裁断済本流通問題にどう対応すべきか

いわゆる「自炊」ブームが始まった頃から、ヤフーオークションで「裁断済」書籍の流通が始まっていましたが、最近はその数が着実に増えているようです。

当然予想されることとして、裁断済本を買った人は「自炊」して、またその裁断本をオークションに出すことになるでしょう。現状では、ブックオフは裁断済本を買い取ってくれないようです(参考ページ)が、需要が大きくなれば扱いを始めるかもしれません。こういう形で裁断本が流通していくと、ヤフオク(あるいはブックオフ等)が手数料を得るだけで、出版社にも著作者にもまったく対価が渡らない状態で商用著作物が流通していくことになるので好ましくない状況ではあります。

しかし、

1.本を買う
2.裁断して自分でスキャンする(いわゆる「自炊」)
3.裁断本を(オークション等を経由して)他人に転売する
4.他人もまた「自炊」する
5. goto 3.

というプロセスには(2.のスキャン作業を自分でやっている限り)違法性はありません(もちろん、スキャンしたデータそのものを他人に譲渡するのはNGです)。私的使用目的の複製(著作権法30条)には原本を所有していなければならないという縛りがありませんし、本という商品を一度買ってしまえば、それを裁断しようが、他者に転売しようが購入者の勝手であって、それを著作権者がコントロールすることはできません。

なお、貸本屋で裁断済本を貸すというビジネスモデルに言及されている方がいるようですが、書籍にも貸与権があるため、著作権者は貸本屋に対して貸与権を許諾する際の契約において裁断済本を扱わないという条件を設定できます。つまり、間接的に裁断済本の貸本業を禁止可能です(こういうビジネスを検討中の方、残念でした)。

ということで、現状では権利者側としてはどうしようもないわけですが、法改正によって対応するのもなかなか難しそうです。「私的使用目的の複製物は原本の所有権を失った時は破棄すべし」という改正を行なうことは理論的には可能ですが、実効性はきわめて疑わしいと言えます(ヤフオクやブックオフで売主がスキャンデータを消したかどうか確認する術はありません、せいぜい自己申告してもらうくらいです)。不正競争防止法で、裁断済本の流通を規制するという手もあるかもしれませんが、ちょっと筋が悪い気がします。

最も前向きな解決策は権利者が正規の電子書籍を安価かつ簡便に買えるようにしてくれることでしょう。「自炊」における手間、落丁/乱丁リスク、OCRのエラー、元々電子書籍向けに版組してないことによる読みにくさ等の問題を考えれば、多少の対価を払っても正規電子書籍版を買う消費者は多いと思われます。

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6 Responses to 裁断済本流通問題にどう対応すべきか

  1. 私見 のコメント:

    栗原さんの言われる通りです。
    違法性はないでしょう。
    著作権保護のためには、可能な限りPDF販売を安価にするしかないと思います。
    それを安価にしたとしても、紙媒体を買う人は残るでしょう。
    裁断本流通は、手間と時間を考えれば安価なPDFを買うことに流れるでしょう。
    著作者は「完全に」ではなく、「ある程度」守られることになります。
    ただ日本人の国民性として本は大事にするところがある上、置く場所に困るので、
    裁断による電子化は必然でしょうが。

  2. 栗原潔 のコメント:

    社会通念上問題があるのに違法でない(法律の抜け穴になっている)のが問題だと言っているのですが、わかりませんかね?

  3. 名無し のコメント:

    私も同じく、違法性が無い以上「問題」が提起されていないと思います。
    このエントリーは何を伝えたかったのでしょうか??

  4. 通りすがり のコメント:

    ↑全く違いますね。

    スキャンして手元に本のデータを残しておけるということは、売ったにもかかわらず手元に本があるのと同じでいつでも読める状態にあります。

    普通ならば読んだあと人から人へ渡っていくだけで、本は1冊のままです。
    また全部読みたいと思ったらまた購入する必要があります。

    しかし、スキャンをすれば海賊版(コピー製品)が出回るのと同じ状態、違法コピーと同じで著作者には何も対価が入らないまま、どんどん人の手に渡っていくわけです。

    生活のかかっている著作者に対価が支払われないのはおかしいでしょう?
    作者を潰したいのでしょうか?

  5. 通行人 のコメント:

    >間接的に裁断済本の貸本業を禁止可能です(こういうビジネスを検討中の方、残念でした)。

    買ってスキャンしてまた売るなら、はっきり言って貸本以上に早い返却が可能でしょう。
    貸与権には抵触しないし、たぶんその差額は貸本と同等か以下かもしれません。
    すでにそういうビジネスが始まっています。オークションなど経由しない売買専門店。
    貸本業と異なるのは、全国ネットなので、運送費がかかることでしょう。

  6. 通りすがり のコメント:

    これ、
    1.本を買う
    2.コピー機でコピーする
    3.本を(オークション等を経由して)他人に転売する
    4.他人もまたコピーする
    5. goto 3.
    のと何が違うんですか?

    あるいは、
    1.本を買う
    2.読んだだけで、本を(オークション等を経由して)他人に転売する
    3. goto 2.
    と何が違うんでしょうか。

    「裁断済本流通問題」と銘打っているのに、裁断本独自の問題点が見あたらないような気がします。

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