Oracleがハード事業に力を入れれば入れるほどMicrosoftが得をする

#このエントリーは栗原潔のテクノロジー時評Ver2(ITmediaオルタナティブブログ)の投稿記事の再掲です。

昔、Ciscoのジョン・チェンバースが「ホリゾンタルは常にバーチカルに勝つ」という(趣旨の)発言をしたと記憶しています(ソース検索中)。このルールは、今日においても(原則的には)成り立つと思います。

ホリゾンタルなビジネスモデル、つまり、特定のレイヤーに特化したモデルはリソースを集中しやすいという点でも有利ですが、それ以上に、パートナー のエコシステムを構築しやすいという点で有利です。たとえば、Ciscoはネットワーク機器というレイヤーに特化したベンダーとしてどのサーバベンダーと も対等に付き合ってきたため、どのサーバベンダーとも補完的な存在になり、その顧客ベースにリーチできました。仮に特定のサーバベンダーのビジネスが傾い ても、他のサーバベンダーの市場で勝負できるため大きな悪影響を受けません。

仮にCiscoがちょっとお金が余ったので特定のサーバベンダーを買って、そのベンダー専用のソリューションを提供しよう、つまり、バーチカルなモ デルに移行しようとする一気に話がややこしくなります。今までパートナーであった他のサーバベンダーと競合する存在になるからです。それらのサーバベン ダーは、Ciscoのネットワーク機器のオープン性が減少し、Ciscoのネットワーク機器とサーバの囲い込みに対して競合上不利になるのを恐れて競合他 社に流れる可能性が出てきます。ホリゾンタルなモデルのベンダーが他のレイヤーに進出する際にはこの「既存パートナーとの競合」という問題が必ず出てきます。単にソリューションの幅が増えてよいことずくめというとはなりません。

ここで冒頭に「(原則的には)」と書いたように、それでもホリゾンタルなモデルのベンダーが他のレイヤーに進出すべき時もあります。実際、Cisco自身もサーバ分野に進出しました。ここで重要なポイントは、

「他のレイヤーに進出したことによるメリット」>「既存パートナーと競合することによるデメリット」

の不等式が成り立たなければならないということです。Ciscoの場合は、サーバとは言ってもデータセンター内の限りなくネットワーク機器に近い領 域への進出ということで「既存パートナーと競合することによるデメリット」はそれほど大きくないという判断であったと思われます。

では、今回のOracleとSunのディールについて、上記の不等式が成り立つかどうか考えてみたいと思います(ソフト事業は置いておいて、ハード事業についてのみ検討します)。

Sunの買収が、他のサーバベンダー(具体的にはIBM、HP、Dell)との競合関係にほとんど影響を与えない、あるいは、Sunの買収により サーバ市場で圧倒的地位を確保できるのであれば、Sunのサーバ事業の買収には意味があったということになります。しかし、Sunのビジネスは他のサーバ ベンダーと直接的に競合していますし、Sunが現在のサーバ市場で圧倒的に有利な位置にあるわけでもありません(特に、SPARCの将来的なロードマップ がはっきりしないことが大きな問題です)。

ということで、OracleにとってSunのサーバ事業は、HPやDellなどのOracleの既存パートナーとの関係を悪くする割には、ビジネス上のメリットが出ないという中途半端な存在であると思います。

Oracl;eが「自社の」SPARCサーバに力を入れれば入れるほど、競合他社(=かつてのパートナー)はよりハードウェア独立型のソリューショ ンに流れるでしょう。この場合、このハードウェア独立型のソリューションとは、言うまでもなくSQL Serverであります。

そもそも、今日のIT市場において、ハードウェア・インフラからアプリケーション・スイートまでのフルスタックを提供しているベンダーは国産3社く らいです(しかも、実質上日本のガラパゴス市場においてのみです)。IBMも業務アプリケーション・スイートには手を出していませんし、そもそも、製品と しては何を売ってもよくサービスで儲けるというビジネス・モデルなので他のベンダーとはモデルが違います。HPは中途半端なミドルウェアスタック事業 (Netaction)から撤退して、ハードと運用管理ツールに特化したことで大きく成功できました。とにかく中途半端はよくないということです。(そして私見では今日のSunのサーバ事業は中途半端です)。

結論としては、Oracleは買収完了後にハード事業(SPARCとStorageTek)をスピンアウトすべきだと思います。スピンアウトされた 事業は単独ではやっていくのは難しいでしょうから、前回も書いたように、SPARC関連事業は富士通に買ってもらうのが吉だと思います。

StorageTekについては、前回はEMCかHPと書きましたが、よくよく考えてみるとNetAppが買うと製品のオーバーラップが少ないのでよろしいんじゃないかと思います(財務面は考慮せず、ソリューションのポートフォリオだけで見ています)。

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