【弁理士の日記念企画(期限徒過)】初学者に知財を教える場合のポイント

期限を1日徒過してしまいましたが、弁理士の日記念企画というということで、知財業界での教育というテーマで書いてみようと思います。

自分は、金沢工業大学(虎ノ門大学院)で10年以上にわたり、知財の入門講座(「知的財産要論」)を担当してきました。8コマ(12時間)で、知財の経験がない学生を対象に、特許・実案・意匠・商標・著作権・不競法を全部カバーするというチャレンジング(教える方にとっても学ぶ方にとっても)な講座です。

この経験の中から、限られた時間内で未経験者向けの知財研修を行う際のポイントについていくつか書いてみようと思います。

①特許においては「手続関連」の話をどれだけ省略できるかがポイント

特許の説明で手続き的な話を始めると時間がいくらあっても足りなくなってしまいます。補正・分割出願・拡大先願(29条の2)・損害論・PCTあたりは実務上はきわめて重要であるのは当然として、初学者にとってはややこしいだけの話なので、そういうものがあるよレベルの説明に留めて、ばっさりカットすべきだと思います。

特許制度の意義、発明(技術的思想)の定義、新規性・進歩性の考え方等にできるだけ時間を割くべきです。

②特許権は禁止権であり、独占権でないことの説明は必須

一般に、特許を取れれば特許発明の実施が保証されると勘違いしている人は多いです。当然初学者でも誤解しやすいポイントです。利用発明、改良発明の話は時間をかけて行うべきです。私は、このあたりの説明は、昔Yahoo!に書いた記事「”特許を取れれば他人の特許権を侵害することはない”ということはありません」のたとえを使っています。

なお、合わせて、商標の場合は、登録商標の使用は保証される(不正競争防止法が関係する場合は別として)点も説明しておきたいです。

③新規性・進歩性の話と特許権侵害の話がごっちゃになる人がいる

公知の技術との共通性により新規性・進歩性が否定されて出願が拒絶になる話と、他人の特許発明との共通性により自分の技術の実施が特許権を侵害する話がごっちゃになっている初学者が一定数いるようなので注意が必要です(これは、ある程度知財を勉強した人でもそうで、たとえば、「この出願をすることでxx社の特許権を侵害することはないか?」といった問い合わせをしてくる方もいたりします)。

④特許の例としては実際の特許公報を使いたい。

発明は自然法則を利用した技術的思想の創作である、とは言っても正直イメージしにくいですよね。かと言って、「末端に消しゴムを備えたことを特徴とする鉛筆」のような(新規性要件を無視した)架空の例もイマイチだと思います。ということで、最近は、実際の特許公報を例として使っています。

公報の選択には気を使うところです。あまりに複雑で技術の説明に時間を要してしまうのもまずいですし、たまに見られるアホみたいな特許でも問題です。具体的イメージがしやすく、説明も容易で、かつ、特許としての有効性がわかりやすい公報として、最近は無印良品(良品計画)の6445744号(「リュックサック用肩紐及びそれを備えたリュックサック」)を使っています。技術の内容と優位性については無印のサイトでもわかりやすく説明されているので例として使いやすいです。

追記:公報を例に使って、クレームの構造とオールエレメントルール(権利一体の原則)について絶対に説明しておきたい所です(一般的な特許入門書でこのあたりに説明がほとんどないものがありますよね)。

⑤実案・意匠は特許との差分の説明で時間を節約

初学者向けの講座であれば、実案は特許のライトバージョンで無審査登録制がポイント、意匠は特許の工業デザイン版といった説明ではしょってしまってよいと思います。

⑥商標は「識別性」が最難関

特許と比較して商標は比較的イメージしやすく、理解も容易と思うのですが、「識別性」(商標機能論)の説明が最難所かと思います。伝統的な「巨峰」判例を使って説明したりしていますが、どこまで理解してもらっているか正直不安なところがあります。

追記:識別性に関する他の例としてLADY GAGA事件を説明したりもしましたが、かえって学生の混乱を招いたような気がしてきました。そもそも境界領域であって意見が割れがち、日本の審査運用が世界的に特殊、栗原としてもイマイチ納得出来ないwという理由により、説明例としては使わない方が良いかもしれません。

⑦著作権もどこをカットするか勝負

特許の場合と同様、著作権も全部説明していると時間がいくらあっても足りませんので、どこをカットするかが勝負所です。自分としては、著作者人格権と著作隣接権は大幅カット、損害論もカット、支分権は複製・上演・譲渡・公衆送信のみ説明、権利制限は私的複製と引用のみ説明という感じでしょうか?著作権制度の意義(自然権vsインセンティブ論)、二分論(表現vsアイデア)、支分権の構造等に時間を割きたいところです。

また思いついたら追記するかもしれません。

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外国語特許出願の34条補正翻訳文提出手続備忘録

外内でPCT出願の34条補正翻訳文を提出する手続が続いたので自分用の備忘録として書いておきます。

1.どういう手続か?

PCT出願の国際段階でした34条補正を日本国内移行出願に反映させる手続です。19条補正の場合は、補正後の翻訳文のみを提出して国内移行すればよいのですが、34条補正の場合は、PCTの原文どおり(または19条補正後)の内容で翻訳文を提出した後に、補正の翻訳文を改めて提出することが必要です。

2.いつまでにやるか?

国内処理基準時までに行う必要があります。

細かい点として、故意でない期限徒過の制度を利用して国内書面(と翻訳文)を提出した時には、国内書面を出した時には既に国内処理基準時を過ぎていますので、34条補正翻訳文を提出する機会はありません(特許庁確認済)。この場合でも、34条補正と同様の補正を通常の国内出願の自発補正として行えば良いので特に問題はありません。

3.どうやってやるか?

「特許協力条約第34条補正の翻訳文提出書」でインターネット出願ソフトで提出します。形式は通常の手続補正書と類似ですが、補正の根拠(新規事項追加でないこと)を(上申書ではなく)【その他】欄に書く必要があります。34条補正を行った時に補正の根拠が出願人(現地代理人)により書かれているはずですが、34条補正の内容は最先出願日から30カ月は公開されません。翻訳文提出特例期間が適用されている場合はPatentScopeで見ればよいのですが、そうでない場合は、国内処理基準時(34条補正翻訳文提出〆切)までPatentScopeで見ることはできませんので、補正の根拠情報は現地代理人から直接入手する必要があります。

4.やらないとどうなるか?

34条補正の翻訳文を提出しなくても特にペナルティはなく、34条補正がないものとされるだけです。後で国内段階で自発補正しても同じです。マルチマルチ従属クレームの手当等が必要な場合は自発補正でまとめてやった方が楽かもしれません。

5. 国内自発補正ではなく34条補正として行う意味は何か?

これは特許庁に聞きましたが、条文の説明が返ってくるだけで、具体的な答は得られませんでした。自分として考えているのは以下の2点です。

①補正の内容が新規事項追加を問われそうなものである場合、34条補正であれば、国際段階で一度認められていれば、その後、原文新規事項により拒絶される可能性はまずないのではないか?一方、国内で自発補正をすると、通常どおり、新規事項追加がチェックされてしまう。

②権利化を急いでおり、かつ、34条補正でクレーム数が激減している場合、34条補正翻訳文提出後に審査請求すれば減少後のクレーム数の料金で済む。国内自発補正として行うと、減少前のクレーム数で審査請求しなければならず料金が無駄。

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移転登録済通知書をPDFでもらう前提

先日、特許庁から「折曲禁止」と朱書きされたA4サイズ封書が届きました。特許証等は既にPDF化されていますので何だろうと思って開けたら、商標の登録移転済通知書でした。今まで三つ折りで送られきてた書類が何で「折曲禁止」なのかと思いましたが、たぶん、封筒を使い回しているだけでしょう。

そして、ここで生まれる第2の疑問は何故PDFで届かないかです。特許証等は既にPDFでもらっています。特許庁ウェブサイトの当該ページをよく見ると「※移転登録済通知をオンラインで受領希望の方は、提出する申請書に申請人又代理人の識別番号を記載することが必須です。」と書いてあります。登録系のシステムから審査系のシステムにつなぐために必要なんでしょうか?それくらい調べてくれないものかとは思いますが。

元々、登録済通知書はスキャンしてPDF管理していたので特に問題はない(強いて言うと特許庁からの通知タイミングが遅くなるという弊害がある)のですが、登録系のテンプレを全部直しておきました。

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4月以降も特許証を紙で入手できる良い方法を考えたと思ったのですが..

2023年4月から特許証(登録証)を含むいくつかの書類がオンライン発行となり、原則的には、紙で発行されなくなります(参照特許庁ページ)。特許証はあってもなくても権利には関係ないですし、諸外国でも紙では発行されなくなっている国がほとんどになってきたので必然的な動きかと思います。しかし、やはり、クライアントの中には、応接室に飾る等のために紙の特許証や登録証が欲しいという方もいらっしゃると思います。

4月以降もオンライン発行ではなく、紙での発行を指定することも可能ですが、そうすると特許証だけではなく、年金領収書、商標更新申請登録通知、移転登録済通知、識別番号通知等の他の書類も紙での発行になってしまいます。管理を考えると、これらの書類はオンライン発送にしたいですね。要は、特許証(登録証)だけは紙(または、紙+PDFで)、それ以外の書類はオンラインで送ってもらうようにしたいのですが、そうはできません。

ここでちょっとアイデアを思い付きました。特許料(登録料)の納付は誰でもできます。そして、特許証(登録証)は納付者に送付されます。ゆえに、弁理士の識別番号の代わりに個人としての識別番号を取得し(実際私も個人の識別番号持ってます、弁理士本人が出願するパターンではこうしろと特許庁に言われました)、そして、個人としては紙での発送を指定し、特許料(登録料)の納付手続だけ個人(非弁理士)の識別番号でやればよいのではないかと。

特許庁に確認しましたが、確かにそうなることはなるのですが、そもそも、弁理士であっても非弁理士の識別番号を使って業として他人の特許料納付を行うと弁理士法違反とのことです。

ということで、どうしても紙で欲しいというお客様には、別途費用を取るなりして印刷してあげるしかなさそうです。

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インターネット出願ソフト用マイナンバーカード電子証明書更新における注意点

インターネット出願ソフト用の電子証明書はマイナンバーカードのものを使っています(関連過去記事)。無料なのと更新が5年に一度なのが便利です。ICカードリーダーが必要ですが、e-Tax用に買ってあった物を流用しています。細かい話ですが、使っている定番のリーダー(NTT-Com SCR3310のOEM品)がサポート切れになっていますが、Win11でもちゃんと動きます。

その5年ごとの更新時期が来ました。更新期日の3カ月前になるとインターネット出願ソフトのログイン時(および特許庁との送受信時)に警告が表示されます。また、役所からも通知の郵便物が来ます。

更新は居住する自治体の役所で行なう必要があります。勤務先で昼休みにちょっと更新なんてことができないのでちょっと不便です。更新はカードだけ持っていけばできます(通知の郵便物、身分証明書等は不要)。暗証番号とパスワード必要ですが、それは、インターネット出願ソフトのログイン時に毎日入力しているので忘れるわけもありません。

役所での更新手続自体はすぐに終るのですが、その後、インターネット出願ソフトを使用するときに、改めて利用者登録手続(電子証明書の追加)が必要になります。インターネット出願ソフトにログインすると指示が出ます。平日の午前中に手続してもその日の18時にならないと追加されません(追記:という旨のメッセージが出ましたが実際には13時には有効になっていました)。ということで、電子署名書更新後すぐに何かの手続が必要といったパターンの場合は注意が必要かと思います。

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