Facebookが30億円で買った特許について

あまり日本では有名ではないかもしれませんが米国のソーシャル・ネットワーク分野の老舗企業のひとつにフレンドスター(Friendster)があります。

映画「ソーシャル・ネットワーク」においてフェイスブックを立ち上げようとする時のザッカーバーグたちが「マイスペースやフレンドスターにどうやって対抗するんだ」と議論したシーンがありました。要は、フレンドスターの方がフェイスブックより先行していたのですが、瞬く間にフェイスブックに追い抜かれてしまったというわけです(この辺の分析はおもしろいと思いますのでまた後日書くことにします)。

フレンドスターは現時点でもサービスを提供していますが、企業としての将来は正直明るいとは言えません。しかし、同社はSNS黎明期に結構重要な特許を取得/出願していました。そして、その全特許資産(特許権7件および審査中の特許出願11件)が昨年の5月にフェイスブックになんと4000万ドル(約32億円)で買い取られています(参考記事)。これは、フェイスブックにとってはFriendFeedに並ぶ規模の「買収」です。

フレンドスターは別に長期的な知財戦略の元にこれらの特許を出願したのではなく、結構いい加減にとりあえず出願してみたわという感じだったようです。前述の記事にも、最初に同社の特許が登録された時にも出願したことすら忘れていたと、同社CEOが言っていたと書いてあります。自分でも忘れてた特許出願が後になって30億円の価値を生んでくれるというものすごい棚ぼた感であります。

フレンドスターの特許ポートフォリオには米国内でのみ出願されており国際出願されていないものも多い(この辺にもあまり真剣に特許戦略を考えていなかったことが伺えます)のですが、一部は日本にも出願されており、そのひとつが昨年の5月に日本でも特許登録されています。「個人のソーシャルネットワークに基づいて第1の個人から第2の個人へコンテンツを送信するのを許可し、且つ個人を認証するための方法」(特許4599478号)という特許であります。なお、これは現時点でフェイスブックが日本国内で取得している唯一の特許です。

ちょっとこの特許の内容を見てみましょう。

要約(国際公表より引用)は以下のようになっています(カッコ内の番号は明細書の図中の参照番号)。

個人のソーシャルネットワークが、個人への情報の流れを許可し(660)、また、個人が特定の情報またはサービスにアクセスするのを認証するのに使用される。個人への情報の流れは、情報の発生源が個人のグレイリスト上に存在する誰かを経由することのない経路に沿って個人に接続された個人のソーシャルネットワークのメンバーであれば(650)、許可される。個人は、個人のソーシャルネットワークのメンバーがすでにアクセスし、且つ個人のグレイリスト上に存在する誰かを経由することのない経路に沿って個人に接続されていれば、あるいは、個人のグレイリスト上に存在する誰かを経由することのない経路に沿って個人に接続されている個人のソーシャルネットワークのメンバーが最小値よりも大きな平均認証格付けを有するならば、特定の情報またはサービスにアクセスするのを認証される。

ソーシャルネットワーク内のSPAMフィルタリングのような仕組みであることが何となくわかります。

特許権としての権利を確定する「請求の範囲」は以下のようになっています(請求項1のみ引用)。

【請求項1】
複数の登録されたユーザのユーザID及び関連データを管理及び格納し、任意の二人の登録ユーザが直接、又は別の登録ユーザを介して関連付けられているか否かを、関連データに基づいて判断するようにプログラムされたコンピュータシステムによって実行される、第1の登録ユーザから第2の登録ユーザへのコンテンツの送信を許可する方法であって、
第1の登録ユーザから第2の登録ユーザへのコンテンツの送信の要求を受信するステップと、
前記コンピュータシステムによって保持される、第2の登録ユーザのためのユーザIDのブラックリストを検索するステップと、
前記関連データ及び前記ユーザIDのブラックリストに基づいてユーザIDの別のリストを生成するステップであって、前記別のリスト上のユーザIDによって識別される全ての登録ユーザは、前記ブラックリスト上のユーザIDで識別される登録ユーザの少なくとも一人と直接関連付けられているステップと、
前記第1の登録ユーザ及び前記第2の登録ユーザが、前記関連データに従って、何れも前記別のリスト上のユーザIDによって識別されるものではない登録ユーザの組を介して、互いに関連付けられているならば、要求されたコンテンツを第2の登録ユーザへ送信するのを許可するステップと、
要求されたコンテンツを第2の登録ユーザへ送信するのを許可されたならば、要求されたコンテンツを第2の登録ユーザへ送信し、要求されたコンテンツを第2の登録ユーザへ送信するのを許可されないならば、要求されたコンテンツを第2の登録ユーザへ送信するのをブロックするステップと、
を備える方法。

ここだけ読んでもさっぱりわからないと思いますが、明細書の詳細な説明の方を熟読すると、ある人が別の人にメッセージ等を送る際に、その別の人につながるソーシャル・グラフの径路をたどって、誰もブラックリストに登録されていない人(ノード)たちだけを通って目的の人に到達できる時にはメッセージの送信を許可し、そうでない場合にはSPAMと判断して許可しないというアイデアが基本にあるということがわかります。何か当たり前のアイデアに思えますが、この特許の出願時点(優先日)である2004年7月22日時点では新規なアイデアであると特許庁により判断されたということです(それ以前にも同じようなシステムはあったよという人は無効審判を請求して特許をつぶすことができますよ)。

フェイスブックのフレンドスター特許買収額は特許ポートフォリオまとめての価格設定なので、この特許がいくらと査定されたのかはわかりません(買収時点では登録されていなかったのでそんなに高くないと思われます)、後になって考えれば当たり前だがその時点では誰も思い付いていなかったアイデアが忘れた頃になって数億円レベルの価値を産み出すというところが特許のおもしろいところです。

ところで、特許出願の内容は一般に公開されるわけですがその中身の理解には時間がかかりますよね(私もこの特許が具体的にどういうアイデアなのかを把握するまでに結構時間かかりました)。ベンチャー企業やVCの方が他社特許の内容を迅速に分析できるようお手伝いすべく特許分析ワークショップのサービスを提供予定です。第一弾は「フェイスブックの特許ポートフォリオ」です。「この特許の基本的アイデアは要はこういうことなんですよ」とかみ砕いて説明しますので、特許分析に要する貴重な時間の節約に貢献できると思います。ご興味ある方は、kurikiyo [at] techvisor.jp (SPAMと区別しやすいように件名の頭にTVJPと入れていただけると助かります)、あるいは、当サイトのCONTACTのページからお問い合わせください(最後は宣伝ですみません)。

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