Amazonのドローン配送特許出願について

日本では、いろいろな事件により、過剰な規制が懸念されているドローンですが、そのテクノロジーとしての可能性は否定できません。米Amazonがドローンで商品を配送する計画(Amazon Prime Air)を公表して世間を驚かせたのは記憶に新しい(イメージビデオ)ですが、4月30日にその関連の特許出願が公開されました(参照記事)。公開番号は20150120094です(まだGoogle Patent Searchに載っていないのでUSPTOのサイトにリンクを貼りました)。なお、公開されただけであってまだ特許化されたわけではありません。

ところで、上記のCNN記事ですが、”Amazon drone delivery proposal now patented”という修正前のタイトルがGoogleのキャッシュに残っており、CNN記者でも特許出願の公開と権利化がごっちゃになっている人がいるのだなあと思いました。

さて、特許出願の内容通りにサービスが実装されるとは限りませんが、特許出願の内容を見ることは、出願人(この場合はAmazon)がどのような具体的応用例を考えているのか、また、どのような技術を特許として独占しようとしているかを知る上での「ヒント」にはなり得ます。

基本的アイデアはドローンで荷物をピックアップして目的地で下ろすという単純なものです。ユーザーが”Bring It To Me”オプションを指定することで、ユーザーが今いる場所に荷物を届けてもらうことができます。さらに、いくつか興味深い付加的技術が開示されていますので、その一部をご紹介します。

1

複数のドローンをまとめて格納するための発着所のイメージです。現物があるなら見てみたいですね。

2

ユーザーのスマホ等のモバイル機器をドローンの発着場所指示に使うというアイデアです。ユーザーがモバイル機器をドローンを着陸させたい場所に置きます。モバイル機器はドローンの映像をカメラで撮影しながらドローンと無線でやり取りし、正確な着陸位置をコントロールします。たとえば、屋外にあるテーブル上などの安全な場所にドローンを着陸させることができます(ドローンがプールに着陸しちゃったりしたら大変ですからね)。なお、スマホの真上にドローンがのっかってしまわないようスマホのごく近くに着陸させるという実施例も記載されています。

権利化の観点から見てみるとクレーム1は次のようになっています。

1. A system for aerial delivery of items to a destination location, comprising:
a plurality of unmanned aerial vehicles, each of the plurality of unmanned aerial vehicles configured to aerially transport items;
an unmanned aerial vehicle management system, including:
a processor;
and a memory coupled to the processor and storing program instructions that when executed by the processor cause the processors to at least:
receive a request to deliver an item to a destination location;
and send to an unmanned aerial vehicle of the plurality of unmanned aerial vehicles, delivery parameters identifying a source location that includes the item and a destination location;
wherein the unmanned aerial vehicle, in response to receiving the delivery parameters, is further configured to at least:
navigate to the source location;
engage the item located at the source location;
navigate a navigation route to the destination location;
and disengage the item.

(抄訳)
空輸で荷物を運ぶ複数のUAV(ドローン)とドローン管理システムから成り、
前記ドローン管理システムは目的地に荷物を運ぶ要求を受け取って、要求のパラメーターをドローンに送信し、
前記ドローンは出荷地に向かって荷物を積み、目的地に向かって荷物を下ろすよう構成されている空輸配送システム。

意図的にだと思いますが、かなり範囲が広く、従属クレームでもあまり限定を加えていないので、このまま権利化するのはちょっと難しい(逆に言うと万一権利化されると他社への影響が大きい)のではないかと思います。USPTOからは特に審査結果は出ていないので、最終的な特許はどのようになるか(そもそも特許化され得るのか)は読みにくいところがあります。上記のスマホによる着陸位置制御は権利化できるかもしれません。

アメリカでもドローンの規制は厳しくなっていますので、Amazonが想定したサービスが今すぐに実現可能なわけではありません。しかし、消費者にとっての価値とリスクの天秤で魅力あるサービスとみなされれば普及することになるでしょう。日本でも事故を起こす可能性があるので絶対禁止という単純思考に基づいた規制は避けてもらいたいものです。

[AD]まだ誰も思いついていないドローンの応用が特許化できるかもしれません。ご相談・お問い合わせはこちらから。

カテゴリー: 特許 | コメントする

エディ・ヴァン・ヘイレンによるギター特許について

以前書いたマイケル・ジャクソン発明の斜め立ち特許は比較的有名と思いますが、FacebookのTL経由でエドワード・ヴァン・ヘイレン本人が発明したギターの特許があることを知りました。元ネタは、Popular Mechanicsの記事です。

同記事では、エドワード・ヴァン・ヘイレンは3件のギターの関連特許を取得して、うち2件が有効と書いてますが、現時点で有効なのは1件だけだと思います。

まずひとつめはUS4656917“Musical instrument support”です。出願は1985年、登録は1987年なので、もう権利は満了しています。

特許の基本アイデアは、この味のある図面を見るとよくわかります。ギターの背面についている折りたたみ式の支え(図の140)により体でギターを支えてライトハンド奏法等をやりやすくできる点がポイントです。

20150522-00045943-roupeiro-003-12-view

クレーム1は以下のようになっています。

1. A stringed musical instrument comprising

an instrument body having front and rear surfaces,

sound producing means extending over a portion of said front surface,

and a device mounted onto said rear surface for positioning said instrument body at an angular orientation to a player’s body,

said device including attachment means movable between an inoperative position overlying said rear surface and an operative position at an angle to said rear surface,

a pair of spaced-apart mounting blocks attached to said rear surface and support means coupled to said mounting blocks for rotationally supporting therebetween said attachment means,

said attachment means engaging said player’s body when in said operative position for maintaining said instrument body in said angular orientation and disengaging from said player’s body when in said inoperative position for maintaining said instrument body in other than said angular orientation.

(仮訳)

1.前面と背面を含む楽器本体と、

前記前面の一部を占める音響発生手段と、

演奏者の胴体と一定角度を維持しながら前記楽器本体を保持するよう前記背面に設置された装置とから成る弦楽器であって(以下略)

普通の言葉で「背面に折りたたみ式の支えがついたギター」でよさそうなものですが、特許のクレームは、できるだけ広く解釈されるための抽象性と正確性を両立させなければなならいので、こういう書き方になってしまいます。弁理士として明細書作成するときに一番気を使うポイントです。

2つめは特許とは言ってもデザイン特許(日本でいう意匠登録)で、番号はUSD388177です。ギターヘッド部の意匠(工業デザイン)ですが、期間満了しています。

20150522-00045943-roupeiro-002-12-view

3つめはUS7183475“Stringed instrument with adjustable string tension control”です。これは2003年の出願で特許料も支払われていますので当面権利は有効です。ギターの特定弦のチューニングを変える(典型的には6弦をEからDに落とす)ためのテールピース部の機構に関する特許です。

20150522-00045943-roupeiro-001-12-view

[AD]あなたのアイデアを特許化してみませんか。スタートアップ企業、個人発明家の方の特許のご相談・ご依頼はこちらから(もちろん楽器以外の発明にも対応します)。

カテゴリー: 特許 | コメントする

色のみ商標、動き商標等が一括検索可能になりました

特許情報検索サイトJ-PlatPat(旧IPDL)の商標検索メニュー、今まで「音」、「色彩のみ」、「動き」等々のチェックボックスが画面上にはあったものの機能していませんでしたが、ようやく実装されたようです(音商標については5月26日から対応)。

タイプ別のチェックだけして他に情報を入力しないで検索すると現時点で出願公開済あるいは登録済みの新しいタイプの商標を一括表示できます。ながめていると、あの会社があの色を(あの音)を、というのが数多くあって興味深いです。本当に使用による識別性はあるのだろうかとの疑義を感じるものもありますが、これは特許庁の審査官が需要者の立場で決める話なので、ここで勝手にコメントするのはやめておきます。

残念なのは、J-PlatPatが相変わらず固定リンク機能を提供していない点です(URLをWebページに貼ってもそれはそのセッションでのみ一時的なリンクで他人からは見られません)。せっかく興味深い商標登録出願を見つけても、出願番号を書いて検索して下さいとするか、画面コピーを貼るかしかありません。

とは言え、twitterで商標公開公報を自動フィードしているアカウントの商標速報botが、新しいタイプの商標にも対応しましたので、そのツイートを使うことでWebやブログ上で当該商標公開公報を容易に公開できます。音商標ならSoundcloud経由で音を聞き、動き商標であれば願書ではイメージの組み合わせで表記されている動きを動画として見ることができます(商標速報botの中の人に深く感謝したいです)。

たとえば、円谷プロによるこの「動き商標」の出願はなかなか興味深いですね(オッサン限定ですが)。

[AD]商標登録出願に関するご依頼・お問い合わせはこちらから(音商標などの新しいタイプの商標にも対応します)。

カテゴリー: 商標 | コメントする

理研が米国のSTAP特許出願を放棄

多くの人にとっては、もうはるか忘却のかなたの出来事かと思いますが、4月9日付で理研が米国におけるSTAP特許出願の持分をブリガムウィメンズ病院(ハーバード大)に譲渡していたた(事実上の権利放棄をした)ことがわかりました。理研は昨年12月の時点で放棄を検討すると言っていましたがそれを実行したことになります。 20150515-00045752-roupeiro-000-6-view

STAP特許をまだおっかけているのかと思われるかもしれませんが、別にわざわざ調べているわけではなく、通常の仕事として自分が扱っている米国特許を米国特許庁の審査状況データベース(PAIR)で照会するときに、STAP特許出願の番号(14/397,080)が検索窓でサジェストされるのでついでに見ているだけです。

理研の持分放棄によって、米国のSTAP特許出願はブリガムウィメンズ病院の単独出願となります。理研が放棄したのは別に驚くにあたらないのですが、ブリガムウィメンズ病院側が放棄しないばかりか、権利取得を目指しているかのように書類の提出手続を続けていることが気になります。米国に特許を盗まれたと隠謀論系の人がまた騒ぎそうな気がしますが、たぶん、バカンティ教授がごねて放棄させないだけではないかと思います。米国特許庁がどういう結果を出すかはちょっと興味があります(また何か動きがあったら本ブログで公開する予定です)。

なお、ついでに言うと(これはわざわざ調べました)、STAPの国際特許出願が、EPO(欧州特許庁)にもEP2844738として国内移行されてました(データベース上では理研とブリガムウィメンズの共同出願になってますが、たぶん理研はもう持分放棄しているのでしょう)。オーストラリアの出願(2013251649)は、5月5日付けで理研が持分放棄してました。日本の出願(2015-509109)は、そもそも翻訳文が期間内に提出されなかったので全体として取下という状況だと思われます(厳密に言えば特許法184条の34第4項により1年間は保留状態になっていますがいずれ取り下げとなるでしょう)。

カテゴリー: 特許 | コメントする

「丸源」対「にく次郎」:飲食店の微妙なパクリ問題は法律的にどう扱われるか

FNNで「焼き鳥に続き、ラーメンで「似ている騒動」 仮処分申し立て」というニュースがありました。鳥貴族に訴えられた会社が運営する「にく次郎」というラーメン店のメニューや店舗が類似しているとして「丸源ラーメン」を運営する会社が差止仮処分を請求したという話です。

テレビの映像を見る限り、店の名称は全然違いますが、店構え、店員の服装、メニューのデザイン、品揃え等が類似しているように思えます。鳥二郎の件と同様、トレードドレスが明確に法律で保護されていればNGになりそうな案件ですが、日本ですと厳しいように思われます。「熟成醤油ラーメン」や「熟成肉そば」という名称を真似されたという件についても、記述的な名称の域を超えていないと思います(商標登録もされていません)ので、やはり法律的には厳しいのではないかと思います。

鳥二郎の件と同様に(商売上の道義の話は別として)日本の法律上問題にならないぎりぎりセーフの線を狙っている感じがします。

この件に限らず、飲食店間のパクリ問題は、類似店名を使用する等の完全にNGなもの、グレーなもの、ぎりぎりセーフなものと様々なケースがありますが、司法の場で争われた結果セーフとされた事例としては、和民と魚民(モンテローザ)によるものがあります(参照ニュース)。

居酒屋の店名に「x民」とつけるのは記述的ではない(少なくとも焼き鳥屋における「鳥x」よりははるかに識別性があります)と思いますし、「魚民は和民の関連店舗である」と誤認されるケースもあると思うのです(今、和民の関連店舗と思われることが本当にビジネス上のメリットになるのかという点はありますが別論)が、和解によって「魚民」の使用は問題なしとされました。

「魚民」がセーフということを考えると「鳥二郎」、「にく次郎」も法律上はセーフになりそうだというのが妥当な読みかと思います(もちろん、”画期的判決”が出る可能性はありますが)。

一般論としては、日本の司法はこの手の企業間の微妙なパクリについては米国と比較して甘いという感があります。

カテゴリー: 商標 | コメントする