正露丸のラッパの音楽の商標権と著作権について

商標法改正により日本でも音の商標が登録可能になったことはちょっと前に書きました。早速、大幸薬品が正露丸のCMでおなじみのラッパ音メロディを商標登録出願したことを発表したそうです(参照記事)。

念のため書いておくと、この商標が登録されて商標権が発生しても大幸薬品がこのメロディ(軍隊ラッパの食事の合図メロディですね)の演奏を独占できるわけではありません(これは著作権の範疇になります)。あくまでもこのメロディを自社製品の標識として(つまり、商標として)使用できる権利を独占できるだけの話です。

この軍隊ラッパの食事メロディ、てっきりパブリックドメインかと思っていたら、軍人でもあった音楽家須摩洋朔氏(2000年没)の作品(タイトルは「食事」)だそうなのでまだ著作権は存続しています。大幸薬品は権利者(の遺族)からライセンスを受けているのでしょう(追記:この曲はJASRACに信託されているようなので所定の使用料さえ払えば自由に使えるものと思われます。)

一般論として、まだ著作権が残っている音楽の著作物を音の商標として出願するとどうなるかを検討してみようと思います。

特許庁の商標審査基準では、音の商標と著作権との間の問題について特別扱いしているわけではないので、一般的な商標登録出願と著作権の関係に準ずることになるでしょう。

商標法上は他人の著作権を侵害する商標は登録しないという規定はありませんので、他人が著作権を有する音楽を音の商標として出願した場合に、そのまま登録されてしまう可能性はあります(そもそも、特許庁の審査官にあらゆる音楽の著作権を侵害しないことを調査せよというのも無理な話です)。とは言え、明らかに他人の著作権を侵害する音楽を含む商標(たとえば、ディズニーと関係ない人が「レットイットゴー」のメロディをそのまま出願したようなケース)については、商標法4条1項7号(公序良俗違反)を理由として拒絶されることになる可能性が高いです。

第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。(中略)
七 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標

ここでの「公序良俗違反」とは別にわいせつ物等に限った話ではなく、審査官がこの商標を登録すると社会的にまずいと判断した場合に適用されます(たとえば、歴史上の著名人物を勝手に商標登録出願するとこの条文を理由に拒絶され得ます)。

では仮に登録されてしまうと商標権により著作権がオーバーライドされてしまうかというとそのようなことはなく、出願前に発生していた著作権と抵触する時は商標を使用できないという別の調整規定(商標法29条)があります。この場合には、せっかく金を払って商標登録をしても実際には(著作権者の許諾がない限り)使えないということになります。

第二十九条 商標権者、専用使用権者又は通常使用権者は、指定商品又は指定役務についての登録商標の使用がその使用の態様により(中略)その商標登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触するときは、指定商品又は指定役務のうち抵触する部分についてその態様により登録商標の使用をすることができない。

他人の音楽を勝手に商標登録出願するというケースは現実にはあまりないと思いますが、たとえば、広告主が、サウンドロゴの作曲を他人に依頼して、著作権契約関係を明確にしないまま、音の商標として登録してしまったた等のケースでは問題になり得るかもしれません(これに関連して大昔に書いたブログ記事)。

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1 Response to 正露丸のラッパの音楽の商標権と著作権について

  1. 大西直之 のコメント:

    著作権について一言、
    正露丸のCMは明治42年に制定された旧陸軍の信号ラッパであり、現在の陸自の信号ラッパである須摩洋朔氏の作曲のものではありません。食事ラッパについても現在のものとは異なります。
    旧陸軍のものについては、旧軍が権利者であったとしても、すでに軍もありませんし、公開から50年以上は経過しております。したがってパブリックドメインと考えて差し支えないと思います。
    また、須磨氏は陸上自衛隊に所属しており中央音楽隊長としてラッパ譜を制定しているので職務上のものであり陸上自衛隊に著作権があると考えるのが妥当ではないでしょうか。
    そもそも、信号ラッパは信号伝達手段であり、著作物(芸術?)なのかについては、別に議論があってよいかと思います。

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