MSN産経ニュースに「“産地偽装”摘発に壁 不正競争防止法なぜ適用できない」なんて記事が載ってます。
不正競争防止法は競業秩序を乱すような特定の行為を防止するための法律です。コピー商品、アクセス制御回避(マジコン等)、ドメイン不当占有等々、種々雑多な行為がカバーされていますが、産地偽装も不正競争行為として禁止されています(2条1項13号(原産地等誤認惹起行為))。
十三 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為
重要なポイントとして、不正競争防止法を含む多くの法律では「商品」とは市場を自由に流通しているものを指し、レストランで出される料理は「商品」ではないということがあります(もちろん、お持ち帰りは除きます)。レストランで料理を出すのは「料理の提供」という役務(サービス)として扱われます。
上記記事は大きく言うと「レストランで出される料理は法律上の商品ではないので不正競争防止法の対象にならない」というような書き方になってますが、これは、前半は合ってますが、後半は微妙に違うんじゃないかと思います。
上記の不正競争防止法2条1項13号を見ると商品だけではなく、役務も対象になっているのでレストランのメニュー偽装も対象になりそうです。しかし、よーく条文を読んでみると商品については「原産地、品質、内容、製造方法、用途、数量について誤認させるような表示」が対象になっているのに対して、役務については「質、内容、用途、数量について誤認させるような表示」が対象になっています。つまり、「原産地」を偽装して役務を提供する行為は対象になっていません。
条文を文字通りに解釈すると、たとえば、輸入肉を和牛と偽ってレストランで料理として出す行為は不正競争防止法の対象にはならなさそうです(もちろん、景品表示法等の他の法律に違反する可能性はあります)。その一方で、たとえば、地鶏じゃないのに地鶏肉と偽った料理を出すのは不正競争防止法の対象になり得るように思えます。
要は、「メニュー偽装=産地偽装」と定義すれば、確かにレストランに対して不正競争防止法は適用しにくいのですが、産地偽装ではないメニュー偽装については、適用され得るということだと思います。
あるブログでは(例の「ささやき女将」でおなじみの)吉兆事件による味噌漬けの牛肉の産地を偽った不祥事について、店で出ていた料理は不正競争防止法の対象にならず、お持ち帰り商品だけが対象になったことに疑問が呈されていましたが、こういう条文解釈上の問題があったんじゃないかと思います。正直、これは法文の不備ではないかという気がします。
追記:念のため書いておくと「役務の原産地」は観念できないので「役務において供される物の原産地」とでもすればいいんじゃないかと思います。