CDが売れないならクラウドファンディングをすればいいじゃない

私も大好きな(コンサートも欠かさず行ってます)スガシカオさんがファンに対してCDを買って下さいというお願いをしています(参照記事)。CDが売れないと必要な制作費が捻出できないというお話です。

しかし、正直言って、シングル曲数曲のダウンロードでもいいやというレベルのファンに対して、フルCDの追加料金を払ってくれというのも微妙なお願いです。もちろん、その追加支払が制作費に回り、より高品質な作品につながるということはあるでしょうが、全体としては効率が悪いモデルです。

もっと直接的にファンがアーティストを支援できるモデルがあるべきだと思います。

KickstarterCampfire等の製品やテクノロジーへの投資を一般消費者に求めるクラウドファンディングサイトは有名だと思いますが、音楽の世界で同じようなことをやるサイトとしてPledgemusicがあります。

考え方はKickstarter等と類似しており、アーティストがプロジェクト(典型的にはCDの制作)をサイトに告知して、期間を設定して、ファンから制作資金のpledge(投資)を募ります。必要な投資が集まるとプロジェクトがゴーになり、ファンはpledgeの金額にしたがっていろいろな特典が得られます。

たとえば、もう終了していますが、ドラマーのスティーブガッドのプロジェクトでは、21ドル投資するととCD本体に加えてリリースの1週間前にMP3のトラックをDL可能、300ドル投資すると楽屋訪問権付コンサートチケット、530ドル投資するとガッドのサイン入りシンバル、20,000ドル投資するとスティーブガッドのバンドが家に来て演奏してくれる(!)等々、さまざまな特典が提供されています。

スティーブガッドはマスを対象にプロモーションしても効果は知れていると思いますので、コアなファンをターゲットにしつつ、中抜きをできるだけ排除して、ファンが自分の意思で支払った資金ができるだけ多くアーティスト側に回るようにするのは理にかなっています。

このように、従来型のレコード会社の機能をバイパスして、アーティスト(側のエージェント)が直接的にファンをエンゲージしていくモデルを、一般にDirect-to-Fan(D2F)と呼ぶようです。Wikipediaのエントリーは英語版しかないので(少なくとも日本では)まだ広く普及していない概念と思われます。

日本の握手券商法もD2Fの一種と言えないこともないのですが、レコード会社やマネージメント会社ではなく、アーティスト側が主導権を取る点がD2Fの本質だと思います。

まあ、今すぐスガシカオさんがPledgemusicや類似サイトで投資を募ってうまくいくかというと微妙かもしれませんが、長い目で見ると少なくともマニアックな音楽の世界ではD2F型への移行は段階的に続いていくと思います。

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特許公報から読み取るアップルのスマートホーム戦略

来週開催されるアップルのWWDC(Worldwide Developers Conference)において、スマートホーム間連の発表が行なわれるのではないかという予測記事がTechcrunchに出ています。大本はFinacial Times(要登録)のようです。

実際に発表が行なわれるかどうかの内部事情は全然知りませんが、アップルが今までに何件かのホームオートメーション関係の特許出願を行なっているのは事実であり、その一部は既に登録されています。

登録された特許で代表的なものに昨年の11月に米国で登録された8577392号(System and method of determining location of wireless communication devices/persons for controlling/adjusting operation of devices based on the location:位置に基づく装置の動作を制御/調整するための無線通信装置/人物の位置を判定するシステム及び方法 )があります。

日本では特開2013-257865として公開されていますがまだ登録されていません(というか、今まさに進歩性に関する拒絶理由に対応中です)。

一般論として、特許化されるかどうかは別として特許出願したということはそのアイデアを事業として実施する可能性が高いことを意味します(もちろん、実施する予定は特にないがライセンスの可能性もあるので出願した、あるいは、出願したがその後に事業戦略変更で実施しなくなったといったケースも十分にあり得ます)。

この特許に関しては出願が比較的最近(2012年6月)であることから、その内容を見ることでアップルがスマートホーム(ホームオートメーション)分野で何をやろうとしているかの手がかりのひとつになると思います。

US08577392-20131105-D00000

開示されているアイデアのポイントは基本的にリレー・サーバでスマホやタブレット等のデバイスから送信されるデータを読みとり目的のデバイス(電灯、室温調整、セキュリティ・システム等)を操作することにあります。さすがに、これだけでは特許になりませんので、デバイスを操作する人の位置を推測して、データを重み付けして、ルールを適用する要素がクレーム(権利範囲)に含まれています。

たとえば、人が(iPhoneを持って)外出すると自動的にセキュリティ・システムが起動するなどの応用が考えられます。

注目すべきは「リレー・サーバ」的なものを家庭に置くことが想定されている点であり、何らかの具体的製品が発表されるということかもしれません。

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なぜホンダスーパーカブの立体商標登録がニュースになるのか?

ホンダの業務用バイク「スーパーカブ」の形状が立体商標として登録されることが決まったというニュースがありました(参照記事)。

記事には番号が載ってないですが調べると出願番号は2011-010905です。IPDL(特許電子図書館)では拒絶査定不服審判が昨年の5月に請求されているところまでしかわかりませんが、審判の結果、登録査定が出たということなのでしょう(なので登録番号はまだわかりません)。

下図は当該商標の公開公報から引用した写真です(他にも斜めから見た写真もありますが省略)。このように商品の形状そのものを商標登録できたわけです。

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立体物であっても、商品やサービスの出所を示すために商標として使われることはある(典型的には看板として使用されるケース)ので、商標登録の対象になります。有名なものとしては、ケンタッキーフライドチキンのカーネルサンダースや不二家のペコちゃん人形があります。ちなみに、日本の立体商標で一番出願日が早いのはセガのソニックザヘッジホッグです(登録が一番早いのはカーネルサンダースです)。

今回のスーパーカブのケースは商品の形状そのものが立体商標として登録されたケースです。これは、上記の看板的なケースと比較して登録のハードルが高いです、商標権は独占権であって、商品の形状そのものが登録商標になれば競合他社は類似した形状の商品を販売できなくなりますし、10年ごとの更新料さえ払えば永遠に権利を維持できますので、登録のハードルが高いのは当然とも言えます。

実際には「商品又は商品の包装の形状であつて、その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」(4条1項18号)を理由として拒絶されたが、長年にわたり使用された結果識別力を得たと判断される(いわゆるセカンダリーミーニング)の規定(3条2項)によって登録されるケースも多いです。つまり、ほとんどの消費者が「あーこの形はあの商品ね」とわかるくらいでないと登録されません。

結構有名と思われる商品でも商品形状そのままの立体商標としての登録を拒絶されています。たとえば、ひよこ饅頭はいったん登録されましたがその後無効とされ、知財高裁まで行って争われて結局無効維持という結果です。サントリーの角瓶は形状だけでは登録されませんでした(文字入りでは登録されています)。苦労してセカンダリーミーニングを主張した上で登録されたものとしては、ヤクルトの容器、コカコーラのガラスボトル、マグライトなどがあります。

ゆえに、「スーパーカブ」はこの高いハードルを越えて立体商標登録されたということで意義があるということになります。

ところで、今までに登録(あるいは出願)された立体商標を網羅的に調べたいという場合、IPDLでは、立体商標であることをキーにして検索できないので困ります(元データに情報が入ってますので検索できるようにする手間なんてたいしたことないと思うのですが)。

しかし、サーチャーの清水美里さんのブログで知りましたが、インフォソナーという民間の商標調査会社が過去の立体商標を文字が付いているもの/いないもの、登録されたもの/出願だけのもの等々で分類してウェブサイトにリストを掲載してくれています(リアルタイムの検索ではなくPDFのリストです)。このサイト、他にもいろいろな商標登録関係リストがまとまって大変便利です。

このサイトのおかげで冒頭の記事で触れているフェラーリの車の形状の立体商標登録が5103270号であることがわかりました(下図は公報より引用)。なお、他の記事でスーパーカブの件が「乗り物としては初めて」と書いてあるものがありますが正確ではないことになります。

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これは599でしょうか?数あるモデルの中でなぜこれだけ立体商標登録しているのかわかりませんが、パクリ車やレプリカ車を出されるリスクがあったのかもしれません。

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著作権保護期間延長にまつわる「法の不遡及」について

TPP交渉の一環として著作権の存続期間が著作者の死後50年から70年に延長になる可能性が十分にあることはちょっと前に書きました。これに関して、延長の効果が既存の著作物にどう影響するか、つまり、遡及効の問題が重要な論点になっています。

一口に「遡及」といっても実はいくつかのパターンに分けられますので、整理して考えることが重要です。

パターン1:著作権保護期間の延長により過去に適法であった行為が遡って違法になる

過去のパブリックドメイン作品の流通が違法になってしまうということです。「法の不遡及の原則」の本来的意味はこれが起きないことです。さすがにこうなることはあり得ません。日本であれば憲法39条に反します。

パターン2:著作権の延長により、いったんパブリックドメインになった著作物の著作権が復活する

英語ですと”copyright restoration”と呼ぶパターンです。前回書いたように前例がないわけではありません。とは言え、ベルヌ条約18条(2)に「従来認められていた保護期間の満了により保護が要求される同盟国において公共のものとなつた著作物は、その国において新たに保護されることはない」と定められていますし、Wikileaksが流出させたTPPのドラフトでも、Article QQ.A.11(2)に「加盟国は協定が有効になった日にその地域でパブリックドメインになっているものの保護を復活させることを要しない」と書いてありますので、仮にTPPにより著作権保護期間が延長されても、こうなることはないと思います。

朝日新聞に青空文庫の文学作品の著作権が復活する可能性があるというような記事が出ましたが、その可能性はないと思います。もし、この記事が私の先日のブログ記事(もしこうなったらいやだな〜レベルのつもりでした)がベースになって書かれたのだとしたらどうもすみません。

パターン3:今著作権が残っている著作物(著作者の死後50年経っていない著作物)の著作権保護期間が延長になる

英語ですと”retrospective extention”と呼んでいるようです。retrospectiveは「遡及的な」と訳されますが、パターン1やパターン2でいう「遡及」とは意味が違います。

これは一見問題ないように思えますが、そもそも、既に創作された著作物の保護期間を延長しても創作のインセンティブには結びつかない(ましてや、著作者が死亡している著作物の保護期間を延長してもその著作者のインセンティブには関係ない)ので著作権法の目的に反するのではないかという見方もあります。また、著作権が著作者死後50年続くという前提で対価を設定して売却した人は、後になって急に20年伸びたわけで不測の損害を受けることにもなります。

とは言え、日本も米国も含め今までほとんどの著作権保護期間延長はretrospectiveに行なわれてきてますのでTPPも当然そうなるでしょう。

本当に「遡及」の問題がないようにしたいのであれば、法律改正後(条約批准後)に創作された著作物のみが保護期間延長の対象になるのが筋と思うのですが。そうなることはないでしょうね。

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くまモンのグローバルな商標戦略について

#今回は当たり前のことしか書いてませんので知財系専門家の方は読まれるまでもないと思います。

朝日新聞に「くまモングッズ、世界へ進出 6月から海外販売本格解禁」なんて記事が載っています。「偽物が出回ることへの懸念から、香港の一部百貨店に限っていたが、一定の商標登録が済んだことで解禁を決めた」ということだそうです。

対象地域は、中国、香港、台湾、韓国、シンガポール、タイ、EU、米国だそうです。

このうちで、中国、韓国、シンガポール、EU、米国はマドリッドプロトコル(通称、マドプロ)という国際条約に加盟していますので、スイスのWIPO(世界知的所有権機関)に出願しすることで一括で出願できます。香港、台湾、タイはその国の代理人に(通常は日本の代理人を経由して)依頼するしかありません。

実際、くまモン関係のマドプロ国際登録をWIPOのデータベース(ROMARIN)で検索してみると3件見つかりました(権利者を”KUMAMOTO”として検索)。1111950(画像)(印刷物・文具類を指定商品)、1111951(文字)(印刷物・文具類を指定商品)、1164921(文字)(多様な商品を指定)(ところで、ROMARINもわが国のIPDL同様に固定リンクが貼れないのでちょっと不便ですね)。

商標登録をしておくことで、偽物を完全に防げるわけではないですが、費用もそれほどでもない(たとえば、上記の1111950は中国、韓国、欧州、米国を指定していますがおそらく50万円くらい)ですし、商標登録しておかないと関係ない他人が先に抜け駆け出願してしまい、正規商品が差止めを受けるといった理不尽な状況にもなり得ますので、海外展開の可能性があるキャラクターものについては早め早めの海外商標登録出願が重要です。

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