Wiredに「中国企業、iPhone5のデザイン特許取得」という記事が載っています。ひょっとすると「ネタにマジレスかっこわるい」なのかもしれませんが、記事が事実だという前提で分析してみます。
中国のGoophoneという今までも他社有名スマートフォンと類似の製品を出してきた企業がiPhone5より先にiPhone5とそっくりの製品を発表し、しかも、AppleがiPhone5を出荷開始したら訴えると言っている話はちょっと前から聞いていました(たとえば、gizmod.jpの記事)。Wiredの記事では、その根拠として「デザイン特許(栗原注:日本では意匠権に相当)を取得した」という情報が追加になっています。
しかし、意匠制度の基本として、出願時点で世の中に知られているデザインから容易に思いつく意匠では権利取得できません(特許と同じ考え方です)。中国の場合は、意匠は無審査で登録されるようですが、権利行使(訴訟等)を行なう前提として別途審査が必要なので、いずれにせよ既存のデザインから容易に思いつく意匠では権利行使できません。動画を見る限りGoophone社の偽iPhone5はiPhone4に類似しています(画面サイズが違うくらいです)ので、仮に偽iPhone5の意匠登録が行なわれていたとしても、実質無効でアップルに対する権利行使は不可能と思われます。
さらに言うと、既存の意匠権はその類似範囲にも及びます。当然ながら、アップルはiPhone4販売時にその意匠登録出願を行なっており、米国では既に登録されています(D636392)。同意匠が中国で登録されているかはちょっと調べている時間がありませんが、少なくとも、Goophone社が偽iPhone5を米国で販売すると、アップルのiPhone4の意匠権に基づいて差止め、損害賠償請求をされてしまいます。
ということで、いくら中国でもこんなめちゃくちゃは通らないと思われます。かえってアップルを刺激して不正競争等の別の理由で訴え返されることにもなりかねないのではと思います。
追加: 何らかの抜け穴を使っているのではないかといろいろ考えてみました。
まず、iPhone4にはなくてiPhone5の特徴的部分を意匠登録している可能性もあります(ただし、中国には部分意匠制度がないので困難な気もします)。また、アップルが先にiPhone5の意匠を出願していた場合には意味がないです。
さらに、当然ながら、アップルにはこの意匠は盗用されて登録されたものである(専門用語で言う冒認出願)であると主張することもできます(立証はめんどうかもしれませんが)。これに対してGoophone社は似たのは偶然であると反証することに普通はなるわけなんですが、そう考えるとGoophone社がアップルに対して訴えるぞと騒いでいるのは自社の偽iPhone5のデザインがアップルiPhone5に似ていると既に知っていることを公言していることになるわけで自殺行為なんじゃないでしょうか?