以前書いたとおり、JASRACの動画サイトに関する規約改定により、JASRACと正規契約を結んでいる動画サイト、すなわち、YouTube、ニコニコ動画、Zoome、Ustream等でJASRAC管理の外国曲の演奏をアップすることが可能になりました。
しかし、ここで許諾されるのは著作権に関してだけであり、レコード製作者の著作隣接権、いわゆる原盤権については範囲外なのでCDの音源を流すことは法律上はNGでした(なお、UstreamはJRCと別途契約し、一部のCDについては原盤権も利用可能としています)。
ここで重要なポイントとして、原盤権の存続期間は原則的ににレコードの最初の発行の翌年から起算して50年となっている点があります(著作権法101条2項2号)。つまり、1958年以前に発行されたレコードの原盤権はもう切れています。
ポップ音楽では1958年以前というとオールディズという感じもしますが、ジャズの世界では1950年代と言えばまさに絶頂期です。たとえば、サキソフォン・コロッサス、ブルー・トレイン、ラウンド・アバウト・ミッドナイトなどのいわゆるハードバップ系の名盤はほとんど1950年代。これらのレコード音源をJASRACと契約済のサイトにアップするのはOKなような気もします。
しかし、ここで、リマスターの問題があります。リミックスの場合に新たなに原盤権が発生するのは当然と思いますが、アナログLP用の音源をCD化する時に原盤権が新たに発生するのか(存続期間の50年が数え直しになるのか)はなかなか難しい論点です。
この件に関してレコ協に問い合わせたみた方がいるようです(参照ページ)。レコ協からの回答は、
結論としては、ノイズを除くだけのリマスタリングでは、新たに創作性は認められないので、リマスタリングしたCDに新たに著作隣接権は発生しないとのことです。
ただし、ミキシングや新たにレコーディングしたものを加えたり、した場合は、創作性があるので、著作隣接権が発生するそうです。
ということですが、著作権法上は原盤権の発生は対象が著作物であることを要件としていない(ゆえに、著作物ではない鳥の声や蒸気機関車の音を録音したレコードにも原盤権が発生する)のと辻褄があっていない気もします。
もうひとつの問題として、米国においてはレコードの著作権(米国ではレコード/CDも著作権で保護される)は公表後95年なので、日本で原盤権が切れていても米国での権利は残っている点があります。国境がないネットの世界で、これがどう処理されるかは微妙なところです。
一般に、日本で権利切れ、米国で権利ありの作品を日本でネットにアップロードしたらどうなるか大昔にJASRACに聞いてみたことがありますが「日本の視聴者を主なターゲットと想定するサイトに日本からアップロードするのは大丈夫ではないか」みたいなあいまいな回答が返ってきました(著作権制度の国際的な調整をどうするかを決める権限がJASRACにあるわけではないので確定的な答を得られないのは当然です)。この見解に基づくと、ニコ動はOKだけど、YouTubeやUSTはNGということでしょうかね?
余談になりますが、ちょっと前に、YouTubeでアマチュアジャズプレイヤーのコンテストをやっていて、著作権処理はどうしているのかと思ったら、ガーシュイン等の著作権切れの曲が課題曲になっていました。しかし、課題曲の中には、まだ米国で権利が残っているものもあったので、どうなってるのかと思い、米国のプロクシ経由でアクセスしてみたら「この動画はこの地域からはアクセスできません」となりました。さすがに公式のコンテストだけあってちゃんと考えているわけです。
ということで、疑問符ばかりで申し訳ないですが、少なくとも、海外からのアクセスを禁止した状態で、オリジナルのLPの音源を使うと言う前提であれば、1958年以前のレコードをJASRAC契約済みの動画サイトで使うことは問題なさそうです。