私的使用目的複製の要件と自作コスプレ衣装について

先日の自炊代行裁判に関するエントリーで著作権法上の私的使用目的複製が認められるケースの例として「社長が秘書にコピーを頼む例よりもおじいちゃんが孫にコピーを頼む例の方がよい」という主旨のことを書いたところ、はてブに以下のようなコメントが付きました。

孫とおじいちゃんの例も、孫が複製の主体と認定されても、それでもなお適法(家庭内ですからね)なので、やはり例としてあまりよろしくないと思います。

わりとよくある勘違いだと思うのでここで説明しておきます。著作権法30条の私的使用目的複製の要件は大きく「A.個人的に又は家庭内その他これに準ずる範囲内で使用することを目的とする」、「B.使用をする者が複製をする」となります。

第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる(以下略)

複製を行なうのが家庭内であるかどうかは関係ない点にご注意下さい。

社長と秘書の例だと秘書は社長の手足としてコピーしているので、B.の要件は満足されるとしても、会社で著作物を複製するのはA.の要件を満足しないとするのが多数説なので、結局、私的使用目的複製にならず話の焦点がぼけるため例としてはよろしくないと思います。

おじいちゃんと孫の例では、孫がおじいちゃんの手足としてコピーしているとされれば、A.とB.の両方の要件が満たされて私的使用目的複製になるので例としてすっきりしてます(おじいちゃんが業務使用する可能性もあるという屁理屈は考えません)。ここで、仮に孫が家庭外で、たとえば、コンビニでコピーしたり、会社でコピーしたりした場合でも私的使用目的複製になります(会社の規定違反という話は別論)。そして、仮に(あり得ないですが)孫が複製の主体であると認定されれば、上記B.の要件は満足されないので私的使用目的複製にはなりません。

自炊代行を合法的に行なう策として、業者が利用者の家にスキャナーと裁断機を持ち込んで自炊を代行するというサービスを行なったとしても、作業するのが業者である限り、やはり私的使用目的複製ではないとされてしまうでしょう(上記B.の要件が満足されないため)。

さて、これに関連して、先日あったアニメ人気キャラのコスプレ衣装を無断で作成・販売した業者が著作権法違反容疑で逮捕された事件について考えてみましょう。まず、「コスプレ衣装は著作物か」という重要な論点がありますが、それはまた別の機会に書くとして、この事件に関連してされた「自分で作ったコスプレ衣装を自分で着るのは問題ない」という一部ネット民の主張について考えてみたいと思います。

コスプレ衣装が著作物であるという前提で考えると、アニメキャラの衣装を真似てコスプレ衣装を作るのは著作物の複製(場合によっては翻案)に相当し得ます。自分で作るので上記B.の要件は満足されます、しかし、家あるいは少人数のサークルの中で着て楽しむのであればいいですが、大会場で衆人の目にさらしたりすると上記のA.が満足されないのではないとも言えます。この論点も明確な結論は出ていないと思います。なお、コスプレ着た写真をネットにアップすると私的使用はもう関係なしに公衆送信権を侵害することになってしまいます。

まあ、個人がコスプレ着て楽しんでいるのを訴える権利者は普通いないとは思うのですが、「著作権侵害ではない」状態と「著作権侵害だけど大目に見られている」状態は明確に区別した方がよいと思います。

追記(13/10/11):正確に言うと、「1)著作権侵害ではない」、「2)著作権侵害の可能性があるが大目に見られている」、「3)明らかに著作権侵害だが大目に見られている」とした方がよかったですね。自分で作ったコスプレ衣装を来てイベントに来る行為は上記の2)だと思います。コスプレ衣装が著作物に当たるかどうかは確実とは言えないからです。

追記2(13/10/11):はてブコメント主から以下のようなコメントをいただきました。

いやいや、そうじゃなくて、複製の主体も孫、使用の主体も孫、なので合法なのです。おじいちゃんが複製した著作物を読む、という行為は、孫が「家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用」したと言えるからです。

そうじゃなかったら、夫が所有する著作物を、妻がまだ何も知らない間に複製して、その後に妻[kurihara注:夫の間違い?]に渡して使用させる行為も違法になってしまいます。(まだ知らない間なので、手足としてという理屈は成り立ちにくいですよね。)

元のコメントが意図していたことはわかりました(正直、その発想はなかったです)。ただ、法文を素直に解釈すると「おじいちゃんの使用は孫の使用とみなす」とは読めないのでその解釈はちょっと無理があるんじゃないかと思います。

また、「夫が所有する著作物を妻が夫が知らない間に複製し..」ですが、妻が自分で使うつもりで複製するのであれば、個人的に使用することを目的として使用をする者が複製するので合法です(著作物の(正確には著作物の複製物の)所有者が誰であるかは関係ありません)。後で夫に複製物を渡しても合法です。妻が自分で視聴する意図がなくて、夫の(黙示も含めた)依頼もなしに勝手に複製するというケースが想定しがたいですが、もし、仮にあるとするならば法文解釈上は私的使用目的複製にあたらないと思います。

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1 Response to 私的使用目的複製の要件と自作コスプレ衣装について

  1. andalusia のコメント:

    いやいや、そうじゃなくて、複製の主体も孫、使用の主体も孫、なので合法なのです。おじいちゃんが複製した著作物を読む、という行為は、孫が「家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用」したと言えるからです。

    そうじゃなかったら、夫が所有する著作物を、妻がまだ何も知らない間に複製して、その後に妻に渡して使用させる行為も違法になってしまいます。(まだ知らない間なので、手足としてという理屈は成り立ちにくいですよね。)

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