ちょっと前の特許関係の入門書等を見ると、発明の内容を特許出願前に公表してしまうと、新規性の喪失により特許化が不可能になるので、出願は必ず発明の公表前にやっておけと書いてあると思います。今後この基本ルールが大きく変わります。
今までも、発明者自身による新規性喪失には一定の条件による救済措置が規定されていました。たとえば、博覧会へ出品や学会への発表等々のパターンですが、条件が限定的であり、あまり使えるケースがありませんでした。
今年の4月1日から施行される特許法改正により、この救済条件が大幅に緩和されます。発明者自身(より正確に言えば特許を受ける権利を有する者)の行為に起因して新規性を喪失するに至った場合には、その日から6ヶ月以内に出願すれば救済措置が受けられます。つまり、行為に対する限定が一気になくなりました。発表だけではなく、発明を使用した製品やサービスを販売した後で出願しても大丈夫です。(なお、意匠についてはずっと前からこのような規定になっています)。
あまり特許のことなどは考えずに新製品を売り出したところ予想外に売れたので、他社の模倣を防ぐためやVCの投資を受けるために特許化したいという相談は、以前は問題外だったわけですが、この改正により道が開けました。特に、スタートアップ系企業にとっては朗報だと思います。大企業ですと製品発表前の出願がプロセス化されているのが通常でしょうが、スタートアップ企業ですとアイデアを何でもかんでも前もって出願しておく余裕がないと思われるからです。
なお、この改正が有効になるのは、今年の4月1日以降の「出願」です。つまり、昨年の10月1日以降に発表しているのであれば出願日を調整することでこの救済措置を受けられます。(ただし、たとえば10月1日の発表ですと出願日は4月1日でなければならず、これより早くても遅くてもこの救済措置の対象になりませんのでちょっと大変ではありますが)。
なかなか便利な改正ですが、あくまでも例外的な救済措置である点には注意しておく必要があります。たとえば、出願前に販売してしまうと海外での権利化が不可能になるケースもあります。また、発表したアイデアを他人に盗まれて先に出願されてしまうとやっかいな事態になり得ます(法律上はそのような出願は拒絶されるはずですが実際には立証が困難なこともあります)。さらに、公表後にそれを知らない第三者が偶然同じ発明をして先に出願してしまえばそちらが先願(拡大先願)になりますのでそれを理由に自分の出願は拒絶されてしまいます。ということで、大原則としては公表前に出願しておくべきという点に変わりはありません。
去年の10月以降、新しいアイデアを発表したり、新製品・新サービスを販売開始していて、これはひょっとして特許化できるのではないかとお考えの方は是非ご相談ください。