拙訳『インテンション・エコノミー』4/14の日経朝刊の書評欄で扱われました。「インターネット社会の進展で顧客の情報収集能力が飛躍的に高まり、従来の供給者側からの消費行動分析は通用しなくなるというのが本書の主張だ」と的確にまとめられています。
また、新宿紀伊国屋に行ったら、マーケティング書コーナーで田原総一朗編集の『AKB48の戦略! 秋元康の仕事術』の隣に平積みになってました。
ありがたいことではあるのですが、この本はいわゆるマーケティング入門書ではなく、すらすら読めてすぐにマーケティングの最新動向がわかりますよというタイプの本ではないのでちょっと心配です。
本書は、現在騒がれているビッグデータやソーシャルの先にあるパラダイム・シフト、そして、それに伴う「ブルーオーシャン市場」について書いています。なので、「さあこうしましょう」という答が書いてあるわけではありません。「こうなるかもしれないけど、さあどうする?」、言わば「答を見つけるための本ではなく、新たな質問を探す」ための本です(この言い回しはTeradata社CTOのStephan Brobstのパクリです)。
インテンション・エコノミーはアテンション・エコノミーのもじりです。アテンション・エコノミーとは顧客の関心(アテンション)が重要な財になっている経済です。顧客の関心を引くために「ビッグデータ」を分析してターゲット広告したり、コンテンツのパーソナライズをしているのが現在の中心的なものの売り方です。先進的なようでいて、売り手が推測作業に基づいて顧客の関心を惹こうとしているという点で基本的なモデルは、過去からあるマスメディアと同じです。
そうではなくて顧客の意図(こういう製品を買いたい、こういうコンテンツならいくら払ってもいい、こういう契約条件ならサービス使ってもいい)を、売り手側にダイレクトに知らせて、それに応えられる企業が顧客に売るというのが『インテンション・エコノミー』の基本的考え方です。
この概念を一枚で表すにはどうしたらよいかと思いましたが、原書は図が結構少なく、適当な代表図がありません。本書の著者Doc Searlsとは直接関係ない独立系コンサルタントのDavid Cushmanという人が、著者のハーバードでの研究成果にインスパイアされてブログに書いた絵がわかりやすかったのでここで引用します。
「プライスラインの逆オークションとかセス・ゴーディンの『パーミッション・マーケティング』みたいなもんなんなじゃないのと思われる方もいらっしゃると思いますが、方向性としてはまさにその通りです。ここでのポイントは、それを特定のサービスや特定企業で閉じた世界で行なうのではなく、よりオープンな枠組みで行なうということです(たとえば、コンテンツ配信の世界でRSSが果たしいているような役割です)。そのために、CRMならぬVRM(Vendor Relationship Management)というプラットフォームが提言されています(VRMについては回を改めて詳しく書きます)。
前も書いたように、本書は著者に独特のちょっとペダンティックなスタイルで書かれている(一部、ポエムっぽいところもあります)のでちょっとわかりにくい部分もあります(訳者としてもがんばりましたが、原文からあまりに逸脱した「超訳」をするわかにもいかないので)。ちょっと読みこなすのは骨が折れるかもしれません。(前述の日経の書評でも「米国の事例をもとにしているために理解に時間がかかる」と書いてありますが的確な指摘だと思いますw)。
また、本書では、スティーブ・ジョブズに対する著者の見方や、著者のブロードバンド(通信事業者がコントロールするネット)に対するdisりっぷり等、インテンション・エコノミーとは直接関係ない話も満載です。
というわけで、本ブログで何回かにわけて『インテンション・エコノミー』の解説をしていこうと思います。できれば、本を手許において参照しながら読むとわかりやすいのではないかと思います(ステマです)。