『デジタルネイティブが世界を変える』に見る「裸で何が悪い」戦略

拙訳『デジタルネイティブが世界を変える』、小飼弾氏に書評をいただいております(「今からやつらに任せろ – 書評 – デジタルネイティブが世界を変える」)。かなり好意的なレビューですが、弾さんは本書のようなテクノロジーに対する全面的オプティミズムは好きそうなので当然とも言えましょう。

なお、他人のブログのコメントにリモートで答えるのも何ですが、弾さんのエントリーに「ネイティブとは言ってもその大半はデジタル技術を利用はするものの理解はしていません」などというはてブコメントが入っています。しかし、実はまさにこれこそが「ネイティブ」たるゆえんなのです。デジタルネイティブ(の大半)はテクノロジーがどう動くかなど気にしていません。ただそれを利用するだけです。デジタルテクノロジーを空気のように呼吸しているだけです。これは、ネット世代の親であるテレビ世代がテレビの仕組みなどを気にせずにただテレビを観てきたのと同じです(もちろん、ネイティブの中にもテクノロジーの中身そのものを理解してそれを発展させる役割を担う人が必要なのは確かではありますが)。

ところで、本書のタイトルについてですが、実は原文中では”digital native”という言葉は巻末のまとめに1カ所出てくるだけです。本文ではこのデジタル・テクノロジーを空気のように呼吸してきた世代のことを「ネット世代」(Net Gener)と読んでいます。ゆえに、最初に私が考えていた邦題は「ネット世代に学べ」というものだったのですが、「大人の事情」により「デジタルネイティブ」という言葉をタイトルに入れることになりましたw。

前置きが長くなりましたが、弾さんも引用されていますように、本書は、ネット世代の8つの特性(行動基準)を挙げ、それに基づいて仕事、家庭、政治、教育等々に彼らがもたらすインパクトを分析するという構成になっています。この8つの行動基準とは以下です。

1. ネット世代は何をする場合でも自由を好む。。
2. ネット世代はカスタマイズ、パーソナライズを好む。
3. ネット世代は情報の調査に長けている。
4. ネット世代は商品を購入したり、就職先を決めたりする際に、企業の誠実性とオープン性を求める。
5. ネット世代は、職場、学校、そして、社会生活において、娯楽を求める。
6. ネット世代は、コラボレーションとリレーションの世代である。
7. ネット世代はスピードを求めている。
8. ネット世代はイノベーターである。

(弾さんのエントリーで「情報の操作に長けている」となっているのは「情報の調査に長けている」の打ち間違いです。この項目の意味はネット世代が「ウソをウソと見抜く能力を身につけている」ということです。)

この8つの特性の中で、1,2,6,7,8は比較的自明であり、今までも頻繁に論じられていてクリシェ化しているとも言えるトピックでしょう。特に興味深いのは3と4です。つまり、ネット世代は企業やマスメディアのウソをすぐに見抜いてしまい、かつ、企業のインチキを許さない気持ちが非常に強いということです。日本においても、やらせマーケティングやマスコミの歪曲報道の裏がネット上で暴かれ、祭となった事例は枚挙に暇がありません。米国でも状況は同じです。

このような動向もある程度ネット世論を意識している人なら自明とは思うのですが、日本の大企業の中にはまだこの点を理解していないところもあるようです。このような企業はウソにウソを重ねてしまい火に油を注ぐ結果になりがちです。

過去であれば仮にインチキに気付いた少数の人がいても彼らの声は埋没してしまいます。しかし、今では誰か一人が証拠を見つけられれば2ちゃんねる等で(米国であればfacebook等で)瞬く間に多くの人々に伝播してしまいます。マスメディアのように企業側の圧力で情報統制することもできません。

いわば、企業はますます裸に近い状態にされています。このような状況ではどのような戦略が最適でしょうか?タプスコット氏は「企業はいっそのこと丸裸になってしまえばよい」と言います。いわば「裸で何が悪い」戦略です。

つまり、そもそもインチキ行為をしないということ、そして、万一自社が過ちを犯した場合には率直に認めて謝罪するということです。本書のベースになっているネット世代に対するアンケート調査では、ネット世代は過ちを犯してもすぐにそれを認めて謝罪する企業には寛大であることが示されています。

つまり、今まで以上に企業の透明性が重要になっているということです。この辺の議論はタプスコット氏の2003年の著作”The Naked Corporation”(邦訳なし)でも論じられてきた論点であります。

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