【実務者向け】審査請求料が全額戻るというケースはありません

特許の審査請求手続が取り下げできないのは法律に明記されています(特許法第48条の3第3項)ので周知かと思います。

ここで、審査請求料金が足りなかった場合には、補正指令が出て追加料金の支払を命じられます。補正に応じないと審査請求手続自体は却下になりますが、その時でも支払済みの料金は返納されないので注意が必要です(特許庁に確認済)。

ありがちなシナリオとしては、産業競争力強化法等による料金減額を想定して審査請求したのに減額が認められなかった場合です。この場合には、追加納付して審査請求を有効にするか、既納料金を無駄にして審査請求を却下させるしかありません。クライアントが「減額料金だったら審査請求してもいいけど、フルに払うのならしたくない」というポジションである場合には注意が必要です。

なお、出願自体を放棄すると(条件によって)既納の審査請求料の半額が返還されますが(特許法第195条第9項)、これはフルに支払った後の話であって、審査請求料が足りなかった場合には適用されません。

なお、間違えて審査請求料を払いすぎた場合には過納分は返還されます(経験済(恥))。

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【実務者向け】マドプロにおける商標登録証のゆくえについて

#商標実務者オンリーのものすごく細かい話です。

外国でされた商標の国際登録出願(マドプロ)で日本が指定されている場合の日本国特許庁への対応業務(いわゆる外内)をたまに請け負うことがあります。この場合、無事に登録されると、登録査定謄本は国際登録の代理人(通常は出願人の国における代理人)に送られます(一度なぜか自分のところに送られてきたことがありますが、それは特許庁のミスだったのでした)。

商標登録証については、自分が代理人受任届けを特許庁に提出して国内の代理人になっている時は自分のところに送られてきます。そうでない場合、たとえば、補正手続のみの委任状をもらって補正した時等は出願人に直接送られるようです。まあ、日本の場合は、商標登録証は権利行使には関係ないのでたいした問題ではないのですが、どちらかに統一してもらいたい気がします。自分のところに送ってもらっても結局国際登録の代理人に転送して、出願人に転送することになるだけだからです。

内外に話を変えますが、中国の場合はマドプロ経由ですとそもそも商標登録証が発行されません。そして、権利行使には商標登録証が必要なので、事前に発行してもらう必要があるので注意が必要です(費用も時間もかかります)。

米国の場合はマドプロでは登録証が発行されない規定のはずなのですが、よくわからないところがあります。少なくとも中間処理なしに(つまり、米国内代理人の関与なしに)そのまま登録されてしまった場合は登録証は送られてこないはずです。しかし、補正を米国内代理人に依頼した時にその代理人に登録証が送られて、転送されてきたことがありました。また、私のところにUSPTOから直接登録証が送られてきたこともあるのですが、それ一度きりだったので送られてきた理由がよくわかりません。実際の運用は適当なのかもしれません。

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【PR】ADC社による「外付けキーボードに関する特許取得のお知らせ」について

エイディシーテクノロジー株式会社という会社が「外付けキーボードに関する特許取得のお知らせ」というプレスリリースを出しています。

当該特許は5524148号「コンピュータ装置」と5149336号「コンピュータシステム、及び、このコンピュータシステムで用いられるキーボード」です。

プレスリリースには以下のように書かれています。

現在市場にある多くの製品は、この2件の当社特許に抵触すると思われます。例えば、会社の業務などでスマホ、タブレットに外付けのキーボードを使用してデータを入力する場合にも、これらの特許に抵触する可能性が大きいです。

もちろん、これはメーカー側の言い分なので、実際に抵触するかどうかは弁理士の鑑定等を含めて検討する必要があります。そして、最終的な決着は侵害訴訟の場ということになります。もちろん、ライセンス料を支払うという選択肢もあります。

両特許の具体的評価についてはさすがにオープンな場では書けませんので、弊所へのご相談についてはこちらからお願いいたします。

【追記】プレスリリースの以下の箇所について何件かコメント頂きましたので、一般論として回答します。

ライセンス付与のシールが付されていないキーボードを引き続き使用される場合には、特許侵害となる可能性がありますので、ご注意ください。

まず、特許権の効力は「業として」の実施にしか及びません。すなわち、個人的・家庭内の使用では特許権を原則気にする必要はありません。

(特許権の効力)第68条  特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。(略)

また、特許発明の実施には、その物が使用が含まれます。

(定義)第2条3号 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
一 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(略)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(略)をする行為

したがって、特許権の技術的範囲に含まれる物を業務上使用すると解釈上は特許権を侵害することになります。ただし、通常は使用をしているエンドユーザーに権利行使することはなく、その物を製造・販売している会社に権利行使することになります。これは、単に前者に訴訟をしてもあまりメリットがないからです。

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GRL(グレイル)社長逮捕:商標権を侵害していなくても偽ブランド販売で逮捕されることがあります

たまに聞かれる偽ブランド品販売で逮捕というニュースでは、商標法違反容疑のケースがほとんどです。しかし、偽物の販売を防止できるのは商標法だけでありません。

先日報道された「衣料販売会社社長ら逮捕=人気ブランド模倣の疑い—大阪府警」という事件では、人気ブランドのデザインを模倣した服を販売していた会社の社長らが不正競争防止法違反(商品形態模倣行為)容疑で大阪府警に逮捕されました。このGRL(グレイル)という会社、楽天等にも出店し、有名タレントを使って宣伝していた結構有名所で、社長は再三の警告を無視していたそうですが、商標登録されていない、あるいは、類似商標(ブランド名やマーク)を使用していないから大丈夫と高をくくっていたのでしょうか?

不正競争防止法「商品形態模倣行為」とは以下の規定です。元々は刑事罰対象では無かったのですが、平成17年の改正で刑事罰が付加されました。

不正競争防止法2条1項3号 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為

そもそも商標権は事前の出願・登録が必要です。また、基本的には名称やマークに対する保護です。商品形態そのものを商標にできるケースもありますが、消費者の間で相当の周知性を獲得していないと登録のハードルは高いです。そうなると、それほど周知でもなく、ライフサイクルもせいぜい数年という通常のファッション商品を商標権で保護するのはあまり現実的ではありません。しかし、この場合でも不正競争防止法の上記規定で刑事罰も含めて偽ブランド販売を防ぐことが可能です。

なお、2条1項3号の規定は販売から3年以内に限定されます(19条1項5号イで適用除外されています)。また、基本的にデッドコピー品でないと適用されません。なので、あくまでも商標法や意匠法を補完する制度と考えた方がよいでしょう。実際には、この規定が適用されて立件されることはあまりなく、別記事によれば、この規定により当事者が逮捕されたのは今回が初めてだそうです。

ということで、ライフサイクルの長い商品を長期的に保護をしたいのであれば、やはり商標登録や意匠登録をしておくことが適切です。また、周知性が高い商品であれば、不正競争防止法の1条1項1号や2号で権利行使することも可能です。

ちょっとややこしいので以下に偽物ファッション商品を防ぐための法律ごとの特性を簡単にまとめます。ファッション商品の文脈で書いてますが、他の商品(たとえば、ガジェット類)にも適用される話です。また、著作権については、一般的には大量生産の工業製品には適用されない(キャラクターの絵でも描いてあれば別ですが、それは絵に対する保護であって工業製品に対する保護ではありません)とされていたのですが、最近、裁判において家具のデザインの著作物性を肯定する判断がされた(参照過去記事)ので、念のため付記しておきました。

保護方法比較

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鳥貴族の鳥二郎商標に対する異議申立は認められませんでした

焼鳥チェーンの鳥貴族対鳥二郎の争いに関する過去記事で「鳥二郎ロゴの商標登録(5698660号)に対して鳥貴族側が異議申立を行なっており、現在進行中」と書きましたが、その決定が出ました。鳥貴族側にとっては残念でしたが申立は認められず、鳥二郎ロゴ商標登録が維持される結果となりました。念のため書いておくと、これは鳥貴族が特許庁に鳥二郎の登録商標を取り消すよう申し立てた件の話であって、鳥貴族と鳥二郎の間の裁判の話とはまた別です。

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異議申立の審判番号は2014-900320です。J-PlatPatの審決公報DBメニューで文献番号に2014-900320を入力すると異議の決定を見ることができます(固定リンクが張れないので本当に不便ですね)。

鳥貴族側が主張した論点は簡単に言うと以下の4つです。

1. 先願の文字商標「炭火串焼き 鶏ジロー」と類似なので取り消されるべき(商標法4条1項11号)

2. 先願の図形商標(以下参照)と類似なので取り消されるべき(同4条1項11号)

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3. 鳥貴族の業務と混同を生じるので取り消されるべき(同4条1項10号および15号)

4.鳥貴族による先登録商標(以下参照)と類似なので取り消されるべき(同8条1項)

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結局、上記の4点とも認められなかったわけですが、個人的には1. の判断はちょっと微妙な気がします。読者の方にとって特に興味深いのは3. と思われるので以下に決定の関連部分を引用します。

鳥貴族側は以下の理由により出所の混同を主張しています。さすがに「鳥貴族」と「鳥二郎」が標章として似ていると主張するのは無理筋と思われるので、消費者が混同している点を主張しています。

本件商標と「鳥貴族」の標章とは,「二郎」と「貴族」の文字の差異や,背景が黄色と朱色の差異が存在しており,細部を形式的に見れば複数の差異が存在している。
しかしながら,両商標を全体としてみた場合,「鳥」の図形部分の類似も相まって,一般の需要者をして出所の混同を生ずる可能性が十分ある。
この点,商標の審査基準によると,本号において,「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある場合」とは,その他人の業務に係る商品または役務であると誤認し,その商品又は役務の需要者が商品または役務の出所について混同するおそれがある場合のみならず,その他人と経済的または組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品または役務であると誤認し,その商品または役務の需要者または役務の出所について混同するおそれがある場合をもいう(甲17)。
最近の飲食業界は,本体の飲食店のネームバリューによるシナジー効果を利用して,本体の飲食店の名称の一部または全部を使用して,姉妹店を出店することにより多角経営化の傾向が強い(甲18の1ないし3)。
このような中,一般の需要者が本件商標を付けた店舗看板を見た場合,「鳥」の図形部分が極めて近似する周知な「鳥貴族」の標章との間において,あたかも「鳥貴族」の弟分の店舗であるとして,他人である申立人と経済的または組織的に何等かの関係がある者の業務に係る役務であると誤認するおそれがある。
実際,本件商標の権利者は,申立人が経営する「鳥貴族」の店舗近くに,フリーライド的に「鳥二郎」の名称を付した店舗を出店するなどして(甲3の1),多くの需要者に出所の混同を生じせしめている事実がある(甲20の1ないし11)。

しかし、特許庁側は、以下のようにこの主張を退けています。

本件商標と「鳥貴族」標章とは,外観,称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標と認められる。
したがって,本件商標の指定役務である第43類「飲食物の提供」と,「鳥貴族」標章が使用される申立人の業務である「焼鳥を主とする飲食物の提供」とが類似するとしても,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。
また,「鳥貴族」標章が,申立人の業務に係る役務を表すものとして,本件商標の登録出願時及び査定時において広く知られているとしても,本件商標と,「鳥貴族」標章とは,十分に区別し得る別異の商標というのが相当であるから,商標権者が本件商標をその指定役務について使用しても,これに接する取引者,需要者が,申立人又は申立人と何等かの関係を有する者の業務に係る役務であるかのごとく役務の出所について混同を生ずるおそれはないものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。

「鳥貴族」と「鳥二郎」が、標章として明らかに非類似なのでしょうがないと言えましょう。なお、鳥の文字デザインにしても「本件商標の指定役務である飲食物の提供に係る業においては,「鳥」の漢字をデザイン化してのれんや看板等に表示し,「トリ」の読みをもって使用されている実情が看て取れるところである。」と述べられており、類否判断には影響なしとされました。

ということで、鳥貴族側については残念なことになってしまいましたが、鳥貴族商標の周知著名性については認定されましたので、不正競争防止法で争っている裁判の方で勝訴(あるいは有利な和解)の可能性もないことはないと思います(登録商標の仕様でも不正競争に該当するとした裁判例もありますし)。

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