【お知らせ】11月下旬は講演3連発です

講演仕事もプライベート、パブリック含めちょくちょくやっていますが、11月下旬は3連発になってしまいました。

11月20日(木)翔泳社主催の「データサイエンティストサミット2014 Autumn − ビジネスデータ分析をアクションにつなげる!」で、パネルディスカッション『Big Data活用を推進する組織のあり方』のモデレータをします。場所はベルサール九段で13時から。入場無料です。

11月26日(水)日経テクノロジーオンライン主催の「半導体ストレージサミット 2014 ー エンタープライズ分野の主役に躍り出たフラッシュメモリー」で「エンタープライズストレージのメガトレンドとフラッシュの重要性」というテーマで話します。秋葉原コンベンションホールで10時から。有料です。中央大の竹内健先生も話されます。

11月28日(金)「米国特許公報から読み取るApple/Google/Samsungのウェアラブル戦略」というテーマで話します(主催は新社会システム総合研究所というセミナー屋さんです)。永田町の同研究所サイトで14時30分から。有料です(上記リンクから優待価格で申し込めます)。

ご興味ある方は是非よろしくお願いいたします。

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Apple WatchがiWatchでなかったもうひとつの理由

過去記事「Apple WatchはなぜiWatchではなかったのか?」において、AppleがiWatchの商標使用をあきらめたのは、スウォッチ社の登録商標iSwatchとの問題ではないかと書きました。しかし、どうもそれだけではなさそうです。

Bloombergの記事「アップル、“iWatch”はダメと新興企業が釘-商標登録済み」によると、イタリアの小規模ソフトウェア会社Probendiが欧州共同体において“iWatch”の商標権(指定商品はコンピューター関連機器とソフトウェア等(9類))を所有しており、Appleに対して警告してきたそうです。この商標登録は、欧州共同体商標意匠庁(OHIM)が管轄する欧州共同体商標というもので、欧州共同体に属するすべての国で有効な商標登録です。

実際、Probendi社のウェブサイトには、欧州共同体内で“iWatch”の商標を使用できるのは当社だけであり、不正使用には法的措置を取るというようなことが書かれています。

同社は、過去にiWatchという名称のソフトウェアをイタリアの警察等に提供していたようなので、不使用取消審判も難しいでしょう(欧州共同体商標は欧州内のどこかで使っていれば不使用取消を免れるので、その点有利です。)

さらに、冒頭Bloombergの記事では、

同氏(Probendi社創業者)はiWatchの商標をフルに生かす考えだ。この名前のウエアラブル端末を開発する計画で、低価格での生産を目指し中国を訪れる。349ドル(約3万7700円)のアップル・ウオッチに対抗するつもりだ。

と書かれています。Appleとしてはちょっといやな感じでしょうが、あきらめるしかないでしょう。Probendi社側としても、こんなあまりメリットのないいやがらせのようなことをするよりもAppleに商標権を買い取ってもらった方が得策だと思うのですが、商標権譲渡の交渉がうまくいかなくてこうなったのかもしれませんし、今後の商標権譲渡を有利に運ぶための牽制としてこういう行為をしているのかもしれません。

そもそも、「i+普通名称」のパターンを製品名に使っていくというジョブズのプランは2つの理由によりちょっと無茶でした。第一に、先を読まれて誰かに抜け駆け出願されてしまう(iPadの時もAppleは苦労しましたね)リスクがありますし、第二に、たとえば、インターネット対応した製品やサービスの通称として頭にiを付けるのはありがちなので不正の目的はなくても偶然の一致があり得ます。

実際、OHIMが提供するTMView(欧州内だけでなく多くの国の商標を横断的に検索できます)で検索すると、抜け駆けが偶然かわかりませんが、iAuto、iRing等々、数々の「i+普通名称」パターンの商標登録・出願が行なわれています。Appleにとっては、今後は「Apple+普通名称」のパターンの方が全然楽でしょう。

一般に、企業名をできるだけ造語にして、企業名そのものを(いわゆるハウスマークとして)商標登録し、サービス名は「企業名+普通名称」とする(たとえば、Googleや楽天のようなパターン)のが、会社の成長・拡大に応じて、長期にわたって確実に商標登録を行なって行くために有効です。Appleは造語ではないですが、以前書いたように広い範囲で商標権を取得しているので一応安心と言えます。

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【速報】STAP細胞国際出願、米国への国内移行が判明

理研(とブリガムアンドウィメンズ病院)がまさかの国内移行を決断したSTAP細胞製法の国際出願ですが、新聞報道では「複数の国」というだけでどの国に移行したかは明らかになっていませんでした。リアルタイム化が進展しているWIPOのデータベースPATENTSCOPEでも、各国国内移行の状況だけはタイムラグが結構あってすぐにはわかりません。まあ、少なくとも日本と米国には移行しているのだろうなと思っていました。

しかし、今朝、米国特許庁の審査経過情報データベースPAIRを検索したところ、想像通り米国への国内移行が行なわれていたことが判明しました(わりとすぐ反映されるんですね、調べ方は本ブログ過去記事を参照してください)。米国国内出願番号は、14/397,080です。米国は審査請求制度がないのですべての出願が実体審査の対象になりますが、通常、実体審査に入るまでには1年以上かかります。

あと、専門的な話になりますが、審査経過を見ると74個あるクレームのうち、最初のクレーム1を残してあと全部が補正で削除されてます。明細書の中から何をクレームにするかは後で考えようということでしょう。また、クレーム1は「細胞にストレスを与えて多能性細胞を作る方法」というめちゃくちゃ範囲が広いもので、既に国際調査報告で新規性なしと判定されてますので、仮に審査に入っても拒絶理由通知(Office Action)が出るでしょう。この拒絶理由通知への応答期間でさらに時間を稼げます。一般に、わざと範囲の広いクレームを残しておくことで審査を長期化させるのは、特許化の可能性は薄いが、念のためできるだけ長期間特許庁への係属状態を続けておきたいという場合に使われる手のようです。

キャプチャ

(追記:14/11/01) 今、米国国内出願14/397,080の情報をPAIRで調べようとしたら情報が見つかりません(PCT/US2013/037996からの国内移行情報も消えています)。上記の手続補正書のコピーを見てもわかるように、米国国内移行の記録があったのは確かです(夢を見ていたわけではありません)。米国移行を取り下げたのでしょうか?(そもそも、このタイミングで取り下げるとPAIRから痕跡なしに消えてしまうのでしょうか?)、移行の情報がPAIRに載ったこと自体がフライングだったのでしょうか?(米国も優先日から1.5年で出願公開されますが、多少事務手続きの時間がかかるようです)、それともPAIRのシステムトラブルなんでしょうか?(実際、ちょっとダウンしていたみたいです。)USPTOにメールで問い合わせたところ、担当者に直接電話で聞けと言われてしまったので、後日電話してみるかもしれません。

(追記:14/11/12)PAIRで情報が見られない状況が続いています。米国特許弁護士に確認しましたが、(英語で国際公開された出願でも)米国で公開公報が出るまではPAIRでは見られないのが本来の動作であるそうです。したがって、上記出願番号がフライングで見えてしまったのは米国特許庁担当者の操作ミスかシステムトラブルの可能性が高そうです。この国内移行の情報がちゃんとPAIRに載るまでにはもう少し時間がかかりそうです。

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アップルを訴えた島野製作所が武器にした特許とは

ダイヤモンド・オンラインに「日本の中小企業が訴えたアップルの“横暴”の内幕」なんて記事が載っています。

アップル製品のコネクタ(MagSafe等)のピン部分のサプライヤーである島野製作所(自転車部品・釣り具メーカーのシマノとは別の会社です)が、アップルを独占禁止法と特許法違反に基づき訴えたという話です。アップル側による、「合意」を無視した発注量激減、別のサプライヤーへの技術流出、不当なリベート要求等に業を煮やしての訴訟だそうです。

ここでは、契約違反や独占禁止法上の問題だけではなく特許権の侵害も争点になっていることがポイントです。島野側は、「特許権侵害の対象であるアップル製品の電源アダプタと、それが同梱されているノートパソコン、MacBook ProとMacBook Airの日本での販売差し止め」を請求したそうです。もちろん、差し止めが最終目標ではなく、特許権による差し止めを武器に交渉を有利に運ぶということでしょう。アップル側にとって差し止めのダメージは甚大ですので、特許権を武器にしたことで島野製作所という中小メーカーがアップルと対等の土俵に立てたと言えます。これに対して「匠の技」だけを差別化要素にしていたなら、万一もめ事が起きたときの武器としては弱すぎます。

島野のプレスリリースには、どの特許権が根拠かは書かれていませんが、現時点で島野製作所が日本で所有する特許権は第5449597号第5329516号第5280511号の3件です(※わが国の特許電子図書館は公報にリンクが貼れないという前近代的設計になっていますので、特許情報サービスのアスタミューゼのサイトへのリンクを貼りました)。MagSafeのピン部分の構造の特許と思われます。


(特許5280511号の図2)

なお、当然ながらアップルはMagSafe自身の特許権(第4774439号)を持っているのですが、この特許は磁気で結合されるコネクタ全体の構造に関するものであって、個別のピンの構造には及んでいないと思われます(特許ファミリーの内容を全部見たわけではないので確実ではないですが)。

また、ついでに米国での状況を見てみると、島野製作所の上記国内出願に優先権を主張した国際出願(PCT/JP2012/065099)から米国に国内移行した米国出願13/878,280に対して、つい先日の9月3日に登録査定が出ています(まだ特許番号は確定していません)。日本での裁判に直接関係ないとは言え、アップルとの交渉において有利に立てる材料なので島野側関係者は万々歳だったのではないでしょうか?

ちょっと前にも、個人発明家がアップルから3億円強の賠償金を得たというニュースもありました(参照記事)。

強力なアイデアを特許化できれば、個人でも中小企業でも”ほぼ”対等に(現実には訴訟体力の問題等があるのでまったく対等というわけにはいかないですが)勝負できるのが特許の世界です。

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中山『著作権法』第2版必読です

著作権法の標準的教科書のひとつなっている中山信弘先生の『著作権法』の第2版が出ました。ページ数は530ページから690ページへと約3割増しになっています(字の大きさは一緒です、お値段も3割増しです)。

初版発行から7年経っているわけですが、その間に著作権法をめぐる状況には大きな変化がありました。これに対応して、第2版では、基本的な構成は同じ(冒頭は初版と同じく「著作権法の憂鬱」です)であるものの、新たな論考が追加されています。たとえば、フェアユースに関する部分は初版で約4ページでしたが、今回は約9ページと倍以上のページ数が費やされています。

そもそも、初版では、中山先生は、フェアユースに対しては日本の制度にそぐわないという消極的な立場だったのが、第2版では立場を大きく変えられています。これについて、脚注(219に、

本書初版(2007)においては、フェアユース規定の導入には消極的な見解を述べていたが、本文で述べる理由のように、現在はフェアユース規定を早急に導入すべきであると言う見解に改めた。

とストレートに書かれています。学術界だけでなく弁護士として活動するようになって企業の声をより多く聞くようになり、フェアユース的な規定がないと著作権法は世の中の流れに追いつけないと考えるようになったということでしょう(これに関して大昔に書いたブログ記事)。

他にもダウンロード違法化(+刑事罰化)等々、興味深い内容が満載ですので、今週末にでも通読してみたいと思います。

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