「ほっとレモン」の顛末と他人の商標登録のつぶし方について

カルピス株式会社の登録商標「ほっとレモン」が知財高裁において認められなかった(正確に言うと、商標登録を取り消すという特許庁の判断が知財高裁で覆らなかった)というニュースがありました(参照NHKニュース)。

余談ですが、このNHKニュースの見出し”「ほっとレモン」商標認めず”というのはちょっと変で、本来は”「ほっとレモン」商標の登録を認めず”とすべきでしょう。その他の記事にも”カルピスの「ほっとレモン」商標に認めず 知財高裁”(MSN産経ニュース)と「てにをは」のレベルでおかしいものがあったりします。

問題になった登録商標は5427470号で、指定商品は「32類 レモンを加味した清涼飲料,レモンを加味した果実飲料」です。

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商標登録が認められなかった理由は「このことばは『レモン風味の味付けをした温かい飲み物』などの意味で、原材料を普通に用いた名前だ。似たような飲み物は他社も販売していてこの会社だけの商品という認識を持つこともできず、商標としては認められない」(飯村裁判長)ということであり、いわゆる記述的商標として商標法3条1項3号の規定により登録できないということです。

使用による識別性についても「『ほっとする』という意味の日本語とレモンを組み合わせたカルピスの造語として消費者に認識されている」というカルピス側の主張が退けられています。調査会社のアンケートでの認知率が0.3%程度であったそうです(追記:判決文によれば7.7%が「ほっとレモン」はポッカの商品であると回答しています)。確かに個人的に一消費者として考えてみても「ほっとレモン」がカルピス(さらには、どこかの特定メーカー)に固有の商標という認識はなかったと思います。

ロゴデザインについても識別性が出るほど顕著なものではないという判断がされたと思われますています。(判決文が公開されたので断定できるようになりました)

判決文は少なくとも現時点では公開されていないようですが、判決文が裁判所のサイトで公開されています。また、この裁判の元になった異議申立はIPDLで閲覧できます。請求人は同業他社であるサントリーホールディングスとキリンホールディングスです。異議申立の決定の内容は、IPDL(特許電子図書館)で「審判検索」→「審決公報DB」→「審決速報」の画面で番号照会の審判・異議番号にチェックされていることを確認してサーチボックスに2011-900380を入力して照会実行すると見られます(固定リンクがないので(以下略)

なお、カルピスは、別途以下のような商標3件を登録しています。「ほっとレモン」単独では識別性がないので、明らかに識別性がある”CALPIS”を加えることで識別性を出すという戦略です。ただし、これらの登録商標では他社の「ほっとレモン」単独の商標の使用に権利行使することはできません。

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また、キリンが以下の「ホットレモン」の登録商標を持っているようですが(5218133号)、こちらは文字だけではなくデザイン(図形と色)として識別性があるという判断なのでしょう。なお、こちらも、これと似たデザインを使用しない「ホットレモン」の文字商標の使用に対して権利行使することはできません。

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ちょっとお話変わって、一般に、商標登録されるべきでないと思われる商標を他者が出願してしまった場合(あるいは既に登録されてしまった場合)には以下の手段が取れます。

1) 情報提供
商標が出願されると出願公開されるのでその内容がわかります。登録される前に食い止めたい場合には、特許庁審査官に対して、登録すべきでない理由と証拠物件を提出できます。ただし、審査官がその主張を採用してくれるかどうかはわかりませんし、書類を提出するだけの一方通行で審査官とのやり取りはできません。提出は匿名で可能です。不服申立は不可能なので、もしつぶせなかった時は以下の手段に頼ることになります。

2)異議申立
商標が登録されて公報が発行されてから2ヶ月以内であれば異議申立を請求できます。誰でも請求できるのでダミーの請求人を立てることも実質的には可能です(「ほっとレモン」の場合は真の請求人を隠すまでもないということで社名をさらしていますが)。審理は原則書面審理です。取消に対して不服がある時は(相手側は)今回のように知財高裁で争うことができます。異議申立が認められなかった時(登録が維持された時)は以下の無効審判で争うことができます。

3)無効審判
異議申立の期間が過ぎてしまった場合、あるいは異議が認められなかった場合には無効審判を請求できます。ほとんどの場合、登録から5年以内に請求する必要があります。利害関係者(競合他社等)でないと請求できないので匿名での請求はできません。また、審理は原則口頭審理なので裁判のような形態になります。無効審判の結果(審決)に不服がある時は知財高裁で争えます。

他人の商標登録を阻止する(取り消す)手段をまとめると以下のようになります。なお、弊所の費用は目安です。たとえば、商標の市場での使用状況の実体調査等を行なうことになると、それなりの費用がかかってしまいます。

 時期匿名請求特許庁料金テックバイザー料金(目安)
情報提供登録まで可能無料\10,000〜
異議申立公報発行から2ヶ月実質的に可能\11,000〜\100,000〜
無効審判原則、登録から5年以内不可\55,000〜\300,000〜

最初の段階で対応しておいた方が費用的にも作業負荷的にも楽なので、早め早めの対応を取ることが重要です。

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