有名な10億ドルの損害賠償金評決(確定ではないですが)がなされた北カリフォルニア地裁でのアップルvsサムスンの裁判において争点になっている特許(と意匠)については以前に書きました。
実は、北カリフォルニア地裁ではもう1件の訴訟が進行中です。もう機を逸してしまった感もありますが、この2番目の訴訟で争点になっている特許について簡単に解説します(ネタ元は例によって主にFOSS Patentsです)。
本訴訟は2014年の3月に公判が行なわれる予定になっており、対象特許や対象製品の絞り込みが行なわれています。元々は8件の特許が争点になっていましたが、6件まで絞り込まれており、最終的には4件の特許まで絞り込まれる予定だそうです。2回に分けてこの6件の特許について簡単に解説します(もっと詳しくという方は別途ご相談ください)。
なお、サムスン側も反訴を行なっていますが、そちらの特許についてはまた別途。
発明の名称の日本語訳は栗原によります。
1.US5,946,647 (System and method for performing an action on a structure in computer-generated data)「コンピューター生成されたデータの構造上でアクションを実行すするためのシステムと方法」
通称「データタッピング」特許です。ドキュメント中の特定の文字列(たとえば、電話番号)を自動的にリンク化し、対応する操作(たとえば、電話をかける)を呼び出せるようにするというアイデアです。
今では当たり前すぎるほど当たり前のアイデアなのですが、出願日が1996年2月1日なのでその時点で当たり前だったかというと実は証拠が見つからないという、絶妙のタイミングで出願された特許だと思います。再審査が2010年10月に請求されてますが一部のクレームが無効にはなっただけであり、現在不服審判が進行中です。
ITCにおけるHTC製品の禁輸決定の根拠となった特許(そして、おそらくはその後のHTCとアップルの和解に結びついた)特許でもあります。このブログでもだいぶ前に解説しています。
AndroidのLinkify()というクラスで実装されているらしいので、これをはずせば回避できますが、UXはかなり犠牲になりますね。
日本での関連特許はなさそうです。
2.US6,847,959 (”Universal interface for retrieval of information in a computer system”)「コンピュータ・システムで情報検索するための共通インターフェース」
サーチ関連特許です。Siriのサーチをカバーしていると思われるのですが、クレームは「インターネットとローカルストレージを含む複数のソースから、複数の異なるヒューリスティックに基いてサーチし、それらの結果からひとつを選んで表示する」という感じできわめて範囲が広く、いわゆるフェデレーテッド・サーチの形態全般をカバーしているように思えます。
現在本特許は再審査進行中です。優先日(実質的出願日)は2000年1月5日まで遡るのですが、それでもいかにも先行技術がありそうな感じがしますが、どうなんでしょうか。
もし、この特許が有効で、かつ、サムスン製品による侵害が認定されることになると、音声サーチ等に関してGoogleはちょっと厳しい状況になるのではと思います。
日本での関連特許はなさそうです。
3.US8,046,721 (“Unlocking a device by performing gestures on an unlock image”)「アンロック・イメージ上でのジェスチャーによるデバイスのアンロック」
iOSデバイスに特有のスライド操作でロック解除(Slide-to-Unlock)に関する特許です。
日本における同等特許(特願2008-547675)は拒絶査定になってます(本ブログの関連記事)。ドイツにおいても、進歩性の点で厳しい評価が下されているようです(昔からあるスライド型のコントロールをスリープ解除に適用しただけではないかという判断がされています)。
しかし、日本では拒絶査定の対応としてスライドを2つにした構成にクレームを補正した分割出願(特願2012-091352)が、ごく最近登録されました(登録番号未定)。
これ、いかにも苦肉の補正という感じがしていましたが、よく考えてみると、iOS5から入った新機能である「通常のスライド操作でスリープ解除、カメラアイコンをスライドするとカメラアプリがいきなり起動」という形態がカバーできるので、実はなかなか重要な特許ではないかと思います(ナイスリカバリーだと思います)。
残りの3件については後日。
こうして見るとアップルには(少なくとも米国においては)まだまだ対サムスン用の弾があるという感じがします。