キャンディキャンディといってもきゃりーぱみゅぱみゅではありません、いがらしゆみこ先生作の有名なマンガの方です。原作者ともめてマンガ本の再発やアニメ再放送が困難になっているのはよく知られているかと思いますが、二次的著作物の権利、そして、マンガのキャラクターの権利についての日本の裁判所の現状の解釈を知る点で重要な事例なのでご紹介しておきます。
その前に、二次的著作物の考え方について最初に説明しておきます。要はある著作物に基づいて別の著作物を創作したものです。なお、同人の世界の「二次”創作”物」では、元作品のキャラクター名とおおざっぱな設定だけを借りて絵柄もストーリーも全然違う展開という作品もありますが、それに関する議論はちょっと別の機会にします。
二次的著作物に対する考え方は、以前このブログで書いた特許の世界における「改良発明」にちょっと似ています。既にあるAさんの特許に基づいてBさんが改良発明の特許権を取得したとします。だけど、BさんはAさんの許可を得ない限りその改良特許は実施できません(特許権を取れたという話と実施できるという話は別問題ということです)。
わかりやすくするために、Aさんが書いた小説をBさんが映画化するケースを考えます。小説という著作物の二次的著作物として映画の著作物を創作するパターンです。まず、映画を作るためにBさんはAさんの翻案権の許諾を得る必要があります。特許の場合は他人の改良発明を出願するのは勝手にできますが、著作権の場合は創作する時点で許可が必要です。もちろん、上映にするにもAさんの許可が必要です。映画が評判よかったのでTVシリーズ化する時にもAさんの許可が必要です。普通は最初の契約でまとめていろいろな利用方法を許諾しているはずです(Aさんがここまで許諾した覚えはないともめることはありますが別論です)。とにかく、最初にまとめて契約しておくか後で個別に契約するかは別として、二次的著作物(さらにはそのまた二次的著作物等々)の利用のためには、一番元になった著作物の著作権者の許可がいるという点が重要です。
この考え方を原作付きマンガに当てはめてみます。「キャンディキャンディ」は水木杏子氏の原作付きマンガです。事件は結構ややこしいのですが、要は、キャンディキャンディの絵だけの利用(キャラクターグッズ等)に対して原作者が著作権を主張したことがポイントです。この事件は最高裁まで争われましたが、確定した判決の骨子は、1)キャンディキャンディという漫画は原作の二次的著作物である、2)したがって漫画の絵だけを使う場合でも原作者の許可を得なければいけないというものです。ストーリーに全然関係ない文脈で絵だけを使う場合でも原作者の許可を得なければいけないというのはちょっと直感に反する気がします。また、本来的に著作権の対象ではない抽象的なキャラクターに対して実質的に著作権を及ぼすことになるのでよろしくないのではないかという識者の意見もあるようです(参考Wikipediaエントリー)、
しかし、実情を見てみると、この考え方はあながちおかしいとも言えないと思います。
たとえば、auのCMに巨人の星のキャラクターが使われていますが、作画担当の川崎のぼる先生の著作権(マルC)表記があるのは当然として、原作者である梶原一騎先生の著作権表記もあります。CMの世界感、たとえば、星飛雄馬が剛力彩芽に求婚する話はどう考えても梶原先生は関係ないと思われます。それでも原作者の権利は及ぶのだと関係者は考えていることがわかります(マルC表記は著作権の発生とは直接的には関係ないのですが、業界の意識としてはそう思っているんだなあということが伺えます)。
こういうやり方になったのはキャンディキャンディ判決以降なのか、それとも、ずっと前からそうだったのかはちょっとよくわからないのですが(詳しい方教えてくださいな)、ただ、一般市民の感覚としては「巨人の星」と言えば梶原一騎の印象が強いのであまり抵抗感はないのではないかと思います。一方、「キャンディキャンディ」と言えばいがらしゆみこというイメージが強いので判決に違和感を感じる人もいるいうことなんじゃないかという気もします。
まあ、とにかく、現在では法律的にも現場の運用的にも「原作付き漫画の絵だけを使う場合でも原作者の許可は必要」ということです。
ここから先は余談になりますが、インドで「巨人の星」のリメイクが人気なのはご存じかと思います。当然、キャラクターはインド風になっているのですが、この絵でもちゃんと川崎のぼる先生と梶原一騎先生の著作権表記は付いています(絵は日経新聞サイトより引用)。ストーリーがオリジナル「巨人の星」と似ていれば梶原一騎先生の権利が及ぶのはわかりますが、この絵柄でも川崎のぼる先生の絵の二次的著作物ということなんですね。
なお、これはケチを付けているわけではありません(あ〜やっぱりそうなんだな〜というネタとして引用しただけです)。川崎のぼる先生と梶原一騎先生の貢献を評価するのは当然ですし、日本のアニメがインドで人気を得る状況は本気で喜ぶべきことです。
初めまして。二次的著作物の考え方についてご質問があるのですが、例えばドラマや映画、テレビのバラエティー番組の中に登場する人物・出演者が第三者がキャラクターや商標権を保有するTシャツ等を着たり、また部屋の中にポスターが貼られていたり、キャラクター等が置かれているような映像にある場合で、放送、もしくはDVD化、配給、配信をする際、どこまでのこれらに関係する著作権の許諾処理を行う必要があるのでしょうか? またロケなので背景に映り込んだ第三者著作物というのはどの程度の権利保護対象となり、使用側はどこまで気をつけていなければならないものなのでしょうか? ご存知であれば教えて頂けると助かります。