アップルが法外なライセンス料を要求する根拠になった特許とは

アップルがサムスンに対してスマホ/タブレット1台あたり約40ドル(4,100円)という法外とも言えるライセンス料を要求して話題になっています(参照記事(GIGAZINE)、その元記事(FOSS Patents)(英語))。サムスンのスマフォ販売台数を考えると、このライセンス料では年間1兆円を超えるライセンス料をアップルに支払う計算になってしまいます。

まず状況整理しておくと、アップル対サムスンの米国での裁判は主に北カリフォルニア連邦地裁で行なわれています(これ以外にITCに対する禁輸の訴え等があります)。北カリフォルニア連邦地裁での裁判は2件あり、そのうちの最初の裁判では、3月6日にサムスンに対して約9.3億ドル(960億円)という巨額な賠償金の支払が命じられています(一昨年末の最初の判決の後に賠償額の再算定が命じられていたのですが、結局あまり変わらない額になりました)。サムスンは控訴しています。

今回の話題は3月31日に公判が始まる2回目の裁判の方に関する話です。

1回目の裁判では特許とはいってもデザイン特許(日本でいう意匠権)が多額の損害賠償のほとんどの根拠となっていました。2回目の方ではデザイン特許ではなく、いわゆる日本で言う特許と同義の特許権5件が争われています。実はその一部については本ブログで既に解説しています(「これがアップル対サムスン裁判で問題になった特許です(その2(前半))」。なお、この過去記事では、前半として3件説明して、残りは後半でということになっていましたが、結局後半は書いてませんでしたね、どうもすみません。ということで本記事で、まとめてこの5件について簡単に解説します(当時は6件でしたが判事の命令により1件取り下げになっています)。

1.US5,946,647  (System and method for performing an action on a structure in computer-generated data)「コンピューター生成されたデータの構造上でアクションを実行すするためのシステムと方法」

これは、過去エントリーをご参照下さい。通称「データ・タッピング」特許、ドキュメント中の電話番号ぽいところをタップすると電話をかけられる等、特定の文字列をリンク化するアイデアです。

2.US6,847,959(”Universal interface for retrieval of information in a computer system”)「コンピュータ・システムで情報検索するための共通インターフェース」

これも過去エントリーをご参照下さい。フェデレーテッド・サーチ関係のアイデアです。

3.US8,046,721(“Unlocking a device by performing gestures on an unlock image”)「アンロック・イメージ上でのジェスチャーによるデバイスのアンロック」

スライド操作で画面ロック状態を解除するアイデアです。なお、過去エントリーでは日本での同等特許は拒絶査定確定と書きましたが、その後調べると、拒絶査定不服審判に成功し、特許5457679号として登録されていました。どうもすみません。

4.US7,761,414(”Asynchronous data synchronization amongst devices”)「デバイス間の非同期データ同期」

カレンダー等のデータの非同期型の同期処理と同時に編集などの同期型処理を同時に行なうというアイデアです。出願日が2007年とわりと新しいので新規性は大丈夫なのかという気もします。その辺はちょっと審査経過を見てみないとわかりません。

5.US8,074,172(”Method, system, and graphical user interface for providing word recommendations”)「単語の推奨を行なう方法、システム、及びGUI」

これは別の過去エントリーで既に解説しています。iOSデバイスのオートコンプリートの(昔の)実装ほぼそのまんまの特許です。

アップルは、これらのソフトウェア特許5件だけを根拠に1台あたり4,100円のライセンス料を要求しているわけです。

特許は後付けで見ると当たり前に見えることが多く、その価値を過小評価しがちであること、法廷戦術としてまずは大きめの金額を言っておくという点を考慮しても、この条件は、業界の相場、そして、アップルの過去の要求を大きく逸脱したものです。

FOSS Patentsの中の人である知財コンサルタントFlorian Mueller氏(どちらかというとアンチGoogle派でApple側を支持することが多い)も、このようなライセンス料率が一般化したならば、かなり保守的な見積もりを行なったとしても(特許権の固まりである)スマホ1台あたりの特許ライセンス料がおよそ2,000ドルになってしまうだろうとアップルを批判しています。アップルは気が触れたとしか思えないとまで言っています。

アップルとサムスンは両社CEOによる2月頭の話し合いにより解決しそうな雰囲気も一時はあったのですが、結局、ガチンコ勝負はまだ続きそうな気配です。

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Linuxは太陽である(そしてオープンデータも)

ちょっと前になりますが、ReadWrite Web(日本版)に「オープンソース企業からオープンソースが消えていく理由」 なんて記事が載っていました。ちょっと釣り気味のタイトルですが、記事のポイントは、オープンソースソフトウェアそのものを売って商売にすることは困難であり、(初期の)RedHat Softwareのような企業は二度と表われないだろうということです(RedHatも今はLinuxディストリビューションよりもLinux上の付加価値ソフトウェアがビジネスの中心になっています(それがそもそもの記事タイトルの意味するところです))。

これで思い出した話ですが、拙訳『インテンションエコノミー』で、著者ドク・サールズ(Linux Jounal誌のシニア・エディター)は、Linuxを太陽光にたとえています。自然に潤沢に存在し、希少性がなく、そのもので商売することは困難ですが、他のあらゆるビジネスの基盤となり得るものという意味です。「Linuxのビジネスモデルは何かと尋ねるのは太陽光のビジネスモデルを訪ねるようなものだ」と書かれています。

別の言い方をすると、Lunuxそのものによるビジネス(business with Linux)は限定的だが、Linuxがあるが故に可能になったビジネス(business because of Linux)には膨大な機会があるということです。サールズは、これを「ビコーズ効果」と呼んでいます。「ビコーズ効果」は、Linuxに限らずあらゆるオープンソースソフトウェア、そして、ネット自体にも当てはまる話です。

今ちょっと話題のオープンデータにも多大な「ビコーズ効果」があります。

オープンデータはそもそもの定義として最小限のライセンス条件で自由に流通するデータですので、オープンデータそのものによる商売(business with open data)で収益を上げるのは困難です。しかし、オープンデータがあるが故に可能になるビジネス(business because of open data)は膨大な機会があります。

2013年10月にマッキンゼーが公開したオープンデータに関するレポート”Open data: Unlocking innovation and performance with liquid information”では、オープンデータによる経済波及効果、いわば、オープンデータの「ビコーズ効果」をグローバルで年間3.4兆ドルから5.4兆ドルと見積もっています。

正直言って、現在の日本のオープンデータ、特に、オープンガバメントデータの領域は欧米の動きに大きく遅れを取っていると思いますが、この理由の一つとして、ITベンダー(そして、ITベンダーにIT戦略を一任している行政機関や企業)が”business with open data”だけに注目し、”business because of open data”(ビコーズ効果)を軽視していたことがあるのではないかと思っています。”business with open data”によるサーバやストレージの売上など知れています。それによって、オープンデータの「ビコーズ効果」が見えなくなっていたのだとしたら国家的な機会損失であったと思います。

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【お知らせ】3月18日フラッシュストレージのセミナーで講演します

3月18日(火)に日経BP主催の「フラッシュストレージ – 超高速I/Oが実現するITインフラ変革」で講演します。入場無料(要事前登録)です。フラッシュストレージにからめて、エンタープライズITインフラの世界で起きているメガトレンドのお話をします。

最近はあまりエンタープライズIT系の話はブログに書かなくなっていますが、調査分析活動は続けています(ネタにしやすいのでついつい知財系の話ばかり書いてしまいますが)。講演や寄稿のご依頼がありましたら是非よろしくお願いします。

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出願前のメディア発表について

読売新聞に「県産イチゴ 海外で商標登録」という記事が載っています。「やよいひめ」というイチゴの「ブランド力向上のため、香港とシンガポールで商標登録(ママ)を行なう」そうです。これが「これから出願予定」であるという意味なのか「既に出願を行なって登録を待っている状態なのか」は定かではありませんが、前者だとするとちょっと問題です。

商標は特許と違って新規性という概念はないので、自分が公表したことを理由にして登録できなくなることはありません。それでも、ほとんどの国において先願主義ではありますので、第三者に抜け駆けで先に出願されてしまうリスクがあります。シンガポールと香港では先使用を立証できれば先願者に対抗できるようですが、それでも余計な費用と手間がかかることになります。

商標の場合はまだしも、特許の場合は、自分自身による公表でも新規性・進歩性の否定材料になって特許出願の拒絶につながることがあるのでさらに注意が必要です。

日本の場合は、出願者自身による公表から半年以内であれば、それを理由に新規性・進歩性が否定されることはありません、また、米国の場合も1年以内に出願すれば大丈夫です(一般にgrace period(猶予期間)と呼ばれる期間です)。しかし、それ以外のほとんどの国では、この猶予期間は学術論文や博覧会等における公開に限定されていますので、メディアで取り上げられるとそれを理由に特許化できなくなることがあり得ます。

以前、テントウムシの羽を接着剤で固定することで害虫駆除の効率性を上げるという高校生の発明が東京新聞(元記事はもう消えています)に取り上げられて、しかもアイデアの根幹にあたると思われる部分が記事に記載され、「特許出願する予定だ」と書かれていました(別記事によると2014年1月16日に出願したようです)。記事に載っていない部分に特許化できる要素があるのかもしれませんし、元々のコンクールの発表で既にほとんど発表してたのかもしれないですが、メディアでの発表により日本と米国以外での特許化が困難になった可能性がないわけではありません。

一般的には「商標登録出願する予定である」とか「特許出願する予定である」というようなメディア発表は(特に特許の場合)行なうべきではなく、先に出願してからメディアに発表するという順番を踏むことが重要です。

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【お知らせ】当ブログの内容はハフィントンポストにも転載されます

当ブログの記事の一部はBLOGOSに転載されていたのですが、このたびハフィントンポストにも転載されることになりました。こういうことをやると本ブログ側のアクセス数は確実に減るのですが、別にアクセス数で稼ぐ商売をしているわけではなく、プレゼンスを上げるのがブログ執筆の目的なので全然OKです。

他のブログメディア皆様からも依頼があれば転載は原則OKです(個別記事の転載でも、定常的転載でもOKです)。ただし、ブログの内容をそのまま転載していただけること、元記事に修正が入ったときに即反映していただけること、が条件です(記事内のリンクを削除する条件になっているメディアがありますが、それを理由に転載をお断りしています)。また、記事扱いの転載は掲載料をいただく運用だったのですが、最近はだんだんどうでもよくなってきたのでw、お気軽にご相談ください。

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