土屋アンナ問題に関する著作権的考察:出版社の立場について

やや旬を過ぎた感もありますが、土屋アンナの舞台中止問題において、原作本の著者が舞台制作の許諾をしていないということでもめている件の著作権法的考察です。

一般に、作家と出版社が出版契約を結ぶ時には、出版権の設定に加えて映画化等の二次的利用に関する処理の管理を出版社側に任せる(翻案権の譲渡ではありません)ことが多いです。書協(日本書籍出版協会)の契約書ひな形もそうなっています。

第3条(二次的利用)
本契約の有効期間中に、本著作物が翻訳・ダイジェスト等、演劇・映画・放送・録音・録画等、その他二次的に利用される場合、甲はその利用に関する処理を乙に委任し、乙は具体的条件について甲と協議のうえ決定する。

ということで、著者のあずかり知らないところで出版社が勝手に二次利用の話を進めてしまったというよくある話だろうということで、twitterでもその仮定に基づいた議論が行なわれていました(たとえば、このtogetter)。

しかし、J-CASTの記事によると、

なお、濱田さんの原作「日本一ヘタな歌手」を出した出版社の光文社では、「今般の舞台化につきましては関与しておりませんので、コメントは差し控えさせていただきます」(広報室)と取材に答えている。

ということなので、今回はそういう話ではなかったようです。と言いつつ、この舞台の制作発表の会場は光文社だったので「舞台化について関与していない」という主張には疑義が残ります。

また、出版契約によって、二次的利用の管理が出版社に委任されているとするならば、舞台制作側は著者と交渉するより先に出版社と交渉するのが通常であり、出版社が舞台化に関与していないこと自体がおかしいとも言えます。

この辺の事実関係ははっきりしません。

他にもいろいろ調べてみると、

というツイートや、「100枚チケット売れ 出演者にノルマも」なんて報道もあったりで、あまり著作権うんぬんを考察するような案件ではない気がしてきました。

とは言え、出版やその他の契約における翻案権の扱いは重要トピックだと思いますので、もっとふさわしい事例を使って後日改めて考察してみようと思います。

カテゴリー: 著作権 | コメントする

米国特許の再審査状況の調査方法について

アップルのピンチズーム特許(78454915)が米国特許庁(USPTO)の再審査において拒絶されたとのニュースがありました。その中身については別の機会に書きますが、これを例にとって、USPTOの再審査書類の検索方法について紹介します。

USPTOの審査情報をリアルタイムで検索するにはPublic PAIRというシステムを使います。基本的にすべての審査間連書類がリアルタイムで蓄積されている大変有用なデータベースです。

CAPTCHAを突破した後で検索する番号を入力します。今回は特許番号で検索するのでPatent Numberを選択し、特許番号(7844915)を入力します。

image

これで、この特許の出願、審査、査定に至るまでの全情報(俗に包袋(File Wrapper)と呼ばれます)が閲覧できるようになります。包袋を見るためにはImage File Wrapperのタブをクリックします。

image

ここから各書類の閲覧、および、PDFでのダウンロードが可能です。ちょっとわかりにくいのですが、DLする時は、DLしたい資料のPDFのコラムにチェックして、コラムヘッダ−になっているPDFのアイコンをクリックすると、まとめてダウンロードできます。ただし、PDFはイメージ形式なので文字列検索ができないのがつらいところです。

さて、審査情報はこれでよいのですが、今回は再審査の情報を調べなければなりません。これまたきわめてわかりにくいのですが、そのためには、Continuity Dataのタブをクリックします。

image

ここは、本来は分割出願や継続出願を表示するタブなのですが、再審査の情報もここに一緒に表示されてます(たぶん、後付けで機能追加したのでわかりにくくなっているのだと思います)。ここで、先頭の番号が90あるいは95のものが再審査の情報(コントロール番号)を表わします(なお、90が査定系(第三者の請求)、95が当事者系です)。90/012,332という番号があるので、それをクリックします(なお、コントロール番号が最初から分かっている時は最初の番号入力画面で入力すれば再審査情報に直接行けます)。

再審査の情報画面に飛んでから、そこでもまたImage File Wrapperのタブをクリックすると先ほどの審査の包袋情報と同様に、再審査の包袋情報が見られます(PDFをDLできることなども同様です)。2013/7/26付でFinal Rejectionが出ていることがわかります。

image

なお、この後、アップルがこの再審査結果の取消しを求めて裁判所に提訴する可能性があります(追記:その前にUSPTO内でAppeal(不服審判)のプロセスが入ります、どうもすみません)が、それはもうUSPTOの世界ではなく、裁判所の世界なので、PACERという別のシステムで検索する必要があります。PAIRとは違い、PACERは書類DLが有料で、ユーザー登録も必要なのでちょっとめんどくさいです。

審査情報の公開に関して、日本はどうかというと、特許電子図書館(IPDL)で審査経過情報がほぼリアルタイムで見られますが、米国でいう再審査に相当する無効審判の途中経過は特許庁まで閲覧しにいかないとわかりません(審判の結果(審決)が出ると(ある程度の期間の後)オンラインで見られるようになります)。また、裁判情報については前にも書きましたがが、裁判所が公開してもよいと判断した一部の判決のみが裁判所のサイトで公開されますが、途中経過あるいは裁判所がウェブで公開しなかった判決については裁判所まで行って閲覧するしかありません。また、そもそも、裁判が行なわれているという事実をウェブで調べる手立てはありません。

ということで、この領域では日米の情報公開にはかなり差があります。

最近オープンデータの話題が聞かれるようになりましたが、国としてオープンデータを推進するのであれば、このあたりまで含めて推進していただきたいと思います。

カテゴリー: 特許 | コメントする

iPhoneのソフトキーボードが思ったよりかしこかった件(特許取得済)

別件の調べ物をしていて、ソシオメディアという会社の大変興味深い記事「iPhone の当たり判定を検証した」を見つけました。iPhoneでタッチを認識するエリア(ヒット領域)が実際にどのようなサイズになっているのかを検証しています。

iPhoneの小さい画面で指先による操作を容易にするためにアップルはいろいろな工夫をしています。たとえば、ボタンを押しやすくするために、実際のボタンの画像よりもヒット領域を大きく取っているようです。ここまでは当たり前だと思うのですが、興味深いのはテキスト入力時に画面に表われるソフトキーボードです。

各キーのヒット領域をそれまでの入力に合せて動的に変化させているようです。たとえば、WORLまで入力したとすると次に入力される可能性が最も高いキーはDになるわけですが、この場合には、Dのキーのヒット領域が大きくなるような調整を動的に行なっているようです(画像はソシオメディア社の上記記事より引用)。

iOSエミュレーターで確認したところ、このケースではDのキーのヒット領域が隣のキーに一部かぶるくらいにまで自動的に拡張されるようになっているそうです。これにより、入力ミスで隣のキーを押してしまう可能性が激減するでしょう。

アップルのUXに対する徹底的なこだわりを感じさせるのですがどうでしょうか。中島聡氏は”user experience”の訳語として「おもてなし」を提言しましたが、まさに「おもてなし」の設計という気がします。

そして、このアイデアですが、案の定、昨年の7月に米国で特許登録されていました(US 8,232,973 )。名称は”Method, device, and graphical user interface providing word recommendations for text input”(テキスト入力の単語推奨を提供する方法、装置、GUI(栗原訳))です。おそらく日本では同等特許は出願されていないと思われます。)

この特許は対サムスンの訴訟では使われてません(同じ名称の関連特許であるUS8,074,172は使われてますが)。そもそも登録時期が新しいということもあると思うのですが、Android(あるいはサムスン製品)には同等機能がないからかもしれません(ご存じの方、教えてくださいな)。

カテゴリー: ガジェット, 特許 | コメントする

【入門】特許出願が公開されるとはどういうことなのか

ITmediaに「AppleのWaze的クラウドソーシング地図機能の特許が公開される」なんて記事が載ってます。特許出願の中身もちょっと興味深いですが、今回はその話ではなく、特許公開制度について入門的な話を書くことにします。

この記事元々は「特許が承認」というタイトルだったのですが後で訂正されています。ITmediaに限った話ではなく、特許の承認(登録=特許権の発生)と単なる特許出願の公開がごっちゃになっている記事がたまに見られるように思います。両者は全然別です。英文の記事を読むときも登録なのか(registered, patented, granted, issued)、公開なのか(published, open)に注意する必要があります。

ほとんどの国において、特許登録は審査を経て所定の要件を満足したと判断された場合のみ行なわれます。登録によって特許権が発生し、他人が同じアイデア(発明)を実施すると差止めや損害賠償を請求され得るようにうなります。一方、審査で拒絶されれば特許権は発生しません。ここまではご存じかと思います。

これに対して、出願公開は、ほとんどの国において原則的に出願から1.5年後に自動的に行なわれます。公開されただけでは最終的に特許化されるかどうかはわかりません。特許制度の基本は技術的アイデアの公開の代償として一定期間の独占を与えることなので、公開と独占のバランスを取るためにこのような仕組みになっています。

特許登録の意味は明確と思いますが、特許出願の公開にはどのような意味があるのでしょうか?もちろん、その企業が、どういった技術開発をしているかが第三者にもある程度わかるようになります。ただし、特許出願に書いてあるとおりに製品を作らなければいけないわけではないですし、特許は出願したけどその後製品開発はキャンセルになったなんてこともありますので目安でしかありません。

それ以外に出願公開には法律的に以下のような意味があります。

1.アイデアが公開されることでその後に同じアイデアを出願しても特許化できなくなります

言うまでもなく公知のアイデア(および、それから容易に思いつくアイデア)は新規性・進歩性欠如として特許化されません。別に特許公開ではなくても、学術論文や製品そのものがオープンになることでもアイデアは公知にはなるのですが、特許公開公報は日付が確定しやすいのと特許庁の審査官にとって検索しやすいので公開された出願(公開公報)を根拠にして、それ以降に出願された特許出願が拒絶されるケースが多いです。

2.同じ国内であれば後願が排除されます

特許は基本的に先願主義なので、同じアイデアが時間差で出願された時は先に出願した方が優先されます。

たとえば、2010年1月1日に日本で出願された特許が2011年7月1日に出願公開されたとすると、2011年7月以降に同じアイデアを出願した人が上記の新規性欠如により拒絶されるのは当然として、2010年1月2日から2011年7月1日に同じアイデアを出願した人も後願として拒絶されます(出願時点では前の出願が公開されていなくてもです)。

つまり、アイデアが公知でないか(特許公開公報を含めた)十分にサーチして、ないことを確認してから出願しても他人が1.5年以内の時間差で他人が出願していた場合には、特許化できないということです。特許出願は公開されるまでは出願したという事実すらも第三者にはわかりません。1.5年間はブラックボックスの状況にあるということです。

シンクロニシティとでも言いますか、何か画期的アイデアを思いついた時にはほぼ同時期に他人が同じようなアイデアを思いついている可能性も十分にあるので、できるだけ早く出願を行なうべきです。

なお、先願・後願の判断は同じ国の中でしか行なわれませんので、先の例で(最初に日本にしか出願されていないとすると)同じアイデアを2011年7月1日以降に米国に出願すると(日本の公開公報を根拠として)新規性欠如で拒絶されますが、2010年から2011年6月までの米国出願が日本での出願を根拠に拒絶されることはありません(日本の先願を根拠に米国の後願が拒絶されることはないため)(もちろん、公開前に出願人が製品を販売したりしていればそれを根拠に新規性が否定されます)。

3.どの範囲で特許化される可能性があるかわかります

公開されただけでは特許化されるかどうかわかりません。公開後に拒絶になれば、もうそのアイデアは公開されているので、パブリックドメイン的に誰でも実施できるようになります。

登録される場合でも、多くの場合、公開後に補正が行なわれますので、公開された内容そのままで権利化されるケースは少ないです。通常は先行技術との違いを出して進歩性を主張するために条件を加えて(権利範囲を狭くする補正をして)権利化するのですが、場合によっては公開時点とはまったく違う権利範囲で登録されることもあり得ます。

特許出願の補正の重要な制限として新規事項の追加禁止というルールがあります(出願してから後付けで追加できたら何でもありになってしまうので当然です)ので、公開時点で書かれてなかった内容で権利化されることはないのですが、明細書に書いてさえあればどの内容で権利化するか(クレームにするか)は出願人の自由です。競合他社としては権利内容を把握して侵害を避けようとしても登録されるまでは権利が確定しているわけではないのでちょっとやっかいな状況になります。出願人サイドでは競合他社の製品を見て敢えて侵害が成立するように補正するという追尾型ミサイルのようなやらしい戦術が取られることもあります。

4.出願人に補償金請求権が生じます

ちょっと細かいですが、出願公開した後でその発明を実施している人に対して、出願人が警告を行なうことで(後で特許が成立した場合に限り)ラインセス料金相当金額を支払わせることができるようになります。


ということで、自社の直接の競合分野であれば特許の登録状況だけでなく、公開の状況もウォッチしておくことがリスクを避けるために重要と言えます。

カテゴリー: 特許 | コメントする

これがアップル対サムスン裁判で問題になった特許です(その2(前半))

有名な10億ドルの損害賠償金評決(確定ではないですが)がなされた北カリフォルニア地裁でのアップルvsサムスンの裁判において争点になっている特許(と意匠)については以前に書きました

実は、北カリフォルニア地裁ではもう1件の訴訟が進行中です。もう機を逸してしまった感もありますが、この2番目の訴訟で争点になっている特許について簡単に解説します(ネタ元は例によって主にFOSS Patentsです)。

本訴訟は2014年の3月に公判が行なわれる予定になっており、対象特許や対象製品の絞り込みが行なわれています。元々は8件の特許が争点になっていましたが、6件まで絞り込まれており、最終的には4件の特許まで絞り込まれる予定だそうです。2回に分けてこの6件の特許について簡単に解説します(もっと詳しくという方は別途ご相談ください)。

なお、サムスン側も反訴を行なっていますが、そちらの特許についてはまた別途。

発明の名称の日本語訳は栗原によります。

1.US5,946,647  (System and method for performing an action on a structure in computer-generated data)「コンピューター生成されたデータの構造上でアクションを実行すするためのシステムと方法」

通称「データタッピング」特許です。ドキュメント中の特定の文字列(たとえば、電話番号)を自動的にリンク化し、対応する操作(たとえば、電話をかける)を呼び出せるようにするというアイデアです。

今では当たり前すぎるほど当たり前のアイデアなのですが、出願日が1996年2月1日なのでその時点で当たり前だったかというと実は証拠が見つからないという、絶妙のタイミングで出願された特許だと思います。再審査が2010年10月に請求されてますが一部のクレームが無効にはなっただけであり、現在不服審判が進行中です。

ITCにおけるHTC製品の禁輸決定の根拠となった特許(そして、おそらくはその後のHTCとアップルの和解に結びついた)特許でもあります。このブログでもだいぶ前に解説しています。

AndroidのLinkify()というクラスで実装されているらしいので、これをはずせば回避できますが、UXはかなり犠牲になりますね。

日本での関連特許はなさそうです。

2.US6,847,959 (”Universal interface for retrieval of information in a computer system”)「コンピュータ・システムで情報検索するための共通インターフェース」

サーチ関連特許です。Siriのサーチをカバーしていると思われるのですが、クレームは「インターネットとローカルストレージを含む複数のソースから、複数の異なるヒューリスティックに基いてサーチし、それらの結果からひとつを選んで表示する」という感じできわめて範囲が広く、いわゆるフェデレーテッド・サーチの形態全般をカバーしているように思えます。

現在本特許は再審査進行中です。優先日(実質的出願日)は2000年1月5日まで遡るのですが、それでもいかにも先行技術がありそうな感じがしますが、どうなんでしょうか。

もし、この特許が有効で、かつ、サムスン製品による侵害が認定されることになると、音声サーチ等に関してGoogleはちょっと厳しい状況になるのではと思います。

日本での関連特許はなさそうです。

3.US8,046,721 (“Unlocking a device by performing gestures on an unlock image”)「アンロック・イメージ上でのジェスチャーによるデバイスのアンロック」

iOSデバイスに特有のスライド操作でロック解除(Slide-to-Unlock)に関する特許です。

日本における同等特許(特願2008-547675)は拒絶査定になってます(本ブログの関連記事)。ドイツにおいても、進歩性の点で厳しい評価が下されているようです(昔からあるスライド型のコントロールをスリープ解除に適用しただけではないかという判断がされています)。

しかし、日本では拒絶査定の対応としてスライドを2つにした構成にクレームを補正した分割出願(特願2012-091352)が、ごく最近登録されました(登録番号未定)。

image

これ、いかにも苦肉の補正という感じがしていましたが、よく考えてみると、iOS5から入った新機能である「通常のスライド操作でスリープ解除、カメラアイコンをスライドするとカメラアプリがいきなり起動」という形態がカバーできるので、実はなかなか重要な特許ではないかと思います(ナイスリカバリーだと思います)。


残りの3件については後日。

こうして見るとアップルには(少なくとも米国においては)まだまだ対サムスン用の弾があるという感じがします。

カテゴリー: ガジェット, 特許 | タグ: | コメントする