東京地裁でアップルのサムスンに対するFRAND抗弁を認める画期的判決

何回も書いているように日本の裁判の情報公開は貧弱なのでアップルとサムスンの間でどのような裁判が行なわれているかの全貌は把握できないのですが、UI系の話とは別に、3Gの通信技術に関するサムスンの特許に基づく裁判が行なわれていたようで、その地裁判決が本日出ました(参照記事(日経))。

判決はアップルの勝訴(アップルによる特許侵害はないとされた)です。判決文が裁判所のサイトにまだ公開されていないので、記事から判断するしかないですが、ものすごく重要なことが明らかになっています(他紙の記事だとこの辺が全然わからなかったのですが、さすが日経はちゃんと書いています(追記:朝日毎日でもFRANDという言葉は使っていませんが同趣旨のことを書いた記事が出ました))。

判決で大鷹裁判長は、特許の有効性を認めたうえで、サムスンが国際的な業界団体に対し、他社の特許使用申請に応じる旨の宣言(FRAND宣言)をしていたことを重視。「アップルが使用許可を求めたのに、サムスンは誠実に交渉すべき信義則上の義務を尽くさなかった」として、アップルに対する損害賠償請求は「権利の乱用に当たる」と判断した。

FRAND(Fair, Reasonable And Non-Discriminatory)についてはこのブログでも以前に書きましたが、要は国際標準に準拠するために不可欠な特許(SEP:Standard Essential Patent)に対して特許権者が「公平、合理的、かつ、非差別的」なライセンスを行なう意思を表明しているということです。

このような場合に、差し止めや損害賠償などの特許権の行使を認めてよいのかという点が議論の対象になっていました。「広くあまねくライセンスしますよ(だから国際標準に採用してね)」と言っていたのに後になって「いやお前にはライセンスしない」と言い出すのは公正なビジネスとは言い難いからです。

一般に、この判断ではヨーロッパは厳しい(権利行使を認めない)方向にあります。今回と同等の特許について言うと、韓国はサムスンの権利行使を認め、米国は認めなかったようです。

日本でこの種の判決が出たのはおそらく初めてだと思います。個人的に、かつ、一般論として言えば、国際標準に準拠するための特許技術の利用を阻害するのは、産業の発達という特許制度の目標に反するため、SEPに基づく権利行使は認められるべきでないと思うので、今回の判決は喜ばしいと思います(特許権者としても特許がまったく無駄になるわけではなく、相場のライセンス料なら取れるので不当というわけではありません)。

判決文がアップされたら(アップされることを強く希望しますが、たぶん重要性が高いのでアップされることになるでしょう)また追記します。

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