【誤訳注意】ITという言葉のニュアンスの日米の違いについて

企業にはチーフ・デジタル・オフィサー(CDO)が必要であるなんて論調が聞かれるようになってます。ある概念が流行ると、企業にはCxOが必要である(たとえば、AIが流行ればCKO(Chief Knowledge Officer)がー、コンプライアンスが重要視されればCCO(Chief Compliance Officer)がー)と誰かが言い出すのは一種のテンプレなのでまあよいのですが、ここでは、なぜ、CIOではなくCDOという言葉をわざわざ作り出したのかという点に注目して考えてみましょう。(CDOだと、ビッグデータブームから派生したChief Data Officerと区別がつかないじゃないかという話もありますが、また別途)。

この根底には、英語圏におけるIT(Information Technology)という言葉のニュアンスの問題があると思います。

日本でITと言えば、情報技術(あるいは情報通信技術)と訳され、コンピューターとネットワークの応用分野全体を指すと思います。ところが、英語圏では(少なくともアメリカでは)これよりももう少し範囲が狭いことが多いです。

たとえば、Free Online Dictionary Of Computingでは、Information Technologyを”Applied computer systems – both hardware and software, and often including networking and telecommunications, usually in the context of a business or other enterprise.”と定義しています(強調は栗原)。要は、ITという言葉は企業コンピューティングの文脈で使われ、コンシューマー向けのテクノロジー(たとえば、SNS)は範疇外とされていることが多いことがわかります(日本と同様、情報技術全般を指すこともまったくないとは言えないでしょうが)。

CIOは(狭い意味の)ITの総責任者、しかし、これからは企業コンピューティングだけ見ていても不十分であり、コンシューマー向けの情報技術も含めて統括してかなければならないというメッセージをこめてCDOという役職が提唱されているのでしょう(たとえば、この記事を参照)。

これに関連して、たまに見られる誤訳問題について触れておきます。以下の記事見出しのITをどう訳すべきでしょうか?

10 things to help you bridge the IT/end user divide

「情報技術とエンドユーザーのギャップ解消に役立つ10のこと」だとちょっと意味が通じません(少なくとも記事の中味とは合致しません)。この文脈での”IT”は「IT部門」、あるいは、「情報システム部門」と訳す必要があります、日本で「情シス」と言ったときに、情報システム部門(あるいはその担当者)のことを指すことがあるのに似ています。英辞郎にも載ってない意味ですが普通に使われてます。

同様に、”10 things I’ve learned from working in IT”を「IT業界で働いて〜」と訳した事例がありましたが、これも誤訳とは言えないまでもちょっと不正確で「IT部門で働いて〜」あるいは「情報システム部門で働いて〜」と訳すべきです。”IT業界”だと、たとえばベンダーのマーケ等々も含まれるイメージになりますが、この記事で触れているのは企業内の情報システム担当者の話だけです。

いずれにせよ、英語圏においてITという言葉に「従来型の企業内情報システム」というニュアンスが強いことは意識しておいて損はないと思います。

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