Article Oneの特許無効化ゲームにチャレンジしてみよう

クラウドソーシング型特許先行技術文献サーチサイトArticle Oneに関する記事はそこそこ話題になったようです。

具体的にどんな感じかを示すために、同社のWebサイトから直感的にわかりやすい課題(同社はStudyと読んでます)をひとつ引用して説明します。日本語サイトででのタイトルは「表示されている追加の文字に所定の期間の結果にキーを押すと特徴とする携帯機器用のキーボード」となっていて訳がわかならいので以下で具体的に説明します。

なお、同社の日本語サイトは日本語がめちゃくちゃ(機械翻訳?)ですし、求められている情報の中核部分はどっちにしろ英語なので、最初から英語サイトにあたった方がよいと思います。

では、この課題で求められている情報のサマリーを書きます(正確な情報はArticle Oneのサイトの情報を直接見てください)。

  • 画面上にソフトウェア・キーボードが表示されている
  • 普通に打つとキートップに書いてある文字が表示される
  • キーをしばらく押していると関連する別の文字セットが表示される(たとえば、下図の絵のように、Aのキーをしばらく押しているとウムラウト付のăなどのミニキーボードが表示される)
  • ミニキーボードから文字入力すると最初のキーボードに戻る

この機能は、今では当たり前のアイデアであり、iPhone/iPadのソフトウェア・キーボードでも実装されています(依頼企業は匿名ですが何となく想像がつきます)。

このようなアイデアが開示されている文献で2001年6月9日以前のものを発見するのが課題です。なお、サイトには既に発見済みの先行特許文献も書かれていますので、これら以外のものを探す必要があります。一番良質の情報を提供できた人は5,000ドルもらえます。

この2001年というのがくせもので、ITの世界で10年前はめちゃくちゃ昔なので、現在では当たり前の技術であってもそう簡単に証拠は見つかりません。2001年というとMicorosoftがタブレットPCを出荷する1年前です。タッチ操作はスタイラスペンが当たり前で指で操作なんて考え方はほとんどなかった時代です。

こんなの当たり前だと思っていても、調べれば調べるほど出願時点では実はそんな当たり前ではなかったのだなということがわかってくる特許だと思います。私も何回か先行文献探しの仕事をしたことはありますが、「これだいぶ前に見たわー」と思って臨んだもののその「だいぶ前」は実は結構最近で、特許の出願日よりは全然後だったなんてことがよくあります。まあ、そもそも出願時に誰でも知ってるようなレベルであれば、さすがに特許庁の審査官も特許査定出したりはしません。

一般に言えることですが、Article Oneの課題に対してGoogleサーチから始めているのでは賞金獲得は困難だと思います。依頼企業はほとんど米国だと思われるので英語資料はサーチしているでしょうから、日本語の資料、かつ、ネットにないオフラインの資料が狙い目だと思います。「昔、こういう機器開発して論文書いています」とか「異常に物持ちがよくて昔のWindows CE機の取説持ってるけどそこに書いてあります」というような人を探し出せるのがクラウドソーシングならでは意義と言えるでしょう。

文献を知っている方、発見した方は、私はArticle Oneとは関係ないので私に送ったり、このブログにコメントしたりしないで、直接Article Oneに送ってください。

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当たり前の特許を無効にして1000万円の副収入

#情報商材みたいなタイトルですみません。釣りです。記事の中身はまじめです。

特許、特に直感的にわかりやすいUI特許を見て「なぜこんな当たり前のアイデアが特許になるのか」という人が見受けられます。しかし、後付け思考というかコロンブスの卵というか一度アイデアを見てしまってから考えると当たり前に見えてしまうのはよくある話です。

実際には「言われてしまうと当たり前に思えるけど実は誰もやってなかった」タイプのアイデアがもっとも強力な特許になり得ます。あたかもすぐれた音楽が「今までにないメロディなのにどこかで聴いたある」ように思えるようなものです。

しかし、本当にその特許の出願日以前に同様のアイデアが世の中に知られており、特許庁の審査プロセスで見落とされただけということもよくあります。特許の審査は特許にできる理由を見つけるプロセスではなく、特許にできない理由が見つからないことを確認するプロセス、いわば、「悪魔の証明」なのでどうしても漏れが生じます。

「このアイデア(出願の)2年前に見たわー」という人は、その証拠文献があれば、いったん成立した特許を新規性・進歩性の欠如により無効にできます(以前からありましたと口で言うだけでは不十分で文献を示す必要があります。)

裁判の場で問題になっている特許(たとえば、前述のBounce-Back特許)を無効にできれば、数億円級の金銭的な価値があります。しかし、利害関係者でもなければ、苦労して無効理由を探すインセンティブは生じないですね(公益的な観点から特許つぶしをやるEFFのPatent Bustingプロジェクトなどがありますが)。

特許を無効にするプロセスは基本的に世界中の誰か一人でも証拠文献を見つけられればよいので、本質的にクラウドソーシング(Crowdsourcing)にマッチします。クラウドソーシング方式、かつ、情報提供者への金銭的インセンティブも考慮したサービスを提供する企業に米国のArticle One Partnersがあります。

Article Oneは、特許を無効化したい企業(通常は侵害訴訟の被告側でしょう)から依頼を受け(企業名は一般ユーザーからはわかりません)、特定の特許を無効にするための情報をサイト上で広く募ります。誰かが適切な無効理由の文献を見つけて、Article Oneに提供すると依頼企業は報酬をArticle Oneに支払い、Article Oneは手数料を抜いて発見者に報酬を支払います。

企業は匿名性を維持しつつ、安価に、成功報酬に近い形で世界中の文献を調査でき、一般ユーザーは自分独自の専門知識を活用して収入を得られるというWin-Winの仕組みであると思います。

Article Oneのサイトで見ると今までに支払われた報酬総額は約3,800万ドル、トップレベルの発見者は数万ドルのオーダーで稼いでいます。

なお、日本語サイトもできています(ちょっと日本語が微妙ですが)。経験を積んだエンジニアの方(IT分野に限りません)で一昔前の技術文献に通じている方はお小遣い稼ぎにチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

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「白い恋人」と「面白い恋人」が和解の件

吉本興業らによる「面白い恋人」の商標使用について「白い恋人」の製造元である石屋製菓が訴えていた件が和解となったようです。「面白い恋人」がパッケージデザインを変更し、原則として関西6府県での販売に限定するなどが条件になっています(参照記事)。

この件については、このブログでも提訴のタイミングで「イマイチ面白くない「面白い恋人」について」という記事を書いています。

この過去記事でも書いたように、私見ではありますが、法律的な問題とは別に、1)パロディ元に対するリスペクトが感じられない、2)「面白い恋人」を商標登録出願し独占しようとした(結果は拒絶査定)、3)ギャグとして成立していないという点で、吉本の企業姿勢は問題ありと感じます。

と言いつつ、ガチンコで争うべき案件でもないと思うので結果は妥当かと思います。特に、石屋製菓側の提訴の理由が「吉本関連ショップのみで一時的に販売されるジョーク商品と思って黙認していたが、空港や都内でも売られるようになり、さらには道内での販売も検討と聞き、加えて、一部の客から間違った買ったと苦情が寄せられたケースもあった」ということなので、販売地域を限定したというのは適切かと思います、

正直、個人的には(顧客の誤認混同が発生していることを前提に)侵害訴訟の場で商標が類似と判断されるのか、不正競争の周知商標混同惹起行為が成立すると判断されるのかを知りたかったですがしょうがありません。

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アップルのバウンスバック特許は日本ではどうなっているのか

ちょっと前にAppleのSlide-to-Unlock特許(と意匠権)の話を書きましたので、ついでに、Bounce-Back特許の現状についてまとめておきます。

改めて説明しておくとBounce-Backとは、iOS系のデバイスに特有の挙動で、ページやリストのスクロール操作をしていて、最後のページに達するとページが先に行こうとしてある程度はみだすがそこから先には進まない、指を離すと何か弾力のある壁に跳ね返ったかのように元に戻るという表示することで、最後のページであることをユーザーに直感的に教えてくれるUIです。

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最後のページでいきなりスクロールが止まってしまうと、ユーザーとしては、最後に達したのか機器が反応しなくなったのかの区別がつきません。かといって、最後のページを越えてスクロールしようとするとエラーメッセージを表示したり音を出したりする、あるいは、スクロールバーを表示してページ位置を示すというのもいかにも旧世代のUIという感じで、ユーザー体験(UX)的にはかなり劣ります。

Bounce-Backは、特許性うんぬんの話を越えてAppleのUI(UX)設計能力の高さを表わしていると思います。

手持ちのNexus 7でページのスクロール動作をやって、最後に達すると青いシェードを使ってページが奥行き方向に傾くようなイメージを表示します。これはAppleの特許回避の苦肉の策と思われます。目的としてはBounce-Backと同じなのですが、ちょっと工業デザイン的な洗練性には欠けると思います。

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特許侵害回避のために、このようなデザインを無理矢理考え出したりするのはイノベーションを阻害しているのではないかという考え方もあるかと思いますが、「Bounce-Backよりもエレガントな方法はないのか」、「いやそもそもスクロール自体を不要にするようなUIは考えられないものか」と特許侵害回避で苦労することで生まれるイノベーションもあると思います。

さて、米国のBounce-Backに関する中核的特許はUS7469381です。北カリフォルニア地裁でSamsungによる侵害が認定されています。同様の特許関して、韓国や欧州においても、それぞれ、Samsung、Motorolaによる侵害が認められています。また、米国で2010年4月に請求された再審査を一度クリアーしていることから、非常に価値が高い「値千金」の特許と考えられていました。特許評価会社によるスコアリングも高かったようです。

ところが、2012年5月に請求された2度目の再審査で、全クレームが新規性欠如により無効という暫定判断が出されてしまいました。再審査の請求人は不明(法律事務所名義になっている)のですが、まあおそらくはGoogle、あるいは、Googleサイドの企業なのでしょう。通常、再審査によって無効にされる場合でも一部のクレームは生き残ることも多いのですが、今回は全クレーム無効、かつ、進歩性ではなく新規性が否定されているので、一般論として言えば挽回は難しいと思われます。(この再審査の具体的内容はまだ見れていない(再審査の文書を読むのは結構大変)のですが、時間ができたらこのブログで書くかもしれません)。

このように、きわめて高い価値があると考えられていても、突然に無効に(無価値に)なってしまう可能性がある点が特許価値鑑定の難しいところです。

さて、本題の日本ではどうなっているかですが、US7469381に相当する特許は第4743919号(「タッチスクリーンディスプレイにおけるリストのスクローリング、ドキュメントの並進移動、スケーリング及び回転」)です。現在、この特許は、現在サムスン(三星電子)を請求人とする無効審判に係属中です。アップルが日本でこの特許に基づいてサムスンを侵害訴訟で訴えているのに対する対抗措置です。米国で無効になりそうなので、日本でも同様の証拠と理由付けにより無効になる可能性が高いですが、前回も書いたように米国特許庁の判断と日本の特許庁の判断が必ずしも一致するとは限りません。日本では進行中の無効審判の書類は特許庁まで閲覧しに行かないと見られないのでこれ以上詳しい情報は書けません。

この特許第4743919号ですが、明細書にはアップルのタッチ操作系のUIのアイデアがかなり網羅的に開示されていますので、UI系の特許を調査されている方は一読しておくとよろしいんじゃないかと思います。特許化したいのであれば、ここに開示されていないアイデアを考え出す必要があります。また、この出願から派生した分割出願も1件特許化されています(第5130331号)が、これについてはいずれ書く予定です。

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Amazonガチャ問題と弁理士・弁護士の相談料について

「Amazonガチャ」というサービスが一悶着起こしています(参照記事)。月額5,000円支払うとAmazonからランダムに4,500円分の買い物をして届けてくれるというサービスです。何が届くかわからないという楽しみを味わえるサービスという触れ込みですが、有名人がセレクトしてくれる等の付加価値がないと、ビジネスとしては厳しいような気がします。

それよりも問題なのはこのサービスがAmazonとまったく関係ないのに「Amazonガチャ」という商標を使っている点です。このサービスのWebサイトには、

「Amazonガチャ」、「AmazonGACHA」は現在、商標登録されておらず、サービス名として利用可能との判断を行っております。

なんてことが書いてあるのですが、商標権は同一の商標だけではなく、類似範囲にも及びます。そして、類似の判定には、取引実情を考慮して需要者(消費者)が出所を混同するかどうかが重要な要素になりますので、Amazonのような著名商標の場合には当然類似範囲は広くなります。多くの消費者は「Amazonガチャ」と聞くと当然Amazonと何らかの関係があると思うでしょう。他にも、不正競争防止法上の問題もありますので、「Amazonガチャ」商標の使用に問題なしとは到底言えません。仮に、商標法や不正競争防止法を知らなくても、直感的にまずいなと思うのが普通ではないでしょうか。

正直、ネットサービスを立ち上げるのであれば商標法関係くらいは簡単に勉強しておけばよいのにと思います。そして、微妙と思われるところがあれば弁理士や(知財系の)弁護士に相談すればよいのです。

相談料金が高い、あるいは、いくら取られるかわからないので怖いと思われるかもしれませんが、テックバイザーの場合の相談料を書いてしまいますと30分5000円です。その後、出願案件につながった場合には、出願手数料に充当しますので実質無料になります。(以前は初回相談無料にしておいたのですが、話だけ聞いてさようなら(たぶん、後で自分で出願)のパターンが多かったので、新規のお客様の場合はチャージさせていただくことにしました)。超大手は別として、他もこんなもんではないかと思います。不安であれば事前に問い合わせて料金をきけばよいのです。また、5,000円も出せないということであれば、日本弁理士会等の無料相談を受けるという手もあります。

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