キーボード脱着式タブレット端末が欲しい件

iPadに代表されるタブレット端末の、従来型ノートパソコンと比較した優位点として、当然ながらキーボードがない分薄くて軽いという点、そして、画面を縦型に表示できるという点があります。A4縦の書類や電子書籍をスクロールなしで読めるのはやはり便利です。一方、タブレット端末の欠点としては、言うまでもなくキーボードがないので入力が大変であるという点があります。どんなにデジタルネイティブの人でも、画面上の仮想キーボードよりもハードウェアキーボードの方が打ちやすいのは変わらないでしょう。タブレット端末+Bluetoothキーボードというソリューションもありますが、そうなるとタブレットを立てるスタンドも必要ということで可搬性に問題が出てきます。

このブログには何回も登場しているHPの昔のWindowsタブレット機TC1100では脱着式キーボードによりこの問題に対応しています。

本来は物理キーボードなしで動くタブレットですが、キーボードを差し込むと通常のノートパソコンと同様のフォームファクターになります。電子部品が全部画面側にあるのでバランスがちょっと悪いのと、キーボードのストロークが浅いのでちょっと打ちにくいですが、まあ十分使えます。

さらに、TC1100でも実装されていないのですが、タブレット本体の縦縁と横縁の両方にキーボード接続ソケットを付けると、画面が縦型のノートパソコンとしても使えると思います。

A4縦の書類作る時にはページ全体を見渡しつつ編集できるので便利そうです。電子書籍を読みつつキーボードから注釈入力なんて時も便利かもしれません。コストや大きさ面でのペナルティは最小化しつつ利便性を大きく向上できるのではないでしょうか?

タブレット端末は結局フォームファクターくらいでしか差別化要素を出せなくなると思うので、メーカーの皆様に是非検討していただきたいものです。

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クラウドの可用性SLAを考える

昨日の月曜の丸一日、さくらインターネットのDBサーバ障害でブログが完全に止まっていました。どうもすみませんでした。このブログはWordPressで作っているのですが、WordPressはデータベースから動的にページを構築する仕組みになっているため、DBサーバが止まると閲覧も不可能になってしまいます。また、このサイトではトップページからいきなりWordPressのブログになっているため会社サイトが全滅状態になってしまいます。トップページくらいは静的ページで作り直しておいた方がよかったのかもしれません。

さて、クラウドと呼ぶかどうかにかかわらず、外部のホスティング・サービスにおける可用性のサービス・レベルが重要であることは言うまでもありません。通常、可用性のサービス・レベル保証(SLA)は、年間あるいは月間の合計ダウン時間をパーセンテージで表わすことが多いと思います。たとえば、99.75%の可用性を保証する等です。

どのレベルの可用性が必要かは業務次第ですが、一般的な業務アプリケーションでは99.75%はそんなに悪くない数字です。99.75%の可用性とはは年間合計ダウン時間およそ22時間ということになります。

しかし、利用者の立場から言うと、1時間程度のダウンが年間22回あるのと、22時間連続でダウンする障害が1度あるのとでは全然インパクトが違います。前者は許容できても、後者は許容できないというケースは多いでしょう。当社のブログだってたまに1時間くらい止まるのは全然OKですが、1日使えないと結構困ります。

ということで、クラウド事業者と可用性SLAの交渉をする際には、合計ダウン時間だけではなく、障害1度当たりの回復時間、いわば、MTTR(Mean Time To Repair)に関する検討も必要と思います。

また、障害発生時にどの程度の見える化ができているかも問題です。今回の障害では朝一に障害が発生してから、正式の告知が出るまでかなりの時間がかかり、前述の静的なお知らせページを作るべきかどうかの判断が付かなくて困りました。「修復に時間を要する」というのは悪い知らせですが、「時間を要するか要しないかわからない」というのはもっと悪い状況です。まあ、当社のブログくらいならたいした話ではないですが、企業アプリケーションであれば、手作業による業務継続を起動するかどうかはかなり重要な意思決定です。

というわけで、クラウド事業者との可用性SLAの交渉においては、障害報告までの時間、障害時のサービス窓口の応答性なども考慮に加えておくべきでしょう。

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電子書籍デバイスのカバー問題について

黒Kindleを持ち出して下北のCafeで読んでみたりしました。重さの感覚的には大判の雑誌を持ってるのと変わりません。普段の持ち歩きはぎりぎりOKという感じです(重さは約500g)。ディスプレイは周囲が暗くても大変読みやすく、字を巨大化できることもあり、紙の本の2倍近いペースで読める気がします(当社比)。

今のところKindleはむき出しで使っています。Kindle本体を買う時にカバーやケースの類も一緒に買おうか迷いましたが結局やめました。理由は、ほとんどのケースが200gを越える厚手のもので、極薄でそこそこ軽いというKindleの良さが台無しになってしまうことです。500gと700gの差は結構大きいですね。

自分は、電子書籍を始めとする携帯機器はガンガン使って普通に傷ついて何ぼだと思っていますので厳重なカバー付けっぱなしというのはあまり好きではありません。マイカーに後生大事にカバーして滅多に乗らないサンデードライバーのような状態は避けたいと思っています。

とは言え、画面だけは保護したいですね。鞄の中で金物と当たって傷ついたりしたら最悪です。しかし、画面保護シートは(特に画面が大きい場合)きれいに貼れませんし、テカテカになってKindleのせっかくのつや消しディスプレイの見やすさが台無しになる可能性があります。iPadのようなタッチディスプレイだとタッチのレスポンスに影響する可能性もありますね。

そういうわけで自分としては移動時に画面だけを保護するミニマムなカバーでデザイン的に破綻のないものがあれば良いのにと思っています。

以前もちょっと紹介した現役使用中のHPのWindowsタブレットTC1100ですが、ゴム製の画面カバーが純正で付いています。これはデザイン、質感的にイマイチですが、Kindleを始めとする電子書籍もこういう方向性での画面保護手段を提供してくれないかと思っています。

写真だとちょっとわかりにくいですが、Kindleにも純正カバーを留めるためのフック穴が空いてますので、ここに画面カバーを固定することもできるはずです。カバーの反対側をどう留めるかが問題ですが、禁断のマジックテープ(バリバリ)でもしょうがないかなと思います(軽さ優先なので)。

ところで、仕事ではいつも使っているRIMOWAのアタッシェケースですが、ウレタン製のちょっとクッションが効いた書類入れがついており、ここにKindleがあたかもあつらえたかのようにぴったり入ります。ということで仕事の時には問題解決なのですが、普段もKindle運ぶためだけにアタッシェケースを持ち歩くわけにもいきませんので。

まあ、とにかく、電子書籍デバイスの工業デザインをする方には、意匠としてのかっこ良さとはまた別に画面の傷付き防止のエレガントな解決策を是非とも考えていただきたいと思っております。

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「出版権」とは何なのか?

電子書籍に関して話題になることが多い「出版権」という権利について基本的なことを書いてみます。

そもそも、出版権とは「出版に関する権利」というような緩い定義の言葉ではありません。日本の著作権法において明確に定められた権利です

79条1項
第21条に規定する権利を有する者(以下この章において「複製権者」という。)は、その著作物を文書又は図画として出版することを引き受ける者に対し、出版権を設定することができる。

80条1項
出版権者は、設定行為で定めるところにより、頒布の目的をもつて、その出版権の目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利を専有する。

要するに出版権とは図書・図画出版のための複製権の独占的利用許諾です。単なる契約に基づくライセンス許諾ではないので、出版権者は他者の無許諾出版に対する差止め請求もできます。また、出版社に出版権が設定されていれば複製権者(多くの場合、著作者)自身も出版行為を行なうことはできません。

なお、音楽業界において、楽曲の著作権のことを通称、「出版権」と読んだりすることがあるようですが(音楽出版社からの連想?)著作権法上の出版権とは関係ありません。また、出版社の編集作業により生じる権利として「版面権」を制定しようというよう話がありますが、これまた別の話です(日本の現行著作権法には版面権の概念はありません、設けた方がよいのではないかという意見を言っている人がいるだけです。この話については別途)。

通常は、著者が出版社と契約を結ぶ時には出版社に対して出版権の設定が行なわれると思います。手元にある私と某社の契約書でもそうなっています。出版権の存続期間を3年として、特に異議がなければ1年ごとに自動延長という契約になっています。たぶん、このような規定が一般的ではないかと思いますが、出版の分野や出版社によっては正式な契約書を取り交わしていないケースも多いのかもしれません(その場合は、一般に出版社側にとって不利になります)。

電子書籍に関する重要な論点として、80条1項の「印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する」という部分が電子書籍にも適用されるかという点があります。

判例があるわけではないですが、学説的には、少なくともメディアや端末への複製を伴う電子出版については出版権に含まれるというのが多数派のようです。たとえば、

『著作権法入門』(島並他)p224: 「電子出版も本条[80条]の対象に含めるべきであるとの見解が有力である」

『著作権法』(中山)p335: 「それ[立法当時の考え方]によれば、CD-ROM等の電子出版は出版権に含まれないことになる。しかし現在においてそのような解釈は時代錯誤的であり、本来であれば法改正により対処すべきかもしれないが、解釈としてもこれらを含めることは可能であろう。今日では電子出版と紙による出版を区別する合理的理由はない。」

『著作権法概説』(田村)p489: 「出版権が設定された書籍の文章をCD-ROMに複製する行為も、書籍の需要を満足してしまうものに変わりはなく、出版権の範囲に含まれるものと解すべきであろう。」

しかし、たとえばアゴラブックスなどのようにWebブラウザーベースの「電子書籍」(電子書籍と呼ぶべきかどうかは別として)においては、出版権の効力は及ばない説が濃厚です(この場合に関係してくるのは自動公衆送信権)。同様に、Googleブック検索が問題になった場合にも出版社は原則的にはGoogleに対して権利を主張できないとしていました(もちろん、意見表明はできますが。)

なお、絶版本をダウンロード販売することに関しては、絶版の場合(要するに、出版権者が継続して出版する義務を履行しなかった場合)には、著作権者(複製権者)が出版権を消滅させることができますので、旧出版社の権利が及ぶことはないと思われます。ただし、旧出版社側が絶版ではなく単なる在庫切れであると主張したりするとちょっと面倒なことになる可能性はあります。追加: あと挿絵や表紙絵等の著作権の問題もありますね。これについては契約次第となりますが、当該著作物を使わなければ基本的に問題はないと思われます。

81条
出版権者は、その出版権の目的である著作物につき次に掲げる義務を負う。ただし、設定行為に別段の定めがある場合は、この限りでない。
1 複製権者からその著作物を複製するために必要な原稿その他の原品又はこれに相当する物の引渡しを受けた日から六月以内に当該著作物を出版する義務
2 当該著作物を慣行に従い継続して出版する義務

84条1項
出版権者が第81条第1号の義務に違反したときは、複製権者は、出版権者に通知してその出版権を消滅させることができる。

著作隣接権がからむ音楽の場合よりはまだすっきりはしているのですが、このあたりもテクノロジーの進化に合わせた法整備が必要と思われる領域ではあります。

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Kindleのtwitter連係機能は「引用」として処理されるか?

昨日のエントリーでKindleのtwitter(およびfacebook)連動機能について書きました。単に書籍コンテンツをディスプレイで読めることだけが電子書籍の価値ではないという点は重要です。ソーシャル・コンピューティングと組み合わせてこそ、紙の本では実現できない、真の電子書籍のエクスペリエンスが提供されるのです。

さて、Kinldleもいずれは日本語化されると思われますが、twitter連係機能が日本でも導入されたらどうなるでしょうか?ネットのクチコミで自分の本が売れる機会が増えてうれしいという権利者も多いと思いますが、自分の本を勝手に切り貼りして利用するとはけしからんと思う権利者もいるかもしれませんね。

日本の著作権法では、「引用」が権利制限(著作権者の権利が及ばない場合)のひとつとして明記されています。

32条1項 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

ここで、具体的にどのような条件が必要であるかは法文上では明確ではないですが、解釈論としては、(1)自分の創作と引用部分が明確に区別できること、および、(2)本文が主で引用が従の関係になければならないこと、が必要であるとされています。また、別の条文(48条)に(3)出所明示の要件もあります。

Kinldeのtwitter連係については、上記の(1)と(3)については問題ないと思いますが、(2)がちょっと微妙なところです。つぶやき本体は140字の制限があるので、どうしても文字数的には「本文」<「引用文」となってしまいます。

個人的には、本の内容を丸ごと頭からちょっとずつつぶやいていくような明らかに引用の範囲を超えるケースは論外としても、本文・引用の主従関係についてはある程度柔軟に解釈すべき(「主」より「従」が文字数的に多くても許容すべき)と思っていますが、仮に裁判沙汰になった時にはどうなるかわかりません。

と言いつつ、どっちにしろ、著者がKindle経由で出版することをAmazonと契約する時に、契約条件としてtwitter(facebook)による引用利用について許諾するようになると思います(たぶん)ので、Kindleに関してはあまり気にする必要はないかもしれません。実際、既に日本でもやってる「なか見!検索」については別途権利者に許諾を得ています(私にも出版社経由で許諾の確認が来ました)。

著作権法上の「引用」の範囲はどこまでなのかという問題は、Kindleのように契約で処理できるある程度閉じた世界でよりも、一般的なリツイートやリブログなど契約では処理できない部分で重要な論点になると思われます。これについてはまた別途書きます。

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