Linuxは太陽である(そしてオープンデータも)

ちょっと前になりますが、ReadWrite Web(日本版)に「オープンソース企業からオープンソースが消えていく理由」 なんて記事が載っていました。ちょっと釣り気味のタイトルですが、記事のポイントは、オープンソースソフトウェアそのものを売って商売にすることは困難であり、(初期の)RedHat Softwareのような企業は二度と表われないだろうということです(RedHatも今はLinuxディストリビューションよりもLinux上の付加価値ソフトウェアがビジネスの中心になっています(それがそもそもの記事タイトルの意味するところです))。

これで思い出した話ですが、拙訳『インテンションエコノミー』で、著者ドク・サールズ(Linux Jounal誌のシニア・エディター)は、Linuxを太陽光にたとえています。自然に潤沢に存在し、希少性がなく、そのもので商売することは困難ですが、他のあらゆるビジネスの基盤となり得るものという意味です。「Linuxのビジネスモデルは何かと尋ねるのは太陽光のビジネスモデルを訪ねるようなものだ」と書かれています。

別の言い方をすると、Lunuxそのものによるビジネス(business with Linux)は限定的だが、Linuxがあるが故に可能になったビジネス(business because of Linux)には膨大な機会があるということです。サールズは、これを「ビコーズ効果」と呼んでいます。「ビコーズ効果」は、Linuxに限らずあらゆるオープンソースソフトウェア、そして、ネット自体にも当てはまる話です。

今ちょっと話題のオープンデータにも多大な「ビコーズ効果」があります。

オープンデータはそもそもの定義として最小限のライセンス条件で自由に流通するデータですので、オープンデータそのものによる商売(business with open data)で収益を上げるのは困難です。しかし、オープンデータがあるが故に可能になるビジネス(business because of open data)は膨大な機会があります。

2013年10月にマッキンゼーが公開したオープンデータに関するレポート”Open data: Unlocking innovation and performance with liquid information”では、オープンデータによる経済波及効果、いわば、オープンデータの「ビコーズ効果」をグローバルで年間3.4兆ドルから5.4兆ドルと見積もっています。

正直言って、現在の日本のオープンデータ、特に、オープンガバメントデータの領域は欧米の動きに大きく遅れを取っていると思いますが、この理由の一つとして、ITベンダー(そして、ITベンダーにIT戦略を一任している行政機関や企業)が”business with open data”だけに注目し、”business because of open data”(ビコーズ効果)を軽視していたことがあるのではないかと思っています。”business with open data”によるサーバやストレージの売上など知れています。それによって、オープンデータの「ビコーズ効果」が見えなくなっていたのだとしたら国家的な機会損失であったと思います。

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【お知らせ】3月18日フラッシュストレージのセミナーで講演します

3月18日(火)に日経BP主催の「フラッシュストレージ – 超高速I/Oが実現するITインフラ変革」で講演します。入場無料(要事前登録)です。フラッシュストレージにからめて、エンタープライズITインフラの世界で起きているメガトレンドのお話をします。

最近はあまりエンタープライズIT系の話はブログに書かなくなっていますが、調査分析活動は続けています(ネタにしやすいのでついつい知財系の話ばかり書いてしまいますが)。講演や寄稿のご依頼がありましたら是非よろしくお願いします。

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出願前のメディア発表について

読売新聞に「県産イチゴ 海外で商標登録」という記事が載っています。「やよいひめ」というイチゴの「ブランド力向上のため、香港とシンガポールで商標登録(ママ)を行なう」そうです。これが「これから出願予定」であるという意味なのか「既に出願を行なって登録を待っている状態なのか」は定かではありませんが、前者だとするとちょっと問題です。

商標は特許と違って新規性という概念はないので、自分が公表したことを理由にして登録できなくなることはありません。それでも、ほとんどの国において先願主義ではありますので、第三者に抜け駆けで先に出願されてしまうリスクがあります。シンガポールと香港では先使用を立証できれば先願者に対抗できるようですが、それでも余計な費用と手間がかかることになります。

商標の場合はまだしも、特許の場合は、自分自身による公表でも新規性・進歩性の否定材料になって特許出願の拒絶につながることがあるのでさらに注意が必要です。

日本の場合は、出願者自身による公表から半年以内であれば、それを理由に新規性・進歩性が否定されることはありません、また、米国の場合も1年以内に出願すれば大丈夫です(一般にgrace period(猶予期間)と呼ばれる期間です)。しかし、それ以外のほとんどの国では、この猶予期間は学術論文や博覧会等における公開に限定されていますので、メディアで取り上げられるとそれを理由に特許化できなくなることがあり得ます。

以前、テントウムシの羽を接着剤で固定することで害虫駆除の効率性を上げるという高校生の発明が東京新聞(元記事はもう消えています)に取り上げられて、しかもアイデアの根幹にあたると思われる部分が記事に記載され、「特許出願する予定だ」と書かれていました(別記事によると2014年1月16日に出願したようです)。記事に載っていない部分に特許化できる要素があるのかもしれませんし、元々のコンクールの発表で既にほとんど発表してたのかもしれないですが、メディアでの発表により日本と米国以外での特許化が困難になった可能性がないわけではありません。

一般的には「商標登録出願する予定である」とか「特許出願する予定である」というようなメディア発表は(特に特許の場合)行なうべきではなく、先に出願してからメディアに発表するという順番を踏むことが重要です。

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【お知らせ】当ブログの内容はハフィントンポストにも転載されます

当ブログの記事の一部はBLOGOSに転載されていたのですが、このたびハフィントンポストにも転載されることになりました。こういうことをやると本ブログ側のアクセス数は確実に減るのですが、別にアクセス数で稼ぐ商売をしているわけではなく、プレゼンスを上げるのがブログ執筆の目的なので全然OKです。

他のブログメディア皆様からも依頼があれば転載は原則OKです(個別記事の転載でも、定常的転載でもOKです)。ただし、ブログの内容をそのまま転載していただけること、元記事に修正が入ったときに即反映していただけること、が条件です(記事内のリンクを削除する条件になっているメディアがありますが、それを理由に転載をお断りしています)。また、記事扱いの転載は掲載料をいただく運用だったのですが、最近はだんだんどうでもよくなってきたのでw、お気軽にご相談ください。

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三井住友銀ネットバンクにはないものねだりをしているわけではありません

先日書いたネット銀行のセキュリティに関してまとめてみました。(OTPはトークン(パスワードカード)で生成されるワンタイムパスワードを意味します)。他の銀行は知りませんのでご存じの方、この表に追加してみてください。

  JNBSMBC(旧)SMBC(新)
ログイン時ID口座番号+ログインID口座番号
または
契約者番号
口座番号
または
契約者番号
 PWD英数字最大8文字英数字最大8文字+OTP数字4桁
(数字4桁+OTPに設定可)
振込時登録済口座OTP
(特定の登録口座のみOTP不要に設定可)
デフォルトではノーチェック
(暗証カードが必要なように設定可)
デフォルトではノーチェック
(OTPが必要なように設定可)
 それ以外OTP暗証カードOTP

 

JNB(ジャパンネット銀行)では、口座へのログインは英数字8文字のパスワードで一応守られており、外出や出張中に残高確認等のためだけにトークンを持ち歩く必要がない(トークンは銀行印のようなものなので普段は金庫にしまっておきたいです)一方で、出金はトークンのOTPで守られており暗証カード不要です。自分的には利便性と安全性のバランスが取れていると思います。

SMBC(三井住友銀行)の旧システムでは、ログイン時にワンタイムパスワードが必要だったので事務所以外から残高確認を行なう場合にはトークンを持ち歩く必要がありました。トークンがあっても旧来の暗証カードは依然として必要でした。また、デフォルト設定では登録済みの口座にはノーチェックで振り込めてしまうのでちょっと怖いです(暗証カード必要なように設定可能ですが)。

SMBC新システムでは一見改良されているようですが、パスワードが数字4桁になってしまったので、ログイン時もOTPが必要な設定にせざるを得ません。結局、旧システムと比べて良くなったのは暗証カードがいらなくなったということくらいです。

SMBCの新システムを使う人は、1)ログイン時は暗証(数字4桁)とOTPが両方必要なように設定、2)登録済口座への振込みはOIPが必要なように設定、3)数字4桁のパスワードはキャッシュカードの暗証番号と同じにしない、という3点に気をつけておいた方がよいと思います。

なお、SMBCは、ネットバンクのログインIDとして口座番号がそのまま使用可能になっています。口座番号は取引先等には知られていますので、悪意を持った人が、その口座番号で適当なパスワードを何回か試行することでログインをブロックさせてしまうというDoSいやがらせが可能になってしまいます。

JNBは、この問題をさけるために、どこかのタイミングでユーザーが自分で設定可能なログインIDが必要なよう改良しました(ログインIDは何回間違えても失効しないためログインIDを秘密にしておけばDoSいやがらせが防げます)。(追記:なぜか法人口座ではログインIDが使えないようです、JNBもパーフェクトではありませんでした。)

一方、SMBCは、昔は、契約者番号という暗証カードに書いてある番号(他人に秘密にすべき番号)をログインIDとして使っていたのですが、これもどこかのタイミングで口座番号だけでもログインできるように設計変更されてしまいました。

SMBCには別にないものねだりとかわがままを言っているわけではなく、最初からJNBのような設計にすればいいものを、なぜ、わざわざ脆弱性を取り込むような設計変更を行なってきたのかという点が不可解でということです。

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