理研が米国のSTAP特許出願を放棄

多くの人にとっては、もうはるか忘却のかなたの出来事かと思いますが、4月9日付で理研が米国におけるSTAP特許出願の持分をブリガムウィメンズ病院(ハーバード大)に譲渡していたた(事実上の権利放棄をした)ことがわかりました。理研は昨年12月の時点で放棄を検討すると言っていましたがそれを実行したことになります。 20150515-00045752-roupeiro-000-6-view

STAP特許をまだおっかけているのかと思われるかもしれませんが、別にわざわざ調べているわけではなく、通常の仕事として自分が扱っている米国特許を米国特許庁の審査状況データベース(PAIR)で照会するときに、STAP特許出願の番号(14/397,080)が検索窓でサジェストされるのでついでに見ているだけです。

理研の持分放棄によって、米国のSTAP特許出願はブリガムウィメンズ病院の単独出願となります。理研が放棄したのは別に驚くにあたらないのですが、ブリガムウィメンズ病院側が放棄しないばかりか、権利取得を目指しているかのように書類の提出手続を続けていることが気になります。米国に特許を盗まれたと隠謀論系の人がまた騒ぎそうな気がしますが、たぶん、バカンティ教授がごねて放棄させないだけではないかと思います。米国特許庁がどういう結果を出すかはちょっと興味があります(また何か動きがあったら本ブログで公開する予定です)。

なお、ついでに言うと(これはわざわざ調べました)、STAPの国際特許出願が、EPO(欧州特許庁)にもEP2844738として国内移行されてました(データベース上では理研とブリガムウィメンズの共同出願になってますが、たぶん理研はもう持分放棄しているのでしょう)。オーストラリアの出願(2013251649)は、5月5日付けで理研が持分放棄してました。日本の出願(2015-509109)は、そもそも翻訳文が期間内に提出されなかったので全体として取下という状況だと思われます(厳密に言えば特許法184条の34第4項により1年間は保留状態になっていますがいずれ取り下げとなるでしょう)。

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「丸源」対「にく次郎」:飲食店の微妙なパクリ問題は法律的にどう扱われるか

FNNで「焼き鳥に続き、ラーメンで「似ている騒動」 仮処分申し立て」というニュースがありました。鳥貴族に訴えられた会社が運営する「にく次郎」というラーメン店のメニューや店舗が類似しているとして「丸源ラーメン」を運営する会社が差止仮処分を請求したという話です。

テレビの映像を見る限り、店の名称は全然違いますが、店構え、店員の服装、メニューのデザイン、品揃え等が類似しているように思えます。鳥二郎の件と同様、トレードドレスが明確に法律で保護されていればNGになりそうな案件ですが、日本ですと厳しいように思われます。「熟成醤油ラーメン」や「熟成肉そば」という名称を真似されたという件についても、記述的な名称の域を超えていないと思います(商標登録もされていません)ので、やはり法律的には厳しいのではないかと思います。

鳥二郎の件と同様に(商売上の道義の話は別として)日本の法律上問題にならないぎりぎりセーフの線を狙っている感じがします。

この件に限らず、飲食店間のパクリ問題は、類似店名を使用する等の完全にNGなもの、グレーなもの、ぎりぎりセーフなものと様々なケースがありますが、司法の場で争われた結果セーフとされた事例としては、和民と魚民(モンテローザ)によるものがあります(参照ニュース)。

居酒屋の店名に「x民」とつけるのは記述的ではない(少なくとも焼き鳥屋における「鳥x」よりははるかに識別性があります)と思いますし、「魚民は和民の関連店舗である」と誤認されるケースもあると思うのです(今、和民の関連店舗と思われることが本当にビジネス上のメリットになるのかという点はありますが別論)が、和解によって「魚民」の使用は問題なしとされました。

「魚民」がセーフということを考えると「鳥二郎」、「にく次郎」も法律上はセーフになりそうだというのが妥当な読みかと思います(もちろん、”画期的判決”が出る可能性はありますが)。

一般論としては、日本の司法はこの手の企業間の微妙なパクリについては米国と比較して甘いという感があります。

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Googleの特許買取相場について

ちょっと前に書いたGoogleの「アジャイル」な特許買取プログラムPatent Purchase Promotionの公式申込フォームが5月8日にオープンしました。5月22日には申込クローズするという超短期のプログラムになります。

希望買取価格をこちらから設定するルールになることはわかっていたので、いくらくらいを目安にすればよいのかちょっと気になっていましたが、公式フォームでは、1万ドル、2万5,000ドル、5万ドル、7万5,000ドルから選択できるようになっています。「その他」の指定もできますが、買取相場としては100万円強から1,000万円弱ということでしょう。米国のNPEに特許を売る場合の自分の相場観ともおおよそ一致しています。あとは、名前・住所・米国特許番号を記入するだけで申込みが完了します(パテントファミリーとしての申込はできず1件ずつ申し込むようになっています)。

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当然ですが、Googleが購入するしないを確定するまでは他者にに特許を譲渡してはいけないという条件があります。とは言っても、遅くとも7月15日までの話なのでそのほどのリスクではありません。また、Googleが購入意図を通知してから10日以内に米国納税者番号を通知しなければいけないので、納税者番号を持ってない人・会社は今から手続を始めておかないと間に合わないかもしれません。

なお、Googleが侵害していると思われる特許権を売却するケース、Googleの競合他社が特許権を侵害しておりGoogleが防衛的にその特許権を使えると思われるケース、製品とそれを保護する特許ポートフォリオをまとめて譲渡するようなケースであれば、もっと高く売れることもあるでしょう。そういうケースで、かつ、交渉に時間と手間(コスト)がかかってもよいというのであれば、今回の短期特別プログラムではなく、Googleが定常的に行なっているプログラムの方のGoogle Patent Opportunity Submissionの方に申し込むという手もあります。なお、こちらのプログラムでも買取対象は米国特許または米国特許出願のみです。

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Apple Watchのサードパーティ製バンドは許されるのか?

過去記事「Apple Watchの意匠登録とサードパーティの時計バンドについて」において、

ここで、特に問題となるのはバンドの本体との接続部分メカの部分意匠が登録されるかどうかです。もし、登録されてしまうと、Apple Watchに取り付け可能な機構を持つ時計バンドはどんなデザインであってもアップルの意匠権を侵害してしまう(少なくとも侵害だぞとアップルに警告される)可能性が生じます(あくまで可能性)。

と書いて、アップルが、サードパーティ製によるApple Watch互換時計バンドの製造・販売を排除する可能性について懸念を述べました。

そして、実際、接続部分メカ(Band Attachment)の部分意匠がつい最近の4月28日登録されました(US D727,787)。

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しかし、サードパーティ製バンドの排除については、私の心配のしすぎであったようです。アップルが、開発者向けにApple Watch互換時計バンド向けのガイドラインを公開したからです。

ガイドラインにはApple Watch本体との接続部分の寸法図面も含めて互換時計バンドを製造する際のさまざまな指針が書かれています。たとえば、心拍センサーとの互換性を維持するために「長さ調整のピッチは7ミリ以下とすべきである」等と書かれています。互換時計バンドを排除するどころか奨励しているように見えます。なお、このガイドラインに準拠したからといって、それだけで”Made for Apple Watch”の表示を付けてよいというわけではなく、それには別途アップルによる商標権の許諾が必要です。

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やはり、腕時計というファッション製品はアップルにとってやや「アウェイ」なので下手にクローズドに行くよりは、エコシステム重視という戦略を取ったものと思います。高級時計バンドメーカーによる互換バンドや中華製のお手頃なお値段のバンドの品揃えが増えるのは一消費者として喜ばしい限りです(既にeBayでは互換バンドが1000円台からあります)。

特に、Apple Watchは従来型の腕時計と異なり特殊な工具なしに容易にバンドの交換ができますのでバンドの品揃えは重要です。個人的にはApple Watchはちょっと様子見だったのですが、Apple Watch Sportを買って運動時は純正のスポーツバンド、仕事時はオーソドックスな革製バンドと取り替えて使うというやり方が俄然魅力的に見えてきました(もちろん、これは純正バンドだけでもできるのですが結構なお値段(特にステンレス)なので..)。

なお、アップルによるApple Watchの純正バンドの意匠登録は続々と登録・公開されています。以前紹介したモダンバックルに加えて、スポーツバンド(US D727,197)、ステンレス(US D727,198)も登録されました(レザーループやミラネーゼループもまもなく登録されるでしょう)。ということで、互換バンドOKとは言っても、当然ながらアップル純正品のデッドコピー品は禁止されることになるでしょう。

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I/O DATAのNASのリカバリとDRMについて

#今回はちょっと毛色の違うネタです。

家でDLNAサーバと通常のファイルサーバ兼用で使っているNAS(I/O DATA LANDISK HDL2-A)が突然読めなくなりました。パネルを見るとHDDのひとつがエラーになってます。RAID1で運用しているので本来なら片肺で動作するはずなのですが全くアクセスできません。

しょうがないので電源落とそうとしたらいつまでたってもシャットダウンが完了しません。1日置いといても終了しませんでした。最後の手段として電源ケーブルを抜き、問題のあるHDDを抜いて片肺で立ち上げようとしましたが、立ち上がりません。HDL2-AはブートシステムまでHDD上にあるので、RAID崩壊すると立ち上げすらできなくなります。DLNAのテレビ録画に加えて旅行の動画等の貴重なコンテンツが入っているのでちょっとあせりました。

ネットの情報から、HDL2-AのHDDはGPT形式パーティションでファイルシステムはxfsであることがわかりました。

生きている方のHDDを抜いてWindows PCにつないで見ましたが、パーティションが認識されません。ちなみに壊れた方のHDDをつなぐとドライブとして認識されたりされなかったりします。いわゆる「こわれかけのRAID」で中途半端なハードウェア障害により生きてる方のHDDまで論理破壊してしまったと思われます(ちなみに、HDDのモデルはSeagateのBarracudaです)。業者に頼むと結構なお値段なのはわかっているので、自前での復旧を試みました。

まずはパーティションを復旧しないとどうしようもないので、Parttion Magic、復旧天使等のソフトを使ってみましたが認識しません。しかし、testdiskというコマンドラインベースの無料ツールを使うことで、少なくともデータが入っているパーティションは復旧できました(なぜか、MBR形式のパーティションも認識されており、パーティションテーブルがめちゃくちゃになっていることがわかりました)。

PCをUbuntuで再立ち上げして、データの入ったパーティションをxfsでマウントして何とかファイルのサルベージはできました。実際にはもっと試行錯誤があり、3日つぶしてしまったので、充実した連休を過ごすことができました(笑)。

しかし、それでも、DLNAのDRMがかかっているコンテンツ(地デジ録画)は復旧できません。DLNA関連のフォルダーごとバックアップして、新しいHDDでRAID組んでそのままリストアすれば復旧できるのかもしれませんが、よくわかりません。DRMがかかってるとこういう時に困りますね。

最後の手段として生きてる方のHDDのロジックボードを死んだ方のHDDに移植してNAS上でブートできないか試してみる予定です。NASとして立ち上がれば専用ツールでDLNAのDRMがかかったコンテンツを他のデバイスにムーブ可能です(死んだ方のHDDのデータには損傷がないことを祈ります)。

エンタープライズの領域でもストレージ・コスト>サーバ・コストになるのは普通だと思いますが、家庭においてもデータ喪失時のダメージを考えると、業務用のハイエンドNASを入れてもよいのかなという気がしてきました。

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