「見えないヘルメット」特許の中味を見てみる

先日のエントリーで触れたスエーデンの女子大生(出願当時)による「見えないヘルメット」(実体は首に巻くエアバッグですが)の米国特許公報(8402568)の中味をちょっと見てみましょう。

この特許米国で登録されたのが2013年3月16日ですが、優先日(実質出願日)は2005年まで遡ります。審査経過を見ると一度拒絶査定を受けた後、米国独自の制度であるRCE(継続審査要求)を使って粘りに粘って特許化されています。普通こういうケースですと、新規性確保のために苦し紛れの限定がかかって範囲が狭い特許権になるケースが多いのですが、この特許のクレームを見る限りそういう状況にはなっておらず結構広いです。クレーム1は以下のようになっています(日本語訳および下線付加は栗原によります)。

1. A system for protecting a portion of the body of a user in case of an abnormal movement, said system comprising:

an apparel; and

an airbag folded and arranged in said apparel before inflation;

wherein said airbag includes

first means for inflating to surround a neck portion and a back head portion of said user; and

second means for inflating to form a hood that covers a crown of a skull of said user;

said first means also for beginning inflation prior to said second means.

異常な動きがあった際に、利用者の人体の一部を保護するためのシステムであって、

衣服と、

膨張前に前記衣服内に折りたたまれて格納されるエアバッグとを備え、

前記エアバッグは、

前記ユーザーの首部分と後頭部を取り巻くように膨張するための第一の手段と、

前記ユーザーの頭蓋骨の頭頂部をカバーするフードを形成するように膨張するための第二の手段とを備え、

前記第一の手段は前記第二の手段に先立って膨張を開始することを特徴とする

システム

余計な限定(たとえば、エアバッグを膨らませる方法)がかかっておらずかなり範囲が広いです。下線部の「頭のエアバッグより先に首のエアバッグが膨らむ」という条件が特許化のポイントになったようです。

この特許を回避しようと思うとというこの条件をはずさざるを得ないわけですが、もし首が固定される前に頭のエアバッグが膨らんでしまうとむち打ちのリスクが増すと思われるので、この条件をはずした製品を作るのはちょっと厳しいんじゃないかと思います。

なお、本特許はスエーデンからPCT出願(国際出願)されており、欧州(EPO)と韓国で既に成立しています(日本には出願(国内移行)すらされていません)。欧州特許(EP1947966)のクレーム1は、上記とほぼ同じなのでなかなか強力な特許資産と言えるのではないかと思います。

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