ネットで商標登録出願の詳細情報を知る方法

#普通のことしか書いてないので知財実務家の方は読むには及びません

IPDL(特許電子図書館)というサイトで特許庁の特許や商標の出願関連書類が見られるのはご存じの方も多いと思います。UIはちょっとアレですが、無料でいろいろ検索できるので便利です。

商標の情報を調べたいときはメニューの「商標検索」を使うことになりますが、これだと公報レベルの情報、いわば、スタティックな情報しかわかりません。その時点でのステータス情報を知りたい場合には、ちょっとわかりにくいんですが、「経過情報検索」のメニューを使います(これは、特許も意匠も共通です)。

「経過情報検索」→「番号照会」から、「商標」のラジオボタンを選択して、「番号種別」で出願番号か登録番号のいずれかを選択して、出願番号あるいは登録番号を入力して検索します(特許の場合は公開番号を入力することもあります)。検索結果から出願情報を選択して審査記録を見ると、その時点での審査の状態がわかります(とは言え完全なリアルタイムではなく1〜2週間くらいのタイムラグがあります)。業界で「包袋」(英語ではwrapper)といわれている審査で使用されているすべての書類の情報です。

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たとえば、上記の審査記録データを見ると、出願はされたものの何からの形式的瑕疵(たとえば、手数料額の間違い)があったので、手続補正指令書が送付され、それに対応して出願人が手続補正を行なったが、それでもミスが修正されなかったので手続却下になったということがわかります。

しかし、これらの書類の具体的内容は、特許庁に閲覧請求を出さないとわかりません。料金が600円かかりますし、インターネット出願ソフトを使っていて、かつ、振替口座を登録等している人(要するに弁理士)以外の人は特許印紙を買って申請書類に貼って郵送するか、特許庁まで行って閲覧しないといけないのでめんどくさいです。しかも、請求した人の記録が包袋に残ります。業者を使えば匿名で閲覧はできますが、それでも「誰か」が閲覧したという記録は残ります。

特許の場合には、IPDLの「特許・実用新案検索」→「審査書類情報照会」で包袋の書類の中味までネットで無料で(かつ証跡を残さず)閲覧できるのですが、残念ながら商標にはこれに対応するサービスはありません。

たとえば、自分が出願予定の商標の類似の先願がある場合、その先願の審査状況によって自分が出願すべきかどうかを判断しなければならないケースがあり得ます。この場合、審査書類の閲覧請求を出してしまうと、先願の出願人に「あーこの商標が登録されると困る人がいるのだな」ということがばれて「ならば無理にでも登録に持ち込むか」という判断をされてしまう可能性がありますので(特許と同様に)証跡なく閲覧できると大変助かるんですけどね。

特許庁への業務改善依頼の募集があった時に、経過情報の更新のリアルタイム化と商標の審査書類のIPDLでの照会という希望を出しましたが、どうも今すぐ対応という感じではなさそうです。(追記:twitterで教えてもらいましたが、商標の審査書類がネットで見られるようになるのは平成30年以降の計画だそうです(特許庁資料のp34参照)(先長すぎ))。

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テスラ・モーターズは特許権を放棄したのか?

ウォールストリート・ジャーナル(日本版)に「米テスラ、特許を公開へ?技術促進目指し」なんて記事が載ってます。ちょっと記事からだと意味がわかりにくい(「特許を公開」と言ってますが、特許制度のポイントは技術の公開の代償として独占権を与えることにあるので特許が公開されるのは当たり前です、「特許を開放」という意味なのでしょうか?)ので一次ソース(Tesla Motorsの公式ブログ)に当たってみました。

Tesla社CEOのElon Musk氏が以下のように書いています。

Tesla will not initiate patent lawsuits against anyone who, in good faith, wants to use our technology.

テスラは、誠意の元に、当社のテクノロジーの使用を希望する企業に対して特許侵害訴訟を提起することはありません。

そして、大手自動車メーカーの脅威を避けることよりも、EV業界全体の拡大の方が重要なので、オープンソース的な考え方を適用することにしたと結論づけています。

ということで、特許権を放棄したというわけではないようです。上記引用の”in good faith”の意味するところですが、特許訴訟をしかけられた時には防衛的に権利行使することはあるということでしょう(CNETの記事に記者発表会でのMusk CEOの発言骨子が載ってますがそれを裏付けています)。

要するに、特許は防衛的にのみ使うということで、twitter社のポリシー等と同様です。こういう考え方は、少なくとも成長中の市場では今後も広まっていくと思います。

もちろん、防衛手段としての特許が不要になったわけではないのですが、成長市場では特許技術の保護よりも利用を優先した方がよいということで、一種の「グロースハッキング」みたいなものでしょう。EVが成熟産業になると状況はまた変わるかもしれません。

追記:上記CNET記事をよく読むと、Musk CEOは他社に権利行使しない見返りの「紳士協定」として他社にも同様の行為を期待するとも言っています。いざという時の「軍事力」として機能する特許権を維持した上での「平和外交」戦略とも言えるかもしれません(ちょっとシニカルな書き方をしてしまいましたが、方向性としては正しいと思います)。

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【小ネタ】iPhoneでの成田エクスプレスのチケットレス購入は便利

最近気がついたのですが、iPhoneでも成田エクスプレスの座席指定特急券のチケットレス購入が可能になってたのですね。モバイルSuica機能のないiPhoneでは鉄道系のチケットレスは縁がないものと思っていましたが、成田エクスプレスに限っては在来線と違う特別の改札があるわけではないので、モバイルSuicaのあるなしは関係ありません。

要は、駅員さんの検札時に特急券を買っていることをメール画面で示せればよいだけのことです(実際には、どの席が購入済みかは駅員さんの端末に表示されますので検札を求められることすらありません)。もちろん、乗車券分は別途普通のSuica等で処理する必要があります。

200円割引きになってえきねっとポイントが付くのも良いのですが、特に、帰国時にまずJR成田空港駅のホームにSuicaで入場しておいてからホームで一番早い成田エクスプレスの特急券購入ができるのは大変便利です。特急券を買うのに窓口で行列してると結構時間がかかり、一番早いエクスプレス列車のチケットが買えなかったりすることもあるからです。

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「データには重量がある」とNetAppのCEO

正直、最近はエンタープライズIT系の仕事は減ってきましたがやっていないわけではありません。サンタクララのNetApp本社で開催された年次アナリストイベントに行ってきました。

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NetApp社は大手では唯一のストレージ専業ベンダーですが、その戦略は単なるストレージ機器だけではなく企業のクラウド戦略全般にも大いに関係するものだと思います。

NetApp社CEOのTom Georgeon氏のプレゼンで、同氏は”Data has mass. It’s hard to move.”(データには重量がある、動かすのは大変だ)と述べました。

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たとえば、1Gbpsの回線を使っても1TBのデータを転送するには半日かかってしまいます。クラウドでデータを高速分析するためにネットをまたがって大量データを常時転送するような設計をしてしまうと、全体としては全然高速化できないことになります。

下のスライドにもあるようにコンピューティング(計算)は、任意のクラウドで稼働したり、稼働中に別のクラウドにマイグレートしたりが比較的自由にできますが、(大量)データはそういうわけにはいきません。一般的なエンタープライズITでは大量データの処理は不可欠なので、この「データの重量」という制約条件を肝に銘じておく必要があります。

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そこで、同社が取る戦略は、データは最適な場所でしっかりと管理しましょうということです(もちろん、NetAppのソリューションを使ってということですが)。

この典型的ソリューションがNPS (NetApp Private Storage) for AWSです。これについては以前書きましたが、AWSのデータセンターの近隣にあるNetApp社の施設にユーザーのストレージをハウジングして、EC2上でアプリケーションを稼働する形態です。データの移動が最小化できるだけでなく、アプリケーションとデータが近いことから低レイテンシでのアクセスが可能であり、さらに、セキュリティや当局規制上の観点から自社データをパブリッククラウドに置けない企業のニーズにも対応できます。

あるプレゼンのタグラインでは”Pick Your Clouds, Control Your Data”と書いてありました。データは自前でしっかり管理する、それを処理するクラウドは適材適所(これにはプライベートクラウド(典型的にはOpenStackベース)も含まれます)で選びましょうということです。これは、単にNetAppのストレージ・ベンダーとしてのマーケティング・メッセージというだけではなく、あらゆるエンタープライズITのアーキテクトが考慮すべきポイントではないかと思います。

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手数料を支払わないで商標登録出願をするとどうなるのか

特許でも商標でも特許庁に出願を行なうと所定の手数料がかかります。弁理士の料金とは別の法律で定まった手数料(通称、印紙代)なので、自分で出願した場合でも支払う必要があります。商標の場合は、最低料金(1区分)で12,000円になります。

この所定の手数料を支払わないで商標登録出願をする(典型的には特許印紙を貼らないで願書を提出する)とどうなるのでしょうか?

この場合でも即時に却下されることはなく、出願としてはいったん受理されます。その後しばらくしてから、方式に違反しているということで、所定の料金を支払えという補正指令が出ます。応答期間(たぶん30日だったと思います)内に、この補正指令に対応して所定の手数料を支払えば問題なく出願が受理されて、実体審査に入ります。応答期間内に支払わないと、その段階で初めて出願が却下になります。

つまり、手数料をまったく支払わずに商標登録出願をしても、実際に却下になるまでの一定期間(おそらく2か月程度)は、出願が特許庁に係属した状態になります。また、出願公開も行なわれてしまいます。

商標は特許と違って新規性という概念がないので、出願公開されただけでは後願を排除することはできません。

しかし、仮に出願が公開されている時点で、たまたまそれと類似の商標登録を行なおうとする別の人がいると、商標の調査段階で類似先願ありと判断される可能性があります。ここで、その別の人が先願の出願人に一部譲渡やライセンスのためにコンタクトしたり、登録阻止のために特許庁に情報提供したりすると、それにより「この商標が登録されると困る人がいるのだな」ということが先願の出願人に明らかになってしまいます。ここで先願の出願人は初めて所定の手数料を支払って商標を登録し、その後で、売却やライセンス交渉を行なうことができてしまいます。

こうなる確率はかなり低いと思いますが、手数料支払わずに商標登録出願をして補正指令も無視する分には金はかかりませんので、ダメ元で大量出願するというやり方が可能になってしまいます。違法とまでは言えませんが、商標法の趣旨にも反しますし、特許庁が対価なしに余計な仕事(実体審査はしなくても補正指令の送付や出願公開の手続きが必要です)をすることになってしまいますので、何とか対策を取ってもらいたいものです。

かと言って手数料の間違いは補正の機会を与えずに即時却下という運用にしてしまうと、リアルで間違えた時にちょっと困るので難しいところです。方式審査が終わるまでは出願公開しないという運用にすればよいのかもしれません。(追記:商標法12条の2 「特許庁長官は、商標登録出願があつたときは、出願公開をしなければならない。」との関係で運用だけでは対応できないかもしれません。)

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