ChatGPTは弁理士業務に使えるか?

今さら言うまでもないですがChatGPT凄すぎますよね。文法の知識もなく、構文解析もせず、ルールベースがあるわけでもないのに、統計的処理だけで、あれほど知的(に見える)回答を返してくれるのは脅威です。真の破壊的テクノロジと言えると思います。あまりにも便利なのでChatGPT plus(月額20ドル)を契約してみました。言語モデルをGPT4に設定できるので、さらに正確性が高まります。

たとえば、GPT3.5に「栗原潔について教えてください」と質問すると以下の回答が返ってきました。

栗原潔(くりはら きよし)は、日本の小説家、推理作家です。1948年に福岡県に生まれ、京都大学文学部卒業後、出版社勤務を経て、1980年に『踊る神殿』でデビューしました。

栗原潔の作品は、主に推理小説や歴史小説が中心で、特に江戸時代を舞台にした作品が多いです。代表作には『鞍馬天狗』シリーズや『京都桜京極殺人事件』シリーズがあります。また、多くの作品で京都を舞台にしており、京都の風景や文化を緻密に描写した作品が多く、京都愛が感じられます。

栗原潔は、日本推理作家協会会員や日本文芸家協会会員などの資格を持ち、多くの文学賞を受賞しています。また、テレビドラマや映画の原作も手がけており、作品は幅広い世代から愛されています。

何一つとして合ってないですねw このように大規模言語モデルが学習データに含まれていない情報を勝手にでっち上げてしまう現象を”hallucination”と呼ぶそうです。人間の「妄想」と同じように、言語モデルはこれが間違った情報であることに気付かず、あたかも事実のように堂々と回答してきます。

同じ質問をGPT4にすると、まともな回答が返ってきました。

栗原潔(Kiyoshi Kurihara)についての情報が限られており、著名な人物としての情報が不足しています。もしご質問が特定の職業や分野における栗原潔を指している場合、具体的な情報をお知らせいただければ、関連する情報を提供できるかもしれません。それとも別の栗原潔について情報が必要でしょうか?もしそうでしたら、どのような分野や背景の栗原潔について知りたいかお教えいただけると助かります。

しかし、GPT4にしたからと言って「妄想」の問題がすべて解決するわけではありません。たとえば、GPT4に”What are imporant patents on the large languge model?”と聞いてみました。そうすると「As an AI language model, I cannot provide a real-time or comprehensive list of patents related to large language models.」と前置きしつついくつか特許の例を挙げてくれました。たとえば、以下です。

1. Word2Vec (Google) – US Patent No. 9,467,859, titled “Efficient Estimation of Word Representations in Vector Space,” filed in 2013 by Tomas Mikolov, Ilya Sutskever, and others at Google, describes the process of training distributed word vector representations using neural networks. Word2Vec was a key milestone in the development of modern NLP techniques.

いかにも正しそうな情報ですが、このような特許はありません(この番号は全然別の特許です)。同じタイトルの出願すらありません(同じタイトルの論文ならあります)。適当な情報をでっち上げてもっともらしく回答しているだけです。ChatGPTはあくまでアシスタントとして使い、知識のある人がチェックすればよいという考え方もありますが、番号や日付をちょっと間違えているくらいならまだしもまったく存在しない情報を「ありました」と自信満々で回答するアシスタントというのもどんなものかと思います

ということで、現時点でChatGPTを特許調査等に使用するのはあまりにも危険だと思います。一方、たとえば、文章をわかりやすく直す、記事の見出しを作る、訴求するコピー文を作るといった文章表現に関する仕事ではきわめて有能です。特に英語関連の仕事ですと、ノンネイティブである自分には表現のニュアンスがわかりにくいのでとても助かります。弊所の英語サイトの文章表現、全部添削してもらいました。

また、試しに、私がYahoo! Newsに書いた記事「氏名を含む商標が登録できない問題を解決する商標法改正案について」の本文を読ませて、タイトルを付けてもらいました。結果は、

「商標法改正で氏名を含む商標登録問題が解決へ! ファッション業界も救われる?」

です。すごくないですか?この問題がファッション業界において特に問題になっていたことがちゃんと反映されています。「解決へ」「救われる?」と断定を避けつつ、読者の関心を呼ぶタイトルになっていると思います。

ということで、大雑把に言うと、ChatGPTは「ファクト」に関する仕事には使いにくいが、「表現」に関する仕事ではきわめて有能ということかと思います。

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「請求項xに従属する場合の請求項yまたは請求項zに記載の〜」といったクレームについて

外内案件で、送られてきたクレーム案に以下のような記載がありました。

as claimed in any one of the preceding claims when dependent on claim 2

特許庁では”any one of the preceding claims”(先行する任意の請求項)という記載はNGなので、たとえば、「請求項1から請求項5のいずれかに記載の」と具体的な数字に直して書く必要があります(経験済み)。

問題なのはwhen dependent on claim 2の記載です。たとえば、以下のようなパターンです。

請求項1:Aを備える装置
請求項2:さらにBを含む請求項1に記載の装置(A+B)
請求項3: さらにCを含む請求項1、または、請求項2に記載の装置(A+CまたはA+B+C)
請求項4:さらにDを含む請求項1から請求項3のいずれかに記載の装置(A+D、A+B+D、A+C+D、A+B+C+D)
請求項5:BがB’である、請求項2に従属する請求項2から請求項4に記載の装置(A+B’、A+B’+C、A+B’+D、A+B’+C+D)

「請求項2に従属する」の限定がないと、出てきていない発明特定事項Bを引用するパターンが出てきてしまうので明確性要件違犯になってしまいます。同じことを請求項をばらすことで行おうと思うと、請求項数が増えて大変そうです。

ということで、このようなパターンで登録されている特許がないか調べてみましたが普通にありました。ということで、これについては、そのまま訳してしまってよさそうです。

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検察審査会から親展が来た

先日、以下のような親展が届きました。

検察と名が付く組織から「必ず開封してください」とは心臓バクバクでしたが、私が検察審査員の候補に選ばれたというお知らせでした。選ばれるのは、17000人に1人(0.007%)だそうです。こんな所で運を使ってどうすると思いましたが、めったにできない経験でおもしろそうだと思いました。

しかし、中の書類を見ると、審査員になれない者として、国務大臣、裁判官、検察官、弁護士等に加えて、弁理士も記載されています。ということで、残念ながら、次回に調査票が送られてきたときに弁理士である旨を告げて辞退することになるでしょう。弁護士はわかるとして、弁理士がなぜ審査員になれないかと一瞬思いましたが、たとえば、偽ブランド販売による商標法違反で起訴すべきかといった判断の時には中立的に意見をできない可能性があるのでしょうがないかと思います。

ところで、検査審査会法の法文上は、検察審査員の職務に就くことができないものとして、弁護士及び弁理士等と並んで、「天皇、皇后、太皇太后、皇太后及び皇嗣」が挙げられています。この項目いるのかと思ってしまいました。

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原文と翻訳文で明細書の段落番号を合わせる方法

外国語で書かれたPCT出願(外国語特許出願)を日本に国内移行する時、および、(典型的にはパリ優先権を使って)外国語書面出願を行った時には、原文に完全に対応している日本語翻訳文を提出する必要があります。ただし、段落番号は、手続補正をするまでもなく、最初から翻訳文に入れてしまって大丈夫です。

ここで、原文に段落番号がない場合には特に問題ないのですが、原文に段落番号がある場合には、できれば日本語翻訳と段落番号を合わせたいです(後で相互参照するときにめちゃくちゃ楽です)。しかし、外国と日本では、明細書の書式が微妙に違うので、段落番号がずれてしまうことがあります。典型的には、【図面の説明】において、以下のように図ごとに段落を割り当てているケースです。
[0010]Fig 1 is..
[0011]Fig 2 is..
[0012]Fig3 is..

日本は一つの段落で
【0010】
【図1】xxx
【図2】yyy
【図3】zzzz
といったようにせざるを得ないので、これ以降は番号がずれてしまいます。

この場合に、
【0011】
(意図的に空白)
【0012】
(意図的に空白)

といったように帳尻を合わせるためのダミーの段落を設けられれば、以降の段落がずれなくなってナイスです。ただ何となく審査官に怒られそうな気もします。そういう明細書が既にないかと思いましたが、J-PlatPatだとうまく検索できません(「(空白)」でサーチしても「空白」もヒットしてしまうため)。

そこで、試しにツイッターで聞いてみたところ「いつもそうやってる」という先生がいらっしゃったのでどうやら大丈夫そうです。次回からは私もやってみようと思います。

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英国特許庁からの郵便物は一見詐欺っぽい

英国特許庁から郵便物が届きました。差出人欄にはIntellectual Property Office (Patent Officeの通称)しか書いてありません。最初に見たときは、たまにある公的機関をかたって根拠のない登録料金をだまし取る輩かと思ってしまいましたが、正式な郵便物です。内容はマドプロの指定が英国で受理されたという通知でした。

封筒にも中身にも英国を表す表記が全然ないのがびっくりです。UK Patent OfficeやBritish Patent Officeではなく、The Patent Officeが正式名称です。現代の特許制度の起源は英国なんだからわざわざ英国という修飾語を付ける必要はないということでしょうか?

ちょっと話は変わりますが、英国内の商標登録出願については、メールによる通知サービスがあり、英国外の代理人でも異議申立やステータスの変更についてメールで通知を受けることが可能になっています。マドプロ出願時に代理人のメールアドレスを登録しているのでそれを使えばいいのにと思いましたが、登録しました。一般に、マドプロで暫定拒絶が出ることなく登録されてしまうと、現地代理人がいない状態で登録されることになり、異議申立等があった場合の国際郵便での通知による信頼性と時間のロスが気になりますので、その対応だけのために現地弁理士に代理人になってもらうこともあると思いますが、英国についてはメール登録しておけばとりあえず安心かと思いました(もちろん、対応のためには改めて現地代理人を任命する必要があります)。

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