NetAppのクラウド戦略について(2)

ちょっと間に知財系の記事がはさまってしまいましたが前回の続きです。

まずは一般的な話ですが、インフラ系ベンダーにとってクラウド事業者は顧客にも競合にもなり得るため、うまくバランスを取った戦略が必要です。また、一口にクラウド事業者といっても様々なタイプがありますので、適切な市場カテゴリー分けを行なうことも重要です。

NetAppはクラウド事業者を以下の3カテゴリーに分類して、それぞれに向けた戦略立案をしています(このカテゴリー分けはなかなかナイスだと思います)。

  1. Buy&Operate型:市販のストレージや運用ソフトを買ってホスティング的なサービスを提供する事業者。多くの「クラウド」事業者はこのタイプ。
  2. HyperScalar型: 超大規模水平スケーリングでローコスト/超高スケーラビリティのサービスを提供する事業者。ここに属するプレイヤーはGoogle、Amazon、Aziureと限られています。基本的にインフラを自社開発する傾向が強いです。
  3. OpenSource型 :上記のHyperSclar型事業者の開発成果(OpenStack等)を活用して、それほど大規模ではないが柔軟性が高いサービスを提供する事業者。RackspaceやHPのクラウドがこのタイプです。

Buy&Operate側のクラウド事業者はインフラ系ベンダーにとって重要な顧客になり得ます。NetAppにとってもここは重要市場であり、日本ではSoftBankやIIJなどのレファレンス・アカウントがあります。

そういえば大昔にソフトバンクのホワイトクラウドを取材した時にソフトバンクの担当者の方がNetAppのストレージについて「クラウドの運用形態にベストマッチ」と高く評価していたのを思い出しました(その時はオフレコなので記事には書かなかったですが)。

さて、インフラ系ベンダーにとってやっかいなのはHyperScalar型事業者です。これらの事業者はインフラを自前で作る、あるいは、コモディティ化した製品しか買わないのが基本なので、直接的な顧客になりにくい一方で強力な競合になり得ます。たとえば、企業ユーザーが自社データをS3で管理し始めると、ストレージ系ベンダーは市場を食われてしまいます。

この問題に対するNetAppの興味深い解決策がNetApp Private Storage for AWSです。

コンピューティング能力としてはAmazon EC2を使用し、ストレージはAmzonのデータセンターの近くにあるNetApp社のデータセンターにハウジング(コロケーション)して管理します。

これによって、ユーザーは企業はEC2の柔軟な拡張性を享受しつつ、自社データを完全に管理下に置くことができます。また、AmazonのデータセンターとNetAppのデータセンター間はAWS Direct ConnectによりVALN接続されますので、両データセンターが近くにあることも相まってレイテンシとセキュリティの問題も最小化できます。

aws

なかなか現実的でナイスなソリューションだと思います。AWSとのパートナーシップでこのようなソリューションを実現しているのは現時点ではNetAppのみだそうです。

このソリューションは今年の1月に日本でも発表されており、先日のAWS Summitでも公開されていたようです(私はちょっと仕事が詰まってて行けませんでした。無理しても行っておけばよかったと思ってます。)

次回はフラッシュ戦略の予定です。

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選挙カーで「あまちゃん」の音楽を流すのは著作権法的にどうなのか

都議選の一部候補者が選挙カーでNHKドラマ「あまちゃん」のテーマ曲を流したことに対して著作権侵害ではないかとの指摘があり、候補者が使用を取りやめたという事件がありました(参照記事1(朝日新聞)、参照記事2(共同通信))。

ここでは、倫理的問題は別にして、著作権法的にどうなのか検討してみます。

著作権法には非営利・無料・無報酬の上演・演奏・上映・口述は著作権の許可がなくても自由にできる旨の規定があります。これがあるのでたとえば学園祭等での演奏は(入場料を取らない限り)JASRACの許諾を得ることなく自由に行なうことができます。

第38条1項 公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

選挙カーで他人の音楽の著作物を流すことが、このケースに当たるかどうかがポイントです。

一般にCD音源を流すのは著作権法上は演奏にあたります(2条7項)。無料・無報酬という条件は当然に成り立ちますので、結局、この問題は選挙活動が営利目的にあたるかどうかという点に帰着します。なお、直接的な商売でなくとも、たとえば、商店街が宣伝のために行なう上演・演奏等であれば営利目的にあたるとされています。

上記の朝日新聞の記事では「日本音楽著作権協会(JASRAC)によると、作曲者の許可を得ずに使えば、著作権法に違反するという」とされています。と言いつつ、少し前のYahoo!知恵袋エントリーによると、JASRACに質問したところ選挙活動は非営利なので問題ないとの回答が得られているそうです(ひょっとすると朝日新聞の記事で引用されているJASRACの見解は一般論であって選挙カーでの音楽の使用という話ではないのかもしれません)。また、共同通信の記事では「著作権法に抵触する恐れがある」と断定を避けた言い方になっています。

選挙活動は営利目的かそうでないかの解釈は確定していないように思われます(月曜に事務所に行ったらもうちょっと調べてみます)。

ただ、選挙活動は非営利であるという解釈をしてしまうと、38条1項は上演だけではなくて上映にも適用されるので、たとえば、選挙演説会の客寄せに映画やアイドルのDVDをスクリーン上映するのもOKになってしまい、個人的にはこの解釈はまずいのではないかと思います。(なお、38条1項は複製や公衆送信には及びませんので、録画したTV番組を上映したり、ネット配信で他人の音楽を使用したりのケースには適用されませんので念のため(ネット配信は今のところ公職選挙法の方が問題になりそうですが))。

追記: twitter等で「著作者人格権の検討が必要ではないか?」との指摘を受けたので検討します。著作者人格権で関係があるとすると、113条6項のみなし侵害規定と思われます。

113条6項 著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす。

ここで「名誉声望を害する」というのは客観的にそうであることが必要とされており、著作権者自身が「名誉を害されたと感じる」程度では足りません(これに対して、同一性保持権については「著作者の意に反して」という要件だけで足ります)。著作者(大友良英氏)が普段から思想的に対立している候補者に作品を使用された等々の事情でもあればともかく、単に選挙カーで使用されただけでは113条6項は適用されないと思います。(そもそも、最初に著作者人格権について検討しなかったのは、このケースでは著作者人格権は問題にならないと思ったからであります)。

なお、念のため書いておくと、著作者(大友良英氏)が「利用をやめてくれないか」と候補者側に「お願い」して、候補者側がそれを尊重して自主的に利用をやめるのは全然問題ありません(法律が関係する以前の段階の人と人との間の礼儀の話です)。

しかし、twitter等では著作者人格権の侵害になるという意見が散見されるようですす。その多くはねとらば(ITmedia)の記事の以下の記載(太字は栗原による)に基づいているようでした。

日本著作権協会(JASRAC)に聞いたところ、まずクリアしなければいけないのは「著作者人格権」。「著作者の名誉・声望を害するような著作物の利用」は著作者人格権を侵害する行為とみなされるため、事前の許諾が必要。大友さんが「政治的なものに使わないで!」と申し出れば、選挙カーでの利用はNGとなるようです。

著作者人格権はJASRACの業務外の話なので、思いっきり安全側に振った見解(あるいはITmedia記者の聞き違い?)とは思いますが、もし本当にそうだとすると、たとえば、作曲家が「私のハイレベルな音楽を安居酒屋や風俗店で流されて著作者人格権を侵害された」と有線放送事業者を訴えたりできてしまいますので、JASRACの実務上大問題だと思うのですが大丈夫なのでしょうか。

と言いつつ、同記事を見て重要なポイントを書き忘れていたのに気づきました。「あまちゃん」テーマ曲のCDを流しているという前提で書いてましたが、テープやICレコーダー等にいったん録音したものを流している可能性があります(へたするとテレビからの録音の可能性もあります)。この場合には、前述のとおり、38条1項の規定は複製行為には及びませんし、30条の私的使用目的複製の要件も満たしませんので、複製権の侵害ということになってしまいます。

追記^2:はてブの情報によると(少なくとも一部の候補者は)iTunesでダウンロードした音源を使用したらしいです。その場合には、少なくともiTunesのサービス規約の「(i)お客様には、個人的、非商用目的に限って本iTunes商品を利用される権限が与えられるものとします」への違反になるでしょう。そして、契約上認められた利用ではないのですから上記の複製権侵害の問題についても同様だと思います。

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【速報】アップルのバウンスバック特許が無効を回避

FOSS Patentsの情報によれば、再審査においてほとんどのクレームが無効との通知が出ていた(関連ブログ記事1記事2)アップルのUS7,469,381特許、通称、バウンスバック(ラバーバンド)特許ですが、その一部のクレームについて米国特許商標局が意見を再び覆し、一部のクレームが再度有効と判断されました。そして、その有効と判断されたクレームの中に、昨年のカリフォルニア北地裁の判決でサムスンが侵害したとの判決が出ているクレーム19が含まれているそうです。

改めて説明しておくと、バウンスバックとは、リストやページをタッチでスクロールしていって最終の位置に達するとそれ以上先に行きそうで行かない状態になり、指を離すと跳ね返ったように戻るという、iOSデバイスで典型的な挙動です。ページやリストの終わりを直感的にユーザーに知らせられる優れたUXだと思います。

サムスン的には持ち上げられて、また落とされたという感じでしょうか。と言いつつ、カリフォルニア北地裁判決での賠償金額の大部分は意匠権に関するものであり、本特許に関連する賠償金額は(相対的には)それほどでもないこと、および、現行製品は別の(ちょっと変な)UIを使用してバウンスバック特許を回避していることから致命的打撃というわけではないと思います。

バウンスバック特許は以前にも再審査を受けており、そこでも有効と判断されていることから、有効性についてはかなり堅い特許になったと言えそうです。

この記事は空港の待ち時間で書いているので細かい話は追って追加しますが、アップル対サムスンのガチンコ勝負の先行きはまたわからなくなってきました。私が先日傍聴した日本における同等特許(4743919号)の無効審判の審決もそろそろ出る頃ですが、そちらもどうなるか興味津々です(タイミング的に米国の再審査の結果が影響を与えることはないでしょうが)。

個人的に言えば、バウンスバック特許は「言われてしまえば当たり前だが言われるまで気がつかなかった」、「あるとないとでは大違い」、「実際に権利行使できた」という点で価値が高い特許であるとブログに書いたり、セミナーで話してたりしたいたので、無効ということになるとちょっとカッコ悪かったわけですが、そのような事態は回避されそうでよかったです。

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【速報】ついに出てしまった非破壊型書籍スキャナーScanSnap SV600

ScanSnapの新モデルが出たということで「この前出たばっかりなのに..」と思ったらなんと非破壊型(裁断なしで本を開いたままでスキャンできる)でした(参照記事)。

(写真はPFUのサイトより)

見開きにした本の湾曲を自動的に補正する「ブック補正」や、スキャン時にページをめくったことをセンサーで自動検出し連続スキャンできる「ページめくり検出」機能などが用意されており、高品質なスキャンデータを簡単に制作できる。読み取り速度は1枚当たり約3秒以下。

だそうです。300ページの本だと見開きでスキャンして約7分、ちょっと面倒ですが、ただページをめくっていくだけの作業なので音楽でも聴きながらやればすぐできそうです。少なくとも通常のフラットベッドスキャナーでスキャンするよりははるかに楽です。価格は59,800円、時がたてばもっと安くなるでしょう。大きさは210(幅)×156(奥行き)×383(高さ)ミリ、重量は約3キロなので、それほどかさばるわけではありません(はっきり言って裁断機の方がかさばります)。

自炊したくとも本を裁断するのがはばかられるケースも多いと思いますので、このような商品を待ち望んでいた人も多いのではないでしょうか?

この手の製品は今までもありましたが、自炊電子書籍用のスキャナーとして使うには画質の点で問題があったようです。しかし、今回の製品はScanSnapのブランドで出すのですからその辺は大丈夫でしょう(私は、一応、誰かの実機レビューを待ってから買いますが)。

では、この製品が著作権法的に見てどうなのか検討してみます。

著作権法的に言うと裁断するかしないかは関係ないので、従来型スキャナーであっても、非非破壊型スキャナーであっても複製は複製ということになります。つまり、自分で使う目的で自分でスキャンする分には合法、サービス事業者が他人のためにスキャンするのは現状のスキャン代行業と同じで(権利者の許諾がない限り)違法の可能性が高いということになります。なお、本が自分の所有物である必要はありません。

非破壊型スキャナーで問題になり得るのは、著作権法30条(私的使用目的複製)の例外になっている「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて複製する場合」のさらに例外として附則5条の2で「当分の間、これらの規定に規定する自動複製機器には、専ら文書又は図画の複製に供するものを含まないものとする」とされているので、たとえば、中古本買取店の店頭に非破壊型スキャナーを置いて客がスキャンしたらすぐ原本を買い取る商売も(倫理的問題は別として)著作権法上はOKになってしまいます。カラオケ法理によって店が複製の主体とされる可能性はありますが、だとしてもパチンコの3店方式のようにすれば回避されてしまうでしょう)。

附則5条の2を廃止せよと言う話は前からありましたが、再燃する可能性もあるかと思います。

もちろん、仮に店頭使用が違法になったところで、自分の家でのスキャンを禁止することはできないので、本を買ってスキャンして元の本を中古書店に売って(以下繰り返し)は合法的に行えます(これまた倫理的問題は別)。今までも裁断本は同じことができていたわけですが、今回はページをめくっただけのさらの本でできてしまうので影響は甚大でしょう。

初めて消費者向けのCD-Rライターが登場したとき、レコード業界の中の人が「悪魔の機械」と呼んだのを(リアルに聞いたのを)覚えていますが、出版業界の中の人にとって非破壊スキャナーも同じではないかと思います。

では、どうすればよいかというと、手元に原本を置いておきたくなるような装丁の本を作る、電子書籍を安くする(スキャンしてOCRする手間とOCRエラーを加味すれば、電子書籍を買った方が得という価格設定にする)、そして、やや禁じ手ですがフィジカルなおまけをつけるくらいしかないのではないかと思います。

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NetAppのクラウド戦略について(1)

今、シリコンバレーのNetApp本社で開催されているアナリストイベントに来ています。

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以降、何回かにわけてNDAに違反しない範囲で同社の戦略のポイントを分析していこうと思います。ストレージというと地味な印象もありますが、実は非常にエキサイティングな分野のひとつであります。そう言えば、ちょっと前にPublickeyの新野さんと立ち話した時に「今、エンタープライズIT分野でおもしろい分野はどこでしょうかね?」という質問に「ストレージですかねえ」なんて答が帰ってきたりしましたね。

さて、NetAppが挙げるストレージの重要トレンドは以下のとおりです。

  1. フラッシュ
  2. SDDC(Software Defined Data Center)
  3. クラウド
  4. コンバージド・インフラストラクチャ
  5. モバイル
  6. ビッグデータ

です。特に、クラウドにおける同社の戦略には興味深いものがありました。戦略の内容そのものについて触れる前に、一般的にエンタープライズにおけるクラウドの計画でストレージがきわめて重要である理由について述べておきましょう。

簡単に言えばコンピューティングの移動は簡単だがデータの移動では簡単ではないということです。

たとえば、クラウド上でHadoopを使って2TB のデータを1分で処理できるソリューションがあったとします。これを使ってオンプレミスのシステムをオフロードできるかもしれないと思っても、分析対象のデータがオンプレミスにあったとすれば、クラウドへの2TBデータの移動だけで半日以上かかってしまいます。データの処理が1分でできてもあまり意味はないですね。世界中どこでも処理ができるのがクラウドのポイントですが、大量データが絡むと現実的にはそういうわけにはいきません。

結局、データそのものをクラウドに置くか、それともオンプレミスとクラウドの両方に置くか(この場合両者の同期をどう取るかという新たな課題が生じます)、さらには、Hadoopの処理をクラウドでやるのはあきらめてオンプレミスでやるか(サーバの調達の問題が生じます)、等々の代替案を入念に検討する必要があります。

つまり(大容量のデータを使わない科学技術計算等をのぞき)エンタープライズのクラウドの全体設計においてはデータの配置がきわめて重要であり、その結果として、データの入れ物であるストレージでどのようなソリューションを使うかということが、重要な意思決定要素になることになるというわけです。

この領域で、NetAppが具体的にどのようなソリューションを提供しているかについては次回に書きます。

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