ち歩いても1.4Kgです。

どっちが安くて軽いかといえば2-in-1になるでしょうが、通常PC+タブレットの組み合わせで適材適所で使い分けた方が、エクスペリエンス的には優れていると思う人の方が多いんじゃないかと思います。

統合型システムの方が良いか目的別システムの組み合わせの方が良いかというのは一義的に決まるものではなく、テクノロジー環境の変化によってサイクリックに変わっていくものです(たとえば、今のサーバの世界では統合型システムに向かう動きが明らかです)が、少なくとも、クライアント・デバイスの世界ではタブレットと従来型PCの複数持ちの方が現時点では魅力的な気がします。

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日本でもバウンスバック特許でアップルが勝訴

米国特許庁が、アップルのバウンスバック特許(US7469381)の再審査において、先の判断を覆して(重要クレームの)有効性を認めたことについては先日書きました。そして、直接的な関係はないと思いますが、東京地裁においても、日本における同等特許(特許4743919号)をサムスンが侵害している旨の中間判決が言い渡されました(参考記事)。

まだ、侵害が認定されただけで、損害賠償額についてはこれからということになります。また、何回か書いているように、現行のAdnroid製品では、リストやページスクロールの終わりをアップルとは違う(やや洗練性に欠ける)UI(下の写真参照)で実現していますので、差止めという状況には至らないと思われます。

この特許については、先日私も傍聴してきた無効審判が進行中で、もうすぐ審決が出る(ひょっとするともう出ている)はずです。傍聴した上での印象論として「日本では無効になるとは限らないような気がします」と書きましたが、やはり無効にはならなかったようです。もし無効になるのであれば、特許権が無効にされるべきと認められる場合には権利行使できないとの規定(104条の3)により侵害が認定されることはないはずだからです。

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NetAppのクラウド戦略について(2)

ちょっと間に知財系の記事がはさまってしまいましたが前回の続きです。

まずは一般的な話ですが、インフラ系ベンダーにとってクラウド事業者は顧客にも競合にもなり得るため、うまくバランスを取った戦略が必要です。また、一口にクラウド事業者といっても様々なタイプがありますので、適切な市場カテゴリー分けを行なうことも重要です。

NetAppはクラウド事業者を以下の3カテゴリーに分類して、それぞれに向けた戦略立案をしています(このカテゴリー分けはなかなかナイスだと思います)。

  1. Buy&Operate型:市販のストレージや運用ソフトを買ってホスティング的なサービスを提供する事業者。多くの「クラウド」事業者はこのタイプ。
  2. HyperScalar型: 超大規模水平スケーリングでローコスト/超高スケーラビリティのサービスを提供する事業者。ここに属するプレイヤーはGoogle、Amazon、Aziureと限られています。基本的にインフラを自社開発する傾向が強いです。
  3. OpenSource型 :上記のHyperSclar型事業者の開発成果(OpenStack等)を活用して、それほど大規模ではないが柔軟性が高いサービスを提供する事業者。RackspaceやHPのクラウドがこのタイプです。

Buy&Operate側のクラウド事業者はインフラ系ベンダーにとって重要な顧客になり得ます。NetAppにとってもここは重要市場であり、日本ではSoftBankやIIJなどのレファレンス・アカウントがあります。

そういえば大昔にソフトバンクのホワイトクラウドを取材した時にソフトバンクの担当者の方がNetAppのストレージについて「クラウドの運用形態にベストマッチ」と高く評価していたのを思い出しました(その時はオフレコなので記事には書かなかったですが)。

さて、インフラ系ベンダーにとってやっかいなのはHyperScalar型事業者です。これらの事業者はインフラを自前で作る、あるいは、コモディティ化した製品しか買わないのが基本なので、直接的な顧客になりにくい一方で強力な競合になり得ます。たとえば、企業ユーザーが自社データをS3で管理し始めると、ストレージ系ベンダーは市場を食われてしまいます。

この問題に対するNetAppの興味深い解決策がNetApp Private Storage for AWSです。

コンピューティング能力としてはAmazon EC2を使用し、ストレージはAmzonのデータセンターの近くにあるNetApp社のデータセンターにハウジング(コロケーション)して管理します。

これによって、ユーザーは企業はEC2の柔軟な拡張性を享受しつつ、自社データを完全に管理下に置くことができます。また、AmazonのデータセンターとNetAppのデータセンター間はAWS Direct ConnectによりVALN接続されますので、両データセンターが近くにあることも相まってレイテンシとセキュリティの問題も最小化できます。

aws

なかなか現実的でナイスなソリューションだと思います。AWSとのパートナーシップでこのようなソリューションを実現しているのは現時点ではNetAppのみだそうです。

このソリューションは今年の1月に日本でも発表されており、先日のAWS Summitでも公開されていたようです(私はちょっと仕事が詰まってて行けませんでした。無理しても行っておけばよかったと思ってます。)

次回はフラッシュ戦略の予定です。

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選挙カーで「あまちゃん」の音楽を流すのは著作権法的にどうなのか

都議選の一部候補者が選挙カーでNHKドラマ「あまちゃん」のテーマ曲を流したことに対して著作権侵害ではないかとの指摘があり、候補者が使用を取りやめたという事件がありました(参照記事1(朝日新聞)、参照記事2(共同通信))。

ここでは、倫理的問題は別にして、著作権法的にどうなのか検討してみます。

著作権法には非営利・無料・無報酬の上演・演奏・上映・口述は著作権の許可がなくても自由にできる旨の規定があります。これがあるのでたとえば学園祭等での演奏は(入場料を取らない限り)JASRACの許諾を得ることなく自由に行なうことができます。

第38条1項 公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

選挙カーで他人の音楽の著作物を流すことが、このケースに当たるかどうかがポイントです。

一般にCD音源を流すのは著作権法上は演奏にあたります(2条7項)。無料・無報酬という条件は当然に成り立ちますので、結局、この問題は選挙活動が営利目的にあたるかどうかという点に帰着します。なお、直接的な商売でなくとも、たとえば、商店街が宣伝のために行なう上演・演奏等であれば営利目的にあたるとされています。

上記の朝日新聞の記事では「日本音楽著作権協会(JASRAC)によると、作曲者の許可を得ずに使えば、著作権法に違反するという」とされています。と言いつつ、少し前のYahoo!知恵袋エントリーによると、JASRACに質問したところ選挙活動は非営利なので問題ないとの回答が得られているそうです(ひょっとすると朝日新聞の記事で引用されているJASRACの見解は一般論であって選挙カーでの音楽の使用という話ではないのかもしれません)。また、共同通信の記事では「著作権法に抵触する恐れがある」と断定を避けた言い方になっています。

選挙活動は営利目的かそうでないかの解釈は確定していないように思われます(月曜に事務所に行ったらもうちょっと調べてみます)。

ただ、選挙活動は非営利であるという解釈をしてしまうと、38条1項は上演だけではなくて上映にも適用されるので、たとえば、選挙演説会の客寄せに映画やアイドルのDVDをスクリーン上映するのもOKになってしまい、個人的にはこの解釈はまずいのではないかと思います。(なお、38条1項は複製や公衆送信には及びませんので、録画したTV番組を上映したり、ネット配信で他人の音楽を使用したりのケースには適用されませんので念のため(ネット配信は今のところ公職選挙法の方が問題になりそうですが))。

追記: twitter等で「著作者人格権の検討が必要ではないか?」との指摘を受けたので検討します。著作者人格権で関係があるとすると、113条6項のみなし侵害規定と思われます。

113条6項 著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす。

ここで「名誉声望を害する」というのは客観的にそうであることが必要とされており、著作権者自身が「名誉を害されたと感じる」程度では足りません(これに対して、同一性保持権については「著作者の意に反して」という要件だけで足ります)。著作者(大友良英氏)が普段から思想的に対立している候補者に作品を使用された等々の事情でもあればともかく、単に選挙カーで使用されただけでは113条6項は適用されないと思います。(そもそも、最初に著作者人格権について検討しなかったのは、このケースでは著作者人格権は問題にならないと思ったからであります)。

なお、念のため書いておくと、著作者(大友良英氏)が「利用をやめてくれないか」と候補者側に「お願い」して、候補者側がそれを尊重して自主的に利用をやめるのは全然問題ありません(法律が関係する以前の段階の人と人との間の礼儀の話です)。

しかし、twitter等では著作者人格権の侵害になるという意見が散見されるようですす。その多くはねとらば(ITmedia)の記事の以下の記載(太字は栗原による)に基づいているようでした。

日本著作権協会(JASRAC)に聞いたところ、まずクリアしなければいけないのは「著作者人格権」。「著作者の名誉・声望を害するような著作物の利用」は著作者人格権を侵害する行為とみなされるため、事前の許諾が必要。大友さんが「政治的なものに使わないで!」と申し出れば、選挙カーでの利用はNGとなるようです。

著作者人格権はJASRACの業務外の話なので、思いっきり安全側に振った見解(あるいはITmedia記者の聞き違い?)とは思いますが、もし本当にそうだとすると、たとえば、作曲家が「私のハイレベルな音楽を安居酒屋や風俗店で流されて著作者人格権を侵害された」と有線放送事業者を訴えたりできてしまいますので、JASRACの実務上大問題だと思うのですが大丈夫なのでしょうか。

と言いつつ、同記事を見て重要なポイントを書き忘れていたのに気づきました。「あまちゃん」テーマ曲のCDを流しているという前提で書いてましたが、テープやICレコーダー等にいったん録音したものを流している可能性があります(へたするとテレビからの録音の可能性もあります)。この場合には、前述のとおり、38条1項の規定は複製行為には及びませんし、30条の私的使用目的複製の要件も満たしませんので、複製権の侵害ということになってしまいます。

追記^2:はてブの情報によると(少なくとも一部の候補者は)iTunesでダウンロードした音源を使用したらしいです。その場合には、少なくともiTunesのサービス規約の「(i)お客様には、個人的、非商用目的に限って本iTunes商品を利用される権限が与えられるものとします」への違反になるでしょう。そして、契約上認められた利用ではないのですから上記の複製権侵害の問題についても同様だと思います。

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