昨日書いた加圧トレーニングの特許、ちょっと調べるといろいろあるようで、侵害訴訟沙汰にもなってますし(プレスリリース)、たぶんそれに関連して無効審判も請求されています。無効審判のうち、1件は昨年の10月に請求棄却(つまり、特許権は有効との決定)になってます(これに対して審決取消訴訟が提起されており、このサイトによると次回の知財高裁開廷日は4/10(本ブログ記事投稿の翌週)らしいです)。この審判(審決番号:2011-800252)についてはIPDLで審決書類が見られるようになっており、予想通り、医療行為ではないか(注:日本の特許法では人間の治療方法は特許の対象外)等の議論がなされています。なかなか興味深い内容です。もう1個の方の無効審判は今年の2月に請求されています(係属中なので書類は特許庁まで行って料金を払わないと見られません)。
ところで、もうちょっとでパブリックドメインになるのに、なぜわざわざ無効審判で争うのかというと、特許が無効になると最初から権利がなかったことになるので、侵害訴訟で訴えられている方の賠償金の支払い義務がなくなるからです(追記:ついでに書いておくと特許権が切れた後も無効審判は請求可能です)。ライセンシーが支払い済みのライセンス料を返してもらえるかどうかは微妙ですが、通常は、ライセンス契約に特許権が無効になってもライセンス料は返還しない旨の条項が入っているはずです。
話は変わりますが、Wikipediaの加圧トレーニングの項目では、オリジナルで加圧トレーニングをやる方法への情報のポインターが紹介されています。その他、Webでもゴムベルトで縛るなどの方法を紹介している人もいます。自己流でやって筋肉を痛めたりする等、健康を害するリスクは別論として、特許的にはどうなんでしょうか?
これは、全然問題ありません。特許権は「業として」特許発明を実施を独占できる(他人の実施を禁止できる)権利だからです。
なので、個人が自分で勝手にやる分には特許権の効力は及びません。それを商売にしたり、かりに報酬を得ないとしても他人に反復的に提供したりすると特許権の侵害になり得ます。
また、ちょっとややこしいのですが、間接侵害という規定があって、方法の発明については、その発明の実施にしか使わない専用品を生産・販売したり、あるいは、方法の発明に不可欠な物をそれと知って生産・販売したりすると侵害になります。つまり、加圧トレーニング用バンドと銘打って専用ゴムバンドのようなものを販売すると間接侵害に問われる可能性はあります。
この「業として」の縛りは、特許・実用新案・意匠・商標の産業財産権にすべて共通です。なので、たとえば、ブランド品の店の紙袋を自分で加工してオリジナルのバッグを作って使うのは自由ですが、それをオークションで売ったりすると商標権侵害となり得ます。
なお、言うまでもないですが、著作権には「業として」の縛りはないですから、他人の著作物を勝手にネットにアップ等すると、営利目的であるかないかには関係なしに侵害になります。