GRL(グレイル)社長逮捕:商標権を侵害していなくても偽ブランド販売で逮捕されることがあります

たまに聞かれる偽ブランド品販売で逮捕というニュースでは、商標法違反容疑のケースがほとんどです。しかし、偽物の販売を防止できるのは商標法だけでありません。

先日報道された「衣料販売会社社長ら逮捕=人気ブランド模倣の疑い—大阪府警」という事件では、人気ブランドのデザインを模倣した服を販売していた会社の社長らが不正競争防止法違反(商品形態模倣行為)容疑で大阪府警に逮捕されました。このGRL(グレイル)という会社、楽天等にも出店し、有名タレントを使って宣伝していた結構有名所で、社長は再三の警告を無視していたそうですが、商標登録されていない、あるいは、類似商標(ブランド名やマーク)を使用していないから大丈夫と高をくくっていたのでしょうか?

不正競争防止法「商品形態模倣行為」とは以下の規定です。元々は刑事罰対象では無かったのですが、平成17年の改正で刑事罰が付加されました。

不正競争防止法2条1項3号 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為

そもそも商標権は事前の出願・登録が必要です。また、基本的には名称やマークに対する保護です。商品形態そのものを商標にできるケースもありますが、消費者の間で相当の周知性を獲得していないと登録のハードルは高いです。そうなると、それほど周知でもなく、ライフサイクルもせいぜい数年という通常のファッション商品を商標権で保護するのはあまり現実的ではありません。しかし、この場合でも不正競争防止法の上記規定で刑事罰も含めて偽ブランド販売を防ぐことが可能です。

なお、2条1項3号の規定は販売から3年以内に限定されます(19条1項5号イで適用除外されています)。また、基本的にデッドコピー品でないと適用されません。なので、あくまでも商標法や意匠法を補完する制度と考えた方がよいでしょう。実際には、この規定が適用されて立件されることはあまりなく、別記事によれば、この規定により当事者が逮捕されたのは今回が初めてだそうです。

ということで、ライフサイクルの長い商品を長期的に保護をしたいのであれば、やはり商標登録や意匠登録をしておくことが適切です。また、周知性が高い商品であれば、不正競争防止法の1条1項1号や2号で権利行使することも可能です。

ちょっとややこしいので以下に偽物ファッション商品を防ぐための法律ごとの特性を簡単にまとめます。ファッション商品の文脈で書いてますが、他の商品(たとえば、ガジェット類)にも適用される話です。また、著作権については、一般的には大量生産の工業製品には適用されない(キャラクターの絵でも描いてあれば別ですが、それは絵に対する保護であって工業製品に対する保護ではありません)とされていたのですが、最近、裁判において家具のデザインの著作物性を肯定する判断がされた(参照過去記事)ので、念のため付記しておきました。

保護方法比較

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鳥貴族の鳥二郎商標に対する異議申立は認められませんでした

焼鳥チェーンの鳥貴族対鳥二郎の争いに関する過去記事で「鳥二郎ロゴの商標登録(5698660号)に対して鳥貴族側が異議申立を行なっており、現在進行中」と書きましたが、その決定が出ました。鳥貴族側にとっては残念でしたが申立は認められず、鳥二郎ロゴ商標登録が維持される結果となりました。念のため書いておくと、これは鳥貴族が特許庁に鳥二郎の登録商標を取り消すよう申し立てた件の話であって、鳥貴族と鳥二郎の間の裁判の話とはまた別です。

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異議申立の審判番号は2014-900320です。J-PlatPatの審決公報DBメニューで文献番号に2014-900320を入力すると異議の決定を見ることができます(固定リンクが張れないので本当に不便ですね)。

鳥貴族側が主張した論点は簡単に言うと以下の4つです。

1. 先願の文字商標「炭火串焼き 鶏ジロー」と類似なので取り消されるべき(商標法4条1項11号)

2. 先願の図形商標(以下参照)と類似なので取り消されるべき(同4条1項11号)

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3. 鳥貴族の業務と混同を生じるので取り消されるべき(同4条1項10号および15号)

4.鳥貴族による先登録商標(以下参照)と類似なので取り消されるべき(同8条1項)

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結局、上記の4点とも認められなかったわけですが、個人的には1. の判断はちょっと微妙な気がします。読者の方にとって特に興味深いのは3. と思われるので以下に決定の関連部分を引用します。

鳥貴族側は以下の理由により出所の混同を主張しています。さすがに「鳥貴族」と「鳥二郎」が標章として似ていると主張するのは無理筋と思われるので、消費者が混同している点を主張しています。

本件商標と「鳥貴族」の標章とは,「二郎」と「貴族」の文字の差異や,背景が黄色と朱色の差異が存在しており,細部を形式的に見れば複数の差異が存在している。
しかしながら,両商標を全体としてみた場合,「鳥」の図形部分の類似も相まって,一般の需要者をして出所の混同を生ずる可能性が十分ある。
この点,商標の審査基準によると,本号において,「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある場合」とは,その他人の業務に係る商品または役務であると誤認し,その商品又は役務の需要者が商品または役務の出所について混同するおそれがある場合のみならず,その他人と経済的または組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品または役務であると誤認し,その商品または役務の需要者または役務の出所について混同するおそれがある場合をもいう(甲17)。
最近の飲食業界は,本体の飲食店のネームバリューによるシナジー効果を利用して,本体の飲食店の名称の一部または全部を使用して,姉妹店を出店することにより多角経営化の傾向が強い(甲18の1ないし3)。
このような中,一般の需要者が本件商標を付けた店舗看板を見た場合,「鳥」の図形部分が極めて近似する周知な「鳥貴族」の標章との間において,あたかも「鳥貴族」の弟分の店舗であるとして,他人である申立人と経済的または組織的に何等かの関係がある者の業務に係る役務であると誤認するおそれがある。
実際,本件商標の権利者は,申立人が経営する「鳥貴族」の店舗近くに,フリーライド的に「鳥二郎」の名称を付した店舗を出店するなどして(甲3の1),多くの需要者に出所の混同を生じせしめている事実がある(甲20の1ないし11)。

しかし、特許庁側は、以下のようにこの主張を退けています。

本件商標と「鳥貴族」標章とは,外観,称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標と認められる。
したがって,本件商標の指定役務である第43類「飲食物の提供」と,「鳥貴族」標章が使用される申立人の業務である「焼鳥を主とする飲食物の提供」とが類似するとしても,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。
また,「鳥貴族」標章が,申立人の業務に係る役務を表すものとして,本件商標の登録出願時及び査定時において広く知られているとしても,本件商標と,「鳥貴族」標章とは,十分に区別し得る別異の商標というのが相当であるから,商標権者が本件商標をその指定役務について使用しても,これに接する取引者,需要者が,申立人又は申立人と何等かの関係を有する者の業務に係る役務であるかのごとく役務の出所について混同を生ずるおそれはないものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。

「鳥貴族」と「鳥二郎」が、標章として明らかに非類似なのでしょうがないと言えましょう。なお、鳥の文字デザインにしても「本件商標の指定役務である飲食物の提供に係る業においては,「鳥」の漢字をデザイン化してのれんや看板等に表示し,「トリ」の読みをもって使用されている実情が看て取れるところである。」と述べられており、類否判断には影響なしとされました。

ということで、鳥貴族側については残念なことになってしまいましたが、鳥貴族商標の周知著名性については認定されましたので、不正競争防止法で争っている裁判の方で勝訴(あるいは有利な和解)の可能性もないことはないと思います(登録商標の仕様でも不正競争に該当するとした裁判例もありますし)。

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店でBGMを流したいがJASRACに金を払いたくない場合にはどうしたらよいか

著作権使用料を支払わずにCDや携帯音楽プレーヤー、パソコンなどでBGMを流していた美容室や衣料品店、飲食店に対して、JASRACが使用料支払いなどを求める調停を各地の簡易裁判所に申し立てたというニュースがありました。

1999年の著作権法改正(附則14条の廃止)により、飲食店等でCDをプレイすることも著作権法上の「演奏」として扱われるようになったことから、たとえ自分で買ったCDであっても、店舗でBGMとしてかける場合(=営利目的)には著作権者(=JASRAC)の許諾が必要になっていますので、これはしょうがないと言えます。

営利目的でBGMを流す場合のJASRACの使用料はJASRACのサイトに載ってます。店舗面積500平米以下の場合は年額6,000円(月額500円)です。正直、法外に高いということはないと思います。

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出典:JASRAC

それでもJASRACに金は払いたくないという人はいるかもしれません。お店でBGMを流したい。しかし、JASRACに金を払いたくないという場合にはどうしたらよいのでしょうか?

一番簡単なのはラジオをそのまま流すことです。この場合は著作権法38条3項により著作権者の許諾は不要です。

38条3項 放送され、又は有線放送される著作物(放送される著作物が自動公衆送信される場合の当該著作物を含む。)は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、受信装置を用いて公に伝達することができる。通常の家庭用受信装置を用いてする場合も、同様とする。

この条文の読み方はちょっとわかりにくいですが、

パターン1:放送されている番組を非営利・無料で流している時は許諾不要

パターン2:放送されている番組を通常の家庭用受信装置で流している時は(たとえ営利目的であっても)許諾不要

ということです。

ここで、「通常の家庭用受信装置」がどこからどこまでなのかには議論の余地がありますが、明確な見解はないようです。

なお、細かい話しですが「放送された」著作物ではなく、「放送される」著作物なので、上記はあくまでも放送をそのままリアルタイムで流す場合で、放送をいったん録音した場合は適用されません(そもそもこの場合には複製権の処理が必要になってしまいます)。

ここで、やっかいなのが、インターネットラジオです。インターネットラジオは「ラジオ」というくらいなので「放送」と思われがちですが、著作権法上は(少なくとも文化庁による解釈上は)「自動公衆送信」です(要するにYouTube等のオンデマンド配信と同じように扱われます)。なので、38条3項は適用されず、無許諾でBGMには使えません。

一部のインターネット・ラジオ業者は業務BGM用の契約形態を提供しており、この場合には、利用者側はJASRACに直接使用料を払う必要はありません(とは言え、インターネット・ラジオ業者に払う料金の中にJASRAC使用料が含まれていることになるので間接的には支払っていることになりますが)。USEN等の業務向け有線放送の場合も同じです。

JASRACのサイトに利用者側でJASRACへの料金支払が不要な(事業者側が支払ってくれている)インターネット・ラジオ、衛星ラジオ、有線放送事業者のリストが載ってます。大手のインターネット・ラジオ業者ですと、たとえば、モンスター・チャンネルはこの形態です。

これ以外に、JASRACとのBGM契約が不要な形態として、JASRACのサイトでは「福祉・医療施設や教育機関での利用、事務所・工場等での主として従業員のみを対象とした利用、または露店等の短時間で軽微な利用」が挙げられています(当面免除という位置づけ)。また、当然ではありますが、既に生演奏やカラオケで演奏権の処理を行なっている店舗ではBGM用に二重払いする必要はありません。

ややこしいですが、いずれにせよ、好みのCDをかけて通常のお店のBGMに使いたいという場合には、残念ながら、JASRACと契約を結んで所定の使用料を払う以外の方法はありません。

ここで、買ったCDをそのままプレイする場合は良いのですが、CD-Rに焼いたり、パソコンにリップしたCD音源をプレイしようと思うと、演奏権だけではなく、複製権の処理が必要になります。そして、複製権の処理になると著作権者(JASRAC)だけではなく原盤権者(レコード会社等)の許諾が必要になってきますので、現実的には許諾を取るのは困難になります。

私見ですが、営利目的で音楽の著作物を使うのであれば月500円くらいの料金を支払うのはしょうがないと思うのですが、もう少しわかりやすい仕組みにしてくれないものかと思います。

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カバー曲をCD化する場合に作曲家サイドへのあいさつは必要か?

前回の記事では、カバー曲をCD化する際の元歌の歌手(実演家)について、法律的には特に権利があるわけではないが(業界の礼儀として)場合によっては事前にひと言おことわりをしておいた方が良いんじゃないかと書きました。

今回は、もっと基本的な話としてカバー曲をCD化する時の元歌の作曲家に対して何が必要かという話をしましょう。実演家ではなく著作者の話なので著作権法上の関連する権利が変わってきます。すなわち、著作隣接権ではなく、著作権が効いてくることになります。

ほとんどの作曲家・作詞家はJASRAC(あるいは、他の音楽著作権管理団体)に(多くの場合、音楽出版社経由で)自分の曲の著作権を信託しています。これにより、音楽の著作物を利用したい人は作曲家・作詞家や音楽出版社にいちいち許可をもらうことなく、所定の料金だけ支払うことで楽曲を利用(演奏、CD化、カラオケ配信、放送等々)ができます。

こういう仕組みがないと、利用者側が利用のたびにいちいち許可をを取る必要が生じて非現実的ですし、作曲家・作詞家は自作のマネタイズが困難になりますし、仮に著作権侵害行為があっても野放しにするしかないという状態になってしまいます。

ちょっと余談ですが、キャンディーズの曲等で有名な作曲家の穂口雄右氏がJASRACを退会し、自身の楽曲を自己管理下においてAmazon等で権利証を販売していた時期がありましたが、今は、結局、同氏が米ASCAPBMIと契約したことで間接的にJASRAC管理に戻したようです。こうなるに至った同氏の主張(関連Wikipediaエントリー)には賛同したい部分もあるのですが、JASRACに問題があるかないかの話とは別に、現実的にはJASRAC的な組織(音楽著作権を集中管理して利用料を代行徴収する組織)がないと困るということは確かです。

ここで、JASRAC等の著作権管理団体が管理する権利には、翻案権(編曲権)は含まれないことに注意が必要です。また、著作者には著作者人格権があり、それには同一性保持権が含まれます。著作者人格権は著作者(作曲家・作詞家)の一身専属の権利であり、他人に譲渡できません。

つまり、カバーを行なう場合、楽曲をそのまま使うのであればJASRAC等に所定の料金を払うだけでよいのですが、アレンジを加えた場合には、作曲者側の許可が必要になります(歌詞は変えないという前提です)。どこからどこまでが許可不要なのかは法律上も判例上も明確な基準がありません。JASRACのFAQでは、以下のように書かれています。

Q. JASRACの管理作品をカバーしてCDに収録することを考えています。手続きはどうすれば良いですか。

A.カバーにあたりアレンジを加える場合は、まずその作品を管理する音楽出版社に連絡し、「編曲の手続き」をお済ませください。その後、JASRACに「録音の手続き」を済ませれば、アレンジ付きのカバーをCDに収録することができます。

著作権法は、著作者の権利として「複製権」「演奏権」「送信権」などさまざまな支分権を規定しています(著作権法第21条〜第28条)。アレンジを行う場合の手続きは、この支分権のうち「翻案権(編曲権)」(同法第27条)の手続きに該当します。

この「翻案権」については、著作者人格権との関係により、JASRACは信託を受けられないため、アレンジ(編曲)をする場合、JASRACではなく音楽出版社から直接同意を得ていただくことになります。

音楽出版社の連絡先がわからない場合は、JASRACインフォメーションデスク(03-3481-2125)へお問い合わせください。

翻案権の手続きが完了すれば、次にJASRACに録音の手続きを行ってください。

JASRAC管理作品の録音利用の手続きについては、こちらのページでご案内しておりますので、ご参照ください。

今日のポピュラー音楽でカバーの際にアレンジを加えないということはないと思われるので、結局、カバー曲CD化の場合は常に著作権者の許可を取れということなのでしょう。上記のFAQは同一性保持権について触れていませんが、厳密に言うと、作曲家本人にも同一性保持権上問題がないかおことわりする必要があります(実務上は音楽出版社から作曲家に話を通してくれるということなんでしょうか)。

こういう運用が一般的になったのはPE’Zによる大地讃頌のカバーに対して作曲家の佐藤眞氏が編曲権と同一性保持権に基づいて訴えた事件が契機となっているようです(関連過去ブログ記事)。

いずれにせよ、実演家の場合とは異なり、作曲者側に話を通すのは単に業界の礼儀レベルを越えて法律的にも必要ということです。

しかし、実はこの話はCD化だけではなく演奏等にも及ぶ話なので、厳密に言えばライブハウスでカバーを演奏するだけでも(お店によるJASRACへの料金支払に加えて)音楽出版社および作曲家本人に翻案権の許諾と同一性保持権不行使の合意を取る必要があることになります。とは言っても、たとえば、「明日のライブで松任谷由美さんの曲をラテンアレンジで演奏するので許可をください」とユーミンの事務所(あるいは本人)にいちいち連絡してたら業務妨害かと思われるかもしれませんね。

譜面に書いてある音楽の著作物を「楽団」の人が忠実に演奏する実演が中心だった大昔と比較すると、現在は実演家自身が独自のアレンジを加えるのは当たり前になってますので、もう少し現状にあった法律的な手当が必要なのではないかと思います。

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持ち歌の不本意なカバーをされた時に歌手は著作権法的に何ができるのか?

ある大御所ロック歌手が昔の持ち歌をことわりなくカバーされたことに苦言を呈してちょっと揉めたという事件がありました。もともと法律的な話でもなんでもなく、業界の礼儀的な話であるので、この事件についてはここでは論じません。元々の事件についてコメントされたい方は関連Togetterをサーチしてコメントするなどしてください。

ここで論じたいのは、自分の持ち歌を不本意にカバーされた歌手は著作権法上何かできるのかということです。上記の事件について、俺様著作権論を展開している人が見受けられたのでここで整理しておきましょうということです。

まず、大前提として、著作権法上は歌唱は著作物ではありません。歌唱は実演です。そして、実演は著作物とは別物で関連する権利も違います。なお、旧著作権法(明治32年)では歌唱も著作物のひとつとされていました。なので、歌唱は著作物であると決めてもよいのですが、今はそうなってないということです。

著作者(著作権者)と実演家(歌手等)がごっちゃになってる人がたまに見受けられます。

たとえば、JASRACに対する都市伝説的批判において、ライブハウスから徴収した金額はAKB48のようなメジャーなアーティストにしか回らないなんて話を聞くことがあります(JASRACの使用料分配に関する話はまた別途)。しかし、AKB48の曲がカラオケで歌われたり、ライブハウスでカバー演奏されたりしたことで、JASRACに入った著作権使用料はAKB48メンバーには回りません。回るのは秋元康等、楽曲の作詞家・作曲家に対してです(もちろん、メンバー自身が作詞・作曲した曲の場合を除きます)。

これに関連して余談ですが、作詞・作曲もするメンバーと実演のみのメンバーがいるバンドがヒット曲を出すと(後者には著作権収入が入らないことから)メンバー間で大きな収入格差が生じてバンドの不和の一因になるというケースもあるようです。

さて、本題のカバー曲を出されたことに対して実演家は何ができるかについて考えます。簡単に言えば、著作権法上は楽曲は著作者(作曲家・作詞家)のものであって、歌手(実演家)のものではないので、楽曲がどう使われるかを歌手はコントロールできません。

もちろん、実演家にも(著作権とは別の)権利があります。

第一に、著作隣接権(実演家の権利)です。この権利には録音権・録画権、放送権・有線放送権、送信可能化権、譲渡権、商業用レコードの貸与権があります。著作者の権利とは異なり複製権や翻案権がありませんので、仮に、カバーにおいてオリジナルの歌唱の物真似やインスパイア的な要素があったとしても、実演家の著作隣接権の侵害にはなり得ません。

なお、実務上は、歌手やバンドの著作隣接権はレコード会社との専属録音契約によってレコード会社に譲渡されていることが通常です(それがいやなら自費出版すればよいので、あながちひどい話ではありません。)

もうひとつの実演家の権利として実演家人格権があります。実演家人格権には氏名表示権と同一性保持権があります。同一性保持権(90条の3)は「(実演家が)自己の名誉又は声望を害するその実演の変更、切除その他の改変を受けない」権利です。「自己の実演の改変」の話をしていますので、カバー曲(他人による別の実演)は関係ありません。ちなみに、実演家の同一性保持権を侵害するケースとしては、ライブでミスがあったシーンだけをまとめて映像作品にされてしまったというようなケースが考えられるのではないかと思います。

繰り返しますが、ここでは著作権法的に歌手(実演家)にどういう権利があるかを論じているだけなので、業界の儀礼的な話はまた別です。私見ですが、カバー曲をライブでやるだけでなくCDを出し、かつ、その曲とオリジナルの歌手の結びつきがきわめて強いという認識があるのであれば、許諾というほど大げさなものではなくてもひと言おことわりしておくべきだと思います(そして、それは事務所等の裏方さんがちゃんとやっておくべき仕事だと思います)。

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