キャバクラのJASRAC著作権使用料は米国と比べてどうなのか

毎日新聞に「キャバクラ:生演奏「著作権を侵害」 東京地裁判決」なんて記事が載ってます。

JASRACが、管理する楽曲をキャバクラ店がピアノで生演奏しているのは著作権侵害だとして、演奏の差し止めなどを求めた訴訟の判決で、東京地裁は26日、キャバクラを経営する3社に生演奏の差し止めや約1570万円の支払いなどを命じた。

ということだそうです。音楽そのものが売りであるライブハウスならまだしも、BGMとして音楽を使ってるだけでJASRACに金を払わなければいけないのはどうなのよという意見もあるかと思います。

しかし、著作権法の解釈で言うと、店で音楽を演奏するのは上演にあたりますし、非営利・無料・ノーギャラの要件はどう見ても満足されないので、著作権者(この場合はJASRAC)の許諾がいるのはしょうがないところです。

では、実際の料金はどうかというとJASRACのサイトに料金表が載ってます。上記記事によると当該キャバクラの席数は80〜120席、基本料金は1時間あたり1〜1.5万円ということでたぶん客単価3万円くらい、演奏は1日10曲以上(1時間くらい?)だそうなので、この条件で上記料金表の別表4から算出してみると、包括契約をしていれば、月額5万円強という感じです。高いと思う人はいるかもしれませんが、キャバクラ経営してるんであれば「誤差」みたいなもんだと思います。

なぜ、賠償金額が1570万円になってしまうかは、判決文を見ないと確定はできませんが、包括契約ではなく1曲ごとで計算しているからだと思います(とは言え、仮に過去10年分とすると包括契約料金だったとしても3店で1800万円くらいになってしまいますが)。

では、米国ではどうかというと、JASRACに相当する大手著作権管理団体としてASCAPとBMIがありますので両方に料金を払う必要があります。

BMIのサイトの飲食店向け契約書の情報から、このキャバクラの条件で計算してみると、ピアノ生演奏の著作権使用料はおそらく年額400ドルくらいです(他の条件によっても変わりますがほぼこのオーダーだと思います)。ASCAPの料金がWebからはわからないのですが、仮にBMIと同じだとすると計年間800ドルで、日本の場合と比べると大部安いです。

JASRACの料金も禁止的に高いわけではないですし、客単価が低い場合には料金が下がる仕組みにはなっていますが、それでも米国よりは高いですね。

東京はライブハウスの数は結構あると思うのですが、生ピアノの演奏がある小さいバーみたいな業態が米国と比べて少ない気もします(あくまで気がするだけです定量的データをご存じの方教えてくださいな)。この辺もちょっとは関係しているのかもしれません。

追記:ちょっと思ったのですがジャズや洋楽系のライブハウスは国内楽曲をまったく演奏しなくてもやっていけると思うのでBMI/ASCAPと直接契約できる仕組みにならないもんでしょうかね?(もちろん、この場合は国内楽曲を絶対演奏しないルールにすることが必要です。客のリクエストに応えてなんてもっての外です(その客がJASRACの調査員かもしれないからです))

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「著作権特区」なんて意味がないと何回言ったらわかるのか

MSN産経ニュースに「「著作権特区整備を」 東京五輪へ文化プログラム協議」なんて記事が載ってます。

6年後の東京五輪に向け、日本文化を世界に発信するプログラムについて話し合われ、評議員からは「著作権の有無が不明で文化的に優れた作品を収集する著作権特区ミュージアムの整備を」

なんて議論があったそうです。行政が何かしなければいけないときにどこから手をつけていいかわからないので、とりえあず特区を提案するというのは良くあるパターンかと思います。

一般的に言って、特区、つまり、経済政策的な観点から地方自治体ないし政府が地域限定で実験的に特別なルールを決めることが効果的な場合もあるでしょう。たとえば、特定地域での税制優遇措置や規制緩和等です。

しかし、著作権は特区になじまないと思います(この話は以前も書きました)。著作権は基本的に私権だからです。加えて、コンテンツの流通は地域的に限定できるものではないという点もあります。

知財の中でも特許や商標は、特許庁が国民から料金を取って審査を行なうという行政(特許庁)対国民という要素があるので、まだ特区は意味があります。たとえば、地方自治体が特定地域の企業に出願料金を補助するなどです。しかし、著作権というのは、国民対国民の間の権利なので基本的には行政が口を出せる問題ではありません。

たとえば、JASRAC管理楽曲を無料で上演できる特区を作ろうとしても、JASRACは国の機関でも何でもなく、個人である作詞家・作曲家(または私企業である音楽出版社)の財産権を預かってる組織に過ぎませんのでどうしようもありません。仮に、国が秋元康氏(およびJASRAC)に依頼してお台場でのAKB48楽曲の上演には著作権を行使しないことを約束させたとしても、それは秋元氏による著作権の条件付許諾であって特区とは関係ありません(まあ、特区の定義をねじ曲げてこれも「特区」と呼んでしまうという手はあるのかもしれませんが)。

また、冒頭の「著作権の有無が不明で文化的に優れた作品を収集する著作権特区ミュージアム」の例ですが、もし美術作品の展示のことを言っているのならば、そもそも美術の著作物の屋内展示には著作権者の許諾はいりませんし、書籍のことを言っているのならば書籍の閲覧は著作権上の利用行為ではないので著作権は関係ありません。特定地域内だけで複製を許すという「特区」だとすると、その地域の外には複製物を持ち出せないのでしょうか?自由に持ち出し可能であれば特区でも何でもなくて全国的にOKにしている(つまり、著作権法を全面改正している)のと実質同じです。

「著作権特区」という無理筋を通すと、結局、箱物作りやバラマキに終わってしまう可能性が高いと思います(昔書いた関連記事)。

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ネットで商標登録出願の詳細情報を知る方法

#普通のことしか書いてないので知財実務家の方は読むには及びません

IPDL(特許電子図書館)というサイトで特許庁の特許や商標の出願関連書類が見られるのはご存じの方も多いと思います。UIはちょっとアレですが、無料でいろいろ検索できるので便利です。

商標の情報を調べたいときはメニューの「商標検索」を使うことになりますが、これだと公報レベルの情報、いわば、スタティックな情報しかわかりません。その時点でのステータス情報を知りたい場合には、ちょっとわかりにくいんですが、「経過情報検索」のメニューを使います(これは、特許も意匠も共通です)。

「経過情報検索」→「番号照会」から、「商標」のラジオボタンを選択して、「番号種別」で出願番号か登録番号のいずれかを選択して、出願番号あるいは登録番号を入力して検索します(特許の場合は公開番号を入力することもあります)。検索結果から出願情報を選択して審査記録を見ると、その時点での審査の状態がわかります(とは言え完全なリアルタイムではなく1〜2週間くらいのタイムラグがあります)。業界で「包袋」(英語ではwrapper)といわれている審査で使用されているすべての書類の情報です。

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たとえば、上記の審査記録データを見ると、出願はされたものの何からの形式的瑕疵(たとえば、手数料額の間違い)があったので、手続補正指令書が送付され、それに対応して出願人が手続補正を行なったが、それでもミスが修正されなかったので手続却下になったということがわかります。

しかし、これらの書類の具体的内容は、特許庁に閲覧請求を出さないとわかりません。料金が600円かかりますし、インターネット出願ソフトを使っていて、かつ、振替口座を登録等している人(要するに弁理士)以外の人は特許印紙を買って申請書類に貼って郵送するか、特許庁まで行って閲覧しないといけないのでめんどくさいです。しかも、請求した人の記録が包袋に残ります。業者を使えば匿名で閲覧はできますが、それでも「誰か」が閲覧したという記録は残ります。

特許の場合には、IPDLの「特許・実用新案検索」→「審査書類情報照会」で包袋の書類の中味までネットで無料で(かつ証跡を残さず)閲覧できるのですが、残念ながら商標にはこれに対応するサービスはありません。

たとえば、自分が出願予定の商標の類似の先願がある場合、その先願の審査状況によって自分が出願すべきかどうかを判断しなければならないケースがあり得ます。この場合、審査書類の閲覧請求を出してしまうと、先願の出願人に「あーこの商標が登録されると困る人がいるのだな」ということがばれて「ならば無理にでも登録に持ち込むか」という判断をされてしまう可能性がありますので(特許と同様に)証跡なく閲覧できると大変助かるんですけどね。

特許庁への業務改善依頼の募集があった時に、経過情報の更新のリアルタイム化と商標の審査書類のIPDLでの照会という希望を出しましたが、どうも今すぐ対応という感じではなさそうです。(追記:twitterで教えてもらいましたが、商標の審査書類がネットで見られるようになるのは平成30年以降の計画だそうです(特許庁資料のp34参照)(先長すぎ))。

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テスラ・モーターズは特許権を放棄したのか?

ウォールストリート・ジャーナル(日本版)に「米テスラ、特許を公開へ?技術促進目指し」なんて記事が載ってます。ちょっと記事からだと意味がわかりにくい(「特許を公開」と言ってますが、特許制度のポイントは技術の公開の代償として独占権を与えることにあるので特許が公開されるのは当たり前です、「特許を開放」という意味なのでしょうか?)ので一次ソース(Tesla Motorsの公式ブログ)に当たってみました。

Tesla社CEOのElon Musk氏が以下のように書いています。

Tesla will not initiate patent lawsuits against anyone who, in good faith, wants to use our technology.

テスラは、誠意の元に、当社のテクノロジーの使用を希望する企業に対して特許侵害訴訟を提起することはありません。

そして、大手自動車メーカーの脅威を避けることよりも、EV業界全体の拡大の方が重要なので、オープンソース的な考え方を適用することにしたと結論づけています。

ということで、特許権を放棄したというわけではないようです。上記引用の”in good faith”の意味するところですが、特許訴訟をしかけられた時には防衛的に権利行使することはあるということでしょう(CNETの記事に記者発表会でのMusk CEOの発言骨子が載ってますがそれを裏付けています)。

要するに、特許は防衛的にのみ使うということで、twitter社のポリシー等と同様です。こういう考え方は、少なくとも成長中の市場では今後も広まっていくと思います。

もちろん、防衛手段としての特許が不要になったわけではないのですが、成長市場では特許技術の保護よりも利用を優先した方がよいということで、一種の「グロースハッキング」みたいなものでしょう。EVが成熟産業になると状況はまた変わるかもしれません。

追記:上記CNET記事をよく読むと、Musk CEOは他社に権利行使しない見返りの「紳士協定」として他社にも同様の行為を期待するとも言っています。いざという時の「軍事力」として機能する特許権を維持した上での「平和外交」戦略とも言えるかもしれません(ちょっとシニカルな書き方をしてしまいましたが、方向性としては正しいと思います)。

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【小ネタ】iPhoneでの成田エクスプレスのチケットレス購入は便利

最近気がついたのですが、iPhoneでも成田エクスプレスの座席指定特急券のチケットレス購入が可能になってたのですね。モバイルSuica機能のないiPhoneでは鉄道系のチケットレスは縁がないものと思っていましたが、成田エクスプレスに限っては在来線と違う特別の改札があるわけではないので、モバイルSuicaのあるなしは関係ありません。

要は、駅員さんの検札時に特急券を買っていることをメール画面で示せればよいだけのことです(実際には、どの席が購入済みかは駅員さんの端末に表示されますので検札を求められることすらありません)。もちろん、乗車券分は別途普通のSuica等で処理する必要があります。

200円割引きになってえきねっとポイントが付くのも良いのですが、特に、帰国時にまずJR成田空港駅のホームにSuicaで入場しておいてからホームで一番早い成田エクスプレスの特急券購入ができるのは大変便利です。特急券を買うのに窓口で行列してると結構時間がかかり、一番早いエクスプレス列車のチケットが買えなかったりすることもあるからです。

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