世界中の言葉の発音を集めたソーシャルサイト Forvo

産業翻訳の仕事をやっていると読み方がわからない固有名詞に出会うことがよくあります。固有名詞はアルファベットのままでOKのクライアントもありますが、カナ書き表記を求めるクライアントも多いので、何とかして発音を知る必要があります。もちろん、人名発音辞典とか固有名詞発音辞典などはあるのですが、特に非英語圏の言葉については無力であることが多いです。

結局Googleでいろいろサーチして見当を付けざるを得ないことが多いですが、そのような課程で世界の言葉の発音の音声データを集めたサイトForvoを見つけました。

完全にCGM型で運用されており、その言葉を知っているユーザー自身が単語の発音を録音していく仕組みになっています。発音した人が住んでいる地域が地図上で表示されますので、この言葉はこの地域ではこのように発音するのだなということがわかります。

素晴らしいアイデアだと思うのですが、まだ語彙がちょっと足りない(現時点では20万語くらいしかあデータがありません)のとサイトがちょっと重いという問題があったりします。また、発音がわかってもそれをカナで表記することが難しかったり、カナ表記が慣習的に決まっているケースもあったりする(Oliverを発音にできるだけ忠実に「アラバ」と表記したら怒られてしまうでしょう)ので、実は最初思ったほど翻訳作業の役にはたたないwのですが、世にソーシャルメディアの種は尽きまじだなあと思ってしまいました。Google Waveにおけるリアルタイム翻訳ボットを見た時も思いましたが、地球をよりフラットにするためのアイデアはまだまだありそうです。

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NetTabletの登場に期待

当然ながら家(会社)には何台かパソコンがありますが、現役使用中で最も古いのはHPのタブレットPC TC1100です。Compaqの流れを組む6年前のマシンです。HDDやネットワークカードが壊れたりしましたが自分で修理して使い続けています。

Pentium M 1.3Ghzと非力なマシンですが、なぜ今でも現役かというと、こういうキーボードが完全にはずれるタブレット型のフォームファクターのマシンはなかなか便利だからです。ヤフオクやeBay等でもそこそこのお値段で流通していることからもこのマシンのファンが依然として多いことがわかります。

TC1100-1
(使用例)自動演奏ソフトBand-in-a-Boxで譜面を表示して譜面台に置いて使用。任意のキーにすぐ移調できて便利です。譜面のコード情報でカラオケ演奏も可能(最強の練習ツールです、マイナスワンのCDなんていりません)。

TC1100-2
(使用例)PDFを表示して電子ブックリーダー感覚。翻訳作業を行なうときは、メインのマシンをデュアルディスプレイで1画面で入力、もう1画面で辞書とブラウザを開いて使っているのですが、原文のレイアウトを確認したい時等にもう1枚画面が必要な時に便利です(普通のノートPCだと縦1頁で表示できないので)。

TC1100-3
標準で取り外し可能のキーボードが付いており普通のノートPCのようにも使えますが、ストロークが浅すぎて打ちにくいので、テキスト入力が必要な場合はHHKを外付けで使っています。

TC1100-4TC1100-5
こういう形状だとディスプレイの傷対策が気になりますが、ゴム製のフラップ、および、フォルダーケースみたいなものが付属しています。どちらもあまりエレガントとは言いがたい解決策。

外に持ち歩いてPDFやWebを閲覧するにも便利そうですが、残念ながらバッテリーが30分くらいしかもちませんのでツライです(このへんはやはり昔のマシン)。

結局、このマシンの良さは紙の本のフォームファクターに近いことにあると思います。今でもタブレットPCの製品はいくつかありますがキーボードが完全にはずれるタイプはなくなってしまいましたね。

しかし、AppleはiPhoneとMacBookの中間に位置するマシンとしてこのフォームファクターの製品を準備しているようです(ソース)。また、TechCrunchでは、Webブラウズに特化した薄型タブレットCrunchPadのプロトタイプを作成中のようです(ソース)。どちらもなかなか魅力的です。

これら以外にもこういうキーボードなしA4サイズタブレットというフォームファクターの安価・軽量なマシン、いわば、NetTabletが今後普及することを期待します(本来は、本の代わりに使えるこういうマシンこそNetBookと呼ぶべきだと思いますが)。

私的に期待するNetTabletのスペックは以下のような感じです。

■ AndoroidとWindows (XP)のデュアルブート

■ USB端子×2(外部キーボードとストレージ用)

■ 交換可能なバッテリー(予備バッテリーは本体がなくても充電可能に)

■ ディスプレイの傷問題をエレガントに解決

■ タブレットに特化した独自のUIでブラウザのスクロールと文字拡大操作をエレガントに(Windows XP for Tablet PCのようにスタイラスでスクロールバーを操作させるようなのはやめてほしいです)

これで500g、5万円くらいで抑えてくれれば理想ですね。

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ブック検索の収益化を着々と積み上げるグーグルについて

Googleのブック検索は「世界中のあらゆる情報を検索可能にする」という企業理念の元に行なわれているとされていますが、当然ながらGoogleも営利企業ですから、そうすることで利益を上げることが大前提となります。

あまり知られていないかもしれませんが、Googleブック検索では絶版書の全文を販売するだけではなく、流通中の本も権利者のオプトイ ンがあれば販売することが可能になっています(つまり、絶版書籍はダウンロード販売するのがデフォルトで権利者はオプトアウト可能、流通している 書籍はダウンロード販売しないのがデフォルトで権利者はオプトイン可能ということです)。

これに加えて、Googleは電子書籍の販売に乗り出す意向を表明しています(ソース)。

これが実現すると、書籍を探している消費者はまずGoogleブック検索で検索し、買いたい本が見つかれば、1) ブック検索サイトでダウンロード購入(オプトアウトされていない絶版書、あるいはオプトインされた流通書)、2) Googleの電子書籍サイトでダウンロード購入、3) Amazon等でダウンロード購入、4) Amazon等で物理的な本をダウンロード購入等々様々な選択肢が取れるようになります。音楽をインターネットラジオで視聴してiTMS等でダウンロード購入するのと同じようなエクスペリエンスです。Googleはこのエクスペリエンスを実現するため仕組みを着々と積み上げています。

権利関係うんぬん以前の問題として、書籍コンテンツが全文検索できるのは一般消費者にとって大変便利です。権利関係さえクリアーされれば、ネットで検索→ダウンロード購入というエクスペリエンスを求める流れは止められないでしょう。iPodに慣れた人が、CDをいちいちプレイヤーにかけて聴くというスタイルに戻れないのと同じです。もちろん、紙の本という存在は当面残ることになるでしょう。これはCDが凋落傾向にはあるものの当面はなくらないと思われるのと同じです。

そう考えてみると、2008年に図書館蔵書のスキャンプロジェクトから撤退してしまったMicrosoftの判断は正しかったのかという点が気になります。Microsoftによるネット広告事業への進出の遅れがGoogleの躍進を許してしまったというのはよく言われる話です。同じようなことがブック検索についても数年後に議論されるかもしれません。

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『デジタルネイティブが世界を変える』に見る「裸で何が悪い」戦略

拙訳『デジタルネイティブが世界を変える』、小飼弾氏に書評をいただいております(「今からやつらに任せろ – 書評 – デジタルネイティブが世界を変える」)。かなり好意的なレビューですが、弾さんは本書のようなテクノロジーに対する全面的オプティミズムは好きそうなので当然とも言えましょう。

なお、他人のブログのコメントにリモートで答えるのも何ですが、弾さんのエントリーに「ネイティブとは言ってもその大半はデジタル技術を利用はするものの理解はしていません」などというはてブコメントが入っています。しかし、実はまさにこれこそが「ネイティブ」たるゆえんなのです。デジタルネイティブ(の大半)はテクノロジーがどう動くかなど気にしていません。ただそれを利用するだけです。デジタルテクノロジーを空気のように呼吸しているだけです。これは、ネット世代の親であるテレビ世代がテレビの仕組みなどを気にせずにただテレビを観てきたのと同じです(もちろん、ネイティブの中にもテクノロジーの中身そのものを理解してそれを発展させる役割を担う人が必要なのは確かではありますが)。

ところで、本書のタイトルについてですが、実は原文中では”digital native”という言葉は巻末のまとめに1カ所出てくるだけです。本文ではこのデジタル・テクノロジーを空気のように呼吸してきた世代のことを「ネット世代」(Net Gener)と読んでいます。ゆえに、最初に私が考えていた邦題は「ネット世代に学べ」というものだったのですが、「大人の事情」により「デジタルネイティブ」という言葉をタイトルに入れることになりましたw。

前置きが長くなりましたが、弾さんも引用されていますように、本書は、ネット世代の8つの特性(行動基準)を挙げ、それに基づいて仕事、家庭、政治、教育等々に彼らがもたらすインパクトを分析するという構成になっています。この8つの行動基準とは以下です。

1. ネット世代は何をする場合でも自由を好む。。
2. ネット世代はカスタマイズ、パーソナライズを好む。
3. ネット世代は情報の調査に長けている。
4. ネット世代は商品を購入したり、就職先を決めたりする際に、企業の誠実性とオープン性を求める。
5. ネット世代は、職場、学校、そして、社会生活において、娯楽を求める。
6. ネット世代は、コラボレーションとリレーションの世代である。
7. ネット世代はスピードを求めている。
8. ネット世代はイノベーターである。

(弾さんのエントリーで「情報の操作に長けている」となっているのは「情報の調査に長けている」の打ち間違いです。この項目の意味はネット世代が「ウソをウソと見抜く能力を身につけている」ということです。)

この8つの特性の中で、1,2,6,7,8は比較的自明であり、今までも頻繁に論じられていてクリシェ化しているとも言えるトピックでしょう。特に興味深いのは3と4です。つまり、ネット世代は企業やマスメディアのウソをすぐに見抜いてしまい、かつ、企業のインチキを許さない気持ちが非常に強いということです。日本においても、やらせマーケティングやマスコミの歪曲報道の裏がネット上で暴かれ、祭となった事例は枚挙に暇がありません。米国でも状況は同じです。

このような動向もある程度ネット世論を意識している人なら自明とは思うのですが、日本の大企業の中にはまだこの点を理解していないところもあるようです。このような企業はウソにウソを重ねてしまい火に油を注ぐ結果になりがちです。

過去であれば仮にインチキに気付いた少数の人がいても彼らの声は埋没してしまいます。しかし、今では誰か一人が証拠を見つけられれば2ちゃんねる等で(米国であればfacebook等で)瞬く間に多くの人々に伝播してしまいます。マスメディアのように企業側の圧力で情報統制することもできません。

いわば、企業はますます裸に近い状態にされています。このような状況ではどのような戦略が最適でしょうか?タプスコット氏は「企業はいっそのこと丸裸になってしまえばよい」と言います。いわば「裸で何が悪い」戦略です。

つまり、そもそもインチキ行為をしないということ、そして、万一自社が過ちを犯した場合には率直に認めて謝罪するということです。本書のベースになっているネット世代に対するアンケート調査では、ネット世代は過ちを犯してもすぐにそれを認めて謝罪する企業には寛大であることが示されています。

つまり、今まで以上に企業の透明性が重要になっているということです。この辺の議論はタプスコット氏の2003年の著作”The Naked Corporation”(邦訳なし)でも論じられてきた論点であります。

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Googleブック検索に米司法省介入の件の続き

#ちょっと更新が滞っておりすみません。本来的にはほぼ毎日更新を目標としています。

ちょっと前にGoogleのブック検索和解に対して米国司法省が調査したとのニュースについて触れました。そこで「Googleと版権レジストリの契約は非独占的なはずでは?」と書いたのですが、別記事によると、確かに契約は非独占的ではあるのですが、Googleが他企業と比較して有利な立場になる条項が加えられていたことが米消費者団体Consumer Watchdogにより問題とされ、司法省の調査につながったようです。

ところで、上記別記事のはてブでGoogleのブック検索のスキーム自体が米消費者団体に否定されたかのように書いている人がいますがまったくの失当です。Consumer WatchdogはこのスキームにGoogleだけではなく他企業も参入して公正な競争が行なわれるようにせよと主張しているのですから。絶版本をスキャンして販売するというスキーム自体は消費者のメリットになるのでどんどんやってくださいというわけです。なお、マイクロソフトは昨年の5月にブック検索事業から撤退しています(ソース)。ということで、可能性のある新規参入者はやはりAmazonということになるでしょうか。

さて、記事中でConsumer Watchdogが問題としている条項のひとつは「最恵国待遇」と呼ばれています。これは、Google以外の企業と版権レジストリが契約を結ぶ際に、Googleよりも有利な契約を結ぶことを禁じる条項です。これは、契約自由の原則に反し、Googleに不当な優位性を与えますので問題とされてもしかたないと考えます。

こういう新しいスキームが生まれようとする時に、さまざまな利害関係者が徹底的に意見を戦わせて新たな秩序が生まれるのは健全な姿だと思います。一部の関係者だけが(特に肝心なユーザーのあずかり知らない)密室でものごとを決めてしまうよりははるかに健全でしょう。

ところで、「最恵国待遇」(most favored nation)という言葉ですが、本来の意味は国際条約において外国間の扱いの差別を禁止する規定のことです。記事(と言うよりも元となったConsumer Watchdogのプレスリリース)では「たとえ」としてこの言葉を使っています。しかし、実際には、ブック検索のスキームにはTRIPS協定経由で著作権における(本来の意味の)「最恵国待遇」も関係してくるので、この言葉を「たとえ」として使うのは混乱の元だと思います。

一応説明しておくと、ベルヌ条約が規定する内国民待遇とは「外国人に対する保護」≧「自国民に対する保護」とせよという規定です。TRIPS協定の最恵国待遇とは「外国Aの国民に対する保護」=「外国Bの国民に対する保護」…とせよという規定です。ということで、たとえば、Googleブック検索のスキームにおいて英国民はオプトアウトだが日本国民はオプトインとするというような規定にするとTRIPS協定の最恵国待遇の規定に違反する可能性があります。

なお、TRIPS協定は知的財産権(特許・著作権等全部含む)の国際条約であり、著作権の保護についてはベルヌ条約を補完するものです。ベルヌ条約のアドオンであって、それをオーバーライドするものではありませんので、「ベルヌ条約が著作権法を適正化する上での足かせになっている」という見解に対して「いやTRIPS協定があるじゃないか」と反論するのはまったくの失当ということになります。

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